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第1章 とっても悪い魔王様
魔王様は勇者の行動に驚愕する
しおりを挟む「勇者様!?」
魔王に対する唯一と言っていい手段を捨てて丸腰になる、しかも目の前で。という勇者の奇怪な行動に聖女が叫ぶ。
その叫び声をものともせず、勇者は魔王の元へ1人歩を進めると、その足元に跪き首を垂れた。
「魔王様にお願いがあります。今ここで僕の命を差し出す代わりに、次の勇者がここへ来るまでの間だけでも構いません。人々の領土へ攻め入るのを辞めてはいただけませんでしょうか」
「は、はぁ…?」
見事なまでの生贄宣言。潔良すぎてさらっと聞き逃すところだった。魔王もこの展開には先ほどの威厳ある口上を忘れ、疑問符を返すしかない。
「やはり…駄目でしょうか」
「いや、あー…駄目、とかではない…が…」
急募:魔王としての威厳(手遅れの可能性あり)
「お戻り下さい勇者様!あなたが死んでしまったら世界の浄化はまた遠のくのです!」
「勇者…!死ぬ、ダメ…!」
「アンタにはこれがお似合いだよ!オラァ!」
「妾の業火に焼かれるが良い!」
巨大な戦斧が、何十もの氷の矢が、踊り狂う炎が魔王に襲いかかる。
しかし魔王はそれらを意に介さず、指の一振りでそれらを消し去り、さらに4人を壁へと叩きつけた。
「ぁぐっ!」
「かは…っ!」
「ぅ…うぅ…勇者、様…」
「今は我が話しておろうが。全く…なぜそう弱い奴ほど死に急ぐのか。あー…勇者、お前はなぜそう簡単に死を考える。我が慈悲深くお前を易々と殺すと思うか?その身を端から切り刻み、痛みと絶望を与え、それでいて命を奪わずに弄ぶかもしれないとは思わないのか?」
「本当にあなたがそんなことをする気なのであればわざわざ聞く必要はないでしょう?表向きは僕を殺すと約束しておいて騙せばいいだけだから。つまり先にその話を出す時点であなたにその気は無い、そうでしょう?魔王様」
「うぐっ…。いや、まぁ…そうかもしれないが…」
「それに僕が死を願うのは単なるわがままに過ぎません。僕の望みは勇者を辞めたい、それだけです。その手段が『死』という方法しかないだけ。あ、殺してくれるなら手段は問いません。魔術の実験台に使っても構いませんよ。毒はあんまり効かないので効果が分かりにくいと思います。あとは…身体の一部なんてどうでしょう?流石に欠損までは治せないので無限に供給はできませんが、魔力は多い方なので薬なんかの材料にはピッタリだと思います」
魔王城の玉座の間は阿鼻叫喚の地獄絵図に変わる。
宿敵である魔王に対して死を願う勇者は、無表情で目が死んだ状態のまま嬉々として自分の身体がどれだけ役に立つかを説明し始め、その後ろでは勇者に死んで欲しくないと、己の痛みを堪えながらも叫ぶその仲間たち。
しかし今この場で最も混乱を覚えているのは何を隠そうーー。
(いや…えぇ…今の子って命軽すぎじゃない…?)
魔王であった。
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