魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第1章 とっても悪い魔王様

魔王様は勇者と相対する

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「はーっはっはっはっ!!勇者よ!よくぞこの玉座の間、そして我の前まで辿り着いた!数多の勇者が命を散らしたこの場所に乗り込むその蛮勇、賞賛に値する!」


 煌びやかな装飾の施された荘厳な場所。
 ここは魔王城、玉座の間。
 人間を虐げる存在である魔族の長たる『魔王』の住処である。

 そして今まさに、魔王の眼前にはその存在を討ち、世界を浄化するべく1人の『勇者』が立っていた。


「はっ!あんなちんちくりんが魔王だって?笑わせるねぇ!うちの勇者サマだったら一捻りだろうよ!」


 赤毛の女戦士は豪快に笑うと、数々の魔族を潰してきた自慢の戦斧を床へと叩きつけて、轟音を上げた。


「ん、勇者は強い。あなたのような醜い裸の王様には負けない」


 シルバーの髪が印象的な女ハンターは、無表情のままではあるものの、その魔王を見据える瞳は、己の獲物である数々の魔物を貫いてきた矢のように鋭い。


「なんじゃ、これなら勇者殿がわざわざ出向かんでも妾の魔術で一捻りじゃろうて」


 自信満々に胸を逸らすのは、小さな頭に不釣り合いなとんがり帽子を被った女賢者。その言葉には数々の魔族を自らの魔術で焼き尽くしてきた自信が裏付けられていた。


「大丈夫ですよ、勇者様。あなたには私たちがついています。さあ、あの醜い魔王の心臓に女神様から賜った聖剣を突き立てるのです!」


 白の法衣を纏うのは慈悲深い心を持つ聖女。彼女は強力な癒しの力で他の仲間の傷を治し、陰から支えてきた。

 彼女たちは勇者と共に戦い、時には心の支えとなることで、険しい道のりを幾度も乗り越えてきた。
 そして今ここで魔王を討ち、この世界を浄化することで世界には平和がもたらされる。彼女たちはそれを信じて疑わなかった。

 そしてその期待を一心に受けるのは、彼女たちを率い、人類の希望とまで言われる勇者。

 彼の金髪は太陽の光を弾いてキラキラと輝いており、まるで女神の愛を体現するかのよう。身に纏う鎧は白銀色で、心の清廉さを現している。そしてその腰には、魔王に対抗できる唯一の武器である黄金に輝く聖剣が下がっている。
 その出立ちこそまさに『希望の象徴』と言えるものだった。


「ほう…?対して力も持たぬ雑魚どもが集ったところで雑魚は雑魚に変わりはない。我は退屈が大嫌いだ、せいぜい足掻いてみるがいい!」


 ぶわりと黒い風が嵐のように魔王を中心に吹き荒れる。魔王の魔力を乗せたそれは質量を持ち、玉座の間のシャンデリアは砕け、壁や地面は抉れっていった。
 勇者を除く仲間たちは気圧されたようにその魔力に押されて膝をついた。

 勇者が『希望の象徴』であるならば、相対する魔王はまさしく『絶望の権化』。
 過去に魔王の討伐に向かった勇者は仲間と共に誰1人として帰還していない。
 噂では拷問にかけたり、非人道的な実験の材料にしたり、生きたまま食われたのではという話すら上がるほどだ。

 人間であれば誰しもが恐怖を覚える魔王。
 そしてその強大な魔力を受けても、勇者の身体は揺らぎもしない。
 仲間たちはその姿に再び力を取り戻して立ち上がった。


「さあ勇者よ!武器を取れ!醜くもがいて最期を迎えるその瞬間まで我を楽しませよ!」


 魔王の周りでは強力な魔力のうねりが渦巻く。
 そして勇者は己の相棒でもある聖剣に手をかける。

 まさに一触即発。
 どちらかが動けばこの戦闘は始まる。

 その瞬間だった。


 ガッシャーンッッ!!!


 勇者は聖剣を鞘ごと壁に向かって投げ飛ばした。

 その破砕音にも似た大音量に周囲には束の間の沈黙が訪れる。
 そして投げた張本人はと言うと、何事も無かったかのような顔で魔王に昏く濁った瞳を向けた。
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