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第1章 とっても悪い魔王様
魔王様は支度をする
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大理石の廊下を歩くのは1人の少年。
黒の燕尾服に包まれた彼は、広く長い廊下を1人歩く。
焦っているように見えないよう、それでいて目的の場所へ足早に向かうのはなかなか高度な技術のいることだとルークはこの一年間で学んだ。
特に歩くだけでないなら尚更。カラカラと軽食やティーポットの乗ったワゴンを押しながら、それでいて音をなるべくたてないように歩くとなるとルークにとっては上級魔族を討伐した時よりも難易度が高い。
「おい、見ろよ…」
「あぁ、あいつまだいんのかよ」
「仕方ねぇだろ…人間のくせに魔王様の側近に任命されてんだから…」
「全く、魔王様も何考えてんのかね。あんなやつさっさと殺しちまえばいいのに…」
「なんなら俺らでやっちまうか…?」
「馬鹿言え、魔王様だからあいつを洗脳できたんだよ。俺らなんか秒であの剣で真っ二つにされるぞ」
ノアの側近になるにあたって、まずは自ら手を出さないことが約束された。ただし売られた喧嘩は買っていいと直々にOKが出ており、女神の加護が消えただの剣となった元聖剣は、今はルークの腰に護身用として下がっている。
ルークも戦闘狂では無いため、この約束を守ることは容易かった。何事もなければの話だが。
「でもあの噂、本当なのかな」
「え、なんのことだよ」
「あいつが今も生きてるからさ、勇者を倒せないくらい魔王様が実は弱いって話…ッ!!」
コソコソと噂話をする2人の悪魔の間を何かが高速で通り抜け壁に突き刺さる。
思わず口をつぐむ2人に、ルークは穏やかに微笑みかけた。
「申し訳ございません…手が滑ってしまって…。急いでおりますので、失礼いたします」
(いっそ手を出して来るなら正当防衛を謳って切り刻んでやるのに…。僕のことを悪く言うだけならまだいい。けれどノア様のことを悪く言うなら…)
壁に刺さった銀製のスプーンを引き抜くと、ルークは未だに放心状態の2人に会釈をして、再び歩き出す。
目指すは己の主の元へ。
・・・・・・・・・・
「失礼いたします。魔王様、本日はこれから幹部様方との定例会議が……」
たどり着いたのはノアの部屋の前、一言断ってから入室をするが、その中はすでにもぬけの殻で、誰かがいた形跡すらない。
本来であればここの主の不在でどこにいったのかと慌てるところなのかもしれないが、ルークには居場所の検討はついている。
誰もいない部屋の何もない壁に向かい、壁をゆっくりとなぞる。すると不思議な紋様が浮かび、そこには先ほどまでなかったはずの簡素な扉が現れた。そのまま扉を潜り抜け真っ暗な道をひたすら前に歩くと、これまた木の扉が現れる。
それを開ければ、違う部屋に辿り着く。そこはあの日、ルークがノアに己の名をもらった場所だった。
その中心で何かわからない古代の書物や、怪しい液体の入った瓶の散乱したテーブルに突っ伏して死んだように眠るのは何を隠そうこの城の主である。
(はぁ…またこの人はこんなところで寝て…。病気にならないからって自分のことを疎かにしすぎじゃないか…?)
近づいても起きる気配のないノアの元へ歩み寄ると、ルークはその肩を軽く揺らした。
「ノア様、本日は幹部様方との定例会議がございます。また前のように遅れますとあなたの威厳が損なわれますよ」
「…ふがっ!あ…なんだ、ルークか…んーあと5分…」
「はいはいまた寝ないでください。そろそろ用意をしませんと…また後で慌てることになりますよ」
「なんか適当に理由つけて休んだらいいだろ……別にどうせそんな報告することもないって…」
「一国一城の主がなんて体たらくですか。半分寝てても構わないのでせめてお支度だけしてください。はい、ばんざーい」
「ンー……むにゃむにゃ…」
どう見ても成人した見た目でありながら、まだ年端もいかない少年に手伝ってもらわないと着替えすらもできないが、これでもとっても強い魔王様なのである。威厳が無いとかは言わない。
「はい、次は御髪を整えますね。その間に朝食にいたしましょう。本日はスコーンにラグニール産のベリーのジャムをお付けしております。お飲み物はラトシスのジュースとベルガの紅茶がございますがどちらになさいますか?」
「あー…紅茶にする…。砂糖多めで…」
「かしこまりました」
ルークが側近となってわかったことはたくさんある。
ストレスが溜まると城を抜け出して、秘密の部屋であるここで研究に没頭しがちなこと。金銀財宝の価値に興味は無いが、自分の身なりにも興味がなく、研究途中のボロボロの姿で床やテーブルで丸くなっていることも多い。甘いものが好きで、紅茶には必ず角砂糖を5つ。
未だに眠気が抜けないのか、半分目を閉じた状態でもそもそとスコーンを食べる姿は幼子のようにも見える。
長い髪に櫛を通される間もされるがままなところを考えれば、前世は警戒心の欠けたウサギとかだったのかもしれない。
公での不遜な態度は演技だとは教えてもらったが、敵対していたはずの自分に対してまでこんなにも身を預けてくれるのだと思うと、ルークには言いようのない感情が湧き上がってくる。しかしそれが一体なんなのかはまだわからなかった。
「はい、できましたよ」
「おーありがとな。しかしいつ見ても器用なもんだなぁ」
「家にいた頃は妹にねだられて髪を結ぶことはよくありましたから、これくらいであればいつでも」
「正直髪を長いまま放置してるといつも邪魔だったけど、こうやってお前に綺麗に結んでもらえるなら別にそのままでもいいかもな」
「ノア様の御髪は綺麗ですからそのままでいいと思いますよ」
「とりあえず支度もできたし行くか。いざ幹部会議へ!なんてな」
黒の燕尾服に包まれた彼は、広く長い廊下を1人歩く。
焦っているように見えないよう、それでいて目的の場所へ足早に向かうのはなかなか高度な技術のいることだとルークはこの一年間で学んだ。
特に歩くだけでないなら尚更。カラカラと軽食やティーポットの乗ったワゴンを押しながら、それでいて音をなるべくたてないように歩くとなるとルークにとっては上級魔族を討伐した時よりも難易度が高い。
「おい、見ろよ…」
「あぁ、あいつまだいんのかよ」
「仕方ねぇだろ…人間のくせに魔王様の側近に任命されてんだから…」
「全く、魔王様も何考えてんのかね。あんなやつさっさと殺しちまえばいいのに…」
「なんなら俺らでやっちまうか…?」
「馬鹿言え、魔王様だからあいつを洗脳できたんだよ。俺らなんか秒であの剣で真っ二つにされるぞ」
ノアの側近になるにあたって、まずは自ら手を出さないことが約束された。ただし売られた喧嘩は買っていいと直々にOKが出ており、女神の加護が消えただの剣となった元聖剣は、今はルークの腰に護身用として下がっている。
ルークも戦闘狂では無いため、この約束を守ることは容易かった。何事もなければの話だが。
「でもあの噂、本当なのかな」
「え、なんのことだよ」
「あいつが今も生きてるからさ、勇者を倒せないくらい魔王様が実は弱いって話…ッ!!」
コソコソと噂話をする2人の悪魔の間を何かが高速で通り抜け壁に突き刺さる。
思わず口をつぐむ2人に、ルークは穏やかに微笑みかけた。
「申し訳ございません…手が滑ってしまって…。急いでおりますので、失礼いたします」
(いっそ手を出して来るなら正当防衛を謳って切り刻んでやるのに…。僕のことを悪く言うだけならまだいい。けれどノア様のことを悪く言うなら…)
壁に刺さった銀製のスプーンを引き抜くと、ルークは未だに放心状態の2人に会釈をして、再び歩き出す。
目指すは己の主の元へ。
・・・・・・・・・・
「失礼いたします。魔王様、本日はこれから幹部様方との定例会議が……」
たどり着いたのはノアの部屋の前、一言断ってから入室をするが、その中はすでにもぬけの殻で、誰かがいた形跡すらない。
本来であればここの主の不在でどこにいったのかと慌てるところなのかもしれないが、ルークには居場所の検討はついている。
誰もいない部屋の何もない壁に向かい、壁をゆっくりとなぞる。すると不思議な紋様が浮かび、そこには先ほどまでなかったはずの簡素な扉が現れた。そのまま扉を潜り抜け真っ暗な道をひたすら前に歩くと、これまた木の扉が現れる。
それを開ければ、違う部屋に辿り着く。そこはあの日、ルークがノアに己の名をもらった場所だった。
その中心で何かわからない古代の書物や、怪しい液体の入った瓶の散乱したテーブルに突っ伏して死んだように眠るのは何を隠そうこの城の主である。
(はぁ…またこの人はこんなところで寝て…。病気にならないからって自分のことを疎かにしすぎじゃないか…?)
近づいても起きる気配のないノアの元へ歩み寄ると、ルークはその肩を軽く揺らした。
「ノア様、本日は幹部様方との定例会議がございます。また前のように遅れますとあなたの威厳が損なわれますよ」
「…ふがっ!あ…なんだ、ルークか…んーあと5分…」
「はいはいまた寝ないでください。そろそろ用意をしませんと…また後で慌てることになりますよ」
「なんか適当に理由つけて休んだらいいだろ……別にどうせそんな報告することもないって…」
「一国一城の主がなんて体たらくですか。半分寝てても構わないのでせめてお支度だけしてください。はい、ばんざーい」
「ンー……むにゃむにゃ…」
どう見ても成人した見た目でありながら、まだ年端もいかない少年に手伝ってもらわないと着替えすらもできないが、これでもとっても強い魔王様なのである。威厳が無いとかは言わない。
「はい、次は御髪を整えますね。その間に朝食にいたしましょう。本日はスコーンにラグニール産のベリーのジャムをお付けしております。お飲み物はラトシスのジュースとベルガの紅茶がございますがどちらになさいますか?」
「あー…紅茶にする…。砂糖多めで…」
「かしこまりました」
ルークが側近となってわかったことはたくさんある。
ストレスが溜まると城を抜け出して、秘密の部屋であるここで研究に没頭しがちなこと。金銀財宝の価値に興味は無いが、自分の身なりにも興味がなく、研究途中のボロボロの姿で床やテーブルで丸くなっていることも多い。甘いものが好きで、紅茶には必ず角砂糖を5つ。
未だに眠気が抜けないのか、半分目を閉じた状態でもそもそとスコーンを食べる姿は幼子のようにも見える。
長い髪に櫛を通される間もされるがままなところを考えれば、前世は警戒心の欠けたウサギとかだったのかもしれない。
公での不遜な態度は演技だとは教えてもらったが、敵対していたはずの自分に対してまでこんなにも身を預けてくれるのだと思うと、ルークには言いようのない感情が湧き上がってくる。しかしそれが一体なんなのかはまだわからなかった。
「はい、できましたよ」
「おーありがとな。しかしいつ見ても器用なもんだなぁ」
「家にいた頃は妹にねだられて髪を結ぶことはよくありましたから、これくらいであればいつでも」
「正直髪を長いまま放置してるといつも邪魔だったけど、こうやってお前に綺麗に結んでもらえるなら別にそのままでもいいかもな」
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