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第1章 とっても悪い魔王様
魔王様は夜会へ行く
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「お待ちしておりました、魔王様。本日は一段と美しい装いですな」
「世辞は良い。新たな勇者が現れたともついぞ聞かんのでな。軽い暇つぶしだ」
「…そうですか、今宵は魔王様に楽しんでいただけるように我々も趣向を凝らしておりますので………。ところで、そちらは…」
「あぁ、我の護衛だ。我の命を狙おうとする不届きものがいつどこに潜んでいるかわからんだろう?まぁ、そんな腰抜けに我が遅れをとるなどありはしないがな」
「はっはっは、我々の開く夜会で魔王様を狙うなどという命知らずはおりませんでしょうな。それでは、よき夜を……」
まるで自らの権威を誇示するかのように館はどこもかしこも仰々しく飾られている。普段のノアなら廊下に飾られた金色に輝く像なんかは「趣味悪いな」と顔を顰めているところだろう。
一際大きな両開きのドアが開かれると、一瞬会場はシンと静まり返る。今まで一度たりとも夜会に訪れたことのない魔王が初めて顔を見せたのだ。たとえ事前に情報を知っていたとしても、驚くのも無理はない。一歩、また一歩と魔王が步を進めるたびに人垣は自然と割れる。
会場の一段上には誰もいない豪奢な椅子が鎮座している。まるで座る誰かを待っているかのようなそれに、ノアは当たり前のように腰を下ろした。
「皆の者、楽しむがいい」
たった一言、されど一言。それだけで静寂は破られ、またざわざわと周囲の空気があちらこちらで変わっていく。
「魔王様、僕は…」
「堂々としとけ。今日のお前は俺の側近で護衛だ。まさか護衛が守るべき主から離れる気か?」
「いえ、そうですね…わかりました」
そうしてしばらくは魔王との繋がりを求めて位が上のものから挨拶に回ってくる。
適当に返答をするノアの隣で、ルークはノアに近づこうとしているものが敵か味方を見定めるように、名前と容姿やその特徴を一致させ、一挙手一投足の全てを決して見逃すまいと瞳を鋭く尖らせていた。
「はぁ…いい加減疲れてきたな」
「どうやら挨拶はひと段落したようです。何かお飲みになられますか?」
「あーじゃあなんか持ってきてくれ。お前の淹れる紅茶に勝るものがあるとは思えないけどな」
「かしこまりました。何か軽食も持ってまいりますね」
ルークはその場から離れ、ホールの中央あたりに置かれた軽食やドリンクのテーブルに近づいていく。
その後ろ姿をノアはぼーっと眺めていた。
(あいつが俺の元に来て一年…。取り戻しにくる気配は今のところない…。かと言って新しい勇者が選ばれたという話も聞かない。唯一きな臭いと言えばあの聖女のいた宗教国家が何やら動いているという話は聞くが…。ルークは勇者ではなくなったとは言え、人間の中では稀有なまでに強い部類だ。元農民だったとは思えないくらいに。良くも悪くも女神の加護に対する親和性が高かったんだろう。そんなルークをこんなあっさりと手放すか……?それも魔族に取られたままだとなれば警戒こそすれ、安心できる要素など何もないと思うが…)
きっとそんなことを悠長に考えていたからに違いない。
バチンッと破裂音のようなものが聞こえ、会場が闇に落ちた瞬間、ノアの意識は戻った。すぐさま炎の魔術を展開すれば、会場には再び光が戻る。
何事かと思っていれば、主催者である上級悪魔がノアの元へ焦ったように駆けてきた。
「魔王様!申し訳ございません!どうやらランプに供給していたはずの魔力が突然切れてしまったらしく……。わざわざ御身のお手を煩わせるような事態になってしまい、なんとお詫びをすれば良いか…」
「これくらい、我の小指ほどの魔力で十分だ。お前が詫びるほどのことではない」
「さすが魔王様!そのお力は本当に素晴らしい!私感服いたしました!」
大袈裟なまでに身振り手振りで感動を伝える男を横目に、上辺だけの忠誠心のアピールも大変だなと呆れたその時、ふと気づいた。
「…ルーク…?」
自分の側近の姿がどこにもないことに。
「世辞は良い。新たな勇者が現れたともついぞ聞かんのでな。軽い暇つぶしだ」
「…そうですか、今宵は魔王様に楽しんでいただけるように我々も趣向を凝らしておりますので………。ところで、そちらは…」
「あぁ、我の護衛だ。我の命を狙おうとする不届きものがいつどこに潜んでいるかわからんだろう?まぁ、そんな腰抜けに我が遅れをとるなどありはしないがな」
「はっはっは、我々の開く夜会で魔王様を狙うなどという命知らずはおりませんでしょうな。それでは、よき夜を……」
まるで自らの権威を誇示するかのように館はどこもかしこも仰々しく飾られている。普段のノアなら廊下に飾られた金色に輝く像なんかは「趣味悪いな」と顔を顰めているところだろう。
一際大きな両開きのドアが開かれると、一瞬会場はシンと静まり返る。今まで一度たりとも夜会に訪れたことのない魔王が初めて顔を見せたのだ。たとえ事前に情報を知っていたとしても、驚くのも無理はない。一歩、また一歩と魔王が步を進めるたびに人垣は自然と割れる。
会場の一段上には誰もいない豪奢な椅子が鎮座している。まるで座る誰かを待っているかのようなそれに、ノアは当たり前のように腰を下ろした。
「皆の者、楽しむがいい」
たった一言、されど一言。それだけで静寂は破られ、またざわざわと周囲の空気があちらこちらで変わっていく。
「魔王様、僕は…」
「堂々としとけ。今日のお前は俺の側近で護衛だ。まさか護衛が守るべき主から離れる気か?」
「いえ、そうですね…わかりました」
そうしてしばらくは魔王との繋がりを求めて位が上のものから挨拶に回ってくる。
適当に返答をするノアの隣で、ルークはノアに近づこうとしているものが敵か味方を見定めるように、名前と容姿やその特徴を一致させ、一挙手一投足の全てを決して見逃すまいと瞳を鋭く尖らせていた。
「はぁ…いい加減疲れてきたな」
「どうやら挨拶はひと段落したようです。何かお飲みになられますか?」
「あーじゃあなんか持ってきてくれ。お前の淹れる紅茶に勝るものがあるとは思えないけどな」
「かしこまりました。何か軽食も持ってまいりますね」
ルークはその場から離れ、ホールの中央あたりに置かれた軽食やドリンクのテーブルに近づいていく。
その後ろ姿をノアはぼーっと眺めていた。
(あいつが俺の元に来て一年…。取り戻しにくる気配は今のところない…。かと言って新しい勇者が選ばれたという話も聞かない。唯一きな臭いと言えばあの聖女のいた宗教国家が何やら動いているという話は聞くが…。ルークは勇者ではなくなったとは言え、人間の中では稀有なまでに強い部類だ。元農民だったとは思えないくらいに。良くも悪くも女神の加護に対する親和性が高かったんだろう。そんなルークをこんなあっさりと手放すか……?それも魔族に取られたままだとなれば警戒こそすれ、安心できる要素など何もないと思うが…)
きっとそんなことを悠長に考えていたからに違いない。
バチンッと破裂音のようなものが聞こえ、会場が闇に落ちた瞬間、ノアの意識は戻った。すぐさま炎の魔術を展開すれば、会場には再び光が戻る。
何事かと思っていれば、主催者である上級悪魔がノアの元へ焦ったように駆けてきた。
「魔王様!申し訳ございません!どうやらランプに供給していたはずの魔力が突然切れてしまったらしく……。わざわざ御身のお手を煩わせるような事態になってしまい、なんとお詫びをすれば良いか…」
「これくらい、我の小指ほどの魔力で十分だ。お前が詫びるほどのことではない」
「さすが魔王様!そのお力は本当に素晴らしい!私感服いたしました!」
大袈裟なまでに身振り手振りで感動を伝える男を横目に、上辺だけの忠誠心のアピールも大変だなと呆れたその時、ふと気づいた。
「…ルーク…?」
自分の側近の姿がどこにもないことに。
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