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第1章 とっても悪い魔王様
元勇者はかつての仲間と対峙する
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(なんだ…なんなんだこの違和感は…)
一方、勇者を相手取るノアは困惑していた。
(わざわざ他の世界から呼び寄せるくらいだから、武術や剣術に長けた人間や魔術に理解のある人間の方がいいはず。だがこの男は武術どころか剣術は全くの素人、聖剣も上手く扱えていないし、魔術は使う気配すらない。ルークの方がよっぽど鍛えているし、上手く戦える。なのに女神はなぜこの男を選んだ?何か選ぶ理由があったのか…?)
振り下ろされる剣を軽々と防ぐと、ノアは一度勇者との距離を取る。
たった数度打ち合っただけのはずなのに、勇者はすでに肩で息をしていた。
「お前、戦いには慣れておらぬのか?聖剣の扱いが全くなっていないな。魔力は多いようだが魔術を使わぬのであれば宝の持ち腐れだ」
「はぁ…はぁ…こちとら数ヶ月前までただの高校生だったんだっつーの!もっと楽してチートでぱぱっと終わるはずだったのに……やっぱラスボス戦は雑魚とはちげえってことかよ…!」
勇者はノアにはわからない言葉をぶつぶつと呟いている。おおかた元の世界での言葉なのだろう、ノアの研究欲がにわかに疼くが、曲がりなりにも今は戦闘中なのだ、そうは言ってられない。
(心配のしすぎ…だったのだろうか)
少々警戒しすぎていたのかもしれない。女神が戦闘経験のないものをわざわざ呼んだ理由はわからないが、何かしらこの世界に呼びやすい他の理由でもあったのかもしれない。
どちらにせよ、目の前の勇者に警戒すべきところは今のところ何もない。
何か奥の手を隠していたとしても、ノアは魔術や毒では死なないのだ。注意すべきは聖剣だが、それすらも上手く扱えないのであれば問題にもならない。
「ふむ…我は少々お前を過大評価していたようだな。お前はまだ未熟だ。もう一度出直してくるといい」
さすがのノアといえども元の世界には戻せないため、少々面倒だが魔族の領土から一番遠い国にでも飛ばしてやろう、と勇者に向けて転移魔術を展開しようとした。
「隙ありぃ!」
「なに…ッ!」
その刹那、勇者の身につけた外套が翻り、腰のあたりの何かがキラリと反射して見えた。
・・・・・・・・・・
「ハーイ2人目~♡オネンネしててね、お嬢様♡」
「く…っ…」
どさりと女ハンターの身体が倒れる。残っているのは賢者と聖女のみ。
だが、メルトが毒を命中させるたびに聖女が解毒に追われていたため、もう魔力はあまり残っていないだろう。現にもう解毒すら間に合っていないのだから。
ルークは横目でノアの方を伺うが、未だにノアは勇者の攻撃でかすり傷すら負っておらず、ひとまず安堵する。
「これならもうすぐで決着がつきそうですね」
「勇者の仲間ってこんなモンなのー?俺ちゃん不完全燃焼すぎてつまンなーい」
「これでも選ばれた人たちです。まぁ…僕がいた頃より弱くなった、と言うのが率直な感想ですが」
かつての仲間だったはずの2人に、ルークはまるで路傍に転がる石にでもつけるような冷たい目を向ける。
「あ、あなたは人間として恥ずかしくないのですか!洗脳されているとはいえ、魔王に下るなどという最も屈辱的な行為をしてまで生き永らえているという事実が!勇者なのであれば!その命は魔王と相打ちになってこそ女神様に認められるのですよ!」
「うぇー気持ちワルゥ…なにそのヤバい宗教特有の強迫観念。押し付けがましいにもホドがなイ?そんなに魔王サマ倒したいなら自分たちで特攻でもしかけちゃえバ?ま、やる勇気もないだろうケド」
「この人たちはこういう考え方が普通なんです。勇者という責任は人に背負わせ盾とし、必要ならばその命すら戦いで捨てるのが普通だと刷り込む。自分たちは後ろで声高に魔王という悪を吹聴し、それを打ち倒せるのは勇者だけだと煽動する。民衆の不安と期待を高めた上で、その宗教心と資金を集める。僕も魔王様に出会ったことで客観視できたからこそ気づいた事実です」
「ワォ!まさに悪徳国家じゃんウケる!名前改名すれバ?」
「ど、どこまで私たちを愚弄すれば気が済むのですか…!賢者様!早く洗脳の解除を!」
「だ、駄目なのじゃ!何度やっても弾かれてしまうのじゃ…!」
「なぜ…!まさか洗脳の解除を防ぐ魔術など存在するとでもいうの…?」
「そんなもの、最初から洗脳なんてされていませんから無意味ですよ。僕は僕自身の意思でここにいます」
「そん、な…」
ルークの言葉がトドメとなったのか、聖女は力なく床に座り込んでしまった。もう戦闘を続行する意志は無いように見えたため、これ以上は不要だと判断したルークは剣を収めた。
振り返れば今まさにノアが魔術を使おうとしているところだった。血生臭いことの嫌いなノアのことならば、きっと攻撃の意思はないだろう。
ただ相手の勇者はどうかわからない。少しでも力になるべく、ノアの方向に向かって一歩を踏み出したその時ーー。
「隙ありぃ!」
「なに…ッ!」
パンッと乾いた音。
次の瞬間にはノアの左胸、心臓の真上あたりに真っ赤な鮮血が花開くように咲く。
ゴホッと咳き込む音と、床に撒き散らされる鮮血。
ルークの視界は、真っ赤に染まった。
「魔王様ッ!!!!!!」
一方、勇者を相手取るノアは困惑していた。
(わざわざ他の世界から呼び寄せるくらいだから、武術や剣術に長けた人間や魔術に理解のある人間の方がいいはず。だがこの男は武術どころか剣術は全くの素人、聖剣も上手く扱えていないし、魔術は使う気配すらない。ルークの方がよっぽど鍛えているし、上手く戦える。なのに女神はなぜこの男を選んだ?何か選ぶ理由があったのか…?)
振り下ろされる剣を軽々と防ぐと、ノアは一度勇者との距離を取る。
たった数度打ち合っただけのはずなのに、勇者はすでに肩で息をしていた。
「お前、戦いには慣れておらぬのか?聖剣の扱いが全くなっていないな。魔力は多いようだが魔術を使わぬのであれば宝の持ち腐れだ」
「はぁ…はぁ…こちとら数ヶ月前までただの高校生だったんだっつーの!もっと楽してチートでぱぱっと終わるはずだったのに……やっぱラスボス戦は雑魚とはちげえってことかよ…!」
勇者はノアにはわからない言葉をぶつぶつと呟いている。おおかた元の世界での言葉なのだろう、ノアの研究欲がにわかに疼くが、曲がりなりにも今は戦闘中なのだ、そうは言ってられない。
(心配のしすぎ…だったのだろうか)
少々警戒しすぎていたのかもしれない。女神が戦闘経験のないものをわざわざ呼んだ理由はわからないが、何かしらこの世界に呼びやすい他の理由でもあったのかもしれない。
どちらにせよ、目の前の勇者に警戒すべきところは今のところ何もない。
何か奥の手を隠していたとしても、ノアは魔術や毒では死なないのだ。注意すべきは聖剣だが、それすらも上手く扱えないのであれば問題にもならない。
「ふむ…我は少々お前を過大評価していたようだな。お前はまだ未熟だ。もう一度出直してくるといい」
さすがのノアといえども元の世界には戻せないため、少々面倒だが魔族の領土から一番遠い国にでも飛ばしてやろう、と勇者に向けて転移魔術を展開しようとした。
「隙ありぃ!」
「なに…ッ!」
その刹那、勇者の身につけた外套が翻り、腰のあたりの何かがキラリと反射して見えた。
・・・・・・・・・・
「ハーイ2人目~♡オネンネしててね、お嬢様♡」
「く…っ…」
どさりと女ハンターの身体が倒れる。残っているのは賢者と聖女のみ。
だが、メルトが毒を命中させるたびに聖女が解毒に追われていたため、もう魔力はあまり残っていないだろう。現にもう解毒すら間に合っていないのだから。
ルークは横目でノアの方を伺うが、未だにノアは勇者の攻撃でかすり傷すら負っておらず、ひとまず安堵する。
「これならもうすぐで決着がつきそうですね」
「勇者の仲間ってこんなモンなのー?俺ちゃん不完全燃焼すぎてつまンなーい」
「これでも選ばれた人たちです。まぁ…僕がいた頃より弱くなった、と言うのが率直な感想ですが」
かつての仲間だったはずの2人に、ルークはまるで路傍に転がる石にでもつけるような冷たい目を向ける。
「あ、あなたは人間として恥ずかしくないのですか!洗脳されているとはいえ、魔王に下るなどという最も屈辱的な行為をしてまで生き永らえているという事実が!勇者なのであれば!その命は魔王と相打ちになってこそ女神様に認められるのですよ!」
「うぇー気持ちワルゥ…なにそのヤバい宗教特有の強迫観念。押し付けがましいにもホドがなイ?そんなに魔王サマ倒したいなら自分たちで特攻でもしかけちゃえバ?ま、やる勇気もないだろうケド」
「この人たちはこういう考え方が普通なんです。勇者という責任は人に背負わせ盾とし、必要ならばその命すら戦いで捨てるのが普通だと刷り込む。自分たちは後ろで声高に魔王という悪を吹聴し、それを打ち倒せるのは勇者だけだと煽動する。民衆の不安と期待を高めた上で、その宗教心と資金を集める。僕も魔王様に出会ったことで客観視できたからこそ気づいた事実です」
「ワォ!まさに悪徳国家じゃんウケる!名前改名すれバ?」
「ど、どこまで私たちを愚弄すれば気が済むのですか…!賢者様!早く洗脳の解除を!」
「だ、駄目なのじゃ!何度やっても弾かれてしまうのじゃ…!」
「なぜ…!まさか洗脳の解除を防ぐ魔術など存在するとでもいうの…?」
「そんなもの、最初から洗脳なんてされていませんから無意味ですよ。僕は僕自身の意思でここにいます」
「そん、な…」
ルークの言葉がトドメとなったのか、聖女は力なく床に座り込んでしまった。もう戦闘を続行する意志は無いように見えたため、これ以上は不要だと判断したルークは剣を収めた。
振り返れば今まさにノアが魔術を使おうとしているところだった。血生臭いことの嫌いなノアのことならば、きっと攻撃の意思はないだろう。
ただ相手の勇者はどうかわからない。少しでも力になるべく、ノアの方向に向かって一歩を踏み出したその時ーー。
「隙ありぃ!」
「なに…ッ!」
パンッと乾いた音。
次の瞬間にはノアの左胸、心臓の真上あたりに真っ赤な鮮血が花開くように咲く。
ゴホッと咳き込む音と、床に撒き散らされる鮮血。
ルークの視界は、真っ赤に染まった。
「魔王様ッ!!!!!!」
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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