魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

文字の大きさ
19 / 65
第1章 とっても悪い魔王様

魔王様は元勇者を慰める

しおりを挟む
「は、ハハ…ッ!やったぜ!やっぱ持つべきものはチートだよなぁ!正義は必ず勝つ!」

「倒した…?あの魔王を…!倒したんですね!タツヤ様!」

 両腕を掲げて勝利を叫ぶ勇者と、その胸に満面の笑みで飛び込む聖女。
 まさしく巨悪は打たれたと言わんばかりの待ち望んだ光景。
 しかしそれは、あくまでも『人間にとって』のだった。





 ・・・・・・・・・・





(全身が鉛のように重い…立ち上がることは…もうできないか…)

「魔王様!!しっかりしてください!!目を開けてください魔王様っ!!!」


 ノアのぼやけ始めた視界の先ではぽろぽろと涙をこぼすルークの姿が見える。
 こんなにも泣いた姿を見るのは二回目だなと思い、ようやく持ち上げた腕でそっとその涙を拭う。


(泣くなよお前…男前が台無しだろ…)

「ルーク…」

「魔王様…血が…っ!今ならまだ薬で間に合うはず…!」

「やめろ…もう、無理だ…形状は違うが…あれは紛れもなく聖剣の力だった……。あー…しくじったなぁ…まさかあの剣が偽物だったとは…」

「やってみなければ分からないでしょう!」


 ルークは胸の傷口に薬を勢いよくかけるが、血は止まらず傷口も塞がる様子すら見せない。


「そんな……!嫌です…魔王様…!死ぬなんて…そんなの許しません!」

「『聖剣で胸を貫けば魔王は死ぬ』これは絶対なんだよ、ルーク…駄々をこねたって無理な話だ…」

「せめて、せめて僕も…あなたのお側に連れて行ってください…!」

「そりゃ、無理な話だな…。隠居するなら……お前の監視の目がない場所じゃないとな…」

「そんなの…あなたが生きられるなら研究でもなんで好きにすればいいです…!だから、死なないでください…!」

「あはは…魔王に『死ぬな』なんて、変わった元勇者様だなぁ…」


 メルトが追加の薬をルークに手渡そうとするが、ノアは首を振ってそれを制止した。
 自分の死の運命など、当の本人が一番分かっていた。


「なぁ、ルーク…前に俺がいたから生きることができたってお前は言ったけどさ……俺は…お前が側近になってから、今までが一番楽しかった…」

「魔王、さま…」

「研究よりも…古文書の解読よりも…楽しいことがあるって、教えてくれたのはお前だよ、ルーク…ありがとな…」

「それなら…まだ楽しいことを教えきれていません…。街で流行りの料理の味も…怪しい露店の商品の見分け方も…あなたになにも教えられていないんです…」

「そりゃあ残念だな…五百年生きてきて、俺の知らないことがあったとは…世界は広いなぁ…」


 ふわり、ふわりと魔王の身体から一つまた一つと淡い光が溢れ、それにつれて足先から徐々に身体が大気に溶けていく。


「魔王様…身体が…っ!」

「歴代の魔王は、その理由に限らず死を迎えると消える…。頭からつま先まで跡形もなく、な……。だから俺も、そうなるだけだ」

「あなたがいた痕跡すらこの世界に残らないと…そうおっしゃるのですか…!」

「俺がいなくなった後……あの女神の言うとおり、世界が浄化されるかは分からない…。だから…お前がその先を見ろ…。世界がどうなるのか……」

「あなたがいない世界で僕にどうやって生きろと言うんですか!!…いかないでください…魔王様…!僕の手の届かないところへなんて…いかないでください…!」

「お前は、まだ赤ん坊だろ…お前にはもっと広い世界を知る義務がある……だから、お前が1人じゃ動けないって言うなら…」


 ノアは深く息を吸い込む。
 そしてルークの手をいつかのように、いやあの時よりも強く握り込むと、先ほどまで閉じかけていた目を見開き、真っ直ぐその瞳を射抜いた。


「側近ルークよ!これが最後の『命令』だ!お前はこれから生き続けろ!生きて生きて、天寿を全うするその日まで!何があっても生きろ!」

「魔王様…」

「ははっ…ズルしたら、許さねぇからな…」


 もう消滅は胸元まで来ている。
 着ていた服は中身を失い、だらりと垂れ下がっていた。


「じゃあな、ルーク。お前のこと、遠くから見といてやるよ」

「待ってください…!まって…ノア様っ!!」


 ルークが最後に見たのは、ノアの笑顔だった。

 繋がれた指先の光は、最後にふわりと少しだけ宙に舞って消えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

アルカナの英雄は死神皇子に嫁ぐ

BL
難攻不落と言われたアルカナ砦を攻略し、帝都に名が届くほどの軍功を上げた辺境国王の庶子リセル。しかし英雄として凱旋したリセルを待ち受けていたのは、帝国の第三皇子ジュノビオの不可解な求婚だった。 実直皇子×お人好し美人 ※ほかのサイトにも同時に投稿しています。

処理中です...