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第1章 とっても悪い魔王様
魔王様は元勇者を慰める
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「は、ハハ…ッ!やったぜ!やっぱ持つべきものはチートだよなぁ!正義は必ず勝つ!」
「倒した…?あの魔王を…!倒したんですね!タツヤ様!」
両腕を掲げて勝利を叫ぶ勇者と、その胸に満面の笑みで飛び込む聖女。
まさしく巨悪は打たれたと言わんばかりの待ち望んだ光景。
しかしそれは、あくまでも『人間にとって』のだった。
・・・・・・・・・・
(全身が鉛のように重い…立ち上がることは…もうできないか…)
「魔王様!!しっかりしてください!!目を開けてください魔王様っ!!!」
ノアのぼやけ始めた視界の先ではぽろぽろと涙をこぼすルークの姿が見える。
こんなにも泣いた姿を見るのは二回目だなと思い、ようやく持ち上げた腕でそっとその涙を拭う。
(泣くなよお前…男前が台無しだろ…)
「ルーク…」
「魔王様…血が…っ!今ならまだ薬で間に合うはず…!」
「やめろ…もう、無理だ…形状は違うが…あれは紛れもなく聖剣の力だった……。あー…しくじったなぁ…まさかあの剣が偽物だったとは…」
「やってみなければ分からないでしょう!」
ルークは胸の傷口に薬を勢いよくかけるが、血は止まらず傷口も塞がる様子すら見せない。
「そんな……!嫌です…魔王様…!死ぬなんて…そんなの許しません!」
「『聖剣で胸を貫けば魔王は死ぬ』これは絶対なんだよ、ルーク…駄々をこねたって無理な話だ…」
「せめて、せめて僕も…あなたのお側に連れて行ってください…!」
「そりゃ、無理な話だな…。隠居するなら……お前の監視の目がない場所じゃないとな…」
「そんなの…あなたが生きられるなら研究でもなんで好きにすればいいです…!だから、死なないでください…!」
「あはは…魔王に『死ぬな』なんて、変わった元勇者様だなぁ…」
メルトが追加の薬をルークに手渡そうとするが、ノアは首を振ってそれを制止した。
自分の死の運命など、当の本人が一番分かっていた。
「なぁ、ルーク…前に俺がいたから生きることができたってお前は言ったけどさ……俺は…お前が側近になってから、今までが一番楽しかった…」
「魔王、さま…」
「研究よりも…古文書の解読よりも…楽しいことがあるって、教えてくれたのはお前だよ、ルーク…ありがとな…」
「それなら…まだ楽しいことを教えきれていません…。街で流行りの料理の味も…怪しい露店の商品の見分け方も…あなたになにも教えられていないんです…」
「そりゃあ残念だな…五百年生きてきて、俺の知らないことがあったとは…世界は広いなぁ…」
ふわり、ふわりと魔王の身体から一つまた一つと淡い光が溢れ、それにつれて足先から徐々に身体が大気に溶けていく。
「魔王様…身体が…っ!」
「歴代の魔王は、その理由に限らず死を迎えると消える…。頭からつま先まで跡形もなく、な……。だから俺も、そうなるだけだ」
「あなたがいた痕跡すらこの世界に残らないと…そうおっしゃるのですか…!」
「俺がいなくなった後……あの女神の言うとおり、世界が浄化されるかは分からない…。だから…お前がその先を見ろ…。世界がどうなるのか……」
「あなたがいない世界で僕にどうやって生きろと言うんですか!!…いかないでください…魔王様…!僕の手の届かないところへなんて…いかないでください…!」
「お前は、まだ赤ん坊だろ…お前にはもっと広い世界を知る義務がある……だから、お前が1人じゃ動けないって言うなら…」
ノアは深く息を吸い込む。
そしてルークの手をいつかのように、いやあの時よりも強く握り込むと、先ほどまで閉じかけていた目を見開き、真っ直ぐその瞳を射抜いた。
「側近ルークよ!これが最後の『命令』だ!お前はこれから生き続けろ!生きて生きて、天寿を全うするその日まで!何があっても生きろ!」
「魔王様…」
「ははっ…ズルしたら、許さねぇからな…」
もう消滅は胸元まで来ている。
着ていた服は中身を失い、だらりと垂れ下がっていた。
「じゃあな、ルーク。お前のこと、遠くから見といてやるよ」
「待ってください…!まって…ノア様っ!!」
ルークが最後に見たのは、ノアの笑顔だった。
繋がれた指先の光は、最後にふわりと少しだけ宙に舞って消えた。
「倒した…?あの魔王を…!倒したんですね!タツヤ様!」
両腕を掲げて勝利を叫ぶ勇者と、その胸に満面の笑みで飛び込む聖女。
まさしく巨悪は打たれたと言わんばかりの待ち望んだ光景。
しかしそれは、あくまでも『人間にとって』のだった。
・・・・・・・・・・
(全身が鉛のように重い…立ち上がることは…もうできないか…)
「魔王様!!しっかりしてください!!目を開けてください魔王様っ!!!」
ノアのぼやけ始めた視界の先ではぽろぽろと涙をこぼすルークの姿が見える。
こんなにも泣いた姿を見るのは二回目だなと思い、ようやく持ち上げた腕でそっとその涙を拭う。
(泣くなよお前…男前が台無しだろ…)
「ルーク…」
「魔王様…血が…っ!今ならまだ薬で間に合うはず…!」
「やめろ…もう、無理だ…形状は違うが…あれは紛れもなく聖剣の力だった……。あー…しくじったなぁ…まさかあの剣が偽物だったとは…」
「やってみなければ分からないでしょう!」
ルークは胸の傷口に薬を勢いよくかけるが、血は止まらず傷口も塞がる様子すら見せない。
「そんな……!嫌です…魔王様…!死ぬなんて…そんなの許しません!」
「『聖剣で胸を貫けば魔王は死ぬ』これは絶対なんだよ、ルーク…駄々をこねたって無理な話だ…」
「せめて、せめて僕も…あなたのお側に連れて行ってください…!」
「そりゃ、無理な話だな…。隠居するなら……お前の監視の目がない場所じゃないとな…」
「そんなの…あなたが生きられるなら研究でもなんで好きにすればいいです…!だから、死なないでください…!」
「あはは…魔王に『死ぬな』なんて、変わった元勇者様だなぁ…」
メルトが追加の薬をルークに手渡そうとするが、ノアは首を振ってそれを制止した。
自分の死の運命など、当の本人が一番分かっていた。
「なぁ、ルーク…前に俺がいたから生きることができたってお前は言ったけどさ……俺は…お前が側近になってから、今までが一番楽しかった…」
「魔王、さま…」
「研究よりも…古文書の解読よりも…楽しいことがあるって、教えてくれたのはお前だよ、ルーク…ありがとな…」
「それなら…まだ楽しいことを教えきれていません…。街で流行りの料理の味も…怪しい露店の商品の見分け方も…あなたになにも教えられていないんです…」
「そりゃあ残念だな…五百年生きてきて、俺の知らないことがあったとは…世界は広いなぁ…」
ふわり、ふわりと魔王の身体から一つまた一つと淡い光が溢れ、それにつれて足先から徐々に身体が大気に溶けていく。
「魔王様…身体が…っ!」
「歴代の魔王は、その理由に限らず死を迎えると消える…。頭からつま先まで跡形もなく、な……。だから俺も、そうなるだけだ」
「あなたがいた痕跡すらこの世界に残らないと…そうおっしゃるのですか…!」
「俺がいなくなった後……あの女神の言うとおり、世界が浄化されるかは分からない…。だから…お前がその先を見ろ…。世界がどうなるのか……」
「あなたがいない世界で僕にどうやって生きろと言うんですか!!…いかないでください…魔王様…!僕の手の届かないところへなんて…いかないでください…!」
「お前は、まだ赤ん坊だろ…お前にはもっと広い世界を知る義務がある……だから、お前が1人じゃ動けないって言うなら…」
ノアは深く息を吸い込む。
そしてルークの手をいつかのように、いやあの時よりも強く握り込むと、先ほどまで閉じかけていた目を見開き、真っ直ぐその瞳を射抜いた。
「側近ルークよ!これが最後の『命令』だ!お前はこれから生き続けろ!生きて生きて、天寿を全うするその日まで!何があっても生きろ!」
「魔王様…」
「ははっ…ズルしたら、許さねぇからな…」
もう消滅は胸元まで来ている。
着ていた服は中身を失い、だらりと垂れ下がっていた。
「じゃあな、ルーク。お前のこと、遠くから見といてやるよ」
「待ってください…!まって…ノア様っ!!」
ルークが最後に見たのは、ノアの笑顔だった。
繋がれた指先の光は、最後にふわりと少しだけ宙に舞って消えた。
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