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第2章 隠居に成功(?)した魔王様
その目覚めは地図にもない島の上で
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「うーん…むにゃむにゃ………はっ…!ッてぇー…!」
勢いよく身体を起こすと、ゴンッと鈍い音がして、腕にジンとした痛みが走る。
久方ぶりに感じるそれに、痛みとはこういうものだったか、と感慨に耽った。痛いことが嫌いだったため、痛みを遮断する魔術を自分にかけていたせいで、ただ腕を打った痛みにすら少し感慨深くなる。
「えーっと……鏡、はないから…確か湖がこの近くにあったはず…」
長い間動かなかったせいか身体はどこも痩せ細り、少し歩くだけでも億劫になる。
それでも確認したいことがあれば早く確かめたくなるのが、研究を極める者としての性分なのだ。
「あったあった、よいしょっと」
澄んだ水に浮かぶのは、真っ赤な瞳に白髪の男。髪の長さは肩を少し過ぎたくらいだろうか。手入れのされていないそれは、伸びっぱなしで放置されているという印象が強い。
「あーやっぱりそうだよなぁ…前はもっと長くて黒かったのに…」
そう言うと男は1人、ため息をついた。
「…ルークのやつ、大丈夫かなぁ」
否、『ノア』は1人、ため息をついた。
・・・・・・・・・・
あの日、ノアは確かに聖剣で貫かれた。
そして命を落とし、それと共に消滅した。魔王としては。
『聖剣で胸を貫けば魔王は死ぬ』というのは不文律である。そして魔王は死ねば消滅する運命にあるというのもまた事実。
では『聖剣に貫かれた本人が魔王でなくなった場合』はどうなのか。
仕組みはこうだ。
まず、自分の仮の身体を用意しておく。そしてその身体に一定の魔力を絶えず流しておく。魔力は熱のように常に身体から放出されているため、仮の身体は常に微量の魔力を帯びている状態になる。
そして聖剣に貫かれ完全に消え去る直前、その魔力を辿って仮の身体へと入り込む。
微量でも魔力があれば心臓を動かすことはノアにとっては容易いことであり、そもそもノアが魔王になった理由は『魔力の量が多かったから』である。
魔力の大部分を元の身体に置いてきたため、抜け殻になった身体が魔王の本体であると思われてもおかしくはない。
あえて名付けるならば『生まれ変わりの術』とでも言うだろうか。
全ては仮説であり机上の空論であった。
しかしノアの目的である『死なずに魔王を引退して隠居をする』には、これしか方法がなかったとも言える。
そして時は現在に至る。
・・・・・・・・・・
「やっぱり…ルークには本当のことを話したほうが良かったかな…」
辛そうに涙を流して懸命に引き留めようとする姿に、ノアの良心がチクチクと痛んだのはここだけの話。
正直これはノアにとっても大きな賭けであったため、そのせいで希望を抱かせることも、余計な失望もさせたくはなかった。
結果的には成功したものの、今のこの姿では気づいてもらえるかは怪しい。
大きくはなくても悪魔の証としてあったはずのツノや尻尾は消え、唯一残ったそれらしい特徴といえば、耳の先が人間よりもほんの少し尖っていることくらい。
ルークが綺麗だと褒めてくれた黒髪は色が抜けて真っ白になり、長さも半分ほどになってしまった。
さらに言えば魔力が全く足りていない。
ノアが現在いるのはどこの地図にも載っていない孤島。その場所もノアがまだ魔王になる前に偶然見つけたものだった。
女神に見つからないようにとなるべく遠い場所にしたのはいいものの、魔王城に戻るだけの魔力量を回復させるのは一筋縄ではいかないだろう。
「まぁルークのことだし俺がいなくても上手くやるとは思うけどなぁ…」
そう呟くと、微かに胸が疼くように痛んだ。何か病気にでもかかったのかとノアは思ったが、それらしい原因はわからなかった。
何も言わずに作戦を実行した責任はある。さらに言えば目の前で他人が死ぬという経験までさせてしまったのだ。
(あれ…今思えば俺、ルークにものすごく大きなトラウマを植え付けたんじゃ…?出会い頭にどれだけ心配させたんだって殴られないか…?)
できれば痛くないといいな、と全く危機感のないことを考えながら、うんと伸びをする。魔王になった後は公務や夜会以外ろくに外も出ていなかった。
実に百年ぶりのまともな外出。本日は自分が一度死んだと思えないくらいなんともいい天気だ。
「と…とりあえず、ルークに会いに行くには魔力が回復しないことにはどうにもならないし、決して怒られたくないとかじゃないからな!うん!まずは念願の隠居生活、頑張るぞ!」
当面の間ノアは1人ここで生きていくことを決めたのだった。
勢いよく身体を起こすと、ゴンッと鈍い音がして、腕にジンとした痛みが走る。
久方ぶりに感じるそれに、痛みとはこういうものだったか、と感慨に耽った。痛いことが嫌いだったため、痛みを遮断する魔術を自分にかけていたせいで、ただ腕を打った痛みにすら少し感慨深くなる。
「えーっと……鏡、はないから…確か湖がこの近くにあったはず…」
長い間動かなかったせいか身体はどこも痩せ細り、少し歩くだけでも億劫になる。
それでも確認したいことがあれば早く確かめたくなるのが、研究を極める者としての性分なのだ。
「あったあった、よいしょっと」
澄んだ水に浮かぶのは、真っ赤な瞳に白髪の男。髪の長さは肩を少し過ぎたくらいだろうか。手入れのされていないそれは、伸びっぱなしで放置されているという印象が強い。
「あーやっぱりそうだよなぁ…前はもっと長くて黒かったのに…」
そう言うと男は1人、ため息をついた。
「…ルークのやつ、大丈夫かなぁ」
否、『ノア』は1人、ため息をついた。
・・・・・・・・・・
あの日、ノアは確かに聖剣で貫かれた。
そして命を落とし、それと共に消滅した。魔王としては。
『聖剣で胸を貫けば魔王は死ぬ』というのは不文律である。そして魔王は死ねば消滅する運命にあるというのもまた事実。
では『聖剣に貫かれた本人が魔王でなくなった場合』はどうなのか。
仕組みはこうだ。
まず、自分の仮の身体を用意しておく。そしてその身体に一定の魔力を絶えず流しておく。魔力は熱のように常に身体から放出されているため、仮の身体は常に微量の魔力を帯びている状態になる。
そして聖剣に貫かれ完全に消え去る直前、その魔力を辿って仮の身体へと入り込む。
微量でも魔力があれば心臓を動かすことはノアにとっては容易いことであり、そもそもノアが魔王になった理由は『魔力の量が多かったから』である。
魔力の大部分を元の身体に置いてきたため、抜け殻になった身体が魔王の本体であると思われてもおかしくはない。
あえて名付けるならば『生まれ変わりの術』とでも言うだろうか。
全ては仮説であり机上の空論であった。
しかしノアの目的である『死なずに魔王を引退して隠居をする』には、これしか方法がなかったとも言える。
そして時は現在に至る。
・・・・・・・・・・
「やっぱり…ルークには本当のことを話したほうが良かったかな…」
辛そうに涙を流して懸命に引き留めようとする姿に、ノアの良心がチクチクと痛んだのはここだけの話。
正直これはノアにとっても大きな賭けであったため、そのせいで希望を抱かせることも、余計な失望もさせたくはなかった。
結果的には成功したものの、今のこの姿では気づいてもらえるかは怪しい。
大きくはなくても悪魔の証としてあったはずのツノや尻尾は消え、唯一残ったそれらしい特徴といえば、耳の先が人間よりもほんの少し尖っていることくらい。
ルークが綺麗だと褒めてくれた黒髪は色が抜けて真っ白になり、長さも半分ほどになってしまった。
さらに言えば魔力が全く足りていない。
ノアが現在いるのはどこの地図にも載っていない孤島。その場所もノアがまだ魔王になる前に偶然見つけたものだった。
女神に見つからないようにとなるべく遠い場所にしたのはいいものの、魔王城に戻るだけの魔力量を回復させるのは一筋縄ではいかないだろう。
「まぁルークのことだし俺がいなくても上手くやるとは思うけどなぁ…」
そう呟くと、微かに胸が疼くように痛んだ。何か病気にでもかかったのかとノアは思ったが、それらしい原因はわからなかった。
何も言わずに作戦を実行した責任はある。さらに言えば目の前で他人が死ぬという経験までさせてしまったのだ。
(あれ…今思えば俺、ルークにものすごく大きなトラウマを植え付けたんじゃ…?出会い頭にどれだけ心配させたんだって殴られないか…?)
できれば痛くないといいな、と全く危機感のないことを考えながら、うんと伸びをする。魔王になった後は公務や夜会以外ろくに外も出ていなかった。
実に百年ぶりのまともな外出。本日は自分が一度死んだと思えないくらいなんともいい天気だ。
「と…とりあえず、ルークに会いに行くには魔力が回復しないことにはどうにもならないし、決して怒られたくないとかじゃないからな!うん!まずは念願の隠居生活、頑張るぞ!」
当面の間ノアは1人ここで生きていくことを決めたのだった。
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🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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