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第3章 魔王様と元勇者は諸悪の根源に喧嘩を売る
元勇者は異世界の勇者に同情する
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「は…?返す…?何言ってんだよ!オレはもうこの世界の人間なんだよ!元の世界とか知らねぇ!」
「なったつもりでしょう?あなたはこの世界の人間じゃない。然るべき場所に返されるだけです。何を抵抗することがあるんですか?あ、もしかして四肢を磔にして少しずつ刻まれるか、あるいは臓腑が焼け爛れるような毒を樽で飲んで苦しむ方がお好みですか?安心してください、うちには薬に関して精通しているものがおりますので、加減を間違えてしまうなんてことはありません。そうすればあなたの犯した罪も少しは雪がれるでしょう」
「そんなもんお好みなわけがねぇだろうが!オレは勇者だ!世界中の人間に感謝されて、誰もが羨む人生を歩んで当然の人間だぞ!」
「はぁ…女神がなぜあなたを勇者に指名したのか甚だ疑問ですね。守るものはない、崇高な目的もない。与えられた力をさも自分のもののように振りかざし、口を開けば己の欲ばかり主張する…。僕が目指すようにと教えられた勇者像とはずいぶんとかけ離れていると思いますが…そういう扱いやすい人間だからこそ、女神にとっては傀儡にしやすくて都合が良かったのかもしれませんね」
「オレは…オレはこんなところで負けるわけにはいかねぇんだよ…!あんなクソみてぇな世界は捨てて、オレはこの世界で生きていくんだよ!オレは生まれる世界を間違えただけだ!ここからがオレの本当の人生なんだよ!だからそのために、テメェらは邪魔なんだよぉぉぉ!」
勇者の全身が光ると、その背中から真っ白な翼が生える。その姿はまるで天使のように神々しいものだったが、身につけている張本人はなんとも醜悪な笑みを浮かべていた。
「は、ははは…本当は本命の前にこんだけ女神ちゃんの力は使いたくなかったけどなぁ…お前はオレを怒らせちまったんだよ…。まぁ…魔王はまた心臓に聖剣をブッ刺せば死ぬんだろ?問題はテメェだよ元勇者…!オレをコケにした代償は高くつくぜぇ…?ちょっとやそっとじゃ殺してやらねぇからなぁ?脱落したモブの分際でさっさとくたばれやぁ!」
空へと飛んだ勇者は、ルークに向かって空から強襲をかける。如何にルークが体格で優ろうとも、重力を追加した重さには勝てないと踏んでのことだった。
しかしルークはその剣すら正確に受け止めて流してみせる。黄金と漆黒の剣が斬り結び舞い踊る姿は、まるで一種の演舞のようにも見えた。
矢継ぎ早に攻撃を仕掛けていた勇者だが、ルークが涼しい顔で全てを防ぎきって見せることから徐々にその顔には再び焦りが滲み始める。その焦りから手元がブレたのか、勇者の剣に一瞬迷いが生まれた。その隙を逃さずルークは思い切り剣を振り抜き、聖剣を遥か後方へと弾き飛ばした。
「しま…っ!」
勇者は慌てて弾き飛ばされた方向に向かおうとするが、それより早くルークは勇者の首に己の剣を突きつけた。
「剣を取りに行っても構いませんが、今動けばあなたの首が落ちますよ。女神の加護によって怪我の治りは早いでしょうけれど…首が落ちてまで生きていられますかね」
「くそ…っ!…テメェは何がしたいんだよ!オレの邪魔ばっかりして!自分が勇者でいられなくなったから当てつけか?魔王に寝返ってから勇者の地位が惜しくなったのかよ!」
「まさか、あなたにも勇者という地位にも微塵の興味も執着もありませんよ。ノア様に傷をつけたことに関しては一生許す気はありませんが…むしろ僕としてはあなたに同情しています」
「同情…だと…?お前はオレを馬鹿にしてんのか!生まれつき顔が良くて!恵まれた才能もあって!勇者にも選ばれたお前にはオレの苦労はわかんねぇだろうな!」
「ええ、あなたの生い立ちは僕には分かりませんし知ろうとも思いません。ですが、元は勇者であった身として、あなたは僕のありえた未来なのだなと思っています。勇者のあり方に疑問を持たず、自らの力に驕り、欲に溺れた末路はきっとあなたと同じものだったでしょう。ですが僕は勇者としての力も地位も捨て、そして魔王様に…唯一の守りたいと思える方に出会いました。おかげで、僕は今ここに立つことができている。元の世界に返ることは、この世界に残りたいあなたにとって最も望まないことでしょう?あなたの命を奪わない代わりにあなたが元の世界へ返ることが僕の復讐であり、最後の情けです」
「ルーク!離れろ!」
ノアの声を待ち望んでいたかのように、ルークは後方に跳ぶ。すると這いつくばった勇者を中心に、ノアの足元に描かれていた魔術の印と同じものが描かれた。
「嫌だ…嫌だ!オレは帰らない!この世界でオレは勇者になるんだ!」
「さようなら、元勇者様。もう二度と会うことはないでしょう」
ルークはこちらに手を伸ばす勇者に向かって頭を下げた。そのまま勇者の姿は霞んで消えるーー。
そのはずだった。
「あーあ、ほんっと使えない子」
ガシリと勇者の頭が掴まれ、光を帯びていた魔術の印は急速に光を失い、ついには消えてしまった。
勇者の背後に立ち、到底大の男一人を持てるとは思えない細腕で勇者の頭を無造作に掴むのは一人の女性だった。
流れるような美しい金色の髪に、豊満な肢体はほとんど隠すつもりもないのか、惜しげもなく晒されている。そして、その美しい顔は心底軽蔑したものを見るように歪んでいた。
ノアとルークは気づく。
その女性こそまさしく、女神ルミエラであった。
「なったつもりでしょう?あなたはこの世界の人間じゃない。然るべき場所に返されるだけです。何を抵抗することがあるんですか?あ、もしかして四肢を磔にして少しずつ刻まれるか、あるいは臓腑が焼け爛れるような毒を樽で飲んで苦しむ方がお好みですか?安心してください、うちには薬に関して精通しているものがおりますので、加減を間違えてしまうなんてことはありません。そうすればあなたの犯した罪も少しは雪がれるでしょう」
「そんなもんお好みなわけがねぇだろうが!オレは勇者だ!世界中の人間に感謝されて、誰もが羨む人生を歩んで当然の人間だぞ!」
「はぁ…女神がなぜあなたを勇者に指名したのか甚だ疑問ですね。守るものはない、崇高な目的もない。与えられた力をさも自分のもののように振りかざし、口を開けば己の欲ばかり主張する…。僕が目指すようにと教えられた勇者像とはずいぶんとかけ離れていると思いますが…そういう扱いやすい人間だからこそ、女神にとっては傀儡にしやすくて都合が良かったのかもしれませんね」
「オレは…オレはこんなところで負けるわけにはいかねぇんだよ…!あんなクソみてぇな世界は捨てて、オレはこの世界で生きていくんだよ!オレは生まれる世界を間違えただけだ!ここからがオレの本当の人生なんだよ!だからそのために、テメェらは邪魔なんだよぉぉぉ!」
勇者の全身が光ると、その背中から真っ白な翼が生える。その姿はまるで天使のように神々しいものだったが、身につけている張本人はなんとも醜悪な笑みを浮かべていた。
「は、ははは…本当は本命の前にこんだけ女神ちゃんの力は使いたくなかったけどなぁ…お前はオレを怒らせちまったんだよ…。まぁ…魔王はまた心臓に聖剣をブッ刺せば死ぬんだろ?問題はテメェだよ元勇者…!オレをコケにした代償は高くつくぜぇ…?ちょっとやそっとじゃ殺してやらねぇからなぁ?脱落したモブの分際でさっさとくたばれやぁ!」
空へと飛んだ勇者は、ルークに向かって空から強襲をかける。如何にルークが体格で優ろうとも、重力を追加した重さには勝てないと踏んでのことだった。
しかしルークはその剣すら正確に受け止めて流してみせる。黄金と漆黒の剣が斬り結び舞い踊る姿は、まるで一種の演舞のようにも見えた。
矢継ぎ早に攻撃を仕掛けていた勇者だが、ルークが涼しい顔で全てを防ぎきって見せることから徐々にその顔には再び焦りが滲み始める。その焦りから手元がブレたのか、勇者の剣に一瞬迷いが生まれた。その隙を逃さずルークは思い切り剣を振り抜き、聖剣を遥か後方へと弾き飛ばした。
「しま…っ!」
勇者は慌てて弾き飛ばされた方向に向かおうとするが、それより早くルークは勇者の首に己の剣を突きつけた。
「剣を取りに行っても構いませんが、今動けばあなたの首が落ちますよ。女神の加護によって怪我の治りは早いでしょうけれど…首が落ちてまで生きていられますかね」
「くそ…っ!…テメェは何がしたいんだよ!オレの邪魔ばっかりして!自分が勇者でいられなくなったから当てつけか?魔王に寝返ってから勇者の地位が惜しくなったのかよ!」
「まさか、あなたにも勇者という地位にも微塵の興味も執着もありませんよ。ノア様に傷をつけたことに関しては一生許す気はありませんが…むしろ僕としてはあなたに同情しています」
「同情…だと…?お前はオレを馬鹿にしてんのか!生まれつき顔が良くて!恵まれた才能もあって!勇者にも選ばれたお前にはオレの苦労はわかんねぇだろうな!」
「ええ、あなたの生い立ちは僕には分かりませんし知ろうとも思いません。ですが、元は勇者であった身として、あなたは僕のありえた未来なのだなと思っています。勇者のあり方に疑問を持たず、自らの力に驕り、欲に溺れた末路はきっとあなたと同じものだったでしょう。ですが僕は勇者としての力も地位も捨て、そして魔王様に…唯一の守りたいと思える方に出会いました。おかげで、僕は今ここに立つことができている。元の世界に返ることは、この世界に残りたいあなたにとって最も望まないことでしょう?あなたの命を奪わない代わりにあなたが元の世界へ返ることが僕の復讐であり、最後の情けです」
「ルーク!離れろ!」
ノアの声を待ち望んでいたかのように、ルークは後方に跳ぶ。すると這いつくばった勇者を中心に、ノアの足元に描かれていた魔術の印と同じものが描かれた。
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そのはずだった。
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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