魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第3章 魔王様と元勇者は諸悪の根源に喧嘩を売る

元勇者は女神に寝返る

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「魔王様!今すぐ助太刀に…っ」

「あらあら邪魔はしないでくれる?今からとっても楽しいパーティの始まりなんだから。さぁ可愛い人間わが子たち、その命をかけてでも邪魔者を抑えておいてね?」

「ぐっ…なんだコイツら…急に動きが!」

 ルミエラが言葉をかけると同時に戦っていた人々の動きが急におかしくなる。先ほどまでは確かに意思を感じたのに、痛みを感じないかのようにボロボロの身体でも捨て身の特攻を仕掛けてくるようになったのだ。
 その顔は虚ろで、まるでルミエラの操り人形にでもなったかのようだった。


「お前たちにはお人形遊びがお似合いよ?さてと…それじゃあ本命のあなたたちね」


 ルミエラは改めてノアとルークに向き直る。ルークは警戒を強めるように剣を握りしめ、ノアもルミエラの一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らした。


「まずは少し勇者くんと話をしたいのだけれど…薄汚い魔王は黙っていてもらってもいいかしら?」

「あの人間たちみたいに洗脳でもしようって腹づもりか?そんなことをさせる気はないからな」


 ノアがルークを庇うように立ち、毅然とした態度で言い放つ。ルミエラはきょとんとした顔になったが、嘲笑するような笑みを浮かべた。


「洗脳?そんな簡単じゃあ面白くないじゃない。私は勇者くん本人の意思でお前を裏切って欲しいのに!お前には最大限の絶望を感じて死んでほしいのだもの。洗脳なんて面白くないわ」

「裏切る?何を期待しているかは知りませんが、僕が僕の意思で魔王様を裏切るなどありえません。世迷言も大概にしていただきたい」

「そう?じゃあ、試してみましょうか。あなたのその決意がどこまで続くか見ものね」


 次の瞬間にはノアはルークからもルミエラからも弾き飛ばされ、玉座の間の壁へと打ち付けられた。そのまま両手足を光の槍によって貫かれ、磔にされたその身は動くことができなくなる。


「あがッ…ッぐ…!」

「ノア様!」

「あははははッ!流石の魔王様も抵抗なんて出来ないみたいねぇ?心臓に刺すのは最後にしてあげるから、せいぜい光で身を焼かれる苦しみを存分に味わうといいわ」

「貴様…ッ!ノア様をよくも…!」

「あら?何を言っているの?あれはあなたのせいでもあるのよ?」

「は…?」

「私の最高傑作であるあなたが裏切ったって知った時は、とっても悲しかった。だって最も魔王を殺すという目的に近づいた勇者よ?期待しちゃうのも仕方ないわよね。一時的に仲間になって油断させた上で隙を見て殺すのかなって最初は思ったのだけれど、あなたは一向に魔王を殺す気配はないし、あまつさえあなたは魔王に懸想をした」

「なに、を…」

「なんて穢らわしいと思った、けれど同時にあなたは騙されているんだと思ったわ!だからその目を覚ましてあげようと思って、わざわざ人間に手を貸してまで異世界から勇者になる人間を呼んだ。だって目の前で魔王が死ねば、あなたの気持ちにも諦めがつくでしょう?そうすれば私の元に戻ってきてくれるかと思ったのよ」


 ルークには訳がわからなかった。目の前の女が何をベラベラと喋っていても、話の内容は何も頭に入ってこない。


「それでもあなたは戻ってこなかった。しかも今度はあなたが魔王になった。殺すのを躊躇っていれば、今度はあの魔王が復活したですって?ふざけるのも大概にしなさいよ…どうして私の欲しいものはいつも手に入らないの!いつもいつもいつも!肝心なところで邪魔が入る!」


 ルミエラは急に髪を振り乱し怒り出したかと思うと、バッと顔を上げた。その顔はまるで恋する乙女のように紅潮しており、ルークは薄寒いものを覚えた。


「でも今日で全て終わるの。だって今日、私は魔王を殺してあなたを手に入れるのだから。あなたが私の元へ戻ってきてくれるのであれば、その態度次第ではそうねぇ…もしかすると魔王の命だけは助けてあげるかもね?」

「る、ルーク…ッ行くな…」

「お前は黙ってなさい!」

「ガハッ!」


 再び光の槍が飛び、今度はノアの腹に命中する。ノアは耐えきれず血を吐き出し、床は真っ赤に染まった。


「ノア様!」

「さぁどうするの?私の可愛い勇者くん。力の差が歴然の相手を前にして、これ以上あなたの大切だった人を苦しめたいの?大丈夫、私は慈悲深い女神だもの。一度や二度の失敗を責めたりはしないわ。さぁ、私の元へいらっしゃい…!」


 ルミエラは大仰に腕を広げた。まるで母親が子どもを迎えるように。

 ルークはしばらくの間俯いていたかと思うと、徐に剣を鞘に収めてノアの方へと振り返る。その顔はどこか悲しそうな笑みだった。


「ノア様、ごめんなさい…。約束、守れそうにありません」

「ルーク…ッだめ、だ…!」


 ノアは息も絶え絶えになりながらも、なんとか声を振り絞ったが、その声は遠ざかっていくルークの背に届くことはなかった。
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