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遊びに行くぞ
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学校から出た二人を迎えたのはカンカン照りの太陽だった。見慣れた通学路が灼熱地獄に変わっていた。
雄太と朝日は、目を細め流れてくる汗を手で拭った。
「しっかし、バカみたいに暑いな」
「それ。アイスくいてー。朝日、コンビニよろーぜ」
「おーいいじゃん。雄太天才」
「ふはは! 俺様を崇めたまえ」
「ははー! ありがたやー」
二人は特に意味のないに話しながら、コンビニに向かって行った。
近くにあったコンビニに寄り、アイスを買う。外袋はコンビニで捨ててった。二人はアイスを咥えながらまた歩き出した。
「雄太それうまい?」
「うめーぞ。食うか?」
「おっ、おりがと。って、うめーなこれ!」
「だろ。って、全部食べるなよ!」
「あっ、つい。俺のあげるから許して」
「ついじゃねーよ! ついじゃ! ったく」
雄太は朝日が食べていたアイスをひったくり、ガリガリと食べる。
朝日は「これも結構いけるな」等々ゴニョゴニョ言っている雄太を嬉しそうに横目で見てから、ポケーとしながら周りを眺め始めた。
そんなこんなしているうちに雄太は、朝日のだったアイスを食べ終わる。アイスは買ってから五分もたたず無くなった。
ポケーっと周りを眺めていた朝日がとある発見をして、目を見張る。今発見した事を雄太に伝えるため、小声で雄太の耳元に話しかけた。
「雄太、雄太」
「なんだよ、暑苦しい。ただでさえ暑いのに寄ってくんなよ」
「あそこの子めっちゃ可愛くね?」
「よし、聞こう」
雄太は接近してくる親友を拒絶していたが、かわいい子と聞いて速攻で手のひらを返した。
二人は例の美少女にバレない様に木陰に身を潜めあった。
「どこどこ」
「ほら、あそこの子」
「マジじゃん、お前話しかけに行けよ」
雄太は朝日を肘で小突いた。二人の顔は美少女発見のお陰か、だらしない。
しかし次の瞬間、雄太の顔は真顔になった。そして、顔の表情を一切変えず朝日の肩に手を置いた。
「朝日、残念なお知らせだ」
「お? 雄太、どうした?」
「朝日、その子の隣をしっかり見てみろ」
「あぁ? って、彼氏いるじゃねーかよ!」
朝日の渾身の叫びである。朝日は木陰から飛び出し、「怒ってます!」と言わんばかりにズンズンと歩き出した。
「くそっ! 俺も美少女の彼女が欲しい。てか、美少女じゃ無くていいから彼女欲しい」
「それな? いや、ほんとそれな?」
「あーどっかに彼女落ちてねーかなー」
「それ、お前のじゃないから交番に届けるんだぞ」
「貴様、俺に夢も見せないと言うのか!」
そんなこんなしている内に、雄太と朝日は目的地であるカラオケに到着した。
二人はカラオケへと入っていく。
「うおー! すっずしー! 生き返るわー」
「あぁ、至福」
「雄太、おまえジジイみてーだな」
「お? 貴様やるか?」
コンビニ以来の冷気に雄太と朝日はワイワイ騒ぐ。あの灼熱地獄から解放され、二人のテンションもマックスだ。
二人は意気揚々と店内に入っていき、慣れた足取りで受付へと向かった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あ、二人でーす」
「プランがこちらから選べますが、いかがでしょうか」
「朝日、どーする?」
「いつまでいるか知らんし、フリータイムで良いんじゃね?」
雄太は店員さんとコースやら何やらを頼み、ドリンクバーの為のコップを受け取る。部屋の番号を教えてもらい、朝日と一緒に部屋に向かった。
朝日が、カラオケの部屋を勢いよく開け叫んだ。
「おっしゃー! 歌うぜよ!」
「どこの龍馬だよ」
「日本の夜明けぜよ!」
「うるせえ」
「いてっ」
雄太は朝日にチョップを入れ、部屋に入っていった。雄太はソファーにどかりと座り、荷物を端に置き、汗をぬぐった。
学校帰りのため、意外と大荷物なのだ。
朝日も雄太と同じ場所に荷物を置き、隣に座った。
「俺、待てるからお前飲み物持って来いよ」
「おー! 雄太ありがと。雄太は飲み物なにがいい?」
「んー、コーラ頼めるか?」
「オッケー。よっしゃあ! 野郎どもドリンクバーに突撃だ!」
「一人だろうがよ」
元気に出ていく朝日の様子に雄太は笑う。
朝日は勢いよく扉を出て、ドリンクバーに向かった。そして、そこで朝日はふと思った。「俺、パシリにされてね?」と。
朝日は雄太に良い感じに騙されて、飲み物を取りに行かされていることに気が付いた。その瞬間、朝日は雄太のために入れたコーラを一気飲みした。
雄太はほんの少しの仕返しをするため、とあるものを作り出したのだった。
そして、朝日は何事もなかったかのようにカラオケの部屋に戻って行く。
「おかえり」
「おうっ! はい、コーラ」
「ありがとー」
道中の暑さで喉が渇いていた雄太は、朝日が持ってきてくれたブツをグビグビと飲みだした。
朝日はその様子を確認して、ニヤリとほくそ笑む。
雄太は舌から、喉から猛烈に訴えてくる違和感に襲われる。
「おまッ! これッ! ごほ、ゴホゴホ」
「雄太、俺様特製のカクテルの味はどうだ!」
「訴えたら百万は硬いマズさだ、こんにゃろー」
「あはっはは! 参ったかー! 雄太が俺をパシリにしたのが悪いんだぞ!」
雄太はゴホゴホとむせながら文句を言った。しかし、朝日の顔に浮かぶのはドヤ顔だ。
「はあ。朝日、これ何混ぜたんだよ」
「コーヒに烏龍茶あとは炭酸水だ」
「見た目全振りじゃねーかよ」
「バレた?」
「バレた? じゃねーんだよ、このドアホ」
雄太と朝日は二人して大笑いした。ひとしきり笑った後に、朝日が立ち上がる。この部屋に備え付けられていたマイクを二本手に持った。片方を雄太に渡し、マイク越しに叫んだ。
「よしゃーじゃあ歌うか! 雄太ッ!」
「相も変わらず元気だなぁ、お前は。マイク持ったせいで余計うるせえわ」
「デュエルだ! 雄太!」
「デュエットな」
朝日は機械を操作して、いつも二人で歌う曲を入れた。雄太と朝日がカラオケに行くとこれを歌うのがお決まりなのだ。
雄太もゆっくりと立ち上がり、曲が流れ始める。何回も二人で歌っているからか、結構上手だ。雄太は気持ちを込めて、朝日はとにかく楽しそうに歌っている。
一曲歌い終わり、二人はソファーに腰かけた。
そして、朝日がソワソワした様子で雄太に話しかけた。
「次、俺一人で歌って良いか? どうしても歌いたい歌があるんだよ」
「お? 別に良いぞ?」
すると、流れてきたのはどこか聞き覚えのあるイントロが流れてきた。
「国歌じゃねーかよこれ! どう考えても君が代流れてるんだけど⁉ ってか、カラオケに国歌入ってんのかよ!」
「雄太、隠してたんだけど。俺、カラオケで国家歌わないと記憶喪失になる病気なんだ」
「どんな病気だよ、このドアホ! てか、お前前一緒にカラオケ行ったとき歌ってなかっただろ」
朝日はその指摘に、スッと顔をそむける。
「記憶にございません」
「おい」
「記憶にございません」
[もしや前回国歌を歌い忘れたから]
そんな問答をしている内に前奏が終わる。雄太は呆れた目を朝日に向けながら歌を聴いていた。
朝日は、そんな雄太をガン無視してこれでもかと仰々しく国歌を歌った。
「はあ。じゃあ俺もなんか適当に歌おっかな」
「おーいいじゃん!」
雄太は何も考えず、いつも通りの選曲をした。そう。いつも通り推しの曲を選んでしまったのだ。その瞬間、今までの雄太の楽しい気持ちが消し飛んだ。
曲が流れだす。雄太はこの曲が大好きで、穴が開くほど聞いていた。だからか、今まで推しが歩んできた、そして推しを追ってきたこれまでをハッキリと思い出してしまう。
初めて曲を聴いたとき、衝撃的だった。すぐに虜になって、聞ける限りの全曲を一気に聴いた。初めてライブに行った日のゾクゾク感は今でも鮮明に覚えている。楽しかった。心無いことを言われていたら、自分の事のように悲しかった。本当に、本当に大好きだった。
いつの間にか、歌い終わっていた。
「朝日、ちょっとごめん」
「おー? どうした?」
「ちょっと、トイレ行ってくる」
「雄太すげー顔してんぞ?」
朝日が心配そうな顔をしているが、かまっている余裕は無かった。急いでトイレに駆け込んだ。溢れてくる涙が止まらなかった。
朝はどこか現実感が無くて。正直、ふらっと戻って来るんじゃないかななんて思ってた。
でも、今この時初めて実感した。
——俺の推し、死んだんだ。
ふと、ある言葉が頭に浮かんだ。『大切な物は失って初めて気付く』という言葉だ。自分には関係ない話だと思っていた。でもこうしてわが身に降りかかると思うのだ。「ああ、確かに」と。
もっと歌を聞きたかった。もっとライブに行きたかった。もっと活躍している姿を見たかった。もっと思い出を作りたかった。
涙が止まらなかった。悲しくてしょうがなかった。
そんな中、無情にも一件の電話がくる。溢れる涙を何とか拭い、相手を見る。相手は滅多に連絡してこないとうさんだった。雄太は電話に出る。
『雄太っ‼ 母さんが——』
「——へっ?」
全身が凍るような感覚がした。頭の中が真っ白になる。
まさか、母ちゃんまでも? そんな思考がよぎった瞬間、雄太はトイレから飛び出していた。急いでカラオケの部屋になだれ込み、自分のバックを手繰り寄せた。
「朝日、ごめん。俺帰るから」
「え、う、あ。お、おう?」
次の瞬間には雄太の姿はカラオケからは消えていた。一人残された部屋で、朝日は内心をぶちまけた。
「何があったか知らないけど、落ち込んでたから誘ったけど、だめだったかぁ。でも、途中は楽しそうにしてたし、部活サボってきて、良かったかな?」
雄太と朝日は、目を細め流れてくる汗を手で拭った。
「しっかし、バカみたいに暑いな」
「それ。アイスくいてー。朝日、コンビニよろーぜ」
「おーいいじゃん。雄太天才」
「ふはは! 俺様を崇めたまえ」
「ははー! ありがたやー」
二人は特に意味のないに話しながら、コンビニに向かって行った。
近くにあったコンビニに寄り、アイスを買う。外袋はコンビニで捨ててった。二人はアイスを咥えながらまた歩き出した。
「雄太それうまい?」
「うめーぞ。食うか?」
「おっ、おりがと。って、うめーなこれ!」
「だろ。って、全部食べるなよ!」
「あっ、つい。俺のあげるから許して」
「ついじゃねーよ! ついじゃ! ったく」
雄太は朝日が食べていたアイスをひったくり、ガリガリと食べる。
朝日は「これも結構いけるな」等々ゴニョゴニョ言っている雄太を嬉しそうに横目で見てから、ポケーとしながら周りを眺め始めた。
そんなこんなしているうちに雄太は、朝日のだったアイスを食べ終わる。アイスは買ってから五分もたたず無くなった。
ポケーっと周りを眺めていた朝日がとある発見をして、目を見張る。今発見した事を雄太に伝えるため、小声で雄太の耳元に話しかけた。
「雄太、雄太」
「なんだよ、暑苦しい。ただでさえ暑いのに寄ってくんなよ」
「あそこの子めっちゃ可愛くね?」
「よし、聞こう」
雄太は接近してくる親友を拒絶していたが、かわいい子と聞いて速攻で手のひらを返した。
二人は例の美少女にバレない様に木陰に身を潜めあった。
「どこどこ」
「ほら、あそこの子」
「マジじゃん、お前話しかけに行けよ」
雄太は朝日を肘で小突いた。二人の顔は美少女発見のお陰か、だらしない。
しかし次の瞬間、雄太の顔は真顔になった。そして、顔の表情を一切変えず朝日の肩に手を置いた。
「朝日、残念なお知らせだ」
「お? 雄太、どうした?」
「朝日、その子の隣をしっかり見てみろ」
「あぁ? って、彼氏いるじゃねーかよ!」
朝日の渾身の叫びである。朝日は木陰から飛び出し、「怒ってます!」と言わんばかりにズンズンと歩き出した。
「くそっ! 俺も美少女の彼女が欲しい。てか、美少女じゃ無くていいから彼女欲しい」
「それな? いや、ほんとそれな?」
「あーどっかに彼女落ちてねーかなー」
「それ、お前のじゃないから交番に届けるんだぞ」
「貴様、俺に夢も見せないと言うのか!」
そんなこんなしている内に、雄太と朝日は目的地であるカラオケに到着した。
二人はカラオケへと入っていく。
「うおー! すっずしー! 生き返るわー」
「あぁ、至福」
「雄太、おまえジジイみてーだな」
「お? 貴様やるか?」
コンビニ以来の冷気に雄太と朝日はワイワイ騒ぐ。あの灼熱地獄から解放され、二人のテンションもマックスだ。
二人は意気揚々と店内に入っていき、慣れた足取りで受付へと向かった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あ、二人でーす」
「プランがこちらから選べますが、いかがでしょうか」
「朝日、どーする?」
「いつまでいるか知らんし、フリータイムで良いんじゃね?」
雄太は店員さんとコースやら何やらを頼み、ドリンクバーの為のコップを受け取る。部屋の番号を教えてもらい、朝日と一緒に部屋に向かった。
朝日が、カラオケの部屋を勢いよく開け叫んだ。
「おっしゃー! 歌うぜよ!」
「どこの龍馬だよ」
「日本の夜明けぜよ!」
「うるせえ」
「いてっ」
雄太は朝日にチョップを入れ、部屋に入っていった。雄太はソファーにどかりと座り、荷物を端に置き、汗をぬぐった。
学校帰りのため、意外と大荷物なのだ。
朝日も雄太と同じ場所に荷物を置き、隣に座った。
「俺、待てるからお前飲み物持って来いよ」
「おー! 雄太ありがと。雄太は飲み物なにがいい?」
「んー、コーラ頼めるか?」
「オッケー。よっしゃあ! 野郎どもドリンクバーに突撃だ!」
「一人だろうがよ」
元気に出ていく朝日の様子に雄太は笑う。
朝日は勢いよく扉を出て、ドリンクバーに向かった。そして、そこで朝日はふと思った。「俺、パシリにされてね?」と。
朝日は雄太に良い感じに騙されて、飲み物を取りに行かされていることに気が付いた。その瞬間、朝日は雄太のために入れたコーラを一気飲みした。
雄太はほんの少しの仕返しをするため、とあるものを作り出したのだった。
そして、朝日は何事もなかったかのようにカラオケの部屋に戻って行く。
「おかえり」
「おうっ! はい、コーラ」
「ありがとー」
道中の暑さで喉が渇いていた雄太は、朝日が持ってきてくれたブツをグビグビと飲みだした。
朝日はその様子を確認して、ニヤリとほくそ笑む。
雄太は舌から、喉から猛烈に訴えてくる違和感に襲われる。
「おまッ! これッ! ごほ、ゴホゴホ」
「雄太、俺様特製のカクテルの味はどうだ!」
「訴えたら百万は硬いマズさだ、こんにゃろー」
「あはっはは! 参ったかー! 雄太が俺をパシリにしたのが悪いんだぞ!」
雄太はゴホゴホとむせながら文句を言った。しかし、朝日の顔に浮かぶのはドヤ顔だ。
「はあ。朝日、これ何混ぜたんだよ」
「コーヒに烏龍茶あとは炭酸水だ」
「見た目全振りじゃねーかよ」
「バレた?」
「バレた? じゃねーんだよ、このドアホ」
雄太と朝日は二人して大笑いした。ひとしきり笑った後に、朝日が立ち上がる。この部屋に備え付けられていたマイクを二本手に持った。片方を雄太に渡し、マイク越しに叫んだ。
「よしゃーじゃあ歌うか! 雄太ッ!」
「相も変わらず元気だなぁ、お前は。マイク持ったせいで余計うるせえわ」
「デュエルだ! 雄太!」
「デュエットな」
朝日は機械を操作して、いつも二人で歌う曲を入れた。雄太と朝日がカラオケに行くとこれを歌うのがお決まりなのだ。
雄太もゆっくりと立ち上がり、曲が流れ始める。何回も二人で歌っているからか、結構上手だ。雄太は気持ちを込めて、朝日はとにかく楽しそうに歌っている。
一曲歌い終わり、二人はソファーに腰かけた。
そして、朝日がソワソワした様子で雄太に話しかけた。
「次、俺一人で歌って良いか? どうしても歌いたい歌があるんだよ」
「お? 別に良いぞ?」
すると、流れてきたのはどこか聞き覚えのあるイントロが流れてきた。
「国歌じゃねーかよこれ! どう考えても君が代流れてるんだけど⁉ ってか、カラオケに国歌入ってんのかよ!」
「雄太、隠してたんだけど。俺、カラオケで国家歌わないと記憶喪失になる病気なんだ」
「どんな病気だよ、このドアホ! てか、お前前一緒にカラオケ行ったとき歌ってなかっただろ」
朝日はその指摘に、スッと顔をそむける。
「記憶にございません」
「おい」
「記憶にございません」
[もしや前回国歌を歌い忘れたから]
そんな問答をしている内に前奏が終わる。雄太は呆れた目を朝日に向けながら歌を聴いていた。
朝日は、そんな雄太をガン無視してこれでもかと仰々しく国歌を歌った。
「はあ。じゃあ俺もなんか適当に歌おっかな」
「おーいいじゃん!」
雄太は何も考えず、いつも通りの選曲をした。そう。いつも通り推しの曲を選んでしまったのだ。その瞬間、今までの雄太の楽しい気持ちが消し飛んだ。
曲が流れだす。雄太はこの曲が大好きで、穴が開くほど聞いていた。だからか、今まで推しが歩んできた、そして推しを追ってきたこれまでをハッキリと思い出してしまう。
初めて曲を聴いたとき、衝撃的だった。すぐに虜になって、聞ける限りの全曲を一気に聴いた。初めてライブに行った日のゾクゾク感は今でも鮮明に覚えている。楽しかった。心無いことを言われていたら、自分の事のように悲しかった。本当に、本当に大好きだった。
いつの間にか、歌い終わっていた。
「朝日、ちょっとごめん」
「おー? どうした?」
「ちょっと、トイレ行ってくる」
「雄太すげー顔してんぞ?」
朝日が心配そうな顔をしているが、かまっている余裕は無かった。急いでトイレに駆け込んだ。溢れてくる涙が止まらなかった。
朝はどこか現実感が無くて。正直、ふらっと戻って来るんじゃないかななんて思ってた。
でも、今この時初めて実感した。
——俺の推し、死んだんだ。
ふと、ある言葉が頭に浮かんだ。『大切な物は失って初めて気付く』という言葉だ。自分には関係ない話だと思っていた。でもこうしてわが身に降りかかると思うのだ。「ああ、確かに」と。
もっと歌を聞きたかった。もっとライブに行きたかった。もっと活躍している姿を見たかった。もっと思い出を作りたかった。
涙が止まらなかった。悲しくてしょうがなかった。
そんな中、無情にも一件の電話がくる。溢れる涙を何とか拭い、相手を見る。相手は滅多に連絡してこないとうさんだった。雄太は電話に出る。
『雄太っ‼ 母さんが——』
「——へっ?」
全身が凍るような感覚がした。頭の中が真っ白になる。
まさか、母ちゃんまでも? そんな思考がよぎった瞬間、雄太はトイレから飛び出していた。急いでカラオケの部屋になだれ込み、自分のバックを手繰り寄せた。
「朝日、ごめん。俺帰るから」
「え、う、あ。お、おう?」
次の瞬間には雄太の姿はカラオケからは消えていた。一人残された部屋で、朝日は内心をぶちまけた。
「何があったか知らないけど、落ち込んでたから誘ったけど、だめだったかぁ。でも、途中は楽しそうにしてたし、部活サボってきて、良かったかな?」
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