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本編
最終話 僕の愛を舐めるなよ?
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あれから1年が経った。
自分から切り出した事なのだけれど、あずきとの別れのショックで正直記憶が曖昧なのだけれど、私は新しいご主人様に気に入られて、この家に住むことになった。
ふとした瞬間に、隣を見てあずきがいない事を思い出すという事を何度繰り返したか分からない。
でも、これで良いんだ。
私は、あずきが新しいご主人様の元へ行ったのだけはしっかりと確認した。
私達は死なずにあの檻から逃げ出すことに成功した。これで、完璧では無いか。
「きなこ~お散歩に行くわよ~」
私がリビングでそんな事を考えていると、玄関からご主人様の私を呼ぶ声が聞こえる。
私は「わんっ!」と元気な声で答えて、玄関に駆け出す。
お散歩は私の大好きな時間だ。
歩いていると、嫌なことを忘れられるし新たな匂いを発見する事もできる。それに、心のどこかであずきと会えるかも、という期待があるというのも1つの理由かな?
ご主人様が鍵が開き、ドアを開けるとそこから先は別世界が広がっていた。
この光景は何度見ても感動する。
家では感じることの出来ない騒音、そして匂い、そしてじっとりとした暑さに、じゅーじゅーの地面。
灰色1色の大地かと思ったら、脇には力強く生い茂った緑がある。
ふふーん。ここの主の私のお通りだー!
ここからは、ここの一帯のボスをしているこの私はが案内をしてやる!
なにせ、もしもあずきが近くに来た時に気づいてもらうために私はとっても大きな縄張りをもっているからね!
いつも通りの朝の見回りも今日は順調だ。
そして、いつも子分達が集まる公園にたどり着く。ここで、異常が無いか報告会をするのだ。
『みんな、今日はへんなことなかった?』
『あのねあのね、のらいぬ?がいた!』
『ふぅん、珍しいね。どんな子だった?』
『んとねんとね、チワワでね、白と黒の毛だった!白の毛はどろんこだったけどね!』
その言葉を聞いた瞬間、私は駆け出していた。頭に浮かぶのは1年前に別れたあずきの姿。
あずきは、私と同じチワワで、白と黒の毛だった。
違うのかもしれない。でも少しでもその可能性があると思うと駆け出さずには居られなかった。
どこにいるのかも聞いていない。それでも、この体を突き動かす衝動を抑えることは出来なかった。
あずき、あずき、あずき、あずき。私の大好きな、愛してるあずき。あの日のことは後悔してない。でも、でも!
『君に会いたい!』
この気持ちは、この気持ちだけは!
私自身にはどうする事も出来なかった。
駆ける。
広場を抜け、公園を抜け、道路を抜ける。
駆ける。
少しでも見逃さないように、目をこらす。
駆ける。
土手に入り、橋を抜け、新しい公園を見つける。
駆ける。
公園に入り、広場に入る。そして、そこで足を止めた。
『ここ、は』
そこは、1年前。
あずきときなこが別れを告げた広場、その場所だった。
そして、ひとつの影がきなこの目に入る。
『あ、ああ、ああ』
泥だらけで、痩せこけていて、身体にはあちこちに傷がある。
でも、そうだとしても。きなこが見間違えるはずが無かった。
『あずき、あずき!あずきなの!?』
涙が溢れてくる。1年前と同じだ。
視界に溢れる水が光に当てられ宝石のように光り輝く。
ただ、1年前とは決定的に異なる事がある。そう、これは────嬉し涙だ。
『ねぇ、1年前君が僕に嘘をついた事、気付かないと思った?』
『うぇっ?』
『僕はすぐに気づいたよ。きなこが僕のために嘘をついたの』
あずきは、そう言うとイタズラな笑みを浮かべた。そして、全てお見通しとばかりにニッコリと笑ってこう言った。
『きなこ────僕の愛を舐めるなよ?』
その後、ボロボロのあずきをきなこのご主人様が拾い、また2人で過ごすようになったのはまた別のお話。
自分から切り出した事なのだけれど、あずきとの別れのショックで正直記憶が曖昧なのだけれど、私は新しいご主人様に気に入られて、この家に住むことになった。
ふとした瞬間に、隣を見てあずきがいない事を思い出すという事を何度繰り返したか分からない。
でも、これで良いんだ。
私は、あずきが新しいご主人様の元へ行ったのだけはしっかりと確認した。
私達は死なずにあの檻から逃げ出すことに成功した。これで、完璧では無いか。
「きなこ~お散歩に行くわよ~」
私がリビングでそんな事を考えていると、玄関からご主人様の私を呼ぶ声が聞こえる。
私は「わんっ!」と元気な声で答えて、玄関に駆け出す。
お散歩は私の大好きな時間だ。
歩いていると、嫌なことを忘れられるし新たな匂いを発見する事もできる。それに、心のどこかであずきと会えるかも、という期待があるというのも1つの理由かな?
ご主人様が鍵が開き、ドアを開けるとそこから先は別世界が広がっていた。
この光景は何度見ても感動する。
家では感じることの出来ない騒音、そして匂い、そしてじっとりとした暑さに、じゅーじゅーの地面。
灰色1色の大地かと思ったら、脇には力強く生い茂った緑がある。
ふふーん。ここの主の私のお通りだー!
ここからは、ここの一帯のボスをしているこの私はが案内をしてやる!
なにせ、もしもあずきが近くに来た時に気づいてもらうために私はとっても大きな縄張りをもっているからね!
いつも通りの朝の見回りも今日は順調だ。
そして、いつも子分達が集まる公園にたどり着く。ここで、異常が無いか報告会をするのだ。
『みんな、今日はへんなことなかった?』
『あのねあのね、のらいぬ?がいた!』
『ふぅん、珍しいね。どんな子だった?』
『んとねんとね、チワワでね、白と黒の毛だった!白の毛はどろんこだったけどね!』
その言葉を聞いた瞬間、私は駆け出していた。頭に浮かぶのは1年前に別れたあずきの姿。
あずきは、私と同じチワワで、白と黒の毛だった。
違うのかもしれない。でも少しでもその可能性があると思うと駆け出さずには居られなかった。
どこにいるのかも聞いていない。それでも、この体を突き動かす衝動を抑えることは出来なかった。
あずき、あずき、あずき、あずき。私の大好きな、愛してるあずき。あの日のことは後悔してない。でも、でも!
『君に会いたい!』
この気持ちは、この気持ちだけは!
私自身にはどうする事も出来なかった。
駆ける。
広場を抜け、公園を抜け、道路を抜ける。
駆ける。
少しでも見逃さないように、目をこらす。
駆ける。
土手に入り、橋を抜け、新しい公園を見つける。
駆ける。
公園に入り、広場に入る。そして、そこで足を止めた。
『ここ、は』
そこは、1年前。
あずきときなこが別れを告げた広場、その場所だった。
そして、ひとつの影がきなこの目に入る。
『あ、ああ、ああ』
泥だらけで、痩せこけていて、身体にはあちこちに傷がある。
でも、そうだとしても。きなこが見間違えるはずが無かった。
『あずき、あずき!あずきなの!?』
涙が溢れてくる。1年前と同じだ。
視界に溢れる水が光に当てられ宝石のように光り輝く。
ただ、1年前とは決定的に異なる事がある。そう、これは────嬉し涙だ。
『ねぇ、1年前君が僕に嘘をついた事、気付かないと思った?』
『うぇっ?』
『僕はすぐに気づいたよ。きなこが僕のために嘘をついたの』
あずきは、そう言うとイタズラな笑みを浮かべた。そして、全てお見通しとばかりにニッコリと笑ってこう言った。
『きなこ────僕の愛を舐めるなよ?』
その後、ボロボロのあずきをきなこのご主人様が拾い、また2人で過ごすようになったのはまた別のお話。
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