47 / 72
屋上、雨風雷に打たれて
しおりを挟む右からの大振り、後ろに下がって避けるが振り終わったタイミングを見て懐に入って右拳をバルの腹部目掛けて放つがバルも寸前のところで後ろに下がった。
追うようにさらに踏み込み、飛び蹴りを喰らわせようとするがバルの持つ大剣の刀身で受け止めるがリントはバルの刀身を蹴って一度距離を開ける。
これより前の一連の攻防からリントとバルは一つの事を確信した。
((こいつ…強い!))
リントから見ればハーモラルに来てから初めての同格の相手。
レカルネラは圧倒的な格上であったがロックを始めとしたスノウやアレタの協力に加えてレカルネラの事情といった運の部分もあった。
だがバルは違う。
この雷獄の雨の中、協力は見込めない。
というよりかは自分以外の犠牲者を出したくないのでスノウに仲間の保護を頼んだ。
そして何より実力が拮抗しているように感じる。
つまりこの勝負の決着は今この場で戦っている男2人の能力にて決するということ。
至極、当然のことであるがリントにとっては初めての経験だった。
対してバルの方も未知の感覚が体を覆い、胸の高まりを少しずつ感じていた。
ジャルザン騎士学院創立以来の問題児であるバル。
その問題行動の中でも特に多かったのが己の武力に関すること。
実技演習で必要以上に練習相手を傷付け、魔獣討伐においては目的以上の強さを持つ魔獣に自ら挑み大した怪我もなく帰ってくるなど騎士学院に通う生徒の中でも最強との呼び声が高い。
ただそういった問題行動のせいで表向きの最強は別の生徒になっているが実質的な最強はバル、という事になっている。
バルが戦う相手はいつだって学院の生徒か教師や本物の騎士の二極化されており、自分の本気を出して拮抗する勝負というものを経験したことがなかった。
そんなバルがリントに出会ってしまい、力を交えてしまった。
自分の目的であるヴォルトアン・ヘアットを忘れかけてしまうほどの興奮に襲われ、何度も剣と拳の攻防をやり取りを行った。
「強えなお前!」
「お前こそ、学生でそんなに強いとはな。これじゃああの金属の山壊せねえよ」
大着火を使うか?
いや、今はアレタの沈熱剤を持ってない
仮に倒せたとして身体の熱が下がらなくて共倒れになる可能性だってある
短時間で倒すか?
そんなことが出来るような相手じゃない
「俺はこのまま…そうだな。10分くらいお前と遊んでれば目的達成だ」
バルの言う通り、このまま碌なダメージもないまま無駄な攻防を続けていたらバルの望み通りになってしまう。
それを示すように雨風が打ち付けるように強くなり雷の音も高くなる。
「じゃあ5分でお前を倒してやる!」
「やってみろ!」
身体に流れる魔力の量を増やし、力と速さのギアを更に上がる。
【魔拳 炎刃烈脚】
リントとバルの間は2メートル離れており回し蹴り技の炎刃烈脚は今までのリントであれば届かない。
「はっ、足届かねえんじゃねえの」
今までのリントであれば、だが。
「舐めんなよ」
レカルネラ戦を終え、成長したリントの技は進化していた。
右足の蹴りは当たらないものの纏っている炎がバルを襲った。
「あっつっ!」
予想外に炎が飛び、その温度に怯み隙を見せたバルをリントは見逃さない。
右拳を左脇腹に減り込ませてこの戦闘で初めてのダメージが動いた。
「ぐぁっ!」
屋上の落下防止柵に打ち付けられたバルに追撃するために走り出し2撃目を準備、今度は顔面目掛けて。
しかし読まれていたのか飛びかかったと同時にバルは急ぎ剣を正面に構えてリントを突き刺すように剣を動かした。
「簡単に空中行くんじゃねえよ!」
その発言の通り、リントにも焦りがあったので拳の勢いを乗せやすい空中に跳んだのが仇となった。
「やべっ!」
体勢を無理やり変更したため、無防備になる。
バルにとっては予測通りの動きをしてくれたので剣の軌道を変えて突き刺しから大振りに変更。
「だぁっら!」
「っ!」
だが斬るのではなく幅の広い刀身でリントの脇腹を打ち付けて反対方向にある柵にぶつけた。
「がはっ!」
痛みに酔いしれている隙はない。
瞬きのうちにバルが持っていた大剣が投げられこちらに向かっていたので即座に床に転がると剣は柵を突き破って地上に落ちていった。
つまり剣はこれ以降の戦いではよっぽどないと見ていい。
「剣投げちまっていいのか…よ?」
バルが手をグー、パーと握ると柵を突き抜けたはずの大剣が地上から再びその姿を現しバルの両手に返ってくる。
「ははっ、なんだそりゃ」
「すげーだろ。俺の創案魔法…だっ!」
ネタバラシをして駆け引きをする必要性がなくなったので大剣を積極的に投げては戻し、投げては戻すのでその都度回避する。
「投げて5秒。そしたら返ってくるな」
大剣の投擲から手元に戻ってくるまでの時間は体感の誤差あれど5秒だとリントは断定し、バルが大剣を投げたタイミングで走り出して薄皮一枚切らせて大剣を避ける。
「この短時間で見切るか普通」
苦い顔で笑いながら向かってくるリントを正面から捉える。
「けど断定するのは速かったな」
その言葉に自らの判断の尚早を気付く。
大剣が投げられた3秒後、途端に背中を襲う衝撃。
(しくった…バルと剣の間に踏み込んじまってたっ!)
だがここでは怯まない。
【魔拳 衝炎一撃】
右手に魔力と炎を集中させる。
「まじかよお前…!」
狼狽えたバルに勝機を逃すまいと痛みと衝撃に耐えながら身体の中心を狙い渾身の一撃を放った。
回避は不可と考えたバルは咄嗟に腕を交差させ防御に転じ、リントの拳とぶつかり合う。
「ぐっ……ぁぁぁあああ!!」
「お、ちぃ…ろ…よぉぉぉ……がぁっ!」
結果、リントの拳が打ち勝ちバルを再び飛び降り防止柵へと体を押し付けた。
「はぁ…はぁ…」
数秒待って動けば追撃を考えたが、指先一つ動かさないので多分意識は落ちている。
というよりバルとこれ以上戦い続ければこちらが負ける可能も十分あり得る。
「次はあの鉄屑…」
宣言通り、5分以内での決着だった。
これ以上長引けば雨風は更に強くなり雷の音は頻繁に轟き、会話はもう困難だろう。
スパークが走る鉄屑の山に近づきそれを破壊せんと拳を振り上げて試しに軽く殴るが当然、壊れない。
「っつ~っ!痛ってぇ!」
むしろ拳にダメージ。
ならば一か八か。
「大着火」
万全な状態で使ってもかなりの反動が返ってくる大着火をこの疲弊した状態で使う。
絶対反動で意識落ちる
失敗すればこの辺りは見るも無惨な姿に変わってしまうし少なくとも俺は死ぬ
集中しろ、心臓の鼓動を早めて体内の血液と魔力を循環させて最大限の火力をこの鉄屑の山を壊すんだ
「…おい」
この豪雨の中、不自然に足音と声が耳に入り振り向いた。
「お前、まだ本気じゃなかったのか」
そこにいたのは傷付きながらと立ち上がったバル。
「…お前こそ、随分とお早い目覚めで」
「俺の邪魔はさせねえ…なんとしてもヴォルトアン・ヘアットをこのナフィコに呼ぶ」
「なんでナフィコなんだよ…!こんな人が多い所じゃなくてもっと広くて人のいない場所でやれば__」
「それが目的だ、と言っただろ」
一際大きい雷が2人の背後に落ちる。
「俺の目的はナフィコにヴォルトアン・ヘアットを降臨させ、この国の学者にその姿を見せつけることだ」
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
遊鷹太
ファンタジー
安全を無視したコスト削減に反対した結果、
家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。
降格先の倉庫で事故に巻き込まれ、彼が辿り着いたのは――魔法がすべてを決める異世界だった。
この世界では、魔法は一人一つが常識。
そんな中で恒一が与えられたのは、
元の世界の“家電”しか召喚できない外れ魔法〈異界家電召喚〉。
戦えない。派手じゃない。評価もされない。
だが、召喚した家電に応じて発現する魔法は、
戦闘ではなく「生き延びるための正しい使い方」に特化していた。
保存、浄化、環境制御――
誰も見向きもしなかった力は、やがて人々の生活と命を静かに支え始める。
理解されず、切り捨てられてきた男が選ぶのは、
英雄になることではない。
事故を起こさず、仲間を死なせず、
“必要とされる仕事”を積み上げること。
これは、
才能ではなく使い方で世界を変える男の、
静かな成り上がりの物語。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる