その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや

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屋上、雨風雷に打たれて

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右からの大振り、後ろに下がって避けるが振り終わったタイミングを見て懐に入って右拳をバルの腹部目掛けて放つがバルも寸前のところで後ろに下がった。

追うようにさらに踏み込み、飛び蹴りを喰らわせようとするがバルの持つ大剣の刀身で受け止めるがリントはバルの刀身を蹴って一度距離を開ける。

これより前の一連の攻防からリントとバルは一つの事を確信した。

((こいつ…強い!))

リントから見ればハーモラルに来てから初めての同格の相手。
レカルネラは圧倒的な格上であったがロックを始めとしたスノウやアレタの協力に加えてレカルネラの事情といった運の部分もあった。

だがバルは違う。
この雷獄の雨の中、協力は見込めない。
というよりかは自分以外の犠牲者を出したくないのでスノウに仲間の保護を頼んだ。

そして何より実力が拮抗しているように感じる。

つまりこの勝負の決着は今この場で戦っている男2人の能力にて決するということ。

至極、当然のことであるがリントにとっては初めての経験だった。



対してバルの方も未知の感覚が体を覆い、胸の高まりを少しずつ感じていた。

ジャルザン騎士学院創立以来の問題児であるバル。
その問題行動の中でも特に多かったのが己の武力に関すること。

実技演習で必要以上に練習相手を傷付け、魔獣討伐においては目的以上の強さを持つ魔獣に自ら挑み大した怪我もなく帰ってくるなど騎士学院に通う生徒の中でも最強との呼び声が高い。

ただそういった問題行動のせいで表向きの最強は別の生徒になっているが実質的な最強はバル、という事になっている。

バルが戦う相手はいつだって学院の生徒格下教師や本物の騎士格上の二極化されており、自分の本気を出して拮抗する勝負というものを経験したことがなかった。

そんなバルがリントに出会ってしまい、力を交えてしまった。

自分の目的であるヴォルトアン・ヘアットを忘れかけてしまうほどの興奮に襲われ、何度も剣と拳の攻防をやり取りを行った。

「強えなお前!」

「お前こそ、学生でそんなに強いとはな。これじゃああの金属の山壊せねえよ」

大着火イグナイト・ロアーを使うか?
いや、今はアレタの沈熱剤を持ってない
仮に倒せたとして身体の熱が下がらなくて共倒れになる可能性だってある

短時間で倒すか?
そんなことが出来るような相手じゃない

「俺はこのまま…そうだな。10分くらいお前と遊んでれば目的達成だ」

バルの言う通り、このまま碌なダメージもないまま無駄な攻防を続けていたらバルの望み通りになってしまう。

それを示すように雨風が打ち付けるように強くなり雷の音も高くなる。

「じゃあ5分でお前を倒してやる!」
「やってみろ!」

身体に流れる魔力の量を増やし、力と速さのギアを更に上がる。

【魔拳 炎刃烈脚えんじんれっきゃく

リントとバルの間は2メートル離れており回し蹴り技の炎刃烈脚は今までのリントであれば届かない。

「はっ、足届かねえんじゃねえの」

今までのリントであれば、だが。

「舐めんなよ」

レカルネラ戦を終え、成長したリントの技は進化していた。
右足の蹴りは当たらないものの纏っている炎がバルを襲った。

「あっつっ!」

予想外に炎が飛び、その温度に怯み隙を見せたバルをリントは見逃さない。

右拳を左脇腹に減り込ませてこの戦闘で初めてのダメージが動いた。

「ぐぁっ!」

屋上の落下防止柵に打ち付けられたバルに追撃するために走り出し2撃目を準備、今度は顔面目掛けて。

しかし読まれていたのか飛びかかったと同時にバルは急ぎ剣を正面に構えてリントを突き刺すように剣を動かした。

「簡単に空中行くんじゃねえよ!」

その発言の通り、リントにも焦りがあったので拳の勢いを乗せやすい空中に跳んだのが仇となった。

「やべっ!」

体勢を無理やり変更したため、無防備になる。

バルにとっては予測通りの動きをしてくれたので剣の軌道を変えて突き刺しから大振りに変更。

「だぁっら!」
「っ!」

だが斬るのではなく幅の広い刀身でリントの脇腹を打ち付けて反対方向にある柵にぶつけた。

「がはっ!」

痛みに酔いしれている隙はない。
瞬きのうちにバルが持っていた大剣が投げられこちらに向かっていたので即座に床に転がると剣は柵を突き破って地上に落ちていった。

つまり剣はこれ以降の戦いではよっぽどないと見ていい。

「剣投げちまっていいのか…よ?」

バルが手をグー、パーと握ると柵を突き抜けたはずの大剣が地上から再びその姿を現しバルの両手に返ってくる。

「ははっ、なんだそりゃ」

「すげーだろ。俺の創案魔法…だっ!」

ネタバラシをして駆け引きをする必要性がなくなったので大剣を積極的に投げては戻し、投げては戻すのでその都度回避する。

「投げて5秒。そしたら返ってくるな」

大剣の投擲から手元に戻ってくるまでの時間は体感の誤差あれど5秒だとリントは断定し、バルが大剣を投げたタイミングで走り出して薄皮一枚切らせて大剣を避ける。

「この短時間で見切るか普通」

苦い顔で笑いながら向かってくるリントを正面から捉える。

「けど断定するのは速かったな」

その言葉に自らの判断の尚早を気付く。
大剣が投げられた3秒後、途端に背中を襲う衝撃。

(しくった…バルと剣の間に踏み込んじまってたっ!)

だがここでは怯まない。

【魔拳 衝炎一撃しょうえんいちげき

右手に魔力と炎を集中させる。

「まじかよお前…!」

狼狽えたバルに勝機を逃すまいと痛みと衝撃に耐えながら身体の中心を狙い渾身の一撃を放った。

回避は不可と考えたバルは咄嗟に腕を交差させ防御に転じ、リントの拳とぶつかり合う。

「ぐっ……ぁぁぁあああ!!」
「お、ちぃ…ろ…よぉぉぉ……がぁっ!」

結果、リントの拳が打ち勝ちバルを再び飛び降り防止柵へと体を押し付けた。

「はぁ…はぁ…」

数秒待って動けば追撃を考えたが、指先一つ動かさないので多分意識は落ちている。
というよりバルとこれ以上戦い続ければこちらが負ける可能も十分あり得る。

「次はあの鉄屑…」

宣言通り、5分以内での決着だった。
これ以上長引けば雨風は更に強くなり雷の音は頻繁に轟き、会話はもう困難だろう。

スパークが走る鉄屑の山に近づきそれを破壊せんと拳を振り上げて試しに軽く殴るが当然、壊れない。

「っつ~っ!痛ってぇ!」

むしろ拳にダメージ。
ならば一か八か。

大着火イグナイト・ロアー

万全な状態で使ってもかなりの反動が返ってくる大着火イグナイト・ロアーをこの疲弊した状態で使う。

絶対反動で意識落ちる
失敗すればこの辺りは見るも無惨な姿に変わってしまうし少なくとも俺は死ぬ

集中しろ、心臓の鼓動を早めて体内の血液と魔力を循環させて最大限の火力をこの鉄屑の山を壊すんだ

「…おい」

この豪雨の中、不自然に足音と声が耳に入り振り向いた。

「お前、まだ本気じゃなかったのか」

そこにいたのは傷付きながらと立ち上がったバル。

「…お前こそ、随分とお早い目覚めで」

「俺の邪魔はさせねえ…なんとしてもヴォルトアン・ヘアットをこのナフィコに呼ぶ」

「なんでナフィコなんだよ…!こんな人が多い所じゃなくてもっと広くて人のいない場所でやれば__」
「それが目的だ、と言っただろ」

一際大きい雷が2人の背後に落ちる。

「俺の目的はナフィコにヴォルトアン・ヘアットを降臨させ、この国の学者にその姿を見せつけることだ」
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