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偽りの気持ち
しおりを挟む「俺の目的はナフィコにヴォルトアン・ヘアットを降臨させこの国の学者にその姿を見せつけることだ」
言葉で聞くと何の問題もなく、変哲のない事。
「…は?そんなことで」
リントはバルの気も知らず軽率な発言をしてしまった。
それこそが、バルの生きる理由だとも知らずに。
「お前に何がわかる!この国の学者…いやこの国の人間は父さんの成果を否定し、侮辱した!たった一度の発表で…」
「発表…」
『いや、何十年か前に父さんが描いたスケッチだ。父さんは冒険者でありながらカヤト自然学院で世界中の魔獣を研究して時折教鞭を取っていた』
バルの家でヴォルトアン・ヘアットのスケッチを見ていた時の発言を思い出した。
「あのヴォルトアン・ヘアットのスケッチ…バルの親父さんが描いたんだったか」
「そうだ。だがあのスケッチはこの世界に存在するすべての魔獣の姿とはかけ離れていた。そんなスケッチを見て発表を聞いた学者どもはこんな姿の魔獣はいるはずないと固定概念を崩さず父さんの捏造であると認めようとしなかった!ヴォルトアン・ヘアットの身体の一部すら持って帰ってきたのにだ!」
これがバルの本音であるのならばここまで強行突破は納得が行く。
「学者どもは気に入らなかったんだろうな、父さんの事が。若くして名声と実績を得て誰からも好かれる人当たりの良い父さんが妬ましかったんだ」
「それはお前の決めつけだろ!」
「日の当たらねえ場所で紙と筆と硬い頭使う事が学者だと思い込んじまってる連中なんざそんな事しか考えねえよ。それから父さんは今度こそ証明すると言って、もう一度ヴォルトアン・ヘアットを追いかけた最中に事故で死んじまった」
ここまでの学者を嫌っているとなるとバルの頭もだいぶ硬くなってしまっている。
これを砕くのはかなり厳しいだろう。
「硬え頭しやがって…!」
とはいえこのままバルと話し続け、戦闘が再開してもヴォルトアン・ヘアットが本当に降臨してしまうし、大着火も長くは持たない。
どうする?
足りない頭を回せよはやく
「続きやろうぜ。その鉄の山は壊させねえ」
改めて大剣を構えて戦闘の意思を見せたバルとは対象に視点がバルと鉄屑の山のどちらか一方に定まらない。
やるしかないのかっ…
迷ってるこの時間が無駄だ
「おぅらぁっ!」
しかし斬りかかった大剣の刃はリントには届かなかった。
振りかぶった剣は何者かの何かによって固定され動くことが出来ずにバルも何が起きたか理解ができていない。
「まったく、仮にも私のギルドマスターなんだからしっかりしなさいよね」
大剣は凍りついていたおり、床から生えていた氷に覆われていたおり、リントと同じように地上から一気に駆け上がったであろう女子が声と同時に屋上の床に足をつけた。
「スノウ!?なんで!」
声の主は我がギルドの2番手兼副団長のスノウ・メロウルだった。
「ギルドマスターが1人で戦ってるんだから協力するのは当然でしょう」
「いやそういうことじゃなくて!」
「なんだ、お仲間か?剣が使えなくたってまだ戦え_」
「動かないで」
どこからか気配や姿を感知させずにバルの首元にクナイを当てる少女が現れる。
「綾音!?」
「やっほー凛斗くん。ぼろぼろじゃーん」
そして屋上から校内に通ずる扉が開くと2人の人物も参上する。
「よぉバカギルドマスター!ズタボロじゃねえか!」
「はぁ…はぁ…リントくん、げほっ…お待たせ。薬いるかげほっげほっ」
階段を登ってきたであろうアテラにアレタ、仲間である昇る太陽のメンバーが勢揃いした。
「みんな…何で…!」
「話は後だろ!状況はやく教えろやぁ!」
喜びと疑問に頭を支配されていたがアテラの喝で今、やる事を思い出す。
「俺の後ろの鉄屑を壊せ!まだ間に合うはずだ!」
「やらせるかぁ!」
凍りついた剣を捨てその身一つで鉄屑の山に向かうがリントが立ちはだかる。
「ギルドマスター命令!俺以外の4人はあの鉄屑をぶっ壊せ!俺はこいつを抑える!」
「了解!」
「はいはーい!」
「あいよ!」
「任せっ、げほっ!」
大剣を捨てたバルの拳は喧嘩仕込みのような感覚。
大雑把で荒く、それでいて力強い。
まるで自分を見ているようだ。
大着火を解く。
魔法、剣術を捨てたバルにそれはもう必要ない。
「ぜってぇ通さん!」
自分の身体能力のみで殴り合う原始的な戦いに移行した。
殴り、蹴り、組み、投げ、使える技術を存分に使い激しい殴り合いを2人は繰り広げる。
そこに言葉はもはや不要。
あるのは仲間の邪魔はさせまいというリントの思いと父の研究の証明をするというバルの想いだけ。
リントの指示通り、鉄屑の山を破壊すべく手探りで性質などを確認する。
「ハーモラルの物じゃない技術がある…これが原因ね」
剣や鎧、釘などの金属の中に明らかに異質なものが見えた。
緑の長方形に様々な溶接された金属などが貼られたこれが原因だと判断。
その緑の長方形を手に取りスカートの布を千切りそれに巻き、元の場所に戻す。
鉄屑の山を破壊するための適切な処置を終えたスノウは実行係のアテラに合図を出した。
「魔力絶縁確認、アテラ!やりなさい!」
「あいよ!」
スノウとアテラの掛け声の後に聞こえた金属が金属を叩き潰す甲高い音。
リントが振り向くと超巨大な金槌を持ったアテラが鉄屑の山ごと潰していた。
一瞬の間を置いて潰した鉄屑の山から白い光が溢れ出ると一筋の白線が一直線に空へと放たれた。
雨雲が裂かれ、天には夕焼けに染まった橙色の空が顔を出す。
風は止み、雷鳴は消え、雨は降り終えた。
雷獄の雨は本格的にナフィコを襲う前に昇る太陽が食い止めたのだ。
「はっ、ははっ。綺麗な夕焼け」
それと同時にリントとバルの殴り合いは自然と終わりを迎え、リントはその場で大の字に寝転がり天を仰ぎ見た。
「負けたか…」
己の計画の破綻を実感したバルも同様だった。
「ちょっと!何を爽やかに、負けたか…じゃないわよ!色々しっかり聞くしその後治安維持に突き出すから!」
「どうにでもしてくれ。何だって受け入れるさ」
「国一つを滅ぼそうとした人の態度じゃないわねあなた!」
「オマエのやろうとしたこと、十分に国家転覆だからな。証拠だって…」
ぼんっ!
とアテラが潰した鉄屑の山から爆発音が聞こえた。
「ちょっと今の音って…」
焦りながらスノウが潰れた鉄屑の山を見ると、原因だったであろう緑の長方形が見当たらない。
代わりと言っては何だが、おそらくソレだったであろう破片が掻き集めるのは不可能なほど辺りに飛び散った。
「証拠不十分だな。ははっ!」
してやったりという風ではない。
足掻いても無駄だと分かって揶揄っているだけ。
「やっぱり今すぐ突き出そうかしら…!」
「まあ落ち着けよ。俺ぁもう逃げも隠れもしねえ。今すぐ治安維持に突き出しても構わねえぜ」
この言葉は本当だ。
しかし、バルは何かを偽っている。
「なあバル。お前、本当は躊躇ってたんじゃないか」
体を起こしてバルと目を合わせてうすうすと感じていた疑問を包まずぶつける。
「何を根拠に言ってやがる。さっきも話しただろ。俺は父さんの研究の証明のためにこの国を巻き込もうとしたんだ。言わば悪人ってやつだ」
「確かにそうだな。やってることだけ見ればケッコーな大悪。俺達が止めなかったら半日後にはここは更地だ」
「だろ?躊躇ってるだなんてありえない。この計画は父さんが死んだ時から練ってたんだぜ」
「じゃあなんで俺にヴォルトアン・ヘアットを呼べたらどうする?なーんて非現実的な話ししたんだよ。あれがなかったら俺は一直線にヴォルトアン・ヘアットに向かってたぞ」
雷獄の雨の前触れでリントが真っ先に思いついたのがバルとのこの会話。
バルと出会わなければここには寄らなかっただろう。
「それだけじゃねえ。本気であの鉄屑の山を守り通すならさっきみたいな殴り合いなんてしないだろ」
この2つがリントがバルに感じていた違和感の正体。
本気であの鉄屑の山を守るためにリントに危害を加えようという気を感じなかった。
バルが偽っていたのは他ではない。
自分の気持ちだ。
「はっ…ははっ。なんでお前のほうが俺に詳しいんだよ…訳わかんねえ…」
今度はバルが大の字で背中を地面につけて仰向けになり、右腕で自分の目元を隠した。
「話は済んだ?治安維持行くわよ。雷獄の雨を起こした犯人としてね」
淡々と事を進めるスノウ。
おそらくリント以外の4名はバルを治安維持に突き出すつもりだろう。
このままバルを悪人として始末してしまっても今の旅に何の問題もない上にある程度の報酬も出るため資金も潤う。
リントは以外は
「なあバル」
倒れたバルの下に歩き右腕を差し伸べた。
ある提案をするために。
「お前、俺達と来ないか?」
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