【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g

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第3話「異世界の日々」

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 異世界に来て数日が経った。

 最初は信じられなかったことも、少しずつ現実として受け入れつつある。王宮の広大な庭園、空を舞う鳥とは思えない幻獣、光る花。魔法の灯りがともる廊下を歩くたびに「ファンタジーの世界に迷い込んだみたいだ」と思うのも、もう何度目だろう。

 それでもやっぱり、一番の驚きは──

「そなたの食事は、そなたの好みに合わせて用意させた」

「……俺の?」

 目の前の豪華な食事を見て、俺は思わず唖然とした。

 焼き立てのパン、香ばしく焼かれた肉、見たこともない果実。それだけならまだしも、ご飯と味噌汁に、漬物まで揃っている。

「……どうして?」

「そなたの口に合うものを用意するのは当然だろう?」

 エルヴェルは何でもないことのように言うが、これ、日本の食事だよな?

「まさか、わざわざ用意させたんですか……?」

「そなたが慣れぬ環境で疲れぬように、できる限りのことをしたまでだ」

 まるで「何か問題でも?」とでも言いたげな顔をしている。

 俺が日本の飯を恋しくなるかもしれないから用意した? それを王が当然のように言う?

「……いや、さすがにやりすぎじゃ……」

 俺が戸惑っていると、横で食事を運んでいた侍女が微笑んだ。

「王は、番を何よりも大切にするものですから」

「……番を?」

「ええ。この国では、王が最も優先すべきは、自らの番の幸福だとされています」

 それは、俺が今まで生きてきた価値観とはあまりにも違いすぎた。

 王なら、国や民を優先するものじゃないのか?

 俺の疑問を察したのか、エルヴェルは静かに説明を続けた。

「この国において、王の力の源は番との絆にある。ゆえに、王が番を大切にすることは、国を守ることと同義なのだ」

 ──だから、王は番を最優先にする。

 何だ、その文化。

「……そんなの、重すぎるでしょう」

「そうか?」

「そうですよ。だって、俺のためにこんなに気を遣って、わざわざ日本の食事まで……」

「それが当然のことだからな」

 エルヴェルは微笑む。

「そなたがここで過ごす間、少しでも快適にあれるように。我はそれを望んでいる」

 その言葉は、嘘偽りのないものだった。

 彼は、本気で俺を大切にしようとしている。

 俺が男だとか、番を拒否しているとか、そういうことは関係なく。

 ──そんなの、ずるい。

 こんなにまっすぐに大切にされたら、勘違いしそうになるじゃないか。


 ◇◇◇

 そんなふうに戸惑いながらも、俺は異世界での日々を送っていた。

 ライナスが付き添い、王宮を案内してくれる。

「ここが王の執務室。エルヴェル様は基本的にここで仕事してる」

「……すげえな、広すぎる……」

「王宮だからな。国の運営やること多い」

「王様って、もっと威張ってるもんだと思ってた」

 エルヴェルは、王らしくないほど気さくで優しい。

 威厳がないわけじゃない。むしろ圧倒されるほどの存在感はある。でも、民や番を第一に考えていて、必要以上に偉そうにすることもない。

 ──本当に、良い王なんだろうな。

「……なあ、ライナス」

「ん?」

「王様が番を大切にするって文化、昔からあるのか?」

「ああ。王の力は番との絆で強まる。番を幸せにすること、王の力にもつながる」

「……じゃあ、もし番がいなかったら?」

「王の力が不完全になる」

「……」

 俺がこの世界に来るまで、エルヴェルはずっと番なしだった。

 もしかして、今までずっと不完全なまま王をやっていたのか?

 ──そんなことを考え始めた矢先だった。

 体が、急に熱くなった。

「……あれ?」

 ぐらりと視界が揺れる。頭がぼうっとして、力が入らなくなる。

「おい、どうした?」

 ライナスの声が遠くなっていく。

 喉が渇いて、胸の奥が妙にざわざわする。

 何だ、これ。

 異世界に来たせいか? それとも、何かの病気か……?

 気づけば、俺はその場に崩れ落ちていた。
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