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第5話「すれ違う想い」
しおりを挟む朝の陽射しがカーテンの隙間から差し込み、静かな部屋に淡い光を落としていた。
俺はベッドの上で身じろぎし、ぼんやりと天井を見つめる。体調はもうほとんど回復していたが、頭の奥が鈍く重い。
──昨日、エルヴェルの手を振り払った。
彼の表情を思い出すと、胸の奥がちくりと痛んだ。
エルヴェルは何も責めなかった。ただ「わかった」と言って、そのまま部屋を出て行った。
俺のわがままを受け入れるように。
拒絶されたというのに、それでも変わらず優しいままで。
「……馬鹿みたいだな、俺」
誰かに必要とされることが怖くて、せっかく差し出された手をまた振り払ってしまった。
エルヴェルが俺に向けるあの真っ直ぐな眼差しを、俺はどうしても信じることができない。
──でも、こんな中途半端な状態を続けるのは、もっと良くない。
俺はそっとベッドから降りた。
まずは、この異世界での生活にちゃんと慣れること。少しでも役に立てることを探すこと。
それが今の俺にできる、唯一の行動だった。
◇◇◇
王宮の広大な庭園を歩きながら、俺は深く息を吐いた。
異世界に来てしばらく経つが、相変わらず俺には何の役割もなかった。
王宮の使用人たちは皆親切だったし、ライナスも護衛としてずっと傍についていてくれる。
けれど、俺はただここにいるだけの存在だった。
──王の番、という肩書き以外に、俺には何もない。
王族でもなければ、特別な力があるわけでもない。俺がここにいる理由なんて、本当にあるのか?
「……ふぅ」
思わずため息がこぼれたとき、近くの回廊から低く囁く声が聞こえた。
「しかし、まさか王が男を番にするとは……」
俺の足が止まる。
回廊の柱の影に、数人の貴族らしき男たちが立っていた。彼らは、俺には気づかないまま話を続ける。
「王の番ともなれば、国の象徴となる存在。なのに、異世界から来た名もなき男がその立場に就くとはな」
「そもそも、王に相応しい番とは……未来を託せる者のはずだ」
「それが男とは。王家の血筋を残すこともできぬのに……」
ざわり、と胸の奥が冷たくなった。
──やっぱり、俺はここにいるべきじゃない。
そんなの、わかっていたはずなのに。
わかっていたのに、エルヴェルの優しさに甘えそうになっていた。
でも、やっぱり俺なんかが王の番になんてなれるはずがないんだ。
彼らの言葉は、俺がずっと抱えていた不安をはっきりと形にしてしまった。
このままここにいたら、きっといつかエルヴェルにも迷惑をかける。
──帰らなきゃ。
俺は拳を握りしめた。
エルヴェルの言葉は嬉しかった。でも、それだけじゃ駄目だ。
俺には、ここにいる資格なんてない。
異世界から来た、ただの男なんだから。
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