ヒロイン=ヒーロー

は~げん

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第三話 二人目の魔法少女 その一

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やぁ。あたしはあかねだ。
前回エレンホスとかいう、敵の中でもかなり強いやつにあった。危うく洗脳されるところだったな。
そして強敵食欲とあたしは戦う。あたしは犠牲となる覚悟を背負い辛くも勝利する。
でも、春樹達に正体ばれちゃったなぁ。

◇◇◇


街灯に照らされた道を一人の男性がフラフラとした足取りで歩いていた。
その格好は一般人というにはあまりにもみすぼらしく、浮浪者というには清潔であった。
生気がない目で歩く彼はどこを見てるかわからない。だが、口は仕切りなしに動いていた。
「金・・・金・・・」
彼はそうブツブツ呟いている。彼は先ほどパチンコで全ての金を使い果たしてしまい、もうヤミ金に手を出すか、首を吊るかの二つに一つの選択しかできなかった。何故なら仕事をリストラされたから。
「いいですねぇ・・・その、欲」
するといきなり後ろから少年の声が聞こえた。男は後ろを振り向くとそこにいたのは手品師のような風貌の少年だった。
男は少し警戒をする。すると少年は子供のような笑顔で近づいてきた。
「そう警戒しないでください。僕はあなたの手伝いをしに来ただけですから」
といい、少年は男の肩に手を置いた。男は不思議とそれはいやではなく、むしろもっと置いて欲しいと願った。
それを見て少年はまたにこりと笑った。
「契約を交わしましょう。僕はあなたの欲を解放させてあなたを救います。代わりにあなたは『器』を差し出しなさい」
男はもう頭がボーとしていて、彼が何を言ってるかわからなかった。が、従うことが正しいと思えた。
男は頷き少年はまた笑う。
そして二人が光に包まれて、煙のように少年は消えていた

◇◇◇


「黒い魔法少女と、蒼い魔法少女・・・?」
ざわざわとみんなが騒いでいる教室の中あかねは春樹と会話をしていた。
先日あかねの正体が春樹と悟にばれた後、あかねは開き直り協力を要請した。
一度魔法少女のことを覚えたら基本記憶は消えないらしいので、協力者が欲しいあかねには丁度良かった。
案外二人ともノリノリで協力をしてくれた。
そして得た情報の一つがこの、新しい魔法少女の情報である。
あかねはその話を聞いて少し安堵する。なぜなら、一人で戦うより二人、三人で戦う方が確実にいいから。
当面の目標はこの二人に会うことと決めたあかね。
昼休みも終わりそうなのであかねは席に戻ろうとするが、後ろから悟が声をかける
「千鶴は、多分覚えてないぞ・・・それとなく聞いたが、わからないという顔しかしなかった」
あかねはその言葉は魔法少女の情報よりも深い安心感を抱かせた。
そして、少し喜びでにやけながら自分の席までトコトコ歩いて行った。
ドアがガラガラと開き、担任が教室に入ってきた。教壇の前に立ち、次に取り出したのは教科書ではなく、一枚の紙であった。
「えっと、ここ最近ひったくり事件が多発しています。しかも、された側は大怪我を負ってます。みなさんも気をつけてください」
教室がざわめき始めるが、あかね達は同じことを考えていた。
ディザイアの仕業だろう。なんの欲かよくわからないが、そんなことをして、なおかつ多発。これしかないと三人は考えていた。
と、同時に千鶴をあかねは見る。千鶴は少し神妙な顔になっていた。何を考えてるかわからないが、あかねは、千鶴だけでも日常を歩いて欲しいと心に決めた。


◇◇◇


「で、黒い魔法少女と蒼い魔法少女の話だが・・・」
と、いい春樹は紙とペンを持つ。
ここは三月パン。千鶴は用事があると言って先に帰った。
しかし、春樹は何も描かないし書かない。
それもそうだろうなんせ噂しか知らない。しかも、姿形を見た人はほぼいない。
三人は頭を抱えて唸り始める。
するとあかね達の前にコトンと、お皿が置かれる。
そこから香ばしい香りが漂う。それはこの店の定番メニュー。クロワッサンだ。
バターのいい匂いが鼻腔くすぐる。あかね達がちらりと見ると、杏子が、笑って立っていた。
「何してるかわからんけど、青春するならお姉さん応援するで」
彼女は少し寂しげな顔でそう声をかけた。
あかね達はそのクロワッサンをありがたくいただいた。一口食べるためだサクサクとした音がとても心地いい。そして口に広がるバターの香り。いつ食べてもやはり美味しい。
「いやぁ、今日もパンはうまい」
二人の魔法少女の事はとりあえず先延ばしにしようとかんがえる。
いくら考えてもわからないから。
でもこのまま終わるのは少し癪なので、とりあえずみんな口々にどんな人が魔法少女か話し合う
黒いからお姉さんだとか、蒼は知的っぽいとか、そもそもなんでお前幼女なん?とか、もはや友人間の雑談レベルだったが、それでもとても楽しかった。
こんな日が続けばいいとあかねは思う。でも、戦いに身を置くなら、いつか壊れる日常。なら今精一杯楽しまなければ。
青春を応援してくれる人もいる。
魔法少女でも、あかねは一人の少女・・・魔法少女?
ここであかねは引っかかる事を感じ、カバンから天使君を取り出す。いつも通りにぐったりしている。うん。ぐったりしてるのはいつも通りである。
あかねは魔法少女である。魔法少女は魔法を使えるから魔法少女なのである。つまり、あかねは何かの魔法を使えるはずだ。空を飛ぶのは基本だとしても、回復させたりハートのシャワーを降らせたり。
その趣旨を天使君に伝えると呻きながら答えてくれた。
「お前が・・・使える魔法か?・・・自爆かな」
自爆!?と、思わず声を上げそうになるのをあかね達はすんでのところで抑えた。
そもそも自爆は魔法なのだろうかとか色々言いたい事がある。それを察してか天使君は
「そもそも、お前の魔力はほぼゼロに近い。だから、幼女になるんだ。
でも、魔力の濃度は高い。だから、それを一気に出したらかなりの威力になる。ま、その代わりにお前の体はボロボロになって多分死ぬ。
空を飛べたのは奇跡みたいなもんだ・・・そ、そんなに気を落とすな」
最後の一言は天使君なりの気遣いだろうが、つまり、奇跡がなければあかねは空を飛べなかったのだ。恐らく空を飛ぶのは魔法少女では常識なのだろう。
自分はまだひよっこだと痛感しあかねは机に思いっきり頭を叩きつける。
春樹達の心配した声が聞こえるが、耳に入ってこなくて、ある一つの事を考えていた。
あかねはまだひよっこ。なら、それを指導してくれる人。つまりは師匠に出会おうと。
黒か蒼。どちらかか、両方に教えを請うかと考えた。
そんなあかねを杏子は優しくて、どこか切ない目を向けて見守っていた。
かすみが心配そうに杏子を見上げる。それを見た杏子はなんでもないというように首を振り、仕事に戻っていった。


◇◇◇


とても薄暗い個室の中に2人の男女が座ってた。
ガタイが良い男性は赤いパーカーをきてジーパンを履いていて、イヤホンをつけて音楽を聴いていた。
髪の毛はボサボサで真ん中の髪だけ赤く染まっていて、左目が傷があり右目しか見えなくなっている。
女性は緑色の髪の毛をツインテールにしていた。そして、長くて黒いシャツの上にボロ布のマントを羽織っていた。黒くいハイソックスを履いていて、退屈そうにしている。
すると男性がつけてるイヤホンから音楽が聞こえてきた。その歌を男性は口ずさんでいた
「O Freunde, …nicht diese T??ne…Sondern …」
それは、モーツァルトの歓喜の歌だった。男性は目をつむり心地よく歌っている。
「マタル・・・うるさい」
そう女性から文句を言われたマタルと呼ばれた男はイライラに任せて壁を殴って大きな穴を開けた。
そしてイヤホンを外しギロリと女を睨みつける
「なんだぁ?テベリス・・・雑魚のくせに調子乗るんじゃねぇぞ」
テベリスと言われた女性はそうマタルの威圧にわたしは関係ないというようにゴロンと寝転がった。
マタルはもう一度壁を殴るが、テベリスは心地いい寝息を立てていた。
マタルは額に青筋を浮かべるが、軽く舌打ちをしてまたイヤホンで歓喜の歌を聴きながら口ずさみはじめた。
「おや、みなさん自由ですね」
すると、いきなり扉があき、エレンホスが少し呆れた顔で入ってきた。
それを見たマタルは喜びで立ち上がり、テベリスはゆっくりと立ち上がり少し微笑む
マタルが両手を広げてエレンホスに近づき抱きつく。それをエレンホスは笑顔で迎い入れる。
「・・・収穫あった?」
テベリスがゆっくりとエレンホスに聞く。エレンホスは少し苦しそうな顔で頷いた。
そして、マタルを引っぺがして、ゴホン。と、咳払いをした。
咳払いをしたのを皮切りにいそいそとテベリスたちはその場に座りだす。
その光景を見て満足そうに微笑んだエレンホスは、ゆっくりと口を開け
「ええ、一人ディザイアの候補を見つけました。彼が器を差し出すことを願います」
と言った。
そしてそう喋るエレンホスの瞳笑ってはいるが、瞳の奥底はとても冷たかった。
エレンホスは考える。人間というのはやはり面白いと。
欲が多種多様であり、そのために理性という鎖を外せるのは人間のみ。中には外せないものもいるが、それはエレンホスが少し手を出してあげれば簡単に外れる。
人間の意志の強さなどその程度なのだ。
だが
「ククク・・・ふふっ」
思わず笑みがこぼれるのを抑える。
マジカル☆アナザー
先日あった魔法少女の名前を頭の中で繰り返す。彼女は変身してないのにもかかわらず、エレンホスの支配から逃れることができた。そんな人間など見たことがなく、エレンホスはかなり興味を持ち始めた。
アナザーを支配したい。
これが今の彼の欲であり、人類の支配の前に越えるべき壁でもある
そのためには力が必要だ。仲間を増やさないといけない。アナザーと、黒い魔法少女には邪魔をされるが、他の魔法少女の情報は聞いてない。いや、一つ聞いている
蒼い魔法少女
とても強い力を持っていた強敵だった。
エレンホスはくすりとわらい、壁をトントンと叩く。
すると一人の女性がエレンホスの近くにやってきた。その格好は少しふわりとした袖に大きなリボン。そして真ん中が分かれてるスカートを履き、その真ん中はフリルでかわいらしくしてある。
髪は後ろで大きくツインテールにしている。
その格好はまるで魔法少女のソレだった。
窓から月の光が差し込み、彼女を明るく照らす。そこには光に映えるような蒼い色の服を着ていた。
「よろしくお願いしますよ。蒼い魔法少女さん」

◇◇◇


ひったくり犯の話や二人の魔法少女の件は特に進展がなくダラダラと時間が過ぎていった。ディザイアも数は少ないらしいので、あかねも戦うこともなかった。
いつも通り千鶴たちと一緒に帰ったり遊んだり・・・そんな日常を繰り返していた。
そんなのが続きながら一週間が経った。あかねはパンを食べながらテレビをぼーとみていた。
何かないかとチャンネルをコロコロ変えるが、面白そうな番組はなく、仕方ないから録画したものを見ようと録画ボタンを押そうとするが、テレビの画面の上にニュース速報と書かれた字幕が出てきた。
そこにはこう書いてあった
【銀行爆破。金塊が盗まれる】
その字幕を見てあかねはむせる。
苦しそうに胸を叩きながら水を一気に飲む。ゲホゲホと咳き込みつつ息が落ち着くのを待つ。
銀行爆破。これはどう考えてもディザイアの仕業。頭が変な奴がやる可能性はあるが、多分違う。
その意見に賛成するかのようにあかねのケータイが鳴り始める。ケータイには悟と春樹からメールで一言、今回の事件に対する考え。つまりは犯人はディザイアの一員と考えているという内容だった。
あかねはじっとしていられなかった。急いでご飯を食べ、外に飛び出した。
銀行の場所はここから少し近い。野次馬に見えるかもしれないが、怪しまれないとも言える。
案の定銀行の前には数多くの人間がいた。そこには春樹や悟もいた。
あかねは軽く手を振り挨拶をしながら春樹たちのところまで歩く。春樹たちも手を振る
ざっと周りを見渡すが、怪しい人物。そもそも化け物みたいな奴は一人もいない。
春樹たちをちらりと見るあかねだが、彼らは首を横に振る
つまり春樹たちも見てないというわけだ。捜査は完全に手詰まり。頭をかきながらため息をつくあかね。
いや、一つわかったことはある。それは相手の欲。大方金銭欲とかそういうのだろう。ひったくりや、銀行爆破の理由はそれだ。
しかし、それがわかったからといってどうすればいいのだろう。
「あら~あかねちゃんたちやない。どないしたん?」
いきなり後ろから声が聞こえあかねは振り向く。そこには三月パンの店主。杏子がいつもの格好でそこにいた。
杏子はこういうのに興味がないとあかねは考えてたのでいることに驚いた。
いや、いつもの割烹着を着てるから店の宣伝に来たのかもしれない。
「最近物騒やけん、あかねちゃんたちも早く家に帰りぃやぁ~」
まるで母親のようにあかねたちに声をかける杏子。ニコリと微笑むその顔はあまりにも美しくて、一瞬見とれてしまった。
だが、あかねたちにはしないといけないことがある。
この事件が起きたこの場の近くにきっと手がかりがあるはず。
「・・・危ないことだけはせんでよ?」
今から何かをするかわかってるかのように杏子はそう声をかける。思わずあかねたちは驚いた顔をしてしまった。
杏子はうふふと笑い、あかねたちの前から去っていった。
「杏子さんってお母さんみたいだよなぁ」
春樹が後ろでそう言ってるのが聞こえ、あかねは思わず頷いた。
あかねはとりあえずその場から離れバックの中にいる天使君に声をかける。天使君ならディザイアがどこにいるかわかると思ったからだ。
案の定天使君はぐったりした顔で、それぐらいならわかるといった。
なんでも魔力の波長が微妙に違うのがディザイアらしい。兎に角天使君の案内でディザイアがどこにいるか探しに行くあかね達。
しばらく探したが、結論から言えば見つからなかった。どこを探してもディザイアがいたという形跡はなかった。代わりに多く見つけたのがあった。それは
「魔法少女の、魔力だな。これは・・・」
そう。魔法少女の魔力だった。点々と続いていたり途切れている。
ディザイアがどこにいるか探しに行くあかね達。
しばらく探したが、結論から言えば見つからなかった。どこを探してもディザイアがいたという形跡はなかった。代わりに多く見つけたのがあった。それは
「魔法少女の、魔力だな。これは・・・」
そう、魔法少女魔力だった。点々と続いていたり途切れている。
ソレは一見普通に見えるが、まるで捜査をかく乱しているような印象を受けた。
しばらく考えるが、金銭欲と魔法少女が戦った時にできた形跡だと結論付けた。
しかし、同時にあかね達はまた完全手詰まりになったというわけであり、これからどうすればいいか悩み始める三人。
すると後ろから声が聞こえてきた。あかねたちは少し震えながら振り向くと、そこにいたのは1人の可愛らしい少女であった。
「美冬ちゃんか・・・」
ホッとしながらその少女の名前を呼ぶ。美冬は少し怪訝な顔で
「ボクの顔を見てなんでそんなに驚くのです。わけわかめです・・・と、そうだ。何してたのですか?」
「ちょっとした捜査をね。美冬ちゃんは危ないから早く帰りな」
「いや、ボクが危ないなら、皆さんも危ないでしょう」
「いやいやいや、あたしたちは大丈夫」
「いやいやいや、多分大丈夫じゃないでしょう」
お互いが譲らない謎の押し問答が始まった。
この言い合いが15回目になった時天使君がポツリと声を漏らした
「美冬を囮に使えば、早く見つかるがな・・・」
この後天使君はまず真っ先にやってしまったと思った。あかねが無言で睨みつけながら、天使君の近くに大股で歩いて近づいてきた。
「お前さぁ・・・ふざけてるの?美冬ちゃんを危ない目に遭わせないためにやってんのにそれじゃ意味ないじゃんか。他の案考えろ」
「しかし、それが一番簡単なんだがなぁ・・・」
「あのさぁ・・・」
「ボクは構いませんよ。」
「そうだ、構わないよな美冬ちゃん・・・!?」
あかねは驚いたように美冬の肩に手を置き、美冬をグラグラと激しく揺らす。そしてとても焦った顔で唾を飛ばしながら早口で考え直せとまくしたてる。
美冬はハンカチであかねの唾を拭き取りそして少し俯きつつ
「ボクだって、役に立ちたいんです・・・もう、守られるだけは嫌だ」
と呟いた。
その言葉を聞いたあかねは美冬を揺らす手を止めた。そして手のひらを閉じた後、また開いた。その行為には多分意味はない。あかねは無意識のうちにとっていた。
そして美冬のおデコをピンと弾いた。美冬は弾かれたところを両手で押さえた。少し涙目になっていた。
「あー、すまん。そんなに強くしたつもりはなかった・・・」
と言って美冬の頭を優しく撫でた。そしてにこりと笑った。
そして春樹のほうをちらりと見た。春樹は少し苦笑しつつ
「俺からもよろしく頼む。折角美冬が自分からやりたいと言い始めたんだ。兄として応援してやりたい」
と言った。そしてあかねの肩にポンと手を置いた。それをされたあかねは任せろと言うように自分の胸を叩いた。
そんな四人の姿を遠くから見つめる一つの影。
全体的に黒い色で腰の部分に大きめなリボンをつけてふわりとしたフリルがついたスカートをはいている。黒いウェーブヘアーで、小さなシルクハットをかぶっている。
その手に握るスティックをぎゅっと握りしめて、その少女はその場から去って行った。


◇◇◇



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