ヒロイン=ヒーロー

は~げん

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第二話 誰も失わないという覚悟 その二

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「・・・で、なんであたしの家に来るんだ?」
お邪魔しまーすと、口々にそう言いながらあかねの家に入ってくる春樹達。
ぶつぶつと文句を言いながら、冷えた麦茶を全員分出すのは彼女の性格ゆえだろう。
「いや~買い食いはだめじゃん?だから仕方ないんだ」
うんうん、と、春樹が自分で言ったことに頷いて自分で納得している。
後ろでは千鶴があかねの部屋のドアノブを回して開けようとしていた。
あかねは慌てて千鶴を扉からひっぺがした
文句が言いたげな顔の千鶴だが、あかねが手をあげたことで押し黙る。
悟は椅子に座って先ほどパン屋で買ったパンを黙々と食べていた。
全員勝手な行動を取るが、それがあかねの家に来た時のみんな。あかねもそれはそれで楽しいので特に文句は言わない・・・千鶴が一度洗濯カゴを漁っていた時はドロップキックをかましたが。
あかねは何気なくテレビをつけた。そこではニュースをやっていた。
キャスターが淡々とニュース内容を話している。すると、気になる言葉をつぶやいた
「今、◯◯県の三木市で神隠し事件が頻発しています。被害者は若い女性に多くーーー」
あかねは眉をひそめる。三木市というのはあかね達が住んでる市。そして神隠し事件はこの前解決したはずなのだ。
ふと隣を見ると千鶴もテレビを凝視していた。やはり、千鶴も怖いのだろうか。
千鶴は同性のあかねから見ても美人に分類される顔立ちだし、事実ナンパとかもよくされるらしい。
まぁ、持ち前の運動神経で逃げるらしいが・・・
何よりキャスターが言った、被害者は若い女性が多い。という一言も原因だろう。
すると、いきなりチャイムがなった。
あかねは慌てて扉を開けに行くとそこには一人の少女がいた。
「春兄がご迷惑をかけました・・・」
彼女は美冬。春樹たちを向かいに来たらしい。
後ろから春樹が顔を出して、覗いている。
よく見ると手を顔の前でふり、否定しているようだが、あかねはお構いなく春樹を目の前に突き出した。
春樹は名残惜しそうだが、悟と千鶴をを呼び、帰っていった。

◇◇◇◇◇

「なぁ、一つ気になることがあるんだ」
あかねは春樹たちが帰ったあとバッグで寝ている天使くんを起こして、話をしようとしていた。
少し顔色が悪く見えたのは多分気のせい。
ふらふらしているのも気のせい。
天使くんがぐったりしながらあかねの次の言葉を待つ。
「朝会ったあの少年・・・あの子、なんか変じゃなかったか?」
そう、あの手品師のような風貌の少年のことだ。
できすぎた笑顔もあるが、そもそも服装がおかしい。
天使くんも無言の肯定をする。
それに何か変な気も感じた。とあかねは言葉を続ける。
普通じゃありえない。人間とは違う気。そう、それはまるであいつら。
「ディザイアみたいって言いたいのですか?お姉さん」
あかねの目の前に今朝あった少年がいた。彼はクスクス笑っていた。
それはとても無邪気な笑顔だが、その奥にはドス黒い何かがあった。
突然目の前の少年が紳士のように帽子を取り頭を下げた
「こんばんは。僕の名前はエレンホス。以後、お見知り置きを。魔法少女さんーーー」
あかねは何も考えず目の前に勢いよく拳を突き出していた。それは早くはないが、子供なら当てることができる。だが、目の前のエレンホスと名乗った少年はそれを受け止めた。
小指一本で
それを見て驚愕したあかね。エレンホスはまたクスクス笑っている
「そういえば、貴女はこの前一人の人間を救えなかったそうですね」
まるで世間話をするかのように、そうあかねに聞くエレンホス。
そしてエレンホスはあかねに顔を近づけ、顎を指であげる。
「収集欲は私たちの中でも下位に属する弱者。そんな奴相手でも貴女は一人の犠牲を出してしまった」
あかねは耳をふさぎたいという気持ちがでるが、エレンホスの声を聞くともっと聞きたいと思ってしまった。それほどまでに彼の声は安心を与え、もっと彼の声を欲してしまう。
エレンホスが、あかねをまっすぐ見つめる。あかねはすぐに目をそらすが、エレンホスは両手であかねの顔を自分の目の前で固定した。
あかねはエレンホスの目を見た。それはとても慈悲深い、優しい目だった。
まるで先ほどまで感じていたドス黒い何かは嘘のように。
そしてエレンホスは可愛らしくくすりと笑う。あかねは思わず見とれてしまった。
「ですが、もう犠牲を出さない方法があります」
エレンホスはそう言いまたにこりと笑った。
「簡単です。貴女がこっち側にくればいいのです。そうしたら、貴女は誰も失わなくて済みます。どうです?悪い話ではないでしょう」
エレンホスは優しくあかねの頬を撫でた。あかねはどうすることもできなかった。ただ、エレンホスの言葉を聞くことしかできなかった。
あかねは考えることすらできなくなっていた。頭が上手く回らない。エレンホスがいうことすべてが正しいと思っていた。
このまま頷こうか。とまで考えた。その方が楽だと思ったからだ。
意識が消えていく中、あかねはポケットの中から出ているあるものに触れた。
「さぁ、僕についてきてください」
そう言いエレンホスは先ほどより強くあかねを見つめた。
そしてあかねは糸が切れた人形のように下を向いた。
エレンホスは見下したような目でそれを見た。もっと抵抗すると思ったのだが、想像以上にもろかっからだ。
彼は自分の言うことを聞くものは好きだが、こう脆いものは好きではない。
そして、あかねがゆっくりと顔を上げた。あかねの顔は生気がなく、まさに生きる屍のよう。
「ふん!!」
ではなかった。
ごつん!といい音が響きあかねとエレンホスは額を抑える。
あかねは顔を上げたあと、そのまま勢いに乗せて頭突きをしたのだ。
まさかの行動にエレンホスは驚いていた。と、同時に喜びもあった。
顔がにやけるのを抑えるエレンホス。その間にあかねは天使くんを抱え立ち上がっていた。
「誰も失わない簡単な方法は貴女がこっち側に来ること・・・だぁ?ふざけんじゃねぇぞ。あたしはあんたらディザイアと同じなんかにならないし、なるつもりはない」
あかねはそう断言した。目には生気があり、活き活きとしていた。
「それより簡単な方法がある。それは『あたしがみんなを守ればいい』!それに、あたしは誰も失わないという覚悟がある。そうやすやすと覚悟を曲げてたまるか!」
と、あかねは指を突き出しながらそういう
あかねの目は先ほどより生気を増していた。まるで、物語のヒーローのような。
そして、この言葉からはあかねの覚悟は頑固たるものだと思えた。おそらくそれが、あかねなのだ。
エレンホスはしばらく黙っていたが、やがてフラフラと立ち上がった。
あかねは少し身構える。何か恐ろしいことが起こると思ったからだ。
だが、次に起きたのはあかねは予想してないことだった。
声が聞こえた。それはまるで笑ってるようだった。
いや、笑っていた。なぜなら笑い声が漏れていたから。
あかねは若干ひいていた。
エレンホスの口からククッとか、ふふっとか、そんな感じの声が聞こえてきた。
あかねは、少し恐ろしくなってきた。精神的な恐ろしさ。あかねは思わず一歩ひいていた。
するとエレンホスが顔をいきなりあげて
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
と、狂ったように笑い出した。目も焦点が合ってないように見えた。
あかねは身震いした。これほどまでに狂気を持ってるとは思わなかったからだ。
暫くしてようやく笑い声が止まり、エレンホスが口を開けた
「いやぁ、いいですねぇ。貴女みたいな人こそ、僕は支配したい・・・くくくっ」
そういいながら、つかつかと扉の方へ歩いていくエレンホス。
すると扉の前で立ち止まり、あかねの方を向いた。
「そういえば、貴女のお友達。今頃大変な目にあってるかもしれませんよ・・・」
大変な目。あかねは驚いたが、それよりも早く体が動いていた。
待てと声をかけようとするがエレンホスはもうその場にいなくて代わりに一枚の紙が落ちていた。それを拾うと何か文字が書いてあった。
【貴女のお友達は◯◯にある廃工場にいます。さぁ、貴女の覚悟を見せてください】
あかねは全部読み終わる前に外に駆け出していった。恐ろしいことを考えるが、頭を振り否定する。ただ、無事であると信じて


◇◇◇◇◇


うぅ~ん・・・ここはどこでしょう?
重い頭をあげて、ボクは周りを見渡しました。
周りはとても荒れていて、おそらくどこかの廃工場とかそんなところでしょう。なんでここいるだろう・・・たしか、春兄たちと帰ってたら、目の前から手品師みたいな男の子が来て・・・むぅ、これ以上思いだせません。
とりあえず動く・・・動かない?
あー・・・どうやら手と足を鎖でぐるぐる巻きにされてますね。チョベリバです。
春兄たちは・・・無事ですね。よかった。
しかしこれは・・・もしかして、とてもやばい?前の蜘蛛の妖怪と同じ事件の匂いがプンプンします。
・・・おや?みんなが目を覚ましました
みんな暫くしたら異変に気付いて騒ぎ始めましたね。春兄は大声で騒いでます。悟さんは小声で文句を何度もいってます。千鶴さんはとても顔が青ざめています。
すると、入り口が壊れました。いや、壊れたというかなんだろう。扉の『真ん中』だけが破壊されてます。それもとても綺麗に。
「ひっ!?」
春兄が情けない声を出してます。するといきなり土埃が舞いました。
おかしい。なんでいきなり土埃が舞うのか。そんなことを考えてたら僕の足元の地面がいきなりえぐれました。
少しスカートがなくなってます。ボクの頬を伝い冷や汗が落ちました。
すると目の前からいきなり手が現れました。いや、ヒレ?
とにかく目の前のそれはだんだんと形をなしてきました。
キバがあり、ヒレのようなものがあり、そう。一言で言うなら大きなサメですが、色が紫ですし、目が不気味に光ってました。
これは本格的にやばい。
そのサメは少しずつ近いてきました。遊んでるかのようにゆっくり
みんなもっと騒ぎ始めました。あ、千鶴さんが気絶している。
サメは楽しんでるように近づいてきます・・・大きく口を開けて。
助けて。
誰も助けてくれない。でも、あの人なら。
助けて・・・!
今度はもっと強く願う。それでも届かないなら。
「助けて!!」
空に向かって叫ぶ。
「アーイキャーンフラーーーーーーイ!!!!」
すると天井を突き破って一人の女の子がふってきました。
そしてサメに向かって上からキックをして相手を吹き飛ばしました。
「あ、あ・・・あかねさん!!」
助けに来てくれたヒーローの名前を叫ぶと、そのヒーローはニコッと笑い、前を向きました。
「あんた達は私が必ず守る。だから安心してくれ」
そういうあかねさんの後ろ姿はとても頼もしく、幼い背中なのに任せれる気がしました。
「あかねさん・・・ま、まさか!?」
春兄と、悟さんが何か気づいたそうですが、空気を読んで黙らせます
彼女の守る戦いをボクらは見守るしかできませんから。

◇◇◇◇◇


「で?あいつは何の欲だ?天使くん」
さて、やってみたら空を飛べたあかねはまず、目の前の怪物にキックをかました。とりあえずは先手を取れたのだ。
いつものように片足を前に出して身構える。
そして目を閉じ息を整える。が、目を開けた瞬間あかねは驚愕した。
「な、あいつどこに行った!?」
そう、サメの怪物が何処かに消えていたのだ。
ふと、横を見ると天使くんが震えていた。
心配して顔を覗き込むと何かを言っていた。
「あ、あいつは・・・!!」
どうした、と聞こうとするが、その前に敵の攻撃がきた。いや、来たと思う。
それはというと、目の前の地面がいきなり抉れたのだ。
「間違えない!いきなり現れる攻撃方法。奴は『食欲』!!」
そう叫ぶと同時にあかねの右腕がなくなっていた。
痛みで声にならない叫び声を上げるあかね。だが、右腕はなおっていた。
「食欲は、どこからか現れ、空間を削り攻撃してくる・・・!!それも食べるというだけで!!」
あかねはゾッとする。
右腕だけでもこんなに痛い。もし全身を食われたら・・・
あかねは一旦空を飛んで距離をとった。空から見た方がわかると踏んだが、それは間違いで、どこにいるかわからなかった。
あかねは周りをキョロキョロ見渡す。だが、対処方法は見えた。
あかねは空からダンボールの山に突っ込んでいくと、ダンボールがたくさん潰れて、そして中に入ってある砂が入った袋がたくさん破れて砂が舞った。
空間に隠れるといっても、ここには存在している。つまり砂がまえば
「どこにいるかわかる・・・そこだっ!!」
一部だけ変に浮かんでるところにどこからか拾ってきたバットで殴りにいく。
にぶい音をたてて食欲に打撃を与えたあかね。だが、それはそのまま真っ直ぐ突っ込んできてあかねを食べようとする!
あかねは慌てて避ける、間一髪どこも食べられないで済んだ。
肩で息をするあかね。おそらく食欲の周りは硬い鱗かなんかで守られている。
「言っただろう!あいつには勝てないと!」
天使くんは大声でそういうがあかねには聞こえてない気がした。
「あいつは食欲!!俺たちは食われるだけだ!!」
逃げようと言葉を続けようとするがあかねはそれを手で制した。
変な空間が周りをふわふわ動いている。いつ狙われてもおかしくない。
「勝つとか負けるとかそんなことどうでもいいんだあたしはあいつをぶっ飛ばす。その先にあるのが『勝つ』『負ける』なんだ。あたしの大切な人を恐ろしい目に合わせたあいつをな・・・」
ここまでいい、あかねは上に手を伸ばす。その手を天使くん達は集中する。あかねはその手を一気に下におろし
「覚悟しろよ。バケモノ」
と、鋭くいった。そのバケモノという言葉は食欲にいったのか。それとも先ほどあったエレンホスに言ったのか。もしくは自分自身か。
あかねは息を整える。そして食欲をよく見る。それはふわふわ浮かんでいるが、一瞬であかね達を殺すことができる。
あかねはバットを前に突き出し、瞼を閉じる
正直言ってあかねは怖がっていた。もちろん、食われるのは誰だって嫌だろう。しかし、怖がってる理由はそれだけではない。
『また失うのが怖い』
あかねはもう失いたくないという覚悟を決めた。だが、それだけでは足りない。もっと強い覚悟を背負わなければならない。
その覚悟は
「犠牲となる覚悟・・・!!」
あかねは魔法少女になると、不死身となる。その肉体は決して滅びず再生し続ける。だから、右腕が生えてきたのだ。
ならばその不死身を利用する。それで勝利をつかむのだ。痛みは大きい。事実右腕が食われた時、声にならないほどの叫び声を上げた。
だが、それがなんだと言うのだ。体の痛みと心の痛み。今、痛みから逃げてあの時の思いを、覚悟を無駄にするのか。
今、痛みに立ち向かい覚悟を持って進むか。どっちがいいかという、そんな簡単な二択。もちろんあかねが選択するのは、後者だ。
隣で天使くんが慌てているが、あかねは安心させるように笑う。
だが。
「っ!?」
食欲がいきなり襲ってきた。それはあかねの右ほほを軽くえぐる。
あかねの頬から血が流れる。肉体は徐々に再生されるが、それでも痛みは強い。
そして食欲は無茶苦茶に襲ってきた。
右に来たかと思うと、次は左。そのまた次は上や下から・・・その度に肉体がえぐれる
「っーーーーー!!」
また食われる。今度は左足。あかねは思わず声を上げ、そして右ひざをついて倒れた。
身体中から血が流れ、あかねがいるところがだんだんと血に染まっていく。
それでもあかねは立ち上がろうとするが、再生途中の左足では満足に立てることもできず何度も倒れる。それでもなんとかバットを杖代わりにして立ち上がる。
口から幾度も漏れる荒い息。それは彼女が疲労や痛みでほぼ限界だと言うことを表している。
天使くんはたまらず声をかけようとする。が、あかねはまた手で制する。
何故彼女はここまでして立ち上がるか、天使くんは理解できなかった。
すると、あかねがポツリポツリと、つぶやき始めた
「痛い・・・痛いけどよぉ・・・ここであたしが倒れたら、誰があいつを止めるんだ?
誰があいつらを守るんだ?・・・私がやらなきゃいけないんだ。ここで倒れることは・・・許されないんだ!!」
小声だが、確実に天使くんの耳に届いた。
それは聞いて天使くんは理屈じゃなく、直感でわかった。これこそがあかね。今のあかねなのだ。
普通の女の子じゃこんなことできない。でも、あかねはできる。いや、できないといけない。
できないと、また失う。だから、あかねは震える体をごまかし、立ち上がる。恐怖を覚悟で押さえ込んでいる。
そんな中でもあかねは笑っていた。目も死んでない。
天使くんは彼女に尊敬と恐怖を覚える。が、その恐怖は恐ろしくない。どちらかといえば自分と全然違う存在と考えてしまう。たどり着けない。とおすぎる。そういう恐怖だ。
だが、それはとても頼りになる恐怖でもある。
その背中はとても力強かった。
でも、その背中は次の瞬間になくなっていた。
代わりにあったのはあかねの左腕と食欲が何かを美味しそうに食べているところだった。
天使くんはあかねを探す。でもいない。
可能性があるのは食欲の腹の中。そこしかなかった。
あんなに力強い背中を持った少女は片手しか残らなかった
天使くんは叫ぼうとする声を抑えた。まずは、あかねが命を張って助けようとした美冬達のところに行かないといけない。
だが、それよりも早く食欲が美冬たちのところに行っていた。
怯えたように身をすくめ、顔を青ざめる美冬たち。
天使くんは今度は叫んだ。逃げろと。
だが逃げれるわけもなく美冬たちは食われるまで待つしかなく、恐怖から少しでも逃れようと目をつむった。それは現実から逃げるためか。
大きく口を開ける食欲。
天使くんも目をつむっていた。
心の中はあかねへの懺悔と悔しさであふれていた。
すると、いきなり食欲がピタリと止まった。心なしかとても苦しんでるように見えた。
食欲は、慌てて土の中に潜る。天使くんはとりあえず美冬たちの近くに寄る。天使くんは何が起こったかわからなかった。
やがて食欲はついから飛び出した。その大きく開けた口から声が聞こえてきた。
「外側がダメなら・・・・内側からならどうだっ!!!!」
それはまさしくあの少女の声だった。
そして食欲の中からあかねが飛び出した。全身ボロボロで服も所々溶けている。だが、力強く地面に立った。
「あ、あかね!!!」
天使くんは思わず叫んだ。それは喜びで。
あかねは顔だけを後ろに回り小さく手を振った。そして前を振り向く。
その背中はあの背中だった
食欲はあかねに襲いかかる。あかねも前に駆け出す
食欲はまた大きく口を開けるが、あかねはそれを見て小さく笑った。
「右手に込める魔力のオーラ・・・!!」
あかねは右手に魔力を込めた。それでも食欲は襲うためまた大きく口を置ける。
「マジカル☆バズーカぁぁぁぁぁ!!!!!」
あかねは大きく右手をふり、そして魔力の塊を飛ばした。
口を開けた食欲はそれをもろに受ける。内側の攻撃を守るすべはない食欲はあかねの攻撃を受けて吹き飛んだ。
「GAAAAAAaaaAaaAaa!!!」
食欲はそう叫び体をあかねの攻撃で貫かれた。
そして光の粒子になり消えていった。
空にまっていく光の粒子を全員見つめていた。そして
「よっしゃぁぁあああぁぁ!!」
糸が切れたようにあかねは叫び、美冬たちも歓喜の叫び声をあげた。
「いやぁ、流石ですねぇ」
すると男の子の声がきこえた。その声はここに来る前に何度も聞いた声。
「エレンホス・・・!」
入り口からエレンホスが拍手をしながら歩いてくる。
その幼い瞳はあかねに対して好奇の目を向けていた。
「いやぁ、貴女の覚悟、見せてもらいました・・・すみませんが、貴女の名前を教えてくれませんか?」
「名前・・・ま、マジカル☆・・・あー・・・あ・・・あー・・・」
名前を聞かれてあかねは声を濁す元から名前なんか考えてなかった。何を言うか迷う。
するとエレンホスが、手をパンと一度叩いた。そして。
「なるほど。『マジカル☆アナザー』ですか」
あかねはもう名前とかどうでも良かった。それだよ!と、ヤケクソで同意する。
エレンホスは子供のように笑ったあとマントを翻した。すると彼は目の前から煙のように消えていた。
そして、戦いで壊れていたこの廃工場内も元通りになっていた。まるで、元からなかったかのように。
あかねは美冬たち手を固定していた鎖を壊した。美冬は礼を言ったが、春樹たちは気絶していた。
あかねと美冬はお互い見つめ合い、そして笑った。

◇◇◇◇◇


次の日。あかねは元気よく家から飛び出した。集合時間より何分か早くつくが、なぜか早くつきたかった。
カバンの中で文句を言う天使くんを無視して走る。
いつもの集合場所につくと春樹と悟が先に来ていた。
あかねは元気よく手を上げて挨拶をして、春樹たちも挨拶を返す。
すると春樹はいきなりあかねの肩に手を置いた。いきなりの行動に少しドキドキするあかね。余る触られるのは慣れてないのだ。
やがて春樹は口を開ける。
「お前・・・何か隠してるだろ?」
そう言われてあかねは少し体が反応する。隠してる?まさか。だが、それを見た悟は
「マジカル☆アナザー」
その言葉にあかねは声を上げそうになるのを抑える。そして三人で顔を突き合わせる。
「なんで知ってんだ!?」
「あんなことがあって忘れるかよ!」
「あぁ。お前に対して感謝を述べたいしな」
そうしたら二人はありがとう。と、感謝の言葉を述べた。あかねは純粋に嬉しかった。
「あ、あれ?」
あかねの頬を涙が伝い始める。それほどまでに嬉しくて、それほどまでにあかねは少女だった。
目の前の男性は大きく笑っていた。それを見てあかねも笑顔になる。
涙を拭い、あかねはもう一度笑った。
今彼女は幸せの中にいるかのようだった。



《次回予告!!》
「千鶴は知らんだろう」
               「いやぁ!今日もパンはうまい!」
         「金だよ!!金をよこせ!!」          「黒い・・・魔法少女?」
第参話『二人目の魔法少女』
お楽しみに!!

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