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第二話 誰も失わないという覚悟 その一
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前回までのあらすじ
よぉ、俺は天使くんだ。
前回あかねは守るために魔法少女に変身し、美冬を助けに行った
助けに行ったところにいたのは翔と美冬。そして『収集欲』だった
戦いの最中翔を失ったあかね。もう誰も失わないと決めるが…
◇◇◇◇◇
「は!?それは本当か?」
散々泣いた後、美冬に励まされるという、女子高生には恥ずかしいことをされたあかね。美冬は彼女の兄、春樹が迎えに来て、今はいない。
「あぁ、美冬は記憶を持っている。普通は忘れるのにな」
そう、美冬は記憶を持っていた。だから励まし方が「ヒーローです」なのだ。
「恐らくは、だが・・・可能性は二つある」
天使くんが、そういい羽を前に突き出す。勢いをつけすぎたせいか、その羽からはらりと、羽毛がおちる
「一つ。これは一番多いが、『本人が忘れたくない』と思ったとき。まぁ、最愛の人を亡くしたとか、そういうのがあるな。そしてもう一つ。それは、『美冬の魔力が強すぎる』・・・多分これだ」
と言われてもいまいち納得がいかないあかね。それを見た天使くんが哀れなものを見る目であかねを見た後ため息をつく。
「収集欲を倒したときに光の粒子が舞っただろう?ディザイアを倒したら天界に連れて行かれる。そして、天界が今までのことを『なかったことにするんだ』・・・だから、記憶から消えて、建物とか怪我とかも治る。・・・死んだ奴は、元からいないことになるが」
死んだ奴。それを聞いてあかねの脳裏に翔の顔が思い浮かぶ。あかねは守ることができなかった。だが、代わりに覚悟を決めることはできた。
『もう誰も失わないという覚悟』を
と、ここであかねがある疑問を口にする
「なぁ、天界ってなんだ?」
『天界』先程天使くんの口から出た言葉。普通に考えれば天国とかいうものなのか。
「・・・まぁ、天国とかそういうのと同じだな。空にある俺みたいなやつが住んでるところだ」
つまり天界には天使くんがいっぱい。
「あはははははは!!!」
あかねは思わず笑ってしまった。天使くんみたいなのしかいない世界を想像したからだ。
「わ、わらうな!!俺から見たらお前たち人間も魔力以外ほぼ変わらん!!」
天使くんがそう反論するがあかねはあまり聞いてない。
ひとしきり笑った後、笑い声が収まり・・・
・・・いや、肩で息をしている。どうやらツボに入ったらしいく、小刻みに震えながら笑っていた。
それから笑い声が止まるまでに多少の時間がかかった。その間天使くんの顔は不機嫌だった。
そして、あかねは大きく伸びをする。時間はまだ昼の2時ぐらい。確か明日から学校だったような。
笑ったことで少し気分が晴れたあかね。いそいそと布団に入り目を閉じた
近くで天使くんが騒いでるが、あかねは気にしない。おやすみ。とつぶやきそのまま夢の世界へ入っていった。
しばらくした後、天使くんは騒ぐのをやめ、自分も休息を取ろうと床に降りて、そのまま彼も寝てしまった。
◇◇◇◇◇
「おはようございます」
「うん。こんばんわ。あかね」
少し冷や汗を流しながらあかねは目の前の女性に挨拶をする。
時間はもう夜の1時ぐらい。あかねはこの時間までぐっすり眠ってしまった。
改めて目の前の女性を見ると目は口は笑ってるが、オーラは怒っているように見える。
「怒ってないわ。私はただ・・・」
とここまでいって、今度はにこりと笑う
「やるって言ったことはやってほしかったわ~」
あかねは冷や汗を先ほどより多く流す。
目の前の女性は、あかねの母。名前は「西園寺増穂」
彼女は帰ってくるのが遅いので、家事は基本あかねが担当している。
だが、今の今まで寝ていたので、洗濯はおろか、炊事は一切やってない。
「ごめん!母さん!!」
あかねは両手を合わせ、頭を下げて謝る。
そんなあかねを見て増穂は優しくあかねを撫でた。
「まぁ、わかってたからいいわ。ご飯はお弁当だけどね」
と言って、弁当が入った袋を持ち上げる
「あら?お人形?」
増穂はそういって、床に眠っている天使くんを掴み持ち上げる。
いろんな角度から見つめる増穂。バレるのではとあかねと天使くんは内心焦っていた。
しばらくして、天使くんを床においた。そして増穂が
「あかね・・・」
とつぶやいた。はい!!と叫びあかねは背筋をのばした 。増穂から怒られると思い身構えたのだ。
だが、次に聞こえたのはあかねにとっては意外な一言だった
「お人形が欲しかったら言えばいいのに・・・」
という増穂。それを聞いて思わず、え。と、口から出てしまう。
そう言えば、と、あかねは考える。人形なんて一個も持ってなかった。だけど、それは人形じゃない。天使くん。少し違うが生き物だ。
「か、母さん!!早くご飯食べようよ!」
といいあかねは増穂の背中を押して部屋から出て行く。床の上では天使くんがほっと一息ついていた
◇◇◇◇◇
お弁当を食べた次の日。あかねは時間きっちりに起きて、朝ごはんを作り、そして高校に行く準備をしていた。
天使くんは付いて行くと言って聞かない。仕方ないから連れて行くことにした。
あかねが通う高校は「三木高校」と言う。最近できた高校だ。
何もかもが平均的な高校。それがここの高校だ。
いつもの道をトコトコと歩く。あかねは友人たちの集合場所に行こうとしていた。
すると目の前から1人の子供が歩いてきた。
遠くからはよく見えないが、手品師のような服に帽子をかぶっていた。
それに、内側が赤いマントを羽織っていた。
その子供が近づくにつれて顔が見えてきた
その顔はとても整っていて、中性的な顔立ちであり何故か右の目に片眼鏡をつけていて、本格的に手品師に見えた
「おはよう、おねぇさん」
いきなり目の前の子供が声をかけてきた。一見女の子に見えた子供だが、声を聞いたら男の子の声だった。
「あぁ、おはよう」
あかねは挨拶を返す
すると目の前の少年が笑った。
それは太陽なような笑顔だった。
だが、あかねは少し違和感を覚えた。
(笑顔が出来すぎてる・・・)
そう、完璧すぎたのだ。まるで何回もやったかのような。
そんなあかねの疑問を知ってか知らずか目の前の少年はあかねの横を通り過ぎていった。
あかねは少し疑問を抱いただけだったが、天使くんはそれよりも何かを感じていた。
(あいつ・・・へんな気を感じた・・・)
杞憂になればいいか。と考えながらあかねのバックに揺られる天使くん。少し酔い始めたのは秘密である
◇◇◇◇◇
集合場所についた。まだ誰も来ていなかった。
いや、1人いた。
「ん?おお、西園寺じゃんか。おはよう」
片手を上げながらあかねに挨拶をする少年。制服を着てるが、前のボタンは何個か開けており、そこから下のシャツが見えた
「おはよう。小峠・・・」
その下に見えるシャツは一言で言えばださい。それもものすごく。
(なんでこいつ、男気とか書かれたシャツ着てんだろ)
改めて彼をよく見る。髪は男性にしては少し伸ばしているが、校則に引っかかるほどじゃない。
顔も悪くはない。普通か。
だが、シャツで全てを台無しにしている。
彼の名前は「小峠春樹」美冬の兄だ。
二人でしばらく談笑しつつ待ってると、後ろから1人の男性がやってきた。
髪は春樹より長く、そして、少し銀色の髪。
ベルトのあたりにはチェーンをつけている。あかねはいつもつける意味がわからないという顔でそれを見る。
「おはよう、悟」
春樹がそういい、あかねもおはようという
「・・・おはよう」
と、二人に言う悟と呼ばれた彼。
近づくにつれて顔がよく見える。キリッとした目に、整った顔。世間一般的にはイケメンに分類される顔だった。
彼の名前は「小野悟」
その顔で学校での女子人気はナンバーワン。でも本人はあまり恋愛に興味はないらしい
悟が来て、あと1人来ればいいのだが、なかなか来ない。
するとあかねは後ろから来る気配に寒気を感じた
「あかねちゃん!!会いたかった!!!」
後ろから来た女性があかねに抱きつく。
あかねは離そうと抵抗するが相手は離れない
「あかねちゃん!!私は離れないよ!!ほら!ここにつかまる所があるから!!」
といい、後ろの女性はあかねの胸をつかむ
ひゃん!!と、変な声を出したが、あかねは女性の頭を怒りに任せて思いっきり殴る
「ち、千鶴!なにすんじゃー!!」
「いやーん!怒ってるあかねちゃんもかわいい!」
といいながら体をくねくね動かす女性。
前髪はすべて切りそろえ、明るい茶色のロングヘアーが、体が動くたびに揺れる。ついでにふくよかな胸も。
首元にはいつもつけているネックレスがあり、それは太陽の光を受けるたびに輝いた。
彼女の名前は「池内千鶴」なぜかあかねに好意を寄せている
四人は楽しく喋りながら学校に行く。
あかねは友人と会話することは好きであった。
だから、この日常を壊したくない。失いたくない。
あかねは改めて心に決めた。
◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン
終了のチャイムが鳴り響く。退屈な授業も終わり、今から帰る。
さてと。といい、カバンをからい春樹達に一緒に帰ろうと声をかける。
春樹は笑顔でOKと言い、悟にも声をかけた。悟も無言で頷いた。
あかね達は2-2。誰も部活に入ってないので、帰りも一緒だ。
「あかねちゃん!!お疲れ様のキスを私は求める!!」
後ろから千鶴がそう言いながらあかねに抱きつこうとする。
あかねはそれを軽く避けて、千鶴にチョップをする。
チョップされたところを千鶴がわざとらしく頭をさする。軽く涙目になってる気もするがあかねは気にしない
それを見て春樹が爆笑し、悟が軽く笑う。それにつられてあかねも笑った。
千鶴はふてくしたように頬を膨らませる。それもまたおかしくてあかねたちはまた笑ってしまった。
「そうだ。今日もパン屋いこうぜ」
するといきなり春樹が思い出したかのようにそういう。
学校からの帰り道にある、小さなパン屋。店名は「三月パン」
そこでオススメされるクロワッサンを食べて帰るのが彼女達のブームであった。
さっくりとしたパンの生地を口に入れればバターの香りが広がる。
それはあかねの好きな食べ物である。が、少し乗り気ではなかった。
(・・・翔・・・)
心の中で一人の少年の名前を呟く。
三月パンでは、翔もその母親もよく行っていた。
だから乗り気ではなかったが、あかねは久しぶりに三月パンのクロワッサンを食べたいとも思い、その提案を頷いて肯定した
翔の母親に合わないように願いながら
◇◇◇◇◇
「・・・あ」
「・・・あら、あかねちゃん?」
いた。翔の母親だ。三月パンに置いてあるパンを1~2個買っている。
(そうか・・・)
あかねは昨日天使くんに言われたことを思い出す。『死んだ人間は存在を消される』
だから翔の母親は自分が食べる分だけのパンを買っていた。
それをみると、少し悲しくなり、同時に少しだけ、安堵した。
最低だな。と自嘲気味に考える。
「あかね。お前は何も買わないのか?」
悟があかねにそう聞く。言われてみればあかねは何も買ってなかった。
そういえばいくら持ってたっけと、ポケットから財布を取り出す。すると、するりと何か落ちた
それは緑のスカーフ。翔が大切にしていたスカーフだった。
翔の母親はそれを拾う。そしてそれをしばらく見つめていた。
あかねは少し心配して声をかける。
「あ、いや。なんかこれ見たことがある気がするの・・・ふふ、ごめんね。こんなこと言って」
といい、スカーフをあかねに渡しそのまま出て行った。
その後ろ姿をあかねはただ見ることしかできなかった。
「あら~あかねちゃんやないの。何買うの?」
すると、後ろから間延びした声が聞こえる。
「あ、店長・・・」
そこにいたのは、この三月パンを切り盛りしている店長。髪は明るい赤。そして少し短めでウェーブがかかってる。
割烹着を着ていて真ん中にクロワッサンのイラストと三月パンという文字がプリントされている。
名前は「小森杏子」あんずと読む。
「そうや、ウチのパンやに来たらかわなあかんで!」
今度はあんずの後ろから舌足らずな声が聞こえる。すると、杏子の隣に小さな女の子がいた。髪は黄色で三つ編みにしていて、可愛らしいリボンが付いている。
杏子とは違い、子供用のエプロンをきて、そこにもクロワッサンの絵と三月パンという文字がプリントされている。
この少女の名前は「小森かすみ」まだ、5歳ぐらいだが、杏子と二人で三月パンを経営している。
「あかねちゃん、えがおがかわいいんやから、わらってわらって」
といい、かすみは無邪気に、にー。と、笑う。それにつられてあかねも笑顔になる。
エセ関西弁だが、それのおかげで一段と親しみがわく。
「そーだよ!!あかねちゃんは笑ったほうが可愛いんだから!!」
と、千鶴が首元に抱きつきながらそういう。
あかねは抱きつかれながら、クロワッサンを二個トングで取り、トレーの上に置く。
「あれ?無視?これを利用して胸を揉ーーー」
あかねは瞬時に頭を後ろに降り千鶴を頭突いた。
顔に思いっきり頭突きをくらい、鼻を押さえながらその場にうずくまる。
「二個で120えんやで~」
ちょうど120円払い千鶴の首根っこを掴んで引きずりながら店から出て行く。後ろからかすみと杏子の二人が、ありがとうございました。といっている声が聞こえる。
あかねは先程買ったクロワッサンをひとつ口に運びそして頬張る。
相変わらずとても美味しい。
すぐに全部食べ終わり、春樹達と帰り道を歩いていった。
よぉ、俺は天使くんだ。
前回あかねは守るために魔法少女に変身し、美冬を助けに行った
助けに行ったところにいたのは翔と美冬。そして『収集欲』だった
戦いの最中翔を失ったあかね。もう誰も失わないと決めるが…
◇◇◇◇◇
「は!?それは本当か?」
散々泣いた後、美冬に励まされるという、女子高生には恥ずかしいことをされたあかね。美冬は彼女の兄、春樹が迎えに来て、今はいない。
「あぁ、美冬は記憶を持っている。普通は忘れるのにな」
そう、美冬は記憶を持っていた。だから励まし方が「ヒーローです」なのだ。
「恐らくは、だが・・・可能性は二つある」
天使くんが、そういい羽を前に突き出す。勢いをつけすぎたせいか、その羽からはらりと、羽毛がおちる
「一つ。これは一番多いが、『本人が忘れたくない』と思ったとき。まぁ、最愛の人を亡くしたとか、そういうのがあるな。そしてもう一つ。それは、『美冬の魔力が強すぎる』・・・多分これだ」
と言われてもいまいち納得がいかないあかね。それを見た天使くんが哀れなものを見る目であかねを見た後ため息をつく。
「収集欲を倒したときに光の粒子が舞っただろう?ディザイアを倒したら天界に連れて行かれる。そして、天界が今までのことを『なかったことにするんだ』・・・だから、記憶から消えて、建物とか怪我とかも治る。・・・死んだ奴は、元からいないことになるが」
死んだ奴。それを聞いてあかねの脳裏に翔の顔が思い浮かぶ。あかねは守ることができなかった。だが、代わりに覚悟を決めることはできた。
『もう誰も失わないという覚悟』を
と、ここであかねがある疑問を口にする
「なぁ、天界ってなんだ?」
『天界』先程天使くんの口から出た言葉。普通に考えれば天国とかいうものなのか。
「・・・まぁ、天国とかそういうのと同じだな。空にある俺みたいなやつが住んでるところだ」
つまり天界には天使くんがいっぱい。
「あはははははは!!!」
あかねは思わず笑ってしまった。天使くんみたいなのしかいない世界を想像したからだ。
「わ、わらうな!!俺から見たらお前たち人間も魔力以外ほぼ変わらん!!」
天使くんがそう反論するがあかねはあまり聞いてない。
ひとしきり笑った後、笑い声が収まり・・・
・・・いや、肩で息をしている。どうやらツボに入ったらしいく、小刻みに震えながら笑っていた。
それから笑い声が止まるまでに多少の時間がかかった。その間天使くんの顔は不機嫌だった。
そして、あかねは大きく伸びをする。時間はまだ昼の2時ぐらい。確か明日から学校だったような。
笑ったことで少し気分が晴れたあかね。いそいそと布団に入り目を閉じた
近くで天使くんが騒いでるが、あかねは気にしない。おやすみ。とつぶやきそのまま夢の世界へ入っていった。
しばらくした後、天使くんは騒ぐのをやめ、自分も休息を取ろうと床に降りて、そのまま彼も寝てしまった。
◇◇◇◇◇
「おはようございます」
「うん。こんばんわ。あかね」
少し冷や汗を流しながらあかねは目の前の女性に挨拶をする。
時間はもう夜の1時ぐらい。あかねはこの時間までぐっすり眠ってしまった。
改めて目の前の女性を見ると目は口は笑ってるが、オーラは怒っているように見える。
「怒ってないわ。私はただ・・・」
とここまでいって、今度はにこりと笑う
「やるって言ったことはやってほしかったわ~」
あかねは冷や汗を先ほどより多く流す。
目の前の女性は、あかねの母。名前は「西園寺増穂」
彼女は帰ってくるのが遅いので、家事は基本あかねが担当している。
だが、今の今まで寝ていたので、洗濯はおろか、炊事は一切やってない。
「ごめん!母さん!!」
あかねは両手を合わせ、頭を下げて謝る。
そんなあかねを見て増穂は優しくあかねを撫でた。
「まぁ、わかってたからいいわ。ご飯はお弁当だけどね」
と言って、弁当が入った袋を持ち上げる
「あら?お人形?」
増穂はそういって、床に眠っている天使くんを掴み持ち上げる。
いろんな角度から見つめる増穂。バレるのではとあかねと天使くんは内心焦っていた。
しばらくして、天使くんを床においた。そして増穂が
「あかね・・・」
とつぶやいた。はい!!と叫びあかねは背筋をのばした 。増穂から怒られると思い身構えたのだ。
だが、次に聞こえたのはあかねにとっては意外な一言だった
「お人形が欲しかったら言えばいいのに・・・」
という増穂。それを聞いて思わず、え。と、口から出てしまう。
そう言えば、と、あかねは考える。人形なんて一個も持ってなかった。だけど、それは人形じゃない。天使くん。少し違うが生き物だ。
「か、母さん!!早くご飯食べようよ!」
といいあかねは増穂の背中を押して部屋から出て行く。床の上では天使くんがほっと一息ついていた
◇◇◇◇◇
お弁当を食べた次の日。あかねは時間きっちりに起きて、朝ごはんを作り、そして高校に行く準備をしていた。
天使くんは付いて行くと言って聞かない。仕方ないから連れて行くことにした。
あかねが通う高校は「三木高校」と言う。最近できた高校だ。
何もかもが平均的な高校。それがここの高校だ。
いつもの道をトコトコと歩く。あかねは友人たちの集合場所に行こうとしていた。
すると目の前から1人の子供が歩いてきた。
遠くからはよく見えないが、手品師のような服に帽子をかぶっていた。
それに、内側が赤いマントを羽織っていた。
その子供が近づくにつれて顔が見えてきた
その顔はとても整っていて、中性的な顔立ちであり何故か右の目に片眼鏡をつけていて、本格的に手品師に見えた
「おはよう、おねぇさん」
いきなり目の前の子供が声をかけてきた。一見女の子に見えた子供だが、声を聞いたら男の子の声だった。
「あぁ、おはよう」
あかねは挨拶を返す
すると目の前の少年が笑った。
それは太陽なような笑顔だった。
だが、あかねは少し違和感を覚えた。
(笑顔が出来すぎてる・・・)
そう、完璧すぎたのだ。まるで何回もやったかのような。
そんなあかねの疑問を知ってか知らずか目の前の少年はあかねの横を通り過ぎていった。
あかねは少し疑問を抱いただけだったが、天使くんはそれよりも何かを感じていた。
(あいつ・・・へんな気を感じた・・・)
杞憂になればいいか。と考えながらあかねのバックに揺られる天使くん。少し酔い始めたのは秘密である
◇◇◇◇◇
集合場所についた。まだ誰も来ていなかった。
いや、1人いた。
「ん?おお、西園寺じゃんか。おはよう」
片手を上げながらあかねに挨拶をする少年。制服を着てるが、前のボタンは何個か開けており、そこから下のシャツが見えた
「おはよう。小峠・・・」
その下に見えるシャツは一言で言えばださい。それもものすごく。
(なんでこいつ、男気とか書かれたシャツ着てんだろ)
改めて彼をよく見る。髪は男性にしては少し伸ばしているが、校則に引っかかるほどじゃない。
顔も悪くはない。普通か。
だが、シャツで全てを台無しにしている。
彼の名前は「小峠春樹」美冬の兄だ。
二人でしばらく談笑しつつ待ってると、後ろから1人の男性がやってきた。
髪は春樹より長く、そして、少し銀色の髪。
ベルトのあたりにはチェーンをつけている。あかねはいつもつける意味がわからないという顔でそれを見る。
「おはよう、悟」
春樹がそういい、あかねもおはようという
「・・・おはよう」
と、二人に言う悟と呼ばれた彼。
近づくにつれて顔がよく見える。キリッとした目に、整った顔。世間一般的にはイケメンに分類される顔だった。
彼の名前は「小野悟」
その顔で学校での女子人気はナンバーワン。でも本人はあまり恋愛に興味はないらしい
悟が来て、あと1人来ればいいのだが、なかなか来ない。
するとあかねは後ろから来る気配に寒気を感じた
「あかねちゃん!!会いたかった!!!」
後ろから来た女性があかねに抱きつく。
あかねは離そうと抵抗するが相手は離れない
「あかねちゃん!!私は離れないよ!!ほら!ここにつかまる所があるから!!」
といい、後ろの女性はあかねの胸をつかむ
ひゃん!!と、変な声を出したが、あかねは女性の頭を怒りに任せて思いっきり殴る
「ち、千鶴!なにすんじゃー!!」
「いやーん!怒ってるあかねちゃんもかわいい!」
といいながら体をくねくね動かす女性。
前髪はすべて切りそろえ、明るい茶色のロングヘアーが、体が動くたびに揺れる。ついでにふくよかな胸も。
首元にはいつもつけているネックレスがあり、それは太陽の光を受けるたびに輝いた。
彼女の名前は「池内千鶴」なぜかあかねに好意を寄せている
四人は楽しく喋りながら学校に行く。
あかねは友人と会話することは好きであった。
だから、この日常を壊したくない。失いたくない。
あかねは改めて心に決めた。
◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン
終了のチャイムが鳴り響く。退屈な授業も終わり、今から帰る。
さてと。といい、カバンをからい春樹達に一緒に帰ろうと声をかける。
春樹は笑顔でOKと言い、悟にも声をかけた。悟も無言で頷いた。
あかね達は2-2。誰も部活に入ってないので、帰りも一緒だ。
「あかねちゃん!!お疲れ様のキスを私は求める!!」
後ろから千鶴がそう言いながらあかねに抱きつこうとする。
あかねはそれを軽く避けて、千鶴にチョップをする。
チョップされたところを千鶴がわざとらしく頭をさする。軽く涙目になってる気もするがあかねは気にしない
それを見て春樹が爆笑し、悟が軽く笑う。それにつられてあかねも笑った。
千鶴はふてくしたように頬を膨らませる。それもまたおかしくてあかねたちはまた笑ってしまった。
「そうだ。今日もパン屋いこうぜ」
するといきなり春樹が思い出したかのようにそういう。
学校からの帰り道にある、小さなパン屋。店名は「三月パン」
そこでオススメされるクロワッサンを食べて帰るのが彼女達のブームであった。
さっくりとしたパンの生地を口に入れればバターの香りが広がる。
それはあかねの好きな食べ物である。が、少し乗り気ではなかった。
(・・・翔・・・)
心の中で一人の少年の名前を呟く。
三月パンでは、翔もその母親もよく行っていた。
だから乗り気ではなかったが、あかねは久しぶりに三月パンのクロワッサンを食べたいとも思い、その提案を頷いて肯定した
翔の母親に合わないように願いながら
◇◇◇◇◇
「・・・あ」
「・・・あら、あかねちゃん?」
いた。翔の母親だ。三月パンに置いてあるパンを1~2個買っている。
(そうか・・・)
あかねは昨日天使くんに言われたことを思い出す。『死んだ人間は存在を消される』
だから翔の母親は自分が食べる分だけのパンを買っていた。
それをみると、少し悲しくなり、同時に少しだけ、安堵した。
最低だな。と自嘲気味に考える。
「あかね。お前は何も買わないのか?」
悟があかねにそう聞く。言われてみればあかねは何も買ってなかった。
そういえばいくら持ってたっけと、ポケットから財布を取り出す。すると、するりと何か落ちた
それは緑のスカーフ。翔が大切にしていたスカーフだった。
翔の母親はそれを拾う。そしてそれをしばらく見つめていた。
あかねは少し心配して声をかける。
「あ、いや。なんかこれ見たことがある気がするの・・・ふふ、ごめんね。こんなこと言って」
といい、スカーフをあかねに渡しそのまま出て行った。
その後ろ姿をあかねはただ見ることしかできなかった。
「あら~あかねちゃんやないの。何買うの?」
すると、後ろから間延びした声が聞こえる。
「あ、店長・・・」
そこにいたのは、この三月パンを切り盛りしている店長。髪は明るい赤。そして少し短めでウェーブがかかってる。
割烹着を着ていて真ん中にクロワッサンのイラストと三月パンという文字がプリントされている。
名前は「小森杏子」あんずと読む。
「そうや、ウチのパンやに来たらかわなあかんで!」
今度はあんずの後ろから舌足らずな声が聞こえる。すると、杏子の隣に小さな女の子がいた。髪は黄色で三つ編みにしていて、可愛らしいリボンが付いている。
杏子とは違い、子供用のエプロンをきて、そこにもクロワッサンの絵と三月パンという文字がプリントされている。
この少女の名前は「小森かすみ」まだ、5歳ぐらいだが、杏子と二人で三月パンを経営している。
「あかねちゃん、えがおがかわいいんやから、わらってわらって」
といい、かすみは無邪気に、にー。と、笑う。それにつられてあかねも笑顔になる。
エセ関西弁だが、それのおかげで一段と親しみがわく。
「そーだよ!!あかねちゃんは笑ったほうが可愛いんだから!!」
と、千鶴が首元に抱きつきながらそういう。
あかねは抱きつかれながら、クロワッサンを二個トングで取り、トレーの上に置く。
「あれ?無視?これを利用して胸を揉ーーー」
あかねは瞬時に頭を後ろに降り千鶴を頭突いた。
顔に思いっきり頭突きをくらい、鼻を押さえながらその場にうずくまる。
「二個で120えんやで~」
ちょうど120円払い千鶴の首根っこを掴んで引きずりながら店から出て行く。後ろからかすみと杏子の二人が、ありがとうございました。といっている声が聞こえる。
あかねは先程買ったクロワッサンをひとつ口に運びそして頬張る。
相変わらずとても美味しい。
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それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
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