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第五話 その少女は彼に夢を見せるのか? その一
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前回までのあらすじ
こんにちわぁ。杏子やで。
ウチとあかねちゃんが山の中で修行しよったら、なんと、ウチが昔戦った相手。マタルが現れたんや。
あかねちゃんが倒されたけど、ウチがなんとか追い詰めたらマタルに加勢したのが蒼い魔法少女やったんや。そしてうちらは負けてしまったんや。
彼・・・佐々木達也の1日は昼から始まる。そして、生の食パンにマヨネーズなどをぬりむしゃむしゃ食べる。
これは昼食かそれとも朝食か考えながらパソコンを開いて、ネットサーフィン。これで半日を潰す。
ここまで書けばわかるが、彼には仕事もない。俗に言うニート。親の臑齧り。だが、彼は仕事につくのはもちろん、外に出歩くのも億劫であった。お金は親が『ミュージシャン』になるための資金として送ってくれたものを『ニート』になるために使っている。なんと滑稽な話か。親は夢のためにお金を渡してるのに、それをもらってる本人は、毎日元気に夢を見るために使っている。
そんな彼にも夢はある。
女が欲しい。
という夢である。可能なら自分の言うことをなんでも聞いてくれて、スタイルも良く、そして・・・
ここまで考えて自分の顔が気持ち悪くにやけていることに気づく。慌てて顔を激しくふり、そしてまたパソコンに目を落とす。
そこに映るは画面の向こう側にいる女。つまり二次元の女性である。
それを見てまたニヤニヤ笑う。今度はそれに気づかず、笑い続ける。
「やっぱり、この子たちは・・・」
独り言をつぶやき、くつくつ笑い声を立てる。彼を知らない人から見たら気持ち悪い言動かもしれない。
「かわいいぁ・・・」
「ええ、確かにかわいいですねぇ」
「そうか?一番かわいいのはお前だろ。エレンホス」
「・・・ホモ・・・」
すると、言いなり後ろから3つ人の声が聞こえてきた。
それを聞いて驚いたように後ろを振り向き、その三人の顔を見る。
そこにいたのは中性的な顔立ちの少年。強面の男性。やる気がない表情で目の下に縦線と横に三本青い線が入った女性。
彼ら三人は見た目は人間だが、人間とは違うオーラを持ってるように見えた。
達也は逃げようと慌てて立ち上がるが、強面の男性が押さえつけ、動けなくなる。そしてジタバタしている達也を、中性的な少年が少し身をかがめ、達也の顔を覗き込んだ。
「貴方の欲。なかなか素晴らしいものですね。解放してみましょう」
それを聞いた女は少し嫌そうな顔をした。そして、中性的な少年に向かって。
「この欲を解放するの・・・気持ち悪いよ・・・?」
と、言うが、中性的な少年は女に向かって微笑んだ。それを見た達也はゾッとした。無邪気な笑顔だが、優しいものではない。まるで新しい生きているおもちゃを見つけた子供のような。そんな残酷性を秘めていた。
すると無邪気な少年・・・そういえば、彼は先ほどエレンホスと呼ばれていた。エレンホスが、達也の額に手をかざす。すると、達也の体が光り始める。
「契約というのは、お互い同意ではなくても交わせるのですよ。それと、光も演出みたいなものです」
という、誰かに説明しているエレンホスの声を聞きながら、達也の意識は闇の底に落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次に達也が目を覚ましたのは、両手両足に違和感を感じたからだ。よく見ると鎖のようなもので縛られており、身動きが取れない。そして、あの三人組がまだ家にいた。それについて達也は文句を言う前に、やる気のない女性をまるで野生の獣ように睨みつけて
「女ぁぁあああぁぁ!!」
と叫び飛び掛ろうとした。まさに、野生の獣であった。だが、鎖で行動ができない。
達也は体を動かし、なんとか鎖から抜け出そうとする。そんな彼を三人は動物園にいる、動物を見るような目を達也に向けていた。
「落ち着いてください。達也さん。あなたには実験台になってもらいます」
と、楽しそうに達也に言うエレンホスは、マントを翻して部屋から出て行った。
「そういうこった。頑張れよーモルモットくーん。帰るぞ、テベリス」
「・・・わかったマタル・・・ふぁ・・・眠い」
テベリスと、マタルというらしい二人もエレンホスを追って部屋から出て行った。
だが、達也はその声は一切頭に入ってなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小さな公園のベンチに一人の少女が座ってすこし虚ろな目で空を見上げている。そして、彼女は手に緑のスカーフを握りしめていた。彼女の名前は西園寺あかね。この物語の主人公である。だが、今の彼女から感じられるオーラは主人公ではなく、ただのモブキャラであった。
それほどまでに、彼女は落ち込んでいた。手に持つ緑のスカーフをくしゃくしゃにしながら、あの日の戦いを思い出す。あの日。マタルという恐ろしい相手と戦い、自分と師匠のブラックローズはボロボロになりながら戦った。そして、負けた。
悔しい。という気持ちより自分の弱さに笑いがでる。なんのために修行していたのか。自問自答を繰り返す。答えは決まって自分が弱いから。だから何も守れない。もっと自分を犠牲にしないと守れないのか。この体がボロボロになるまで、削り続けないと。
(あたしが生きるより、他人が生きるほうが・・・)
そんなことを素で考えているあたり、あかねはすこしおかしいのかもしれない。なぜこんなに自分よりも他人を守る。助けるために命を投げ捨てるのか。彼女は女子高生。こんなことを考えれる人ではない。
そして拳を開いたり閉じたりを繰り返す。何かを確かめようとしているように見えた。それは自分の力か。すると、目の前にいつの間にか一人の女性が立っていた。
「あれ。あかねちゃん?何してるの?」
「あ、あなたは・・・」
そこにいたのは翔の母親だった人。翔はあかねが守れなかった一人の少年。あかねはあまり彼女と顔を合わせたくなかった。翔が死んで、翔がいない世界になったとしても、だ。
そもそも彼女の家族構成はどうなってるのだろう。おそらく母親だろうが、父は?そして子供は?そもそもなぜあかねのことを覚えてるのか。何故か?
そんなことを考えてたら、翔の母親が、あかねが持ってる緑のスカーフを手に取る。あかねは驚いて、彼女を見つめる。彼女は緑のスカーフをじっと見ていた。
「なんかね。これを見てたら懐かしい気持ちになるの。ふふ。意味わからないでしょ?」
あかねはその言葉を聞いてさらに驚く。天使くんの話では、覚えてるのはおかしいぐらい。春樹や悟たちはあかねに礼を言いたいがためにあの恐怖を覚えていた。・・・ここまで考えたら、あかねは彼らも大概におかしいのかもしれないと思った。
「もし、男の子を産んでいたら、これ買ってたかも。ね」
この一言であかねは二つのことについて確信する。一つは翔の母親は今娘がいる。つまり立派に母親をしているということだ。
もう一つは、記憶から消されたと言っても完全に消えてはないということ。歴史の修正はされても、何人かは覚えている。美冬や春樹たちのことでもある。そのまましばらく時間が経った。不思議な時間。あかねと翔の母親はしばらくベンチに一緒に座っていた。
その後、翔の母親がゆっくりと立ち上がる。くるりと後ろを向いてあかねを見る。
「私はそろそろ帰るけど、あかねちゃんも気をつけてね」
とにこりと笑い、公園から出て行った。あかねはただその後ろ姿をぼーっと見つめていた。
そして大きく息を吐く。空を見上げて手を上に伸ばす。その手で太陽を隠しながら両目を閉じる。まるで何かを考えてるように。
「・・・よし」
と、一言つぶやき自分の頬を両手で一発パンと叩く。
「頑張るか」
そしてあかねもベンチから立ち上がり、公園から出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で?こっちなのか悟」
河川敷を二人の男性が歩いていた。先ほどしゃべったのはジーンズに『サンシャイン』と書かれた青いシャツを着ている。彼の名前は小峠春樹。
「あぁ・・・別にお前はついてこなくていいのだがな」
と、クールに応えた男は銀の髪に黒いジャケットを羽織っている。名前は小野悟。彼らは手にビニール袋を持っている。その中には缶詰。それもただの缶詰ではない。少し高級な猫の餌が入っていた。
何日か前。塾からの帰り道に悟が河川敷で子猫を見つけ、こっそり餌をあげていた。家ではいろんな意味で飼えないので、仕方ないかもしれない。悟は動物が大好きだ。触れ合っていると、自然と笑顔になる。
そして餌を買っていざまた猫にあげに行こうとした時に偶然春樹に会い、流れで一緒に子猫に餌をやりにいってる。正直悟は春樹に引かれると思った。が、彼は少し驚きはしたが、その後にこりと笑い俺も一緒に行きたいと言い出した。
意外な趣味で人を馬鹿にした態度を取らない辺り、彼の人の良さがうかがえる。
二人で会話を・・・と言っても、春樹が一方的にしゃべっているだけだが。それでも楽しく二人は猫がいるところまできた。きたが。
「・・・や、やけに大きな猫を買ってるだね。悟くん」
「い、いや。俺は知らんぞ。春樹くん」
二人は動揺していた。確かに子猫はいた。悟を見つけてニーニー可愛く鳴いている。その隣で大きな猫がうつ伏せで寝ていた。猫。といっても猫らしいのはその猫耳がついたフードをかぶっているところだけで、他はただの女の子であった。
つまり、猫耳フードをかぶった女の子が寝ていたのだ。
あまりの光景に春樹は少し困惑していて悟はあたふたしている。そんな彼らの足に子猫がすりすりと、頭をこする。
(お、落ち着け!!俺は他人がどんな趣味でもひかないけど・・・恋人?に猫の格好させて、猫の餌とかを上げるプレイ?が好きなのはさすがにくるものがある!!てか誰得だよ!!・・・く、こういう時あかねなから・・・)
この間約2秒。そして春樹は焦った顔をしている悟の肩をポンと叩き爽やかな笑顔でこう言った。
「俺はお前の友人だからな」
「一言言わせろ。お前は確実に勘違いしている!!」
男二人のギャーギャーわめく声が流石に大きかったのか、猫耳フードの女性がゆっくりと起き上がり、眠たそうな目で春樹たちを見つめた。その女性の目の下には、一本の縦線に三本の横線が入っている。その女性は大きなあくびをひとつした後、目をこすりながら、二人を見ていた
「あー・・・おはよう?」
春樹がその女性に挨拶をしてみる。その女性は応えるように右手を少し上に上げてすぐに下に下ろした。
「えと・・・なんでここにいるんだ?」
今度は悟が問いかける。その質問に対して女性はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開き。
「ここ・・・眠りやすかった・・・から」
と呟いた。つまりただの昼寝スポットだったようだ。よく見たら首に枕型のネックレスをつけてる。それほど寝るのが好きなのだろうか。
「あ、そうだ。自己紹介しとこう。俺は春樹で、こっちが悟」
「春樹に・・・悟・・・」
女性は口の中で彼らの名前を一度つぶやき、二人の顔を交互に見た。その目はやる気なんかどこ吹く風。そんな目が二人を見つめていた。
すると、その女性は頭を軽くかいた後、しばらく悩んだ素振りの後、ゆっくり口を開けてこう二人に言った。
「一応・・・私の名前は・・・テベリス・・・」
くちゃくちゃと音を立てて子猫が缶詰を食べている。それを春樹が優しく撫でながら見ていた。そして、悟とテベリスは隣同士で座っている。テベリスは空をずっと見上げていて何かしゃべる様子もなかった。
「なぁ。ここにいていいのか?親が心配してるんじゃ・・・?」
まだ昼過ぎだが、少し慌ててる悟はテベリスにそう言ってしまう。この慌て方は、まさかこんなところに人がいるとは思わなかったからか。それとも。
「大丈夫・・・家族はいない・・・」
と、いう言葉が返ってきて、悟はしまったと内心思う。まさか家族がいないとは。かなり不謹慎なことを言ってしまった。慌てて悟は話題を修正しようと、何かを喋ろうとする。だが、その口を白くて細いテベリスの人差し指が優しくおさえる。その行為に悟は少しどきっとした。
「いい。喋らないで・・・これ以上喋ったら・・・お互いに不幸になるから」
言ってる意味がわからなかったが、二人の間に強い風が吹き、悟は目を瞑った。
「・・・あれ?」
再び悟が目を開けた時、テベリスの姿は消えていた。まるで、さっきまでいなかったかのような。
「ん?テベリスさん帰っちゃったの?」
春樹が悟にそう声をかける。だが、悟はあまり聞いてなかった。悟は胸を押さえる。テベリスを見た時から感じたこの辺な感じ。胸の奥がキュッと締め付けられてる。苦しいけど、その苦しさは心地いい。
(・・・まさか、な)
悟はテベリスをどう思ってるか理解するのにそう時間ががからなかった。そして、自分の唇に軽くふれる。春樹が何かに気づいたようにニヤニヤしているのに気づき、悟は照れたように顔をおさえて、春樹の頭を叩く。
幸か不幸か、一人の少年は一人の少女に恋をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ついた・・・電車で長旅だったよ」
「そうですね。さすがに疲れました」
悟達とテベリスがご対面していた時、あかねは美冬と共に隣町に来ていた。
力が足りないならそれを補えばいい。というわけで、武器を買いに来たのである。最初は一人で行く気だったが、途中で美冬にあい、彼女も付いてきたのであった。
薄くてペラペラな財布を握りしめて、あかね達は大型ショッピングモールに向かう。買えるなら模擬刀かなんかでも買いたいが、結構高くつきそう。そもそも、何円ぐらいか正直わからない。接近戦は一応バットがある。最悪エアーガンと釘でも買って帰ろうかと考える。
だが、彼女達はまだ知らない。美冬の魔力は、ディザイアを引き寄せてしまうことの力の強さを。
そして、美冬とディザイアは互いに引きせ合うという性質があるということに。そう、例えるなら磁石のように。
そんな美冬達に気づいたかわからないが、ショッピングモールから遠くにあるアパートから何か出てきたことを、二人はまだ知らない。
「うーん・・・やっぱり模擬刀は高いな・・・というか、買うの少し恥ずかしい・・・」
4000円ぐらいする模擬刀を見つめながら、あかねはつぶやく。あまりお金を持ってないあかねにとって4000円は大金である。やっぱり近接武器はバットでいいか。と呟き、エアーガンを探しに出る。確か2000円ぐらいでいい感じのやつが買えるはずである。そんなことを考えながら、ちらりと横を見ると、紳士服の店があった。そこにはあの少女の姿が見えた。
「あれ?美冬ちゃん。何やってんの?」
そう言いながら、あかねは美冬に近づく。美冬は手に服を持ちながら、あかねの方を振り向く。その手に持ってる服には黄色い服に赤い文字で『ジャスティス』と書いてある。控えめに言ってダサい。その服を嬉しそうに持っている美冬は、とても可愛らしかった。
「春にぃはこういう服が大好きなのです。安いですし、きっと嬉しさと驚きでギャフンと言います」
ふふん、と鼻高々にそう美冬はいう。まぁ、春樹が好きそうではあるが。
あかねは苦笑しつつ、1着の服を取る。茶色のポロシャツだったが、シンプルながらなかなかにおしゃれなやつであった。こっちの方が似合うと思うな、とか考えつつも、春樹がダサいシャツ以外を着てるイメージがわかないので、そっと直した。
そして、二人は買い物を済ませてショッピングモールの噴水前のベンチに座って休憩していた。
あかねは2000円ぐらいのエアーガンを。美冬は先ほどのシャツを買っていた。思ったより安く済んであかねは胸をなでおろす。
「・・・あ、喉乾きません?あかねさん」
「ん、んー・・・そうだな。少し、喉乾いたな。天使くんも疲れたみたいだし・・・なんか買ってくるか」
「いいや、ここはボクが買いに行きます。あかねさんは休憩してください。確か、リンゴジュースが好きですよね」
と、美冬はそう言い、トテトテと可愛らしく走りながら、近くの自販機まで走って行った。
あかねの膝の上にいる天使くんは、眠気眼をこすりつつ、美冬の後ろ姿を見つめていた。そしてまた眠りについた。
「美冬ちゃん・・・少し、気を使わせ過ぎてるかな。気をつけないと」
あかねはそう呟き、拳を力強く握り締め、大きく伸びをして美冬が返ってくるのを待つ姿勢に入った。
「なんか少し遠いですね。近くに置いてほしいです・・・」
美冬が自動販売を求めて歩いていた。思ったより遠く実は少し後悔をしている。しばらく歩いたらやっと自動販売機を見つけた。まず、リンゴジュースを買い、自分は何にしようかと考えながら、ボタンの上を指でなぞる。
「やっぱりサイダーかな」
特に面白みもないジュースを買おうとボタンを押そうとした。
だが、その手がピタリと止まる。そして、近くの裏路地に目が向く。なぜか、その奥に何かがあるかと思ったのだ。サイダーをとりあえず買い、裏路地に自然と足が向き、そこに歩いていく。進まない方がいい気がする。が、それでも歩いていく。
一歩歩くごとに香るのは異臭。とても臭い。少しでも気を抜いたら吐きそうである。
(腐った・・・イカの香り?わけわかめです)
また歩き始めると、今度は足で水たまりを踏んでしまう。だが、それはネチョネチョしており、靴で糸を引く。ごくりと生唾を飲み込み、裏路地の奥まで行く。すると、あるものが目につく。それは、ローファーだった。それがコロンと地面の上に転がっていた。
美冬はおもわず手に取る。なんでここに落ちてるか、考える。
すると、肩をポンと叩かれる。
あかねさん?と考えるが、何かおかしい。触ってみたらネチョネチョしていて、粘着性があった。指についたそれは、異臭を放っており、美冬はおもわず顔をしかめた。
そして、ゆっくり後ろを振り向く。すると
「ひっ・・・!!」
そこには壁から生えてきた白い触手があった。その触手は美冬の体に巻き付く。抵抗しようにも以外にきつく縛られて、美冬は身動きを取れなくなる。
「い、いやぁ・・・!」
ずるずると体がひきづられる。足で踏ん張ろうにも、地面がネチョネチョしていて力が入らない。もし、力が入ってもひきづられるだろう。
「や、やだぁ・・・」
なぜか、このままひきづられたら大切なものがなくなりそうだった。だから必死に抵抗をする。
「助けて・・・誰か・・・あかねさん・・・」
その場にいない人間の名前を呼ぶのは、それほど焦ってたか。それとも。
「・・・おい。何美冬ちゃんに手を出してんだ?」
「あ、あかねさん!!」
必ず来てくれると信じているからか。
とにかくその白い触手を掴んだ手は美冬より頼りない小さな手だが、その少女の姿は頼り甲斐しかなかった。その少女は手に持ったバットで白い触手を無理やり切断する。その衝撃からか、その触手はスルスルとかべのなかにはいっていった。
「大丈夫か!?美冬ちゃん!!」
少女。いや、アナザーは心配していると言わんばかりの顔と声で美冬に声をかけた。美冬はそれがなぜかとても嬉しかった。
スルリと、絡みついてた触手が離れる。べちゃ、と音をたてて地面に落ちる。美冬はホッとする気持ちで、胸をそっと撫でる。
「・・・?」
と、ここでおかしいこと気づく。さわりやすい。今日は薄いシャツ一枚なので、さわりやすいこともわかる。だが、目の前のアナザーが慌てているのが少し面白くてでも少し恐ろしくて。
恐る恐る顔を下げてみると。
「ななな、ななな・・・」
美冬は顔を赤らめて両手で顔を抑える。心なしか目には涙を受けべているようだ。
「なんで服が溶けてるのですかー!!」
そう、美冬の服は綺麗に溶けていて、今彼女は上半身裸なのであった。アナザーが袋から取り出したジャスティスTシャツをとりあえず着る。肌が隠れるほど大きくてダボダボなのが、少し幸いしたようだ。
「美冬ちゃん。まってろ」
といいながらアナザーは壁に向かって歩き、そこに手をつく。不思議なことに手はすり抜けて行き、アナザーの体もだんだんと消えていく。
「あんな女の敵はあたしがぶっ飛ばす」
そう力強く宣言したその背中は壁の中に消えていった。
「はやく、帰ってきてほしいです・・・んっ・・・」
そう蚊の鳴くような声でつぶやいた美冬はへなへなと地面に座り込んだ。なぜか顔が少し赤く、呼吸が荒くなり体をモジモジ動かしていた。
「いろんな意味で、やばいです・・・」
こんにちわぁ。杏子やで。
ウチとあかねちゃんが山の中で修行しよったら、なんと、ウチが昔戦った相手。マタルが現れたんや。
あかねちゃんが倒されたけど、ウチがなんとか追い詰めたらマタルに加勢したのが蒼い魔法少女やったんや。そしてうちらは負けてしまったんや。
彼・・・佐々木達也の1日は昼から始まる。そして、生の食パンにマヨネーズなどをぬりむしゃむしゃ食べる。
これは昼食かそれとも朝食か考えながらパソコンを開いて、ネットサーフィン。これで半日を潰す。
ここまで書けばわかるが、彼には仕事もない。俗に言うニート。親の臑齧り。だが、彼は仕事につくのはもちろん、外に出歩くのも億劫であった。お金は親が『ミュージシャン』になるための資金として送ってくれたものを『ニート』になるために使っている。なんと滑稽な話か。親は夢のためにお金を渡してるのに、それをもらってる本人は、毎日元気に夢を見るために使っている。
そんな彼にも夢はある。
女が欲しい。
という夢である。可能なら自分の言うことをなんでも聞いてくれて、スタイルも良く、そして・・・
ここまで考えて自分の顔が気持ち悪くにやけていることに気づく。慌てて顔を激しくふり、そしてまたパソコンに目を落とす。
そこに映るは画面の向こう側にいる女。つまり二次元の女性である。
それを見てまたニヤニヤ笑う。今度はそれに気づかず、笑い続ける。
「やっぱり、この子たちは・・・」
独り言をつぶやき、くつくつ笑い声を立てる。彼を知らない人から見たら気持ち悪い言動かもしれない。
「かわいいぁ・・・」
「ええ、確かにかわいいですねぇ」
「そうか?一番かわいいのはお前だろ。エレンホス」
「・・・ホモ・・・」
すると、言いなり後ろから3つ人の声が聞こえてきた。
それを聞いて驚いたように後ろを振り向き、その三人の顔を見る。
そこにいたのは中性的な顔立ちの少年。強面の男性。やる気がない表情で目の下に縦線と横に三本青い線が入った女性。
彼ら三人は見た目は人間だが、人間とは違うオーラを持ってるように見えた。
達也は逃げようと慌てて立ち上がるが、強面の男性が押さえつけ、動けなくなる。そしてジタバタしている達也を、中性的な少年が少し身をかがめ、達也の顔を覗き込んだ。
「貴方の欲。なかなか素晴らしいものですね。解放してみましょう」
それを聞いた女は少し嫌そうな顔をした。そして、中性的な少年に向かって。
「この欲を解放するの・・・気持ち悪いよ・・・?」
と、言うが、中性的な少年は女に向かって微笑んだ。それを見た達也はゾッとした。無邪気な笑顔だが、優しいものではない。まるで新しい生きているおもちゃを見つけた子供のような。そんな残酷性を秘めていた。
すると無邪気な少年・・・そういえば、彼は先ほどエレンホスと呼ばれていた。エレンホスが、達也の額に手をかざす。すると、達也の体が光り始める。
「契約というのは、お互い同意ではなくても交わせるのですよ。それと、光も演出みたいなものです」
という、誰かに説明しているエレンホスの声を聞きながら、達也の意識は闇の底に落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次に達也が目を覚ましたのは、両手両足に違和感を感じたからだ。よく見ると鎖のようなもので縛られており、身動きが取れない。そして、あの三人組がまだ家にいた。それについて達也は文句を言う前に、やる気のない女性をまるで野生の獣ように睨みつけて
「女ぁぁあああぁぁ!!」
と叫び飛び掛ろうとした。まさに、野生の獣であった。だが、鎖で行動ができない。
達也は体を動かし、なんとか鎖から抜け出そうとする。そんな彼を三人は動物園にいる、動物を見るような目を達也に向けていた。
「落ち着いてください。達也さん。あなたには実験台になってもらいます」
と、楽しそうに達也に言うエレンホスは、マントを翻して部屋から出て行った。
「そういうこった。頑張れよーモルモットくーん。帰るぞ、テベリス」
「・・・わかったマタル・・・ふぁ・・・眠い」
テベリスと、マタルというらしい二人もエレンホスを追って部屋から出て行った。
だが、達也はその声は一切頭に入ってなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小さな公園のベンチに一人の少女が座ってすこし虚ろな目で空を見上げている。そして、彼女は手に緑のスカーフを握りしめていた。彼女の名前は西園寺あかね。この物語の主人公である。だが、今の彼女から感じられるオーラは主人公ではなく、ただのモブキャラであった。
それほどまでに、彼女は落ち込んでいた。手に持つ緑のスカーフをくしゃくしゃにしながら、あの日の戦いを思い出す。あの日。マタルという恐ろしい相手と戦い、自分と師匠のブラックローズはボロボロになりながら戦った。そして、負けた。
悔しい。という気持ちより自分の弱さに笑いがでる。なんのために修行していたのか。自問自答を繰り返す。答えは決まって自分が弱いから。だから何も守れない。もっと自分を犠牲にしないと守れないのか。この体がボロボロになるまで、削り続けないと。
(あたしが生きるより、他人が生きるほうが・・・)
そんなことを素で考えているあたり、あかねはすこしおかしいのかもしれない。なぜこんなに自分よりも他人を守る。助けるために命を投げ捨てるのか。彼女は女子高生。こんなことを考えれる人ではない。
そして拳を開いたり閉じたりを繰り返す。何かを確かめようとしているように見えた。それは自分の力か。すると、目の前にいつの間にか一人の女性が立っていた。
「あれ。あかねちゃん?何してるの?」
「あ、あなたは・・・」
そこにいたのは翔の母親だった人。翔はあかねが守れなかった一人の少年。あかねはあまり彼女と顔を合わせたくなかった。翔が死んで、翔がいない世界になったとしても、だ。
そもそも彼女の家族構成はどうなってるのだろう。おそらく母親だろうが、父は?そして子供は?そもそもなぜあかねのことを覚えてるのか。何故か?
そんなことを考えてたら、翔の母親が、あかねが持ってる緑のスカーフを手に取る。あかねは驚いて、彼女を見つめる。彼女は緑のスカーフをじっと見ていた。
「なんかね。これを見てたら懐かしい気持ちになるの。ふふ。意味わからないでしょ?」
あかねはその言葉を聞いてさらに驚く。天使くんの話では、覚えてるのはおかしいぐらい。春樹や悟たちはあかねに礼を言いたいがためにあの恐怖を覚えていた。・・・ここまで考えたら、あかねは彼らも大概におかしいのかもしれないと思った。
「もし、男の子を産んでいたら、これ買ってたかも。ね」
この一言であかねは二つのことについて確信する。一つは翔の母親は今娘がいる。つまり立派に母親をしているということだ。
もう一つは、記憶から消されたと言っても完全に消えてはないということ。歴史の修正はされても、何人かは覚えている。美冬や春樹たちのことでもある。そのまましばらく時間が経った。不思議な時間。あかねと翔の母親はしばらくベンチに一緒に座っていた。
その後、翔の母親がゆっくりと立ち上がる。くるりと後ろを向いてあかねを見る。
「私はそろそろ帰るけど、あかねちゃんも気をつけてね」
とにこりと笑い、公園から出て行った。あかねはただその後ろ姿をぼーっと見つめていた。
そして大きく息を吐く。空を見上げて手を上に伸ばす。その手で太陽を隠しながら両目を閉じる。まるで何かを考えてるように。
「・・・よし」
と、一言つぶやき自分の頬を両手で一発パンと叩く。
「頑張るか」
そしてあかねもベンチから立ち上がり、公園から出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で?こっちなのか悟」
河川敷を二人の男性が歩いていた。先ほどしゃべったのはジーンズに『サンシャイン』と書かれた青いシャツを着ている。彼の名前は小峠春樹。
「あぁ・・・別にお前はついてこなくていいのだがな」
と、クールに応えた男は銀の髪に黒いジャケットを羽織っている。名前は小野悟。彼らは手にビニール袋を持っている。その中には缶詰。それもただの缶詰ではない。少し高級な猫の餌が入っていた。
何日か前。塾からの帰り道に悟が河川敷で子猫を見つけ、こっそり餌をあげていた。家ではいろんな意味で飼えないので、仕方ないかもしれない。悟は動物が大好きだ。触れ合っていると、自然と笑顔になる。
そして餌を買っていざまた猫にあげに行こうとした時に偶然春樹に会い、流れで一緒に子猫に餌をやりにいってる。正直悟は春樹に引かれると思った。が、彼は少し驚きはしたが、その後にこりと笑い俺も一緒に行きたいと言い出した。
意外な趣味で人を馬鹿にした態度を取らない辺り、彼の人の良さがうかがえる。
二人で会話を・・・と言っても、春樹が一方的にしゃべっているだけだが。それでも楽しく二人は猫がいるところまできた。きたが。
「・・・や、やけに大きな猫を買ってるだね。悟くん」
「い、いや。俺は知らんぞ。春樹くん」
二人は動揺していた。確かに子猫はいた。悟を見つけてニーニー可愛く鳴いている。その隣で大きな猫がうつ伏せで寝ていた。猫。といっても猫らしいのはその猫耳がついたフードをかぶっているところだけで、他はただの女の子であった。
つまり、猫耳フードをかぶった女の子が寝ていたのだ。
あまりの光景に春樹は少し困惑していて悟はあたふたしている。そんな彼らの足に子猫がすりすりと、頭をこする。
(お、落ち着け!!俺は他人がどんな趣味でもひかないけど・・・恋人?に猫の格好させて、猫の餌とかを上げるプレイ?が好きなのはさすがにくるものがある!!てか誰得だよ!!・・・く、こういう時あかねなから・・・)
この間約2秒。そして春樹は焦った顔をしている悟の肩をポンと叩き爽やかな笑顔でこう言った。
「俺はお前の友人だからな」
「一言言わせろ。お前は確実に勘違いしている!!」
男二人のギャーギャーわめく声が流石に大きかったのか、猫耳フードの女性がゆっくりと起き上がり、眠たそうな目で春樹たちを見つめた。その女性の目の下には、一本の縦線に三本の横線が入っている。その女性は大きなあくびをひとつした後、目をこすりながら、二人を見ていた
「あー・・・おはよう?」
春樹がその女性に挨拶をしてみる。その女性は応えるように右手を少し上に上げてすぐに下に下ろした。
「えと・・・なんでここにいるんだ?」
今度は悟が問いかける。その質問に対して女性はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開き。
「ここ・・・眠りやすかった・・・から」
と呟いた。つまりただの昼寝スポットだったようだ。よく見たら首に枕型のネックレスをつけてる。それほど寝るのが好きなのだろうか。
「あ、そうだ。自己紹介しとこう。俺は春樹で、こっちが悟」
「春樹に・・・悟・・・」
女性は口の中で彼らの名前を一度つぶやき、二人の顔を交互に見た。その目はやる気なんかどこ吹く風。そんな目が二人を見つめていた。
すると、その女性は頭を軽くかいた後、しばらく悩んだ素振りの後、ゆっくり口を開けてこう二人に言った。
「一応・・・私の名前は・・・テベリス・・・」
くちゃくちゃと音を立てて子猫が缶詰を食べている。それを春樹が優しく撫でながら見ていた。そして、悟とテベリスは隣同士で座っている。テベリスは空をずっと見上げていて何かしゃべる様子もなかった。
「なぁ。ここにいていいのか?親が心配してるんじゃ・・・?」
まだ昼過ぎだが、少し慌ててる悟はテベリスにそう言ってしまう。この慌て方は、まさかこんなところに人がいるとは思わなかったからか。それとも。
「大丈夫・・・家族はいない・・・」
と、いう言葉が返ってきて、悟はしまったと内心思う。まさか家族がいないとは。かなり不謹慎なことを言ってしまった。慌てて悟は話題を修正しようと、何かを喋ろうとする。だが、その口を白くて細いテベリスの人差し指が優しくおさえる。その行為に悟は少しどきっとした。
「いい。喋らないで・・・これ以上喋ったら・・・お互いに不幸になるから」
言ってる意味がわからなかったが、二人の間に強い風が吹き、悟は目を瞑った。
「・・・あれ?」
再び悟が目を開けた時、テベリスの姿は消えていた。まるで、さっきまでいなかったかのような。
「ん?テベリスさん帰っちゃったの?」
春樹が悟にそう声をかける。だが、悟はあまり聞いてなかった。悟は胸を押さえる。テベリスを見た時から感じたこの辺な感じ。胸の奥がキュッと締め付けられてる。苦しいけど、その苦しさは心地いい。
(・・・まさか、な)
悟はテベリスをどう思ってるか理解するのにそう時間ががからなかった。そして、自分の唇に軽くふれる。春樹が何かに気づいたようにニヤニヤしているのに気づき、悟は照れたように顔をおさえて、春樹の頭を叩く。
幸か不幸か、一人の少年は一人の少女に恋をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ついた・・・電車で長旅だったよ」
「そうですね。さすがに疲れました」
悟達とテベリスがご対面していた時、あかねは美冬と共に隣町に来ていた。
力が足りないならそれを補えばいい。というわけで、武器を買いに来たのである。最初は一人で行く気だったが、途中で美冬にあい、彼女も付いてきたのであった。
薄くてペラペラな財布を握りしめて、あかね達は大型ショッピングモールに向かう。買えるなら模擬刀かなんかでも買いたいが、結構高くつきそう。そもそも、何円ぐらいか正直わからない。接近戦は一応バットがある。最悪エアーガンと釘でも買って帰ろうかと考える。
だが、彼女達はまだ知らない。美冬の魔力は、ディザイアを引き寄せてしまうことの力の強さを。
そして、美冬とディザイアは互いに引きせ合うという性質があるということに。そう、例えるなら磁石のように。
そんな美冬達に気づいたかわからないが、ショッピングモールから遠くにあるアパートから何か出てきたことを、二人はまだ知らない。
「うーん・・・やっぱり模擬刀は高いな・・・というか、買うの少し恥ずかしい・・・」
4000円ぐらいする模擬刀を見つめながら、あかねはつぶやく。あまりお金を持ってないあかねにとって4000円は大金である。やっぱり近接武器はバットでいいか。と呟き、エアーガンを探しに出る。確か2000円ぐらいでいい感じのやつが買えるはずである。そんなことを考えながら、ちらりと横を見ると、紳士服の店があった。そこにはあの少女の姿が見えた。
「あれ?美冬ちゃん。何やってんの?」
そう言いながら、あかねは美冬に近づく。美冬は手に服を持ちながら、あかねの方を振り向く。その手に持ってる服には黄色い服に赤い文字で『ジャスティス』と書いてある。控えめに言ってダサい。その服を嬉しそうに持っている美冬は、とても可愛らしかった。
「春にぃはこういう服が大好きなのです。安いですし、きっと嬉しさと驚きでギャフンと言います」
ふふん、と鼻高々にそう美冬はいう。まぁ、春樹が好きそうではあるが。
あかねは苦笑しつつ、1着の服を取る。茶色のポロシャツだったが、シンプルながらなかなかにおしゃれなやつであった。こっちの方が似合うと思うな、とか考えつつも、春樹がダサいシャツ以外を着てるイメージがわかないので、そっと直した。
そして、二人は買い物を済ませてショッピングモールの噴水前のベンチに座って休憩していた。
あかねは2000円ぐらいのエアーガンを。美冬は先ほどのシャツを買っていた。思ったより安く済んであかねは胸をなでおろす。
「・・・あ、喉乾きません?あかねさん」
「ん、んー・・・そうだな。少し、喉乾いたな。天使くんも疲れたみたいだし・・・なんか買ってくるか」
「いいや、ここはボクが買いに行きます。あかねさんは休憩してください。確か、リンゴジュースが好きですよね」
と、美冬はそう言い、トテトテと可愛らしく走りながら、近くの自販機まで走って行った。
あかねの膝の上にいる天使くんは、眠気眼をこすりつつ、美冬の後ろ姿を見つめていた。そしてまた眠りについた。
「美冬ちゃん・・・少し、気を使わせ過ぎてるかな。気をつけないと」
あかねはそう呟き、拳を力強く握り締め、大きく伸びをして美冬が返ってくるのを待つ姿勢に入った。
「なんか少し遠いですね。近くに置いてほしいです・・・」
美冬が自動販売を求めて歩いていた。思ったより遠く実は少し後悔をしている。しばらく歩いたらやっと自動販売機を見つけた。まず、リンゴジュースを買い、自分は何にしようかと考えながら、ボタンの上を指でなぞる。
「やっぱりサイダーかな」
特に面白みもないジュースを買おうとボタンを押そうとした。
だが、その手がピタリと止まる。そして、近くの裏路地に目が向く。なぜか、その奥に何かがあるかと思ったのだ。サイダーをとりあえず買い、裏路地に自然と足が向き、そこに歩いていく。進まない方がいい気がする。が、それでも歩いていく。
一歩歩くごとに香るのは異臭。とても臭い。少しでも気を抜いたら吐きそうである。
(腐った・・・イカの香り?わけわかめです)
また歩き始めると、今度は足で水たまりを踏んでしまう。だが、それはネチョネチョしており、靴で糸を引く。ごくりと生唾を飲み込み、裏路地の奥まで行く。すると、あるものが目につく。それは、ローファーだった。それがコロンと地面の上に転がっていた。
美冬はおもわず手に取る。なんでここに落ちてるか、考える。
すると、肩をポンと叩かれる。
あかねさん?と考えるが、何かおかしい。触ってみたらネチョネチョしていて、粘着性があった。指についたそれは、異臭を放っており、美冬はおもわず顔をしかめた。
そして、ゆっくり後ろを振り向く。すると
「ひっ・・・!!」
そこには壁から生えてきた白い触手があった。その触手は美冬の体に巻き付く。抵抗しようにも以外にきつく縛られて、美冬は身動きを取れなくなる。
「い、いやぁ・・・!」
ずるずると体がひきづられる。足で踏ん張ろうにも、地面がネチョネチョしていて力が入らない。もし、力が入ってもひきづられるだろう。
「や、やだぁ・・・」
なぜか、このままひきづられたら大切なものがなくなりそうだった。だから必死に抵抗をする。
「助けて・・・誰か・・・あかねさん・・・」
その場にいない人間の名前を呼ぶのは、それほど焦ってたか。それとも。
「・・・おい。何美冬ちゃんに手を出してんだ?」
「あ、あかねさん!!」
必ず来てくれると信じているからか。
とにかくその白い触手を掴んだ手は美冬より頼りない小さな手だが、その少女の姿は頼り甲斐しかなかった。その少女は手に持ったバットで白い触手を無理やり切断する。その衝撃からか、その触手はスルスルとかべのなかにはいっていった。
「大丈夫か!?美冬ちゃん!!」
少女。いや、アナザーは心配していると言わんばかりの顔と声で美冬に声をかけた。美冬はそれがなぜかとても嬉しかった。
スルリと、絡みついてた触手が離れる。べちゃ、と音をたてて地面に落ちる。美冬はホッとする気持ちで、胸をそっと撫でる。
「・・・?」
と、ここでおかしいこと気づく。さわりやすい。今日は薄いシャツ一枚なので、さわりやすいこともわかる。だが、目の前のアナザーが慌てているのが少し面白くてでも少し恐ろしくて。
恐る恐る顔を下げてみると。
「ななな、ななな・・・」
美冬は顔を赤らめて両手で顔を抑える。心なしか目には涙を受けべているようだ。
「なんで服が溶けてるのですかー!!」
そう、美冬の服は綺麗に溶けていて、今彼女は上半身裸なのであった。アナザーが袋から取り出したジャスティスTシャツをとりあえず着る。肌が隠れるほど大きくてダボダボなのが、少し幸いしたようだ。
「美冬ちゃん。まってろ」
といいながらアナザーは壁に向かって歩き、そこに手をつく。不思議なことに手はすり抜けて行き、アナザーの体もだんだんと消えていく。
「あんな女の敵はあたしがぶっ飛ばす」
そう力強く宣言したその背中は壁の中に消えていった。
「はやく、帰ってきてほしいです・・・んっ・・・」
そう蚊の鳴くような声でつぶやいた美冬はへなへなと地面に座り込んだ。なぜか顔が少し赤く、呼吸が荒くなり体をモジモジ動かしていた。
「いろんな意味で、やばいです・・・」
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