ヒロイン=ヒーロー

は~げん

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第五話 その少女は彼に夢を見せるのか? その二

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トコトコと一人と一匹は久しぶりのディザイアの結界の中を慎重に歩く。基本一本道なため、特に迷うこともなく、ただひたすらに長い道を歩いていく。

アナザーは横をふわふわ飛ぶ天使君をちらりと見てみた。相変わらず無表情であるので、何を考えてるかよくわからない。が、機嫌がいいかも悪いかも。

だが、アナザーはとても暇であったし、少しきになることもあったので、天使くんに声をかけた。

「・・・なんだ、急がなくていいのか?」

天使くんはいつも通りのぶっきらぼうな言葉をアナザーに投げる。そして、天使くんはつぎの言葉を待つように、無言でアナザーをみつめた。

「なんでお前は、あたしとそんな距離を離してるんだ?・・・魔法少女にしたことをまだ気にしてるなら、別にもう大丈夫だぞ」

そう、アナザーは天使くんの態度を気にしていた。そもそも、杏子の話では契約した天使は、すぐどこかに行くはずなのに、天使くんはどこにも行こうとしない。それはアナザー『あかね』を心配してるからか。だが、そうだとしても何故か、一定の距離感を感じる。

「・・・俺は天界から人間界に降りるとき、大天使様から、あることを言われた」

ポツリと、天気くんが喋る。声は少し悲しそうに聞こえた。そして、目を閉じ言葉を続けた。

「人間界に降りる日。その日は俺以外にもそれぞれ役目を持った天使が何体もいた。まぁ、ほとんどが魔法少女を増やすのが目的なのだがな。そして、俺らは人間界に降りた後の注意事項を聞いた。その中で一つ、大天使様はいつものような笑顔でこういったんだ」

ここで天使くんは喋るのをやめ、アナザーはいつの間にか立ち止まって話を聞いていた。天使くんはそんなアナザーをちらりと見る。少し言うのをためらっているようにも見えた。だが、やがて口を開ける。

「魔法少女と契約したらすぐ帰りなさい。所詮ーーーーーー

ーーーーーーただの家畜みたいなものだものね」



「どういうことだ、そりゃ・・・」
「知らん。だが、俺らはその言葉を無条件に信用した。最初はお前たちのことを家畜だと見ていた。実際、隙を見て美冬に契約を交わしてバイバイするつもりだったしな。だが、ここ最近お前たちと関わって、わかった。人間は家畜ではないとな」

家畜じゃない・・・と、小声でつぶやく天使くんは少し暗い顔をしていた。

「・・・ところで、だんだんと臭いがきつくなってきた気がするのだが・・・」
「・・・あ、あぁ。それもそうだろう。もうすぐつきそうだしな」

いつの間にか結構進んでいたらしく、よく見たら目の前に大きな扉があった。

「で、なんの欲かわかるか?」

アナザーは扉の奥にいる欲を聞いてみる。ゲームなら情報なしで挑むほうがいいが、生憎これは現実だ。少し気を抜いたら死んでしまう。限界まで、気を張るためにも、敵を知るほうがよいのだ。

「あー・・・多分、性欲だろうな。うん」

性欲。そんなのがディザイアだとは世も末である。
性欲を具現化した化け物など正直見たくもないし戦いたくもないが、それでも進まなければならない。守りたい人がいるから。

「行くぞ、天使くん」
「あぁ、早く倒すぞ」

そして2人はゆっくりと扉を開けた。

ギギィ・・・と重い音を鳴らす割には軽い扉。やがて室内の様子が見えた。そこにいたのは性欲であろうもの。そして、その上に

「ん・・・速いね。もっと・・・遅くていいのに」

茶色いマントを羽織った、目の下に線がある少女。その少女は大きくあくびをしながら、目をこする。

「な、何もんだお前・・・!」
「こいつ、まさか・・・完全体ディザイア!!」

天使くんの震えた声を聞いたマントの少女は、ゆっくりと歩きながら、アナザーに近づく。アナザーは少し身構えながら、口を開いた。

「な、なんで性欲を殺したんだ?」
「んー・・・?いやぁ、女の子には見せられない形状だったし・・・そもそも実験動物だったから・・・だから、人間を取り込んでしばらくした後に、殺した・・・それだけ」

まるで当たり前のように彼女は呟いた。そしてまた大きなあくびを一つ。そして目をゴシゴシこすりながら、眠そうな声でアナザーに

「・・・そうだ、自己紹介。私の名前はテベリス・・・欲は・・・怠慢欲」

と言った。それを聞いたアナザーは

「ご丁寧にどうも。じゃ、あたしもしなきゃな」
と言い、息を大きく吸った。そして

「ひとーつ!!
汚されそうな少女がそこにいれば!!
ふたーつ!!
その元凶を断ち切ってやる!!
みーつ!!
そしてあたしの名前を胸に刻め!!あたしの名前はーーー
ーーーマジカル☆アナザーだ!!」

ヒーローものなら後ろが爆発するぐらいに、キメたアナザー。変身してるから一切恥ずかしくもないのが、大声出す理由でもあったり。

「ん?でも、その元凶は・・・私が既に倒したような・・・」
「や、野暮なツッコミはなしってやつだよ!!」

少し気になっていたところをテベリスにツッコマれ、顔を真っ赤にしながらそう反論する。

今から戦いが始まるとは思えない空気。これは、テベリスの雰囲気のせいかもしれない。アナザーも彼女が悪いやつには見えない。が、やらなければならない。

まずは先制とエアーガンをテベリスに向かった放つ。弾丸には魔力を込めてるため威力は低くはない。それをテベリスは両手をクロスにして防ぐ。その隙を狙ったと言わんばかりにアナザーは一気に駆け出すーーー!!

テベリスは驚いたように目を見開き、後ろのほうにトン、と飛んだ。少し距離を取られたが、アナザーは気にせず、右手に魔力を込める。そしてテベリスに向かって拳を突き出す。

魔力を込めた右手の拳。その威力は計り知れない。テベリスは受け止めるように右手を開き前に突き出す。

「喰らえ!!マジカル☆インパーーー!?」

そしてテベリスは受け止めた。

いや、正確に言えばテベリスに当たる前に拳が止まった。なぜ止まったか考える前にアナザーは後ろに吹き飛び、壁に背中を打ち付ける。大丈夫か!と叫びながら天使くんが近づいてくる。アナザーは背中をさすりながら、ゴホゴホむせた。

「な、なんだ、なにが・・・?」
「ん・・・私はマタルみたいに殴ったりで戦えないし・・・エレンホスみたいに射撃も苦手・・・だから」

と、テベリスは言うと同時に手を上に上げる。すると、彼女の周りを薄い緑の幕が覆っていた。

「バリアー・・・攻撃したらその威力分・・・アナザーに跳ね返ってくるよ・・・」

静かに。ただ、確実にアナザーに対して不利な言葉が彼女の耳に入る。絶望的な状況である。
だが、バリアーを張ってるということは、相手は攻撃できない。ならこのままにらめっこをするということか。つまり相手はなにもできない。なんとか隙をつけば、あるいは・・・

「ひゃっ!?」

そんなことを考えていると、背中を何かが触れた。ネチョという気持ち悪い音を立てて背中を何かが撫でている。
恐る恐るアナザーを後ろを振り向く。そこにあったのは、ねっとりした液体を出している無数の白い触手。それを見たアナザーの顔からさっと血の気が引く。

「言い忘れてた・・・殺したとはいったけど・・・消えたとは言ってない・・・つまり、まだそいつは『生きてる』よ・・・ただ、自立できてない・・・私の命令を聞く・・・言うならば、『生きてる死体』・・・かな」
と、テベリスが言い終わると同時に無数の触手がアナザーに襲いかかる!!

右から左から・・・まさに縦横無尽。アナザーはそれを回避したり、攻撃して破壊したりしながら逃げ続ける。そして、テベリスに近づき、拳をぶつける。だが、やはり弾き飛ばされる。それでもなんどもなんどもテベリスに近づき攻撃をする。

「ふぁ・・・」
「うぇ・・・ネチョネチョする・・・けど、動きは単純だ!!」

退屈そうにあくびをするテベリスと対照的に。退屈する暇もないアナザー。触手の動きは確かに単純。少し気をつければ簡単に避けれる。触手が襲い、それをアナザーが避ける。そんな行動がしばらく続いた。

結果もひどく単純だった。

ただ触手に命令を出すテベリスと、その触手から逃げ続け、バリアの反射のダメージも負っているアナザー。どちからが先に倒れるか、そんなものは子供でもわかる。

「しまっ・・・!!」

アナザーは右手を触手につかまれる。すると無数の触手がアナザーの両足と左手も硬く掴み、アナザーは動けなくなる。

「アナザーを離せ!!」

と叫びながら天使くんが突っ込んでくるが、簡単に弾かれ壁にぶつかり気を失ってしまう。

「や、やめ・・・あっ・・・ど、何処触って・・・うひゃ・・・」

身体中を這いずり回るように、撫でるように触手が動く。それは何処にでも手を伸ばし、アナザーはせめてもの抵抗に身体を動かすが、あまり意味がないようだ

「触手プレイとか・・・ハードすぎる・・・私の体は女だし、あまりいい気はしないけど・・・」

そんなこといいつつも、アナザーの周りには無数の触手がウネウネと迫り来る。アナザーはだんだん震えてきた。命の危機よりか、恐ろしいのかもしれない。幼気な少女にとって、身体が汚されると言うのは、死よりか恐ろしいのである。

「あうあうあ・・・」

とうとうアナザーは白眼をむいて気を失ってしまった。それを見たテベリスは触手を止め、アナザーの身体を触手で雁字搦めにする。そしてそれを横目に、トコトコと天使くんのところまで歩いた。そして天使くんを持ち上げる。

「人間は殺したくないの・・・少し、思い入れもあるし。でも貴方達は別。エレンホスから聞いただけだから、よくわからないけど・・・」

そこで言葉を切り、パチンと指を鳴らす。すると、アナザーに絡んでいる触手以外が一つに集まり、天使くんにゆっくり近づいていく。

「貴方はオスかなぁ・・・じゃ、さようなら『お父さん』・・・の、1人か」

その言葉と同時にテベリスが空に天使くんを投げ、それに向かって太い触手が一気に襲いかかる。

だが、それは天使くんに当たらなかった。なぜか?

ブチブチィと、何かをちぎるような音が聞こえたのだ。テベリスがゆっくり音がした方を向くと、そこには一人の少女が立っていた。だが先ほどまで何かが違う。オーラだと言うのだろうか、それが確実に違っていた。まるで別人のように。まるで人間ではないように。

テベリスはごくりと生唾を飲み込む。先に倒すべきはあの魔法少女だと考え、集めていた触手と、アナザーを縛っていた触手を集めた。

なぜか一本も減ってない触手を疑問に感じながらその触手を一つにまとめて伸ばし、アナザーを狙う。まずは動きを止めるため、片手を縛り上げる。アナザーはそれをちらりと見て、ぐいぐいと引っ張った。が、その触手は一切動かない。

だが、アナザーはあいも変わらず無表情のままで縛り上げられた手を、もう片方の手でつかんだ。
そして

「えっ・・・」

ブチッと音がしたかと思うと、アナザーがテベリス目掛けて突っ込んできた。アナザーはテベリスの顔を狙い、拳を突き出した!!テベリスは油断してたこともあり、思いっきりパンチを顔に受け大きく吹き飛ぶ。

テベリスは吹き飛ばされながら、アナザーを見ていた。彼女の腕は二本あった。だが、先程まで彼女を縛っていた触手にも腕があった。

ドガッと音がなり、地面に叩きつけられる。背中をさすりながら立ち上がり、今度は手を前に出してバリアを張る。

「あいつ、触手じゃなくて『自分の腕』を・・・もしかして最初にちぎったのは・・・自分の『首』・・・?」

アナザーがやったことに対して恐怖を感じ始めたテベリスは、ガードを固める体制に入った。震える足は立ち続けたからだと自分に言い張る。そして目を閉じる。自分に大丈夫だと何回も言い聞かせ、安心感を得た。そしてゆっくり目を開ける。

「ひっ!?」

テベリスの口から小さな叫び声が漏れる。それもそのはず一瞬のうちに目の前にアナザーがゆらりと立っていたのだ。アナザーは幼い手でバリアに思いっきりパンチをした。その反動で腕ごと後ろに吹き飛び、あとは時間が経てば勝てる。

筈だった。

その行動はあまりにも異質であった。いや、異様か。アナザーは吹き飛ばされる前に殴った方の手をもう片方の手で『切断』した。当然勢いは全てその切断された片腕に集中される。そして、さらに驚くことに切断された手が一瞬の内に再生した。普通の魔法少女でもあり得ないほどに。

そしてアナザーは何度もバリアを殴り、弾かれる前に腕を切断するという行為を繰り返した。
アナザーの周りには魔力で出来た沢山の腕が山を作っていた。そしてまだ増えていく。

テベリスが恐怖で体が震えたからか一瞬気を抜いてしまった。そして、ビシッとバリアにヒビが入った。

パリンと音が鳴り響き、とうとうバリアが破壊された。テベリスは慌ててバリアを再構築しようとするが、それよりも早く、懐にアナザーが入り込んでいた。

「マジカル☆インパクト・・・」
「きゃー!!」

そしてテベリスは思いっきりアナザーの拳を腹に受けた!!体をくの字に曲げながら大きな音を立て空に打ち上げられる。

「マジカル☆バズーカ」

そう声が聞こえたかと思うと、拳の形をした魔力の塊がテベリスに襲いかかる。とっさの出来事で判断ができないテベリスはそれを思いっきり目を見開いたあとに手を前に突き出す。そして

ドガーン!!
「きゃぁあぁあああぁぁああ!!」

と音とテベリスの叫び声が鳴り響き、テベリスがいたところが爆発した。それを見たあとアナザーは糸が切れた人形のように、重力に逆らわずにドサリと地面に倒れこんだ




◇             ◇             ◇                 ◇               ◇


「ここは・・・?」

あかねは暗い暗い世界にプカプカ浮かんでいた。この世界はあの時。翔を失った時に見た世界と同じなように見えた。つまりは夢の世界。

暫くボーとする。が、このままではいけないと思い、その暗闇の世界の中を移動し始める。何分たったか。トンと、目の前にある何かに頭がぶつかる。それは何かの扉のようであった。あかねは何気なしにその扉を開ける。

その中には小さな机と小さな椅子が2つポツンと置いてあった。周りの壁紙などは先ほどまでの暗闇とは違い、白一色に染められていた。

いや、一つ白じゃないのがあった。

小さな椅子に座っているものがいた。それは全身が真っ黒で目も口も何もかもがどこにあるかわからない。人型の何かがあった。

あかねはそれを慎重に遠くから見つめる。するとその黒い影が座れと言うように一つの椅子を指差した。

あかねはまだ警戒しながら、だが、他にすることもないので促されたようにその椅子にゆっくり座る。

「そう警戒するな。かっこ悪いぞ」

あかねはびくりと驚いた。その影がいきなり喋ったことにもだが、何よりその声が聞き覚えがある声だったからだ。

するとその影に少しずつ色が付いて行き、目や口などがよく見えてきた。そして現れた影だったのももあかねは見たことがあるものだった。なぜなら。

「あ、あたし・・・?」
「ご名答!!あんたはあたし。あたしはあんた・・・いや、少し違うかな!はっはっは!!」

そう、あかねであろうものがお腹を抱えケラケラ笑いだす。あかねは少し驚きながらそれを見ていた。少し頭がクラクラする。

「はっはっは・・・すまねぇ。笑いすぎたわ。いやぁ、こう面と向かって会うのは初めてかな?あたし」
「おま・・・お前は何者だ?あたしにそっくりだけど・・・」
「んー?あたしはあたしだが・・・そうだな。名前をつけておこう。名乗るなら・・・アミナ。あたしの名前はアミナだ」

影・・・アミナがそういい、手を前に差し出す。どうやら握手を求めてるようだ。あかねもその手を握り返した。

体温は一切感じなかったが、何か、安心感があった。すると、アミナの体がまただんだんと黒くなっていく。

「ありゃーもう決着ついたか。ま、あたしがしたいことはやったし・・・んじゃ、また会おうぜ。あたし」

最後にまたニカっとアミナは笑い、体が完全に影に包まれた。そしてあかねはまた気を失った。


◇            ◇               ◇                ◇               ◇


「はぁ・・・はぁ・・・」

ボロボロな格好になっている少女が暗い道を歩く。彼女はテベリス。先ほどあかねの攻撃を受ける前に、性欲のコアをぶつけたため、致命傷にはならずに済んでいた。だが、体から流れる少し緑色の血が、無事ではないことを語っていた。

正直、あれほどあの少女にやられるとは夢にも思っていなかった。油断か。それとも彼女のよくゆえの、怠慢から始まった結果か。吹き飛ばされる前チラリと見えたあの少女の本当の姿。今度会ったら、おそらくテベリスは逃げる。そう考える。勝てない試合など挑みたくないから。

だが、もう試合などないかもしれない。消えていう意識の中、彼女はそう考えながら、ばたりと倒れる。そしてゆっくりと目を瞑った。

その後ろに一人の少年が立ってると気付かずに。そして、その少年は先ほどテベリスと会い、そしてそのテベリスに恋をしてしまった、悲しき少年だということに。

彼女と彼にとってこれは不幸か幸せか。絶望か希望か。だが、テベリスを肩に担いで道を歩く少年にとっては、これは幸せであり希望である。それだけは確実であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《次回予告!!》
「なんで助けたの?」  「ど、どうしてこんなことを・・・?」
     「誰が好き好んでこんな服を着るかよ!!」       「素晴らしい・・・素晴らしすぎる欲です!!」
《第六話 春樹の憂鬱》
お楽しみに!!






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