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第二章

十八話【拡張工事】

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森の奥に小さな池がある。

薄霧がかかる池の辺りには、オレンジの小さな花が連なり揺れていた。

池の対岸には朝日に照らされた鹿が、水を飲んでいるのがみえた。

穴を埋め終えた惣一郎が手を合わせ、使った道具を収納すると、種を取り出して地面に置く。

見る見る周りの木と同じ大きさに成長する木に触れ、中に入って行く。

「ただいま」

「おかえり……」

寝てないのだろう、暗い目をしたスワロが無理な笑顔で迎えてくれた。

ミネア達も遅れて現れ「おかえりなさい」っと言ってくれた。

小さなエルデが惣一郎の手を握り、二階へと引っ張る。

テーブルにはミネア達が作った朝食が冷めていた。

「主人よすまない、心配かけた…… 少し食べて休もう」

「ああ」

街で回収した食材だろう。

硬いが甘みのあるパンに、塩の効いた肉と酸味のある野菜のスープ。

行儀良く食べ始めるエルデ達に釣られ、惣一郎も食べ始める。




食後、すっかり陽が登った森を眺めながら、風呂で足を伸ばす惣一郎。

遅れて入ってきたスワロがボソっと「私は運が良かったのだな……」っと囁く。

魔物はどこまで行っても魔物だという事を、改めて思い知らされた惣一郎だった。




昼まで寝ていた惣一郎が起き出し、キッチンのテーブルで荷物を仕分けしていたミネア達に、話しかける。

「なぁ、新たな街では今までの様にやって行けるのか?」

「ここほど安全な場所では無いですが、陣職人としてこの子達を食べさせて行く位なら……」

不安そうな顔で答えるミネア。

「安全に住める場所が見つかるまで、ここにいてもいいんだぞ?」

「本当か? 姉様!」

隣にいたセリーナが、ミネアに顔を明るくして向ける。

やはり不安があった様だ。

「ですがこれ以上、ご迷惑をおかけさせる訳には……」

「いや、迷惑なんて思ってないぞ! それにまだエルデもハイデも小さいし、少し狭いかも知れないが……」

そこに現れたドリー。

「なんじゃ、広げれば良かろう! 其方なら出来るじゃろ」

あっ、そういえば……

惣一郎はドリーに連れられ、一階に降りる。

ミネアとセリーナも、意味も分からず付いていく。

トイレのドアの横の壁に、枝の手を着き、反対の手で惣一郎の手を握るドリー。

固い枝を握る惣一郎が、言われた通りにドアを思い浮かべると、徐々に浮き彫りになる大きな扉が出来ていく。

「ほほほっ! 凄い、凄い魔力じゃ惣一郎!」

興奮するドリーに、嫌そうな顔をする惣一郎。

ドリーを通し、ツリーハウスに流れて行く魔力。

部屋のランプが明るさを増し、葉が揺れる音が中まで聞こえる。

「もっとじゃ、もっと妾に!」

テンション上がって行くドリーとは対照的な惣一郎が、半分ヤケ糞にさらに魔力を送る!

ツリーハウス全体が振動し、異変にスワロも飛んでくる。

テルミナ達も!

「あ、主人よ!」

スワロの声に我に帰る惣一郎が、はっ!と魔力の放出を止めると、ドリーが腰を抜かし崩れ落ちる。

顔は満足そうだった。

「すまん、やり過ぎたか!」

悦に浸る表情でドリーが扉を指差す。

大きな両扉を開けると……






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