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第九章

八話【作戦で索戦】

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慌てて髪も濡れたまま、惣一郎は羽織った上着のボタンも閉めず、まだ賑わう村の食堂の前を通り過ぎて行く。

食事中の弁慶とツナマヨが惣一郎に気付き、何事かと追いかける。

ベンゾウは他のみんなと村の浴場に……

村の中心部にある大浴場は、ドワーフ達渾身の作りで、段々に作られた村の一段目と二段目で男女分けた豪華な大浴場であった。

壁に囲まれているが開放的な作りの風呂。

その壁の外から惣一郎が声を上げる。

「ベンゾウ! 頼みがある」

惣一郎の声に反応するベンゾウが、裸のまま壁の上に現れる。

「なに、ご主人様!」

いや服を着てからでいい……

「何かあったのか?」

スワロとミコの声も壁の向こうから聞こえる。

追い付いた弁慶達も惣一郎の慌てっぷりに、何事かと心配する。

「旦那様、急いで何かあったのか?」

惣一郎に声をかけながら壁の上の裸のベンゾウに、服を着て来いとゼスチャーを送る。

「済まん、作戦を思いついた! いや気付かされたんだが……」

「作戦とは?」

ツナマヨの問いに惣一郎は頭の中の作戦を、まだ説明出来るほど整理出来ていなかった。

「と、取り敢えず、みんなを訓練場に集めてくれ。俺はドラミを捕まえて来る」

惣一郎はクリーンで髪を乾かし、ボタンを片手で閉めながら歩き出す。



夜に急に開かれる緊急会議。

ゾロゾロと訓練場に集まり出す村人。

惣一郎は捕まえたドラミと御神体の前にいた。

「惣一郎、そんなんホントに出来るんか?」

「ああ、多分…… 理屈は合ってる」

ドラミが杖を振り、木の蔓が絡み合う檻が開くと惣一郎が御神体を抱え外に持ち出す。

正直触りたくない……



広場に戻ると急な召集にも関わらず、皆が広場に集まっていた。

「主人よ、なにが始まるんだ?」

スワロの髪もまだ濡れていた。

「みんな急に済まん! 例の2人の居場所が分かるかも知れないんだ。ちょっと協力してくれ!」

昼間まで相手の出方を待つしか無いと思っていた話に、まさかの急展開を迎える。

動揺する者や、惣一郎の抱える御神体に嫌な顔をする者と反応は様々であった。

「それで、なにをすればいいのですか?」

ミネアの問いに惣一郎が、

「取り敢えず、今村から出てるキューテッド達全員に戻る様に連絡してくれ。カン達ドワーフは、通信出来る魔導具をありったけ集めて!」

なにが始まるのかワクワクするベンゾウ。

「全員集めてどうするのだ惣一郎殿」

ツナマヨが冷静に説明を求める。

惣一郎が自分でもまだ混乱する作戦を語り出す。

正にウンディーネの入れ知恵であった。

頭に直接流れてきた作戦は、魔女の肉を喰らった残党ふたりなら、魔女の体から同じ匂いの様な物をベンゾウが感じ取れるはずと、御神体を媒介に惣一郎のサーチをここに居る全員で強化し、ベンゾウとの共感覚で探し出すと言う、何ともざっくりとした物だった。

その為に一度、皆と奴隷契約を結び惣一郎の魔力を底上げする。

反応があれば、種を惣一郎の転移魔法で近くに送り飛ばし、ツリーハウス経由で急襲をかける。

距離があると人を飛ばすのは無理だが、種だけならサーチで届く範囲に飛ばす事が可能らしい。

知らなかった……

これもウンディーネから教わった事であった。

「これなら、敵が複数居ても魔女と繋がってる限り見つかるはずなんだが…… 大丈夫だよな?」

説明しといて不安な惣一郎。

なんと無く理屈が分かる程度の作戦であった。

「まぁ、確かに理屈では行けるやろ……」

「そのサーチの反応を頼りに種を飛ばし、兵隊を送り込み数を減らす作戦か……」

「確かに寄生する能力は厄介だが、個々の強さは然程では無い。手分けして行けるだろう」

ただ種はユグポン本体を含めて6個。

敵がそれ以上なら、一度種を回収し惣一郎がまた送り飛ばさねばならない。


「ですがそれ、惣一郎様の負担が大きくありませんか?」

そう、実は大きなリスクもあるのである。

だが、言えば反対するだろう……

「大丈夫だ。その為にみんなに協力してもらい、負担を減らしたいんだ」

惣一郎の嘘に、ベンゾウとスワロが気付く。

「ご主人様ホント? ホントに無理しない?」

「魔女と共感するのだ、負担がない訳があるまい! 主人よ、危険なのだな……」

「本当か旦那様!」

「信じてくれ! 俺ひとりじゃ確かに負担が大きすぎ意識を侵食される危険もある。だからその為に、みんなの魔力で分散させるんだ。これしか手がないんだ」

方便であった。

ウンディーネ曰く、意思の強さの問題との事。

「時間が経てば、奴らも数を増やす恐れもある。確かに急ぐ必要はあるかも知れん」

ツナマヨの一言で、やや強引ではあるが惣一郎の作戦を決行する事になる。

夜に慌ただしくなる勇者の村であった。
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