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第五章

十話 【危ない男!】

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長い片刃の剣を両手で握り正面に突き出す構えは、剣道で見るものに似ていた。

重心を後ろ足に乗せるサーズリは、対峙する少女に笑顔を失くす。

ベンゾウは歩きながら國家と國千代を抜き、ちょっと出かける気軽さで距離を詰めて行く。

異様を感じたギルマスは、額に汗をかいている事に気付く。

無防備に近付くベンゾウに、サーズリが間合いに入るや流れる様な重心移動でベンゾウを突く! 

しかし突いたはずの剣は、歩みも止めないベンゾウの右脇下に虚しく収まっていた。

焦るサーズリは剣を引くが、その引きに合わせてベンゾウが懐に潜り込む! 

驚いたのは引いた両腕の間にベンゾウが入っていたのだ。

目の前の少女に、驚き目を見開くサーズリ。

引くに引けなくなった剣から右手を離し、ベンゾウに掴みかかるが、それも虚しく空を掴む事になる。

右に回る様に闘牛士はギルマスに背を向けいなすと足をかけ、サーズリは姿勢を崩し地面に手を着く。

その場所は惣一郎の目の前で、両手をつき謝っているようだった。

「続けますか?」

惣一郎の言葉にギルマスは……

「参った!」と笑い出す。

「手も足も出ないとはこの事だな! いや恐ろしく強いな、嬢ちゃん! 何者なんだ」

急に砕けた態度にキャラ変したこの男は、明日ギルドに顔を出す様に言うと、笑いながら帰って行った。

自分の都合で周りを振り回すとっても危ない男であった。


動いたらお腹減ったと言い出すベンゾウさん。

「え? さっきまで食ってたよね?」

こいつの胃はどうなっているのだろうか……

テントに入り、作り置きのカレーを出す惣一郎。

まさかのお替わりに、カレーは別腹との事……

いやいや……



朝食を簡単に済ますと惣一郎達は、街を少しふらつく。

露店では港町とあって魚介類が多く、目新しいものから買って行く。

だが、魚を刺身で食べる習慣はない様で、どこも衛生面では心配になる様な店だった。

そのまま中心街を抜けると港に出る。

港には漁船や商船が多く止まっており、輸送船の停泊地にもなっているこの港から、アースリア大陸へも船が出ている。

港関係者に話を聞くと七日の船旅になり、料金はお一人様23ギーと7ネル、クロが貨物扱いで8ギーかかるそうだ。

アースリア大陸の港[チョイロ]とふざけた名前の港町には[マーマン]と呼ばれる魚人がいるそうで、ワクワクが止まらない惣一郎であった。

勢いは大事! そのまま受付に行き、三日後に出る船の予約をして料金を払い、乗船札を受け取る。

すでに国を出る事に決めた惣一郎は、まだ半分も見ていないエリリンテ国が落ち着いたら、また来ようと心に誓う。

街へ戻りぶらついていると、ギルドを訪れる頃には夕方になっていた。


丁度依頼の報告や買取で賑わうギルド。

そういえば最近、絡まれる事が無くなったな……

ギルマス以外。

受付に行くと、受付の女性が「鉄壁の魔導士!」っと大きな声で驚くもんだから…… ほら静まり返った。

「ヒソヒソ……おいアレが鉄壁の魔導士か……閃光の乙女もいるぞ……ヒソヒソ……盗賊1000人斬りだ……あのギルマスが、あの女に手も足も?……ヒソヒソ……思ったより老けてんな……女にやらせてギルマスに土下座させたらしいぞ」

くっ、くっそ~ 耐えろ惣一郎! ほっとけばいいんだ!

行き場のない怒りに苦しむ、惣一郎であった。

「惣一郎殿!」

静まり返るギルドで、リヴォイが天使に見えた。

「惣一郎殿、昨夜あれからギルマスと会ったんですって?」

口を割らなかった彼らに罪はない。

昨夜の事を説明すると、ギルマスの襲撃にリヴォイが代わって頭を下げる。

そこに本人登場。

「おお、やっとおいでになったか! ささ、こちらに」

部屋へ通される惣一郎に、リヴォイがお気の毒にという顔で見送る……

その場に居合わせた冒険者達も…… ヒソヒソ……





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