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第八章

九話 【橋の上で!】

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今日ものんびりと荷車に揺られ、街を目指している惣一郎は、残り3つの丸薬を見ながら、兎にも角にも飲んでみるかと、一粒口に放り込む。

なるほど想像以上の苦さ!

すると全身が熱を帯び、身体中を巡る魔力が暴れる感じがして落ちついてゆく。

口の中の苦味も消え、意識すると分かる魔力が、以前の数倍に感じ、思わず口を出る。

「こりゃ凄い……」

攻撃魔法などは、威力は変わらず使用回数が増えるだけだろうが、惣一郎やベンゾウの生活魔法には、魔力の総量は威力に繋がるだろう。

今の惣一郎なら重いものもあげられそうだった。

だが、2個目を飲む気にはなれない、これ以上魔力が増えるか、謎だからだ。

残りの丸薬は大事に取っておこうと決める。

徐々に景色が変わり、石と緑が増え始め、しばらく進むと遠くに山が見え、緑が辺りを埋め尽くして行く。

そして林は、陽が射し込まない森へと変わって行く。

薄暗い森の中の一本道を進んでいくと、目の前に石斧が飛んで来る!

ベンゾウが受払い、惣一郎は鉄球を出す。

森から現れた緑色の大男が、二匹、三匹と数を増やす。

惣一郎は鉄球を飛ばすと、一匹の胸に「ドコ!」と鈍い音を立て、オークが蹲る。

残り二匹の周りに浮く鉄球を足場に、ベンゾウが凄いスピードで縦横無尽の閃光と化す!

二匹のオークは、7つの肉片となり崩れ落ち、疼くまる1匹も首から3つになり、前に転がる。

このグロテスクな惨状に、初めてのコンビネーションが上手くいき喜ぶふたりは、側から見れば異常に映るだろう……

争いごとを好まず、商人でスローライフと言っていた惣一郎は、すっかりこの異世界に染まったと思えたが、違っていた。

魔法を覚えてから惣一郎は、ゲーム感覚なのだ!

前の世界には居なかった明確な敵に、覚えた魔法を存分に使える。

何の感情も抱かず益々鈍く鈍感になって行く。

もしここに、幼いオークの子供が現れ、親を殺された悲痛の親子愛でも見せられれば、惣一郎は攻撃が出来なくなり、子供の親を殺したと言う後悔に押し潰される事だろう。

ベンゾウならそうはならない! 瞬時に子供も殺すだろう。

自分を守ると言う前条件がこの世界の人間と惣一郎では、全く違っていたのだ。

そんな危うい惣一郎が、遠ざかるスローライフを求めて、また街を目指し森の道を進み始める。





少し進むと、水の音が聞こえて来る。

先には森が開け、大きな緩やかな川が流れており、その川を跨ぐ様に大きな吊橋がかかっていた。

馬車がすれ違える程の大きな橋を、渡った先に数人の男達が、慌てた様子でこちらに気付く。

「おい! 早く渡れ! 橋を落とすぞ!」

何事か? 慌てて惣一郎も荷車のまま橋を渡る。

「オークだ! ハイオークが出たんだ!」

「橋を落として、時間を稼がないと!」

「あぁ、オークなら今さっき倒したけど、三匹」

男達の手が止まる。

「バカ言うな、ハイオークだぞ! そんな嬢ちゃんとふたりで倒せる訳がねえ」

「でも、三匹って言ったぞ!」

「そんな、出来るわけ……」

「すぐ先です、見て来ては?」

「おい、お前見て来いよ」

「やだよ嘘だったら……」

「嘘つく理由がねえ! じゃお前が」

なすりつけ合う男達に惣一郎が、

「まぁ、どっちでも良いけど先を急ぐので! 橋は落としても意味ないですよ~」

っと、あっさりと去ろうとする。

「ちょ、ちょっとまって下さい! すぐ見て来ますので!」

馬に乗り男は、確認へ走る。

その間惣一郎は、この先コマロまでの道のりを聞く。

森を出た所に集落があり、その先馬で一日の距離との事。

この男達が住む集落は、森の中で採れる木の実[ナナヤツの実]で作る酒が絶品だという。

惣一郎は興味を惹かれる。

すると馬に乗った男が、毛を逆立て慌てた様子で戻って来る。

「グルピーだ! グルピーが追って来るぞ!」

男の後ろを、大きな熊の魔獣が追いかけて来ていた。

惣一郎はククリ刀を出し、腰の小刀に手を伸ばすベンゾウの肩をポンと叩く。

回り始めた円盤は、シュっとカーブを描き、男の背後のグルピーを仕留め、前にズズズーっと滑り動きを止める。

熊の後頭部から胸元を貫通した円盤は旋回して惣一郎の元へ帰ってくる。

見ていた男達は、驚き目を見開く。

馬の男はまだ追って来ると思い、惣一郎達を通り過ぎてから気付く。

ベンゾウがマジックバッグに熊を回収に向かうと、馬の男がゆっくり戻って来る。

「何が…… あったんだ……」





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