52 / 53
第二章 汐里と亮太
第22話 舞台裏
しおりを挟む
気がつくと、僕の体はふわふわと宙に浮いていた。
『あれ? おかしいな……僕、自転車を押して横断歩道を渡ってたはずなのに……あれ? あの人……お父さんだ』
下を見ると、動かないもう一人の僕を抱きかかえて、泣き叫んでいるお父さんが見える。
『お父さん泣かないで! 僕はここにいるよ!』
慌ててお父さんに近づこうとした僕の肩を、誰かの手が優しく抑えた。
『お母さん?』
振り返ると、久しぶりに見るお母さんがにこにこ笑って立っていた。
『随分早くこっちに来ちゃたのね、亮一』
ギュッと抱きつく僕の頭を撫でて、お母さんは残念そうに言った。
『亮太のこと……可愛がってくれてありがとう……本当、いいお兄ちゃんだった……でっかい花丸だよ』
『うん……ねぇお母さん、僕はもう、亮太やおじいちゃん達に会えないの?』
僕はお母さんを見上げて聞いてみた。
『そうね……きっといつかは会えるけれど、しばらくの間は無理ね……傍にいることはできても、私達の姿は亮太達からは見えないのよ』
『そっか……そうなんだ……』
途端に、僕は亮太が心配でたまらなくなった。
亮太はまだ小学校に入ったばかりだ。
亮太は優しくて大人しいから、嫌なヤツに意地悪とかされるかもしれない。
僕が守ってあげなくっちゃ!
『そっか……やっぱり亮一は、亮太のお兄ちゃんね』
お母さんはまた僕の頭を撫でて、にっこりと笑った。
あれから、どのくらいの時間がたったんだろう。
亮太はすっかり僕の背を追い越して、立派な大人になった。
今は、おじいちゃん達と離れて一人暮らしをしている。大きくなっても、亮太は相変わらず真面目で大人しい。
『うーん、これで素敵なお姉さんが亮太と一緒にいてくれたら、最高なんだけどなあ……』
僕は、コンビニのグリーンの制服を着て黙々と品出しをしている亮太を眺めながら考えていた。
ぼたり、亮太の手からパンが滑り落ちる。
「はい」
屈み込みこもうとする亮太より先にパンを手にしたお姉さんが、にこりと笑ってそこに立っていた。
あ、この人だ。
僕は直感した。
「すみません」
亮太は視線も合わせずにぼそりと言って、パンを受け取った。
うーん……これは……僕が背中を押さないと、なにも進展しないような気がする!
僕がやきもきして日々を過ごしているうちに、チャンスはやってきた。
その日、深夜のコンビニにはお客さんが一人もいなかった。
そこへ、僕が目をつけているあのお姉さんが、らしくない暗い表情で店に入ってきた。
『これは! チャンスだ! 亮太、あのかわいいお姉さんに話しかけるんだ!!』
僕は大きくなった亮太の背中を、思いっきりばしんと叩いた。
「これ……全部自分用ですか?」
よし、よく言った! バンザイ!
あれ? なんかお姉さんが変な顔してるぞ……おかしいな……
「今日……誕生日ですよね……20歳の……初めてお酒を飲むのに、この度数をこの量は危険です」
そ、そうだよ……飲み過ぎはよくないよ……うちのお父さんみたいになっちゃうよ……
「あと、このスイーツの量も……一度に採ると……」
「ああ、もう、うるさいわね!!」
わあ! お姉さんが怒っちゃった! どうしよう……ってあれ? 亮太、どこに行くの? あ、あれは亮太が好きなプリンじゃん……美味しいんだよね、カラメルソースがほろ苦くてさ……僕も大好き!
「これ、俺のオススメです。賞味期限がもうすぐきれるから、誕生日プレゼントです」
なんだって⁉ 誕生日プレゼント⁉ ナイスアイディアだよ亮太!!
あれ? お姉さんの表情がなんだか微妙にイラッとしているような……なんで?
「おめでとうございます」
「うっ……」
あっ……お姉さん……泣いちゃった……
なんか、かわいそう……亮太は慰め……ないのか……まあ、黙って泣き止むのを待つのも悪くないよ、うん。多分ね。
「どうぞ」
うんうん、ここですかさず気遣いのBOXティッシュ。いいよ、亮太にしちゃ上出来だよ!
あ……お姉さん、なんか逃げるようにして行っちゃった……まあ、いっか……
これからが勝負だよ、これからが。
頑張れ、亮太!
『あれ? おかしいな……僕、自転車を押して横断歩道を渡ってたはずなのに……あれ? あの人……お父さんだ』
下を見ると、動かないもう一人の僕を抱きかかえて、泣き叫んでいるお父さんが見える。
『お父さん泣かないで! 僕はここにいるよ!』
慌ててお父さんに近づこうとした僕の肩を、誰かの手が優しく抑えた。
『お母さん?』
振り返ると、久しぶりに見るお母さんがにこにこ笑って立っていた。
『随分早くこっちに来ちゃたのね、亮一』
ギュッと抱きつく僕の頭を撫でて、お母さんは残念そうに言った。
『亮太のこと……可愛がってくれてありがとう……本当、いいお兄ちゃんだった……でっかい花丸だよ』
『うん……ねぇお母さん、僕はもう、亮太やおじいちゃん達に会えないの?』
僕はお母さんを見上げて聞いてみた。
『そうね……きっといつかは会えるけれど、しばらくの間は無理ね……傍にいることはできても、私達の姿は亮太達からは見えないのよ』
『そっか……そうなんだ……』
途端に、僕は亮太が心配でたまらなくなった。
亮太はまだ小学校に入ったばかりだ。
亮太は優しくて大人しいから、嫌なヤツに意地悪とかされるかもしれない。
僕が守ってあげなくっちゃ!
『そっか……やっぱり亮一は、亮太のお兄ちゃんね』
お母さんはまた僕の頭を撫でて、にっこりと笑った。
あれから、どのくらいの時間がたったんだろう。
亮太はすっかり僕の背を追い越して、立派な大人になった。
今は、おじいちゃん達と離れて一人暮らしをしている。大きくなっても、亮太は相変わらず真面目で大人しい。
『うーん、これで素敵なお姉さんが亮太と一緒にいてくれたら、最高なんだけどなあ……』
僕は、コンビニのグリーンの制服を着て黙々と品出しをしている亮太を眺めながら考えていた。
ぼたり、亮太の手からパンが滑り落ちる。
「はい」
屈み込みこもうとする亮太より先にパンを手にしたお姉さんが、にこりと笑ってそこに立っていた。
あ、この人だ。
僕は直感した。
「すみません」
亮太は視線も合わせずにぼそりと言って、パンを受け取った。
うーん……これは……僕が背中を押さないと、なにも進展しないような気がする!
僕がやきもきして日々を過ごしているうちに、チャンスはやってきた。
その日、深夜のコンビニにはお客さんが一人もいなかった。
そこへ、僕が目をつけているあのお姉さんが、らしくない暗い表情で店に入ってきた。
『これは! チャンスだ! 亮太、あのかわいいお姉さんに話しかけるんだ!!』
僕は大きくなった亮太の背中を、思いっきりばしんと叩いた。
「これ……全部自分用ですか?」
よし、よく言った! バンザイ!
あれ? なんかお姉さんが変な顔してるぞ……おかしいな……
「今日……誕生日ですよね……20歳の……初めてお酒を飲むのに、この度数をこの量は危険です」
そ、そうだよ……飲み過ぎはよくないよ……うちのお父さんみたいになっちゃうよ……
「あと、このスイーツの量も……一度に採ると……」
「ああ、もう、うるさいわね!!」
わあ! お姉さんが怒っちゃった! どうしよう……ってあれ? 亮太、どこに行くの? あ、あれは亮太が好きなプリンじゃん……美味しいんだよね、カラメルソースがほろ苦くてさ……僕も大好き!
「これ、俺のオススメです。賞味期限がもうすぐきれるから、誕生日プレゼントです」
なんだって⁉ 誕生日プレゼント⁉ ナイスアイディアだよ亮太!!
あれ? お姉さんの表情がなんだか微妙にイラッとしているような……なんで?
「おめでとうございます」
「うっ……」
あっ……お姉さん……泣いちゃった……
なんか、かわいそう……亮太は慰め……ないのか……まあ、黙って泣き止むのを待つのも悪くないよ、うん。多分ね。
「どうぞ」
うんうん、ここですかさず気遣いのBOXティッシュ。いいよ、亮太にしちゃ上出来だよ!
あ……お姉さん、なんか逃げるようにして行っちゃった……まあ、いっか……
これからが勝負だよ、これからが。
頑張れ、亮太!
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる