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第35話 突然の来訪者に狼狽える校長の奥さん
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二人の娘がまだ小さかったあの頃が、一番幸せだった。
もちろん、子育てはいいことばかりではない。
病気や怪我などすればとても心配したし、思春期の頃は異性間の関わりにも気を揉んだ。
彼女たちが母親になった今でさえ、いつも心の何処かで心配している。
対して夫には……正直、自分の気持ちがよくわからないままでいる。
私に対する情が薄れていると感じ始めたのは、いつからだった?
歩き続けていると、自然にすり減っていく靴底のように、ゆっくりと徐々に減っていったのだろうか?
私の知らない間に。
なにかを共有する、というのは大事なことなのかもしれない、と今さらながら思う。
娘二人が家からいなくなり、食事をとるのも寝る場所も今では別々になってしまった。
気づいてしまった心の虚しさを埋めたくて、私は三上さんと関係を持ち続けてしまったけれど、ここに来て思うことがある。
私の穴は、望み通り埋まったのか?
かつて夫と共に誓った、喜びだけじゃなく悲しみも苦しみも分かち合おう、という思い。
その頃の満たされた気持ちを取り戻したい……私は三上さんと関わりながら、ずっとそう願っていたような気がする。
そして、私は気がついたのだ。
それは、絶対に不可能であると。
ピンポーンと間延びした音が聞こえてきたのは、ちょうど下の娘が送ってくれた孫の写真を眺めていた時だった。
平日の昼下がり。空には穏やかな晴れ間が広がっている。そんな日だ。
写真の中の、まだ一歳にもならない小さな子を抱く娘の笑顔。
その姿がかつての自分のものと重なって、私は複雑な思いを胸に抱いていた。
ピンポーン、と再び鳴るインターホン。
私は写真をキャビネットの引出しにしまい込んだ。
『どちら様ですか?』
モニター越しにインターホンを鳴らした相手を確認する。
親子だろうか……モニターに映った予定にない来訪者は、二人の女性だった。
『突然伺ってしまい、申し訳ありません。私、A高校の元養護教諭の東條と申します』
A高校……夫が校長をしている高校だ。
養護教諭ということは保健室の先生か……元というのだから今は違うのだろう。
『あの……どのようなご用件でしょうか? 主人は学校におりますが』
それは、相手もよく知っている筈だ。
それなのにわざわざ家に来たということは、夫ではなく私に用があるのだろう。
かすかに、嫌な予感が私の胸をよぎる。
『四年前に、A高校の保護者の方が行方不明になっている事件……ご存知ですよね?』
突然切り出された問に、胸がざわついた。
知っている。
忘れたことなど、今まで一度もない。
ボランティアの方々に混じって、私も町中で尋ね人のチラシを配ったんだもの。
私は玄関に向かって足早に歩いた。
もちろん、子育てはいいことばかりではない。
病気や怪我などすればとても心配したし、思春期の頃は異性間の関わりにも気を揉んだ。
彼女たちが母親になった今でさえ、いつも心の何処かで心配している。
対して夫には……正直、自分の気持ちがよくわからないままでいる。
私に対する情が薄れていると感じ始めたのは、いつからだった?
歩き続けていると、自然にすり減っていく靴底のように、ゆっくりと徐々に減っていったのだろうか?
私の知らない間に。
なにかを共有する、というのは大事なことなのかもしれない、と今さらながら思う。
娘二人が家からいなくなり、食事をとるのも寝る場所も今では別々になってしまった。
気づいてしまった心の虚しさを埋めたくて、私は三上さんと関係を持ち続けてしまったけれど、ここに来て思うことがある。
私の穴は、望み通り埋まったのか?
かつて夫と共に誓った、喜びだけじゃなく悲しみも苦しみも分かち合おう、という思い。
その頃の満たされた気持ちを取り戻したい……私は三上さんと関わりながら、ずっとそう願っていたような気がする。
そして、私は気がついたのだ。
それは、絶対に不可能であると。
ピンポーンと間延びした音が聞こえてきたのは、ちょうど下の娘が送ってくれた孫の写真を眺めていた時だった。
平日の昼下がり。空には穏やかな晴れ間が広がっている。そんな日だ。
写真の中の、まだ一歳にもならない小さな子を抱く娘の笑顔。
その姿がかつての自分のものと重なって、私は複雑な思いを胸に抱いていた。
ピンポーン、と再び鳴るインターホン。
私は写真をキャビネットの引出しにしまい込んだ。
『どちら様ですか?』
モニター越しにインターホンを鳴らした相手を確認する。
親子だろうか……モニターに映った予定にない来訪者は、二人の女性だった。
『突然伺ってしまい、申し訳ありません。私、A高校の元養護教諭の東條と申します』
A高校……夫が校長をしている高校だ。
養護教諭ということは保健室の先生か……元というのだから今は違うのだろう。
『あの……どのようなご用件でしょうか? 主人は学校におりますが』
それは、相手もよく知っている筈だ。
それなのにわざわざ家に来たということは、夫ではなく私に用があるのだろう。
かすかに、嫌な予感が私の胸をよぎる。
『四年前に、A高校の保護者の方が行方不明になっている事件……ご存知ですよね?』
突然切り出された問に、胸がざわついた。
知っている。
忘れたことなど、今まで一度もない。
ボランティアの方々に混じって、私も町中で尋ね人のチラシを配ったんだもの。
私は玄関に向かって足早に歩いた。
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