異世界に転生したので婚約破棄してスローライフを楽しみます

ゆらぎ

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その日はいつもと変わらない1日になるはずだった。

自分の日常はひどく退屈だ。
何人もの家庭教師が代わる代わる訪れ、何時間も拘束される。
貼り付けた笑顔と、あからさまなお世辞を聞きながら受ける授業に飽き飽きしていた。
繰り返される毎日に嫌気がさし、魔法学の授業を抜け出していた。

ただ代わり映えのない毎日から逃げ出したいだけだった。
1人で遠くに行ける訳もなく、授業から逃げ出したのもこれが初めてだったため人の目を避けるように庭園の奥に進んだ。
辿り着いたのは王族専用の菜園だった。
ここには特殊な結界が貼ってあり、王家の血が入っている者と許可を与えられた者にしか辿り着けないようになっている。
毒殺防止のためらしいが、魔法が発展した今では毒殺はまずないのでほとんど意味を成していなかった。
だけど隠れるには最適な場所で、我ながらいい場所を選んだと思った。

しばらく歩いた後に、りんごの木の影に腰を下ろした。
日陰になっているが暗過ぎず、風が吹いて気持ちがいい場所だ。
今までの燻っていた気持ちが落ち着くと途端に自分が幼稚に思えた。
早く帰り先生には謝るべきなのだろうが、あの貼り付けた顔を思い出すと帰る気にはなれなかった。

静かな場所で葛藤していると突然、プラチナブロンドが目に入った。
驚きながらも、少し遠くにいるその人に気づかれないようゆっくりと立ち上がった。
見覚えのないその人は自分と同じくらいの少女だった。
自分とは違った色味の金色の髪とスカイブルーの目が幻想的で目が離せなかった。
(、、、妖精みたいだ。)

現実離れした容姿の少女はあまりにも綺麗で無意識のうちに声をかけていた。

「きみ、誰だ?」

咄嗟に出た言葉はお世辞にも愛想のいいものでは無かった。
だけどそんなこと気にしたそぶりも見せない少女はにこやかに自分の名前を言った。
リーナと名乗ったその少女に名前を聞かれ、本名は伝えずに自分の愛称教えた。
この子と友達になりたくて、自分が何者なのか知られたく無かった。

「そう、レイもお父様のお仕事についてきたの?」
自分がここに住んでいるなど言えるわけもなく適当な返事をし、深掘りされる前に無理矢理話を変えた。

「それよりリーナはどうしてここにいるの?」
(この菜園に入れるということは公爵家の令嬢だろうか?)
そんなことを考えながら話を聞いていると、どうやら庭園で迷ってしまったようだった。
もっとこの少女と一緒にいたくて、温室内の案内を買ってでた。

温室の中を一つ一つ説明するたびに、コロコロ変わるリーナの表情にこちらまで楽しくなった。
フルーツが好きかと聞くと、リーナは砂糖で煮詰めたり、クッキーに混ぜるのが好きだと言った。
そんな食べ方は聞いたことが無かったのでとても驚いた。
普通この国ではフルーツはそのまま食べるし、クッキーに混ぜるなんて想像もできなかった。
リーナが心底美味しそうな顔をしながら言うので食べてみたくなった。

「僕、そんな食べ方したことないよ」
「そうなの?じゃあ今度私が持ってきてあげる!」
「本当に?」
「えぇ!もちろん。とっても美味しいのよ!」
「君の家の料理人はとても腕がいいんだね」

料理を思い出しただけでここまで彼女を笑顔にするのだ。
素直に思ったことを口にすると、衝撃的な言葉を聞いた。

「実は、、、、私が作るの!」
「君、料理ができるの?」

思わず目を見開いた。
料理をする貴族令嬢など聞いたことが無かったし、お菓子を作れる人などさらに聞いたことが無かった。
この見た目に反した型破りな少女に俄然興味が湧いた。

もっとリーナのことが知りたくて、いくつかフルーツを摘み東屋に移動した。
家族の話や、普段の様子など楽しそうに話す彼女につられ自分も笑顔になるのがわかった。
彼女の話はどれも面白くて、愛に溢れた両親や優しい屋敷の使用人に会ってみたいと思った。
自分の退屈な毎日とはかけ離れた彼女の穏やかでも楽しい日常の話は、自分の鬱憤とした心を晴らした。
面白みのない自分の話も楽しそうに聞いてくれる彼女にまた会いたいと思い、握りしめた手の中で魔力を集中させ、ネックレスを作った。

あっという間に時は過ぎ、お別れの時間が来た。
リーナを庭園まで送り別れの挨拶とお礼を言った。
初めてできた友人にまた会いたいと自分から言うことができなかった。
(彼女はまた自分に会いたいと思ってくれるだろうか)
そんなことを思いながら、再会の約束をどう切り出そうか考えていると彼女の方から次はいつ会えるのかを聞いてくれた。

「レンは次、いつ王城に来るの?」
(良かった、彼女も自分と同じ気持ちだ。)
「うーん、まだわからないからこれをあげる」

そう言って作ったばかりの三日月のネックレスを差し出した。
綺麗なネックレスと言ってくれた彼女に嬉しくなりながら、自分がいるときは月が光るという説明をし再開を約束して彼女と別れた。

自室に戻ると青い顔をした侍従が近寄ってきた。

「殿下!!どこにいらしたのですか?!みんな心配していたんですよ!!」
「すまない、退屈で少し抜け出したんだ。」
「、、、驚きました、殿下でもそのようなことを考える年相応なところがあったんですね。」

侍従のアレクは心底驚いた表情で失礼な物言いをしたので無視をした。
彼は自分の乳母の息子で5歳上の乳兄弟なので今更どうも思わないが他の使用人がいる前では自重してほしい。
しかし迷惑をかけたことには変わりないので、他の使用人にも謝罪をしアレク以外は下がってもらった。

「レイ、王城中大騒ぎだったぞ!
 授業をサボるのはいいけど流石に俺には一言声をかけてくれよ!」
「僕は別にいいとは思っていない。」
アレクの軽口を受け流しながらお茶を飲んだ。

「まぁ、正直良かったよ。君も人間らしいところがあったんだなって気づけて!」
「、、、どういう意味だ?」
「だってレイ、君、一度も授業が嫌だとか弱音を吐いたことなかっただろ。いつか君はこのままじゃストレスで爆発するだろうと思ってた。」
彼は彼なりに自分を心配してくれてたみたいだ。
それがわかり口元が少し緩んだ。

「なんか随分ご機嫌だな?外で何かあったのか?」
「あぁ、面白い子にあった」
「、、、えっ?!どういうことだ?!詳しく聞かせてくれよ!」

自分の予想外の答えに驚きながらも興味津々のアレクを気にせず、リーナの言っていたクッキーを思い出しながらカップに口をつけた。
飲みなれている紅茶はいつもより甘い気がした。


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