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やりたくはない。
しおりを挟む午後からは特になにもすることはなかった。
だが周りを動き回る子ども達を見ているとなにかしなくてはいけないのかと思えてくる。
「騎士様、暇なら手伝って欲しいのがあるの。」
15歳くらいの女の子が私の袖を引いた。
「なにをすればいい?」
引かれるまま着いていくと、とある部屋に着いた。
カタンカタンと布を織る音。ひたすら手元の布に糸を通す者。端には沢山の布があった。
「この部屋で、刺繍してほしいの。元伯爵令嬢なら下手でも少しは出来るでしょう?」
少女は私を見てはっきりと言った。
「ネルラ。本当のこと言っちゃ駄目だよ。真綿に包むように言わないと。」
奥で作業をする少女も酷い言い様だった。
「フリラ、私はだいぶ真綿に包んだわ。」
成る程、口の悪いこの子達は双子で、前髪が右に流れてる肩までの髪の子がネルラ。
前髪が左に流れている髪の短い癖毛がフリラか。
「騎士様。見てわかるようにここは服を作ったり、布を織ったりしているところよ。今日は他の子が別の仕事に行っちゃって刺繍できる子が足りないの。ここの商品は高級品だからある程度は出来なくてはいけないの。でも元伯爵令嬢なら出来るでしょう?」
ネルラは私を無理やり引きずり椅子に強制的に座らせた。
「この布に刺繍してほしいんだ。ユリバラとサルツルチョウの模様で糸はそこの棚。不安だったら手本が三番目の棚の上から五番目の箱にあるから。」
こちらを見ずに布を投げ渡し的確な指示を出すフリラ。
ネルラも既に離れ、仕事を再開させていた。
勿論出来なくはないが得意でもない。私は手本を手にゆっくりと始める。
しばらく無言の時間が続いた。
集中して間違えないようにしていると声をかけられた。
「遅いね。」
「あー!戻って来たなら手伝ってよ。納期がギリギリなのがあるんだ。」
フリラが声を聞きつけ7歳くらいの子に話しかける。
「違うよぅ。姐さんの服を取りに来ただけだよぅ。」
手を降り否定をして、さらに奥の部屋に行き、手に色鮮やかな見事な刺繍の服を持って来た。
「姐さんの仕度が終わったら手伝うよぅ。それまで待ってて。」
走り去る女の子を見ているとネルラに怒られた。
「他のことに気を配れるんだからさぞ素敵な物になっているんですよね。余裕があって良いことだわ。私はそんな余裕ないけど。まぁお客さんに手伝ってくれると甘えた私が悪かったのかしら?」
笑顔で罵るネルラにフリラが肩を震わせた。
「これだよ。ネルラ!真綿に包んだ言い方!」
やったねと笑うふたりだが、それは違うと言いたいが、手元を見て作業を開始する。
あのふたりにはきっと私の声は届かないと思うから。
出来上がっていく物を見て高級品の意味がわかった。
最新のドレスにきれいに染まっている糸。
熟年の針師のような美しい刺繍。
布にも刺繍を施して細長く丸めてある物。
「すごいな。納品と言っていたがこれ程のものどこにだすのだ。」
余りの出来の良さに驚き、品質の高さに金額を恐れた。
とても孤児が作ったとは思えない。
「貴族と城、後は服飾店とか様々だよ。」
ネルラが手元から目を離さずに答える。
型を取り切っていく姿も迷いはない。
「城だと?そんなところにも卸しているのか。」
「シスターはいろんな所に知り合いがいるし、あの人自体が謎だからね。そこに城もあったってだけ。だいたい孤児が宰相やら騎士団長とか普通なれるわけ無いでしょう?ここに王様とかもくるんだよ。」
レースを取り付けながらフリラは笑う。
まるでもうどうしようもないとでも言うように。
王が来る?ここに?何故だ?
「シスターに相談にくるんだよ。どこで戦争が起こるとか、ここの貴族は何をしていたとか。それに駆り出されるのも仕方ないとはいえ面倒だよね。」
「私は何も言ってないが。」
「顔に出てるんだよ。騎士様。」
扉が開きシスターが入ってきた。
「そろそろ終わりよ。ふたりとも?騎士様も本日はありがとうございました。また、機会があれば遊びに来てくださいね。」
話を止められたと思う。
何故かわからないがここからは私には聞かせられないのだろう。
「あぁ、また機会があれば伺おう。」
そんな機会が有るわけはないが、ここで帰らせてもらおう。
知らなくても良いことを知ってしまったよくな感じをしながら孤児院を私は去った。
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