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1章
2.少女と猫 『星霊……。星霊とは何だ』
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猫になっていた。まさに四足歩行の、ふわふわとした毛並みを持つ猫に。
(猫……本当に猫だ。って何でだよ!)
さすがに、驚愕せずにはいられない。
薄らとだが、この姿になる前は人間だった記憶がある。
そこそこ年をとった、さりとてどこにでもいるような人間。
決して、四つ足の獣などではなかったはずだ。前世は。
(そうか、これが転生というやつか)
輪廻転生という言葉は知っているものの、しかし人間以外に生まれ変わる人生は、予想していなかった。
(ま、これで蟻とかミジンコとかだったら嫌だけど、猫だしいっか)
何しろ前世の記憶によれば、猫の仕事は食って寝て、愛でられることくらいだ。
(あーでも、野良はちょっと大変そうかも)
『それにしても……なんで猫だったんだ?』
そうと思っていると、アセリアが、あっと小さく声をあげたのが聞こえた。
『アセリア?』
「……」
ふいっ。
顔を逸らされた。
『んー? アセリアさぁーん?』
にょーんと身体を伸ばし、遠ざかった顔に毛並みを擦り付ける。
うりうりふさふさと押しつけていると、アセリアはついに観念したように、猫の身体を抱き締め、その腹に顔を埋めた。
「ごめんなさい。契約するときに、私が、猫だったらいいなと思いました。だから多分、それで君の姿が固定されてしまったんだと思う」
『やはり、君は猫好きか』
「……姉上が猫を飼っていて、とても可愛いんだ」
『触らせてもらえいなのか?』
「……触りたいけど……。私が好きってばれたら、弱味になるかもしれないから」
『ふむ』
どうやら何かしらの確執が、兄弟の間にあるらしい。
(弱味、ね)
子供らしからぬ言葉だ。猫を吸ってうっとりしている子供の発言には似つかわしくない。
聞きたいことが益々増えたが、今はまずは自分自身のことを整理してしまうべきだろう。
『それで、アセリア。俺が猫の姿で固定? されたのは、俺と君が"契約"を結んだから、という認識でいいんだな?』
「たぶん、そうだと思う。だって君、星霊でしょう?」
『星霊……。星霊とは何だ』
アセリアは、少し驚いた顔をした。
「星霊っていうのは、この世界の魔力が集まって、大いなる意志を持ったものだって言われているよ。現に君は、魔力だまりの中から生まれてきた」
『へえ、そうなのか。……そういえば生まれてすぐ死にそうな感じがしたけど、あれは生みの痛みって奴かな』
ただしくは生まれの痛み、だろうが。
しかしそれを聞いたアセリアは少し口ごもり、言いにくそうにした。
「……あのね、順を追って話していい?」
『ん? いいぞ、どうした』
「……私、ここに来る時にうっかり、崖から落ちたんだ。そしたら、下に魔力だまりがあって。
おかげで怪我はしなくてすんだんだけど、今度は濃すぎる魔力にあてられて、あやうく死にそうになって……」
『ちょ、待った! 色々突っ込みたいだんけど。とりあえず身体は大丈夫なのか?』
肉球で頬を挟んで、顔を覗き込む。
「うん、もう大丈夫」
アセリアは笑って、猫の肉球に頬ずりをする。
「それでね、もう駄目だって思ったんだけど、そのとき君が生まれたおかげで魔力だまりが消えて、私、助かったんだよ。だから君は、私の命の恩人……恩猫だよ」
『へえ……。って恩猫……』
「でも、たぶん、そのせいで君が死にかけることになったんだと思う……」
『えっ』
「私っていう異物が、魔力だまりに入っちゃったせいで、君の誕生が失敗しそうになったんじゃないかなって。
……だから責任感じたっていうか、焦ったっていうか……その、だから……泣いたのは忘れて欲しいっていうか……」
言いながらアセリアは、徐々に頬を赤らめていく。
『はーん。なるほど』
少女のいとけない涙を思い出し、猫はによによとした。
からかってやりたいが、そんなことをしたらきっと、少しばかり素直じゃないこの少女は、またそっぽを向いてしまうだろう。
(うーん、でも俺が死にかかっていたことと、アセリアが魔力だまりに落ちたことはそこまで関係ない気がするんだけどな)
自分は、この世界とは別の人間だ。
それが、魂――意識――だけの状態で、この世界にやってきて、その魔力だまりの意志とやらに宿って星霊になった。
けれど、そのとき、異物が故にうまくこの世界に馴染めずに、死にかけていた。
ただ、それだけという気がする。
(つまり、命の恩人なのはアセリアのほうなのでは?)
あのままでは、猫は死ぬところだった。
しかし、魔力だまりに落ちて、たっぷりと”猫になる予定の魔力”を浴びたアセリアという、"この世界の人間"と、強い結びつき――契約――を得たことで、うまく存在を安定させることに成功した。
そう考えたほうが、納得がいく。
『えーっと』
このことをアセリアに伝えようとしたものの、どう伝えればいいか迷って口ごもる。
説明するためには、まず自分が異世界から来たことを伝えなければならない。
けれど自分にとても懐いてくれているこの少女は、自分が人外の”星霊”であり、猫の姿だからこそ、心を許してくれているような気がする。
(これってもしかて、パスが繋がってるせいだと思うけど、何となく、アセリアの感情がわかるんだよな)
そしてこの少女の心の奥底に、”人”に対する不信感のようなものがたゆたっていることさえも、何となくわかってしまった。
(猫……本当に猫だ。って何でだよ!)
さすがに、驚愕せずにはいられない。
薄らとだが、この姿になる前は人間だった記憶がある。
そこそこ年をとった、さりとてどこにでもいるような人間。
決して、四つ足の獣などではなかったはずだ。前世は。
(そうか、これが転生というやつか)
輪廻転生という言葉は知っているものの、しかし人間以外に生まれ変わる人生は、予想していなかった。
(ま、これで蟻とかミジンコとかだったら嫌だけど、猫だしいっか)
何しろ前世の記憶によれば、猫の仕事は食って寝て、愛でられることくらいだ。
(あーでも、野良はちょっと大変そうかも)
『それにしても……なんで猫だったんだ?』
そうと思っていると、アセリアが、あっと小さく声をあげたのが聞こえた。
『アセリア?』
「……」
ふいっ。
顔を逸らされた。
『んー? アセリアさぁーん?』
にょーんと身体を伸ばし、遠ざかった顔に毛並みを擦り付ける。
うりうりふさふさと押しつけていると、アセリアはついに観念したように、猫の身体を抱き締め、その腹に顔を埋めた。
「ごめんなさい。契約するときに、私が、猫だったらいいなと思いました。だから多分、それで君の姿が固定されてしまったんだと思う」
『やはり、君は猫好きか』
「……姉上が猫を飼っていて、とても可愛いんだ」
『触らせてもらえいなのか?』
「……触りたいけど……。私が好きってばれたら、弱味になるかもしれないから」
『ふむ』
どうやら何かしらの確執が、兄弟の間にあるらしい。
(弱味、ね)
子供らしからぬ言葉だ。猫を吸ってうっとりしている子供の発言には似つかわしくない。
聞きたいことが益々増えたが、今はまずは自分自身のことを整理してしまうべきだろう。
『それで、アセリア。俺が猫の姿で固定? されたのは、俺と君が"契約"を結んだから、という認識でいいんだな?』
「たぶん、そうだと思う。だって君、星霊でしょう?」
『星霊……。星霊とは何だ』
アセリアは、少し驚いた顔をした。
「星霊っていうのは、この世界の魔力が集まって、大いなる意志を持ったものだって言われているよ。現に君は、魔力だまりの中から生まれてきた」
『へえ、そうなのか。……そういえば生まれてすぐ死にそうな感じがしたけど、あれは生みの痛みって奴かな』
ただしくは生まれの痛み、だろうが。
しかしそれを聞いたアセリアは少し口ごもり、言いにくそうにした。
「……あのね、順を追って話していい?」
『ん? いいぞ、どうした』
「……私、ここに来る時にうっかり、崖から落ちたんだ。そしたら、下に魔力だまりがあって。
おかげで怪我はしなくてすんだんだけど、今度は濃すぎる魔力にあてられて、あやうく死にそうになって……」
『ちょ、待った! 色々突っ込みたいだんけど。とりあえず身体は大丈夫なのか?』
肉球で頬を挟んで、顔を覗き込む。
「うん、もう大丈夫」
アセリアは笑って、猫の肉球に頬ずりをする。
「それでね、もう駄目だって思ったんだけど、そのとき君が生まれたおかげで魔力だまりが消えて、私、助かったんだよ。だから君は、私の命の恩人……恩猫だよ」
『へえ……。って恩猫……』
「でも、たぶん、そのせいで君が死にかけることになったんだと思う……」
『えっ』
「私っていう異物が、魔力だまりに入っちゃったせいで、君の誕生が失敗しそうになったんじゃないかなって。
……だから責任感じたっていうか、焦ったっていうか……その、だから……泣いたのは忘れて欲しいっていうか……」
言いながらアセリアは、徐々に頬を赤らめていく。
『はーん。なるほど』
少女のいとけない涙を思い出し、猫はによによとした。
からかってやりたいが、そんなことをしたらきっと、少しばかり素直じゃないこの少女は、またそっぽを向いてしまうだろう。
(うーん、でも俺が死にかかっていたことと、アセリアが魔力だまりに落ちたことはそこまで関係ない気がするんだけどな)
自分は、この世界とは別の人間だ。
それが、魂――意識――だけの状態で、この世界にやってきて、その魔力だまりの意志とやらに宿って星霊になった。
けれど、そのとき、異物が故にうまくこの世界に馴染めずに、死にかけていた。
ただ、それだけという気がする。
(つまり、命の恩人なのはアセリアのほうなのでは?)
あのままでは、猫は死ぬところだった。
しかし、魔力だまりに落ちて、たっぷりと”猫になる予定の魔力”を浴びたアセリアという、"この世界の人間"と、強い結びつき――契約――を得たことで、うまく存在を安定させることに成功した。
そう考えたほうが、納得がいく。
『えーっと』
このことをアセリアに伝えようとしたものの、どう伝えればいいか迷って口ごもる。
説明するためには、まず自分が異世界から来たことを伝えなければならない。
けれど自分にとても懐いてくれているこの少女は、自分が人外の”星霊”であり、猫の姿だからこそ、心を許してくれているような気がする。
(これってもしかて、パスが繋がってるせいだと思うけど、何となく、アセリアの感情がわかるんだよな)
そしてこの少女の心の奥底に、”人”に対する不信感のようなものがたゆたっていることさえも、何となくわかってしまった。
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