仕事やめても……いいですか……?

キュー

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黒の章

黒の子 7

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  頭に響く叫びにも似た声。
『誰か!助けて!ベルタを助けて!!』
その声にいち早く動いた者がいた。

  クロードとハンスはベルタを助けるために草をかき分け、真っ直ぐ進む。
「ひぃぃ」
少年の恐怖に泣き叫ぶ声を聞きつけ、クロード足を早めた。
  太い大きな木の根元に大きな灰色狼の背中が見えた。
「や…た…たす…けて…」
狼と太い幹の間にいる震えながら身体を縮める彼に近づき、なぶるように前肢で右に左に引っかけるように転がす。
「ぁ……ぁ……」
その度に力なく悲鳴をあげ、泣き続けるベルタの身体中に引っ掻き傷はあるものの、致命傷になるようなものは見えなかった。だが、獣の鋭い爪がいつまでも遊んでいるはずがない。強者と弱者。捕食者と被食者。明確な力の差は覆らない……はずだった……
「ベルタ!」
クロードの声が響く。
遊びに夢中になっていたところに、突然の来訪者。驚いたのは灰色狼の方だった。クロードが近づいたのが風下だったためか、目の前の遊びを楽しんでいたためか、灰色狼は声を掛けられるまで気づかず、その小さな人の子にを感じて即座に全身の毛が逆立ち、唸り声をあげる。
「クロード、待ってよ……」
遅れて到着したハンスの声を合図に、狼はベルタの肩に噛みつき、獲物を持って去ろうと方向を変えた。
「待て!」
その一瞬の間に、クロードが飛びかかり、いつの間にか手に持っていたナイフを突き立てた。
  ギャンっと声をあげた狼の口からベルタが落ちる。慌ててクロードを振り落とし、牙を今度はクロードに向ける。
「ベルタ!」
呼び掛けるが、返事がない。
「ハンス、ベルタを頼む!」
ハンスはわかった、と返事をしたものの、狼とベルタの距離が近すぎて近づけない。
  狼がじりじりとクロードに近づく。クロードはじわりと下がり、距離を取ろうと移動する。狼がチラリとベルタを見、ハンスをみた。
「バカ狼!こっちだ!」
クロードは考える。狼が三人の中で一番捕らえやすいのは傷を負ったベルタだ。しかし、ベルタを取りに行くと、距離の近い俺から攻撃を受ける。ならば狼は一飛びして新しく来たハンスを狙うか……?そうはさせない。
  クロードが声を出して注意をひく。
  だが、狼はクロードの予想以上に俊敏で跳躍力があった。
「うわっ!」
すぐ目の前に飛びかかる巨体に小さなナイフは弾かれて手から離れてしまった。
  後ろに飛び、下がりながら、腰のポーチを引き剥がし振り回す。だが、そんな微々たる攻撃は堪えず大きな口がクロードに近づく。
「ハンス!ベルタは?」
クロードの声にハンスはようやくベルタの元へ駆け寄り、顔を叩く。
「だめだ!起きないよ!血もいっぱい出てるよ!」
クロードは叫んだ。
「『誰か!助けて!ベルタを助けて!!』」
同時に狼の牙がクロードの腕に突き刺さった。突風が吹き、木々が風を受け大きく傾いだ。
  一瞬でクロードを中心に地面の草木が飛び散り、すぐそばに黒い人が立っていた。


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