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キュー

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黒の章

黒の子24

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「すまない…大丈夫か?君は?」
仰向けになり、馬の鼻先にぐいぐい押されて起き上がれなかったハンスは、男に助け起こされ声を掛けられた。
「あ、ありがとうございます。俺はイークの友人のハンスです。馬を一頭お借りしようと……」
「ああ、イークの……聞いているよ、どの子にする?あの栗毛のスタンプはどう?」
彼はここで馬の世話をしているという。すぐ近くで草をはんでいた栗毛色に白く斑点模様を指差した。
「どの子も扱い易くて良い子だよ。こら、落ち着けグリーン!」
ニコニコ話す彼の後ろでふんがふんがと鼻を鳴らして興奮する黒い牝馬。その黒い馬を押し戻そうと、両手を広げ通せんぼする。
「はあ…後ろの子はどうかしたんですか?凄く興奮しているようですが。」
「こら……この子が人に興味持つのは珍しいんだ…いつもは知らない人が来ると厩舎に籠るのに……まて……」
「君、元気だね。」
ハンスがニコリと笑いかけると、急に静かになった。
「おや?ホントに珍しい。グリーン?どうした?」
「ヒン!」
「彼?乗ってほしいの?」
馬と話が出来るかのように、呼び掛ける。不思議なことに、グリーンと呼ばれた黒い牝馬は首を上下し、頷いているように見えた。
「気に入った人しか乗せない彼女が乗って、って言ってる。試してみて。」
ハンスの目の前までゆっくり移動して、ピタリと止まった。
「よろしくね。」
ハンスは首を撫でた。鞍を付け跨がった瞬間感じたものは、得も言われぬ一体感であった。ようやく出会えた事に、胸の奥から喜びが込み上げる。
「行こうか。グリーン。」
ハンスとグリーンは風のように駆け抜けた。

  先日クロードを追った道を再び辿る。
  何の指示も出していないのに、何故かグリーンがスピードを落とす。
「グリーン、この辺に何かあるのか?」
  ハンスはさらにスピードを落として立ち止まり、ゆっくり周りを見る。道はまっすぐで、変わった様子はない。
「気のせいかな…」
グリーンが鼻を鳴らして、先に進もう、と歩き出した。
「うん。行こう。」
しばらくグリーンは常歩でゆったり進む。
「?」
ほんの少しの違和感。以前通った道と何処が違うのか、ハッキリわからないが何かが違う。
「あれは何だろうね。」
遠くに建物が見えた。初めて見る建物。
「グリーン!急ごう!」


  クロードの両手首には冷たい金属の枷があった。両方の手首の枷と枷を繋ぐものは今はない。部屋に鍵は掛かっていないし、自由に歩き回る事も出来る。だが、部屋を出る事が出来なかった。
  深くため息をつくと、ベッドに寝転がった。
「ワンツ先輩の言う通りに、さっさと帰っとけば良かったなー」
フールワンツが何度も帰れと言っていたのに、シルバーアール隊長の少しだけ…に、騙されてしまった。

「あ、隊長…でも今日は帰ります…」
「いや、少しだけ、新作の魔装具のつけ心地の感想を…な?これなんだが、こうやってつけるんだが。」
隊長は自分の左手に付けて見せた。
「このリモコンで解除ができる。」
そう言ってボタンを押すと手首の金属の枷が簡単に外れる。
「ワンツ君に協力してもらうつもりだったが、招集じゃあ、しょうがない。クロード君にちょっとだけ感想を聞かせてもらいたいんだ。」
お願い、という風に、両手を合わせる。隊長のお願いポーズに、少しだけですよ……とクロードは頷いてしまった。

「隊長痛いです……」
「どうだ?」
「まだ、きつい……」
「これでどう?…」
「あ、いいかも……」
「これにはどんな機能が?」
「魔力を制限する手枷だよ。魔力のある犯罪者を拘束するために……どう?抜けられそうかい?」
「そうですね、抜けられないし、力が入りませんね……でも、両手は自由に動きますし、これでは拘束は出来ませんよ。」
「遠話は?」
「無理です。」
「うん。よしよし、しばらく付けてて。」
「え?このままですか?」
「そう。」
「いや、待ってください、少しって言いましたよね。」
「だって、そういわないとやってくれないだろ?」
「隊長、そのリモコン下さい!」
「やだよ。」
そう言ってクロードの手をひらりとかわす。
「あっ!」
両手の枷が引き合って、ぴたりとくっついてしまった。思うように動けない。
「隊長~!」
「少しは抵抗してもいいからね。簡単に壊れちゃうようなら、使えないから。」
「せめて、両手を使えるようにして下さい!これじゃあ用も足せない……」
「う~ん、そうだね、わかった。腕は自由にしてあげるよ。」
腕が自由になり、もう一度隙を狙って隊長のリモコンを奪おうと手を伸ばす。
「諦めてないのか……」
隊長の目が赤に染まった。
「言うこと聞いてほしいな。ちゃんと言う事聞いてくれたら、ご褒美あげるからね。」
クロードが隊長の赤く光る目見ていると、手首の金属の事とか、魔力が使えない事とか、ここから出られない事とか、些細なことのように思えてきた。
「じゃあ、また後で様子を見にくるよ。」

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