仕事やめても……いいですか……?

キュー

文字の大きさ
101 / 159
黒の章

黒の子 23

しおりを挟む
「キース教官!」
イークが先導する教官に声を掛けた。
「委員長、そのまま進めて。」
教官から、指示を受けた委員長がクラスを率いて先に進んでいった。
「イーク、どうした?」
「はい、ハンスの体調が悪い様なので、寮に連れて帰っていいですか?」
教官が、馬を止め下を向くハンス目をやった。
「ハンス、今日は休め。救護室に報告な。」
「は…い…」
「寮に帰り着くまで付き添っていいですか?」
「ああ、頼む。イークはそのまま自習な。後で報告書を…」
「はい。では、行きます。」
イークはハンスに駆け寄り声を掛けた。それを確認した教官は馬を返して隊列を追った。

「ハンス、寮の近くに兄貴がやってる店がある。そこに馬を借りに行くぞ。」
「え?このまま行こうと思っていたのに…」
「ばか、お前も馬も寮に戻らなかったら、すぐに、バレるだろうが、俺が馬を返して救護室にも上手く伝えておくから、クロードが見つからなくても、夜までには戻れよ?兄貴に言っとくから、寮まで送ってもらえ。」
「わかった。でも……」
寮の近くにイークの兄の何でも屋がある。ハンスが何でも屋って何するところ?って聞いたら、困り事の解決を手伝ってくれる、便利屋さんなんだって、とイークが答えた。引っ越しの手伝いや、家庭教師、夕飯の献立レシピに浮気調査。暇潰しの話し相手だって依頼すればやってくれる。本当に何でもあり。頭が良く器用で話上手で街中に知り合いがいる。数多くの依頼の全てをイークの兄がこなしている訳ではなく、助言をしたり必要に応じて人を紹介したり、解決に導くという。まあ、頼み事が満足のゆく結果にならなかったとしても、依頼人に恨まれることがないのは、彼の人柄ゆえであろう。どんな依頼でも出来る限り請け負う彼が、ただ一つ即座に断ったのが、彼に伴侶になって、という妙齢の女性のお願いだったという。しかしその女性にも、仕切り好きのマアサばあさんを紹介し、見合い相手を探させ、結婚まで持っていったという。
「兄貴を巻き込んでもいいの?」
「いいよ。秘密は守ってくれるし、ハンスが知らないだけで、結構学校の関係者も利用してるんだ。」
「教官とかも?」
「ああ。兄貴にこっそり聞いている。」

「ああ、イークか、馬ね、厩舎に行ってどの子でも連れていっていいよ。誰かいるから……ただ、グリーンだけは、気難しいからオススメしないね。」
「わかった、ありがとう。じゃ、俺は寮に戻るから。兄貴後は任せた。」
「ハイハイ。任しとき。」
イークがハンスの馬を連れて行くのを見送って、ハンスは店の裏手に回った。
馬の運動場には気持ち良さそうに何頭かの大小様々な馬達が散歩していた。
「まあ、近くにいるこいつに……」
と、近寄ろうとしたら……
「まて、どうした、グリーン!」
離れた厩舎から声が聞こえてきた。同時に、一頭の黒い馬がハンスの方に駆けて来るのが見えた。
  あっという間にハンスの視界は黒一色になった。
「うぉ!やめ!おぉぉ!」
  いきなりハンスに体を寄せ鼻を頭に擦りつける。その勢いに押され、尻餅をついたハンスに、更に鼻を押し付け、くんくんと匂いを嗅ぎ、ベロンと舐める。訳がわからず、目の前の馬に転がされるハンス。そこへ、遅れて走ってきた男が叫ぶ。
「グリーン!まて!」
  それが彼女とハンスの出会いであった。


  少し時は戻って、ハンスがクロードの尾行に失敗した日の夜……クロードはシルバーアールと魔装具の改良に頭を悩ませていた。

  一泊し、翌日もフールワンツと遠話の練習をする予定だったが、フールワンツに招集の連絡が入った。
「すまん、クロード、俺はすぐに、出なければならない。君は今日はもう帰るように。」
「でも、外泊届けを…」
「予定変更だ。今日は帰れ。明日は休みだ。いいな?俺は先に出るが、君も寮に…」
「はい。わかりました。」
「すぐに、出るんだぞ。」
  フールワンツは念を押して、あわただしく出て行く。クロードも帰る支度を始めた。
「……クロード、少しだけ、手伝いをお願いしたいんだが…」
シルバーアールがドアをちょこっと開けて顔を覗かせた。
「あ、隊長…でも今日は帰り…」
「いや、少しだけ、新作の魔装具のつけ心地の感想を…な?」
お願い、という風に、両手を合わせて、隊長のお願いポーズに、少しだけですよ……とクロードが頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...