公爵家子息は、獣人王弟の番いとなりて愛を知る

gari@七柚カリン

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第21話 新たな関係

「う~ん……」

 カーテンの隙間から漏れ出る朝日を受け、ジョアンは目を覚ます。
 
(体中が重くてだるい……)

 ボーっとしかけて、すぐに昨夜のことを思い出す。
 一瞬で顔が耳まで赤くなったのがわかる。
 チラリと隣に視線を送ると、さらりとした銀髪が視界に映りこむ。
 相変わらず主は寝起きが悪いようだが、今はそれが有り難い。
 
 火照る顔を両手で覆い、一度冷静になって昨夜の自分を振り返る。

 まるで、ジョアンの中に別人格が現れたようだった。
 自分のようで自分ではない者。
 そう思えるほどジョアンはデクスターを激しく求め、嬌声を発し乱れた。
 そんな自分に、彼は優しく応えてくれた。
 自分にあんな一面があったことを、ジョアンは初めて認識したのだった。

 こんな状態では、とても顔を合わせられない。
 床に散らばっている服をかき集めて、早々に自室へ退散したい。
 少し時間をおいてから、何食わぬ顔で朝の挨拶をしよう。
 そうと決まれば、即行動をおこすのみ。
 デクスターを起こさないよう、静かに寝台から降りようとしたジョアンの腕が掴まれる。そのまま元の場所に戻された。

「……番いは、ずっと傍にいるのが当たり前だ。勝手に、俺の傍から離れるな」

「ずっと傍に居るって、皆さんは違いましたよ?」

 家令だって執事だって侍女頭だって、仕事中は一人だったと事実を述べたら、デクスターは「フン!」と鼻を鳴らした。

「獣人の男は、強引で、諦めが悪くて、さらに独占欲が強いんだ」

「どんどん単語が増えているような気がしますが……」

「これからもっと増えていくから、覚悟しておけ」

 思い返してみれば、誕生日パーティーのときの国王も王妃にべったりだった。
 これが、獣人男性全体に当てはまるのか、この兄弟だけなのかは不明だが。

「ふふふ、わかりました。覚悟しておきます」

 ジョアンは、デクスターの胸の中に再び閉じ込められる。
 顔中に、口づけの雨を降らされた。

「その……もうしっかりとした印が付きましたので、当分の間は仕事中に印を付ける必要はありませんね?」 

「何を言っている。口づけは俺の愛情表現の一つだからな、これからも続くぞ。そもそも、早い段階で義務的なものではなくなっていたが……」

 鈍感な誰かさんは全く気づいてくれなかったけどな、とジト目で言われ、ジョアンはそっと目をそらす。
 デクスターが心を配ってくれているのだと、ずっと思っていた。
 だから、気付かなかったのは仕方ない、と思う。

(『早い段階で』って、いつからだったんだろう……)

 とても気になる。
 でも、こんなことを尋ねたら、また「おまえは本当に鈍感すぎる!」と言われそうなので、口にはしない。

「そういえば、僕の匂いはどうなりましたか?」

「ようやく収まったようだが、まだ油断はできない。とにかく、尋常ではない匂いだったからな」

 すんすんとジョアンの髪の匂いを嗅ぎながら、デクスターは頷いている。

「せっかく休暇を取ったことだし、念には念を入れて、俺はこの二日間でおまえを存分に愛でるとしよう」

「えっと……お手柔らかにお願いします」

 怪しげな光を放つ碧眼を見つめながら、自分はとんでもない人物に見初められてしまったと改めて思う。
 昨夜のことを思い出しただけで、また顔が赤くなった。
 今からでも逃げ出したいくらい恥ずかしい。
 そんなジョアンを、デクスターは楽しげに眺めている。

「そうそう、言い忘れていたが、二人きりのときは俺を名だけで呼んでほしい。『殿下』はいらない」

「わかりました」

「それと……愛は、結構重いからな」

「え゛っ?」

 ここに来て、不意打ちを食らう。
 新たな単語が、追加されてしまった。しかも、獣人男性全体ではなくデクスターだけのものが。
 わざわざ宣言されたということは、そういうことなのだろう。
 知るのが怖い気もするが、確認をせずにはいられない。

「『重い』って……どの程度なのでしょう?」

「どうしても知りたければ、今ここで教えてやるぞ……懇切丁寧にな」

 碧眼がさらに強い光を増す。デクスターの腕が、素早く背中に回った。
 満面の笑みを浮かべている主の顔で、自分が失言したことに気づくが、もう遅い。

「べ、別に、回答は急ぎません! 今でなくとも結構です!!」

「時間はたっぷりあるんだから、遠慮するな。ついでに、身も心も俺なしでは生きていけないようにしてやるか……」

 デクスターは、不穏な言葉を口にする。
 本気とも冗談とも取れる発言。顔は笑っているが、目は笑っていないように感じるのは気のせいだと思いたい。
 もちろん、ジョアンに逃げ場はない。無駄な抵抗も空しく終わる。
 
 宣言通り、ジョアンは二日間デクスターから重すぎる愛情を注がれ続けたのだった。



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