目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

文字の大きさ
45 / 79
第三章 雨降って、地固まる?

45. ――魔王と、なる?

しおりを挟む
 ルビーはすぐに発見できたが、馬車で移動しているため転移してもすぐに引き離されてしまう。
 追いつくためには、同じように高速での移動が必要だ。
 ……というわけで、さっそく行動開始。
 マホー、俺の魔力残量が少なくなったら教えてくれ。

⦅任せておけ⦆

 俺は、お蔵入りさせていた『飛行』を発動させる。
 風魔法との合わせ技で、馬車を目視できる位置まですぐに追いついた。

「火球を投げて馬車を止めるから、アンディはトーラと共に衝撃からルビーを守り、救出してくれ」

≪ルビー嬢には、傷一つ付けさせない。トーラ、行くぞ!≫

 マホーは補助を頼む。

⦅了解じゃ⦆

 大きな火球を二台の馬車の前方へ投げると、衝撃音と同時に辺りが一瞬明るくなる。
 停止した一台目の馬車からは、すぐに男たちが出てきた。
 バカ息子率いる冒険者パーティーのメンバーだ。
 こいつら、さっきはよくも村内で乱闘騒ぎを起こしてくれたな。
 その落とし前も、きっちりつけてもらうぞ。
 俺は気付いていなかったが、マホーは逃げ出したやつらをしっかり鑑定していた。
 それで、以前も見かけたアーチーの仲間だとわかったようだ。
 男たちは、馬車に追いついた俺をぐるりと取り囲む。
 
「どうやって追いかけてきたかは知らんが、おまえはたった一人で俺たちの相手をしようというのか?」

「俺らは、個々ではAランクやBランクの冒険者だぞ!」

 うん、知っている。
 でも、それが何だというんだ?

「おまえらは、あのバカ息子に命じられてやったんだろう? だったら、俺におとなしく捕まれば、ケガまでさせるつもりはない」

「ハハハ! おまえこそ、貴族の馬車を襲撃した罪人として騎士団へ突き出してやるからな!!」

 相手は全く聞く耳を持たなかったが、一応(形だけの)警告はしたから遠慮なくいかせてもらう。
 やつらは武器を持ち、連携して俺に向かってきた。
 でもね……剣で斬りかかってくるスピードが遅いから、俺でも余裕でかわせる。
 槍は突かれる前に水球で真っ二つに折ったし、弓矢なんて真っ先に凍らせちゃったけど……それでも、まだ俺に立ち向かってくるつもりかな?

⦅なんとも、歯応えのない連中じゃ⦆

 マホー、ルカさんや魔剣士さんと一緒にしないであげて。レベルが違いすぎるから。
 そもそも、比較する相手が間違っているし。

「お、おまえ……何者だ?」

「俺は、トーアル村を守るただの(臨時)警備担当ですけど?」

「「「「噓を吐くなー!!」」」」

 失礼なやつらだな! 俺は、嘘は吐いていないぞ!!
 戦意を喪失したらしいけど、大事な証人だから逃げられないように全員の足元を固めておく。
 「足が冷たい!」とか「痛てえぞ!!」と騒いでいるけど、氷魔法で凍結させているから当たり前だよな。
 だから、さっきおとなしく投降していればよかったのに。
 足は、壊死まではしないと思う……多分ね。

「カズキ……」

 気付いたらルビーがいて、胸に飛び込んできた。
 俺はしっかりと受け止め、「もう、大丈夫だぞ」と声をかける。
 体が震えているのは、相当怖い思いをしたからだな。
 可哀想に……て、そういえば、ルビーとめっちゃ密着しているんですけど!?
 ちょっとどころか、かなりドキドキしてしまう。

「……カズキの鼓動が異常に早いわ。急いで助けに来てくれたのね」

「そ、その、助けにくるのが遅くなって、ごめんな!」

「ううん、いつもいつも助けてくれて、本当にありがとう……」

 えっと……ルビーさん。
 さらにギュッと抱きつかれたから、俺の心臓はそろそろ停止するかもしれませんよ?
 アイテムボックスから向こうの世界で着ていた上着を出して、ルビーに掛けてあげたら、「ふふふ……カズキの匂いがする」と言われた。
 まさか……加齢臭?
 いやいや、俺はまだ二十歳だし。


 ◇


 ルビーが落ち着いたところで、最後に(小物だけど)ラスボス退治といきますか。
 馬車の扉を開けると、中年の女性とアーチーがうめいていた。
 ルビーによれば、女性は母親だそう。つまり、伯爵夫人ということね。

「あ、あなた、伯爵家の馬車を襲撃して、わたくしたちにケガを負わせたのよ! これからどうなるか、わかっているのでしょうね?」

「俺がわかっているのは、あなたたちが国王様から重い罰を受けるということだけです」

「俺たちは、何もしていないぞ! 配下が勝手にルビーさんを誘拐してきたから、村へ丁重に送り届ける途中だったのだ!!」

「そうよ! 恩人に対してこの仕打ち。村長へも、厳重に抗議させていただくわ!!」

 ふむふむ、なるほど。
 配下へ、すべての罪をなすり付けるおつもりですか。

⦅『盗人、猛々たけだけしい』とは、このことじゃな……⦆

 ホント、その通りだよな。

≪丁重に送り届けているはずのルビー嬢が、縛られたままだったのは、なぜだ?≫

 おっ! アンディが鋭いところをついたぞ。
 どう言い訳するのかと思ったら、「縄を切るものが、無かったから」だって。
 でも、冒険者の方々は、切れ味の良さげなものをたくさんお持ちでしたけど?

「このように証人もいますので、さっさと罪を認めたらどうですか?」

「知らないものは、知らん!」

「貴族の証言と、庶民の証言。どちらが信用されるのかしらね……ホホホ」

 往生際の悪いやつらだな。
 そっちがそういう態度なら、こっちにも考えがあるぞ。

「では、こちらはモホー殿に証言してもらいます」

「「なっ!?」」

「村長の娘を誘拐し村の乗っ取りを企んだ貴族に対し、彼はどう思われるでしょうか? 国王様とも約束をしたのに、それを反故ほごにされたのですから激怒するだろうな……」

「「…………」」

 モホーの名を出したら、急にだんまり。
 スコット領が、壊滅するかも……なんて、さらに言ってやったら顔色が悪くなったけど、もちろんそんなことはしないよ。
 
「モホー殿は、村には居ないはずだ! いい加減なことを言うな!!」

 そのことも、調査済みってわけか。
 だから、こんな大胆な犯行に及んだわけね。

「あなた方は、俺がどうやってここまで来たのか不思議に思いませんでしたか? 馬も馬車もない状態で、走行中の馬車に追いついたんですよ?」

「ま、まさか……」

「そこに居る黒猫ですが、あれは本当は……」

 トーラが待ってました!とばかりに、元の大きさになる。
 突如現れた大型魔獣メガタイガーに、母子・冒険者たち双方から悲鳴が上がった。

「……というわけですので、モホー殿は今日の一件はすべてご存知です」

「「…………」」

 納得したようで、なにより。
 やれやれ、ようやく終わったな。
 
⦅そういえば、おぬしにもう一つ言い忘れておったが……⦆

 マホー、ちょっと待って。
 ルビーが手首にケガをしている。

⦅待つのじゃ! 今、そんなことをすれば……⦆

 うん、回復魔法で擦り傷も治療できた。
 
「ルビー、もう大丈夫だ……ぞ」

 あれ? 急に力が入らなくなっ……た

「カズキ!」

 薄れゆく意識の中で聞こえたのは、ルビーの叫び声と、⦅『魔力欠乏症』じゃ⦆と言うマホーの呆れた声だった。


 ◆◆◆

 
「カズキ!」

≪父上!≫

 自分を治療してくれたと思ったら、急に和樹が倒れた。
 ルビーは慌てて抱きとめようとしたが体格差があり、支えきれない。
 せめて和樹だけでも……彼を庇い共に倒れたルビーを救ったのは、またしてもトーラだった。
 大きな尻尾を伸ばし、二人を衝撃から守ったのだ。

≪トーラ、よくぞ父上たちを守った。私からも、礼を言わせてもらうぞ≫

 そのまま二人を守るように横になったトーラの頭を、アンディが撫でている。
 といっても、トーラに触られている感覚はまったくないだろうが。
 
「アンディ、カズキは……」

≪おそらく、魔力が欠乏したのであろう。さすがに父上と言えども、魔力を使い過ぎたのだ≫

 でも、心配は要らぬ…とアンディは微笑む。
 父上はすぐに回復するから、問題ないと。

≪では、父上が目覚める前に、私があの者たちの始末をつけておこう≫

 アンディは、地べたに座り込むアーチー母子と冒険者たちを交互に見やる。

≪おまえたちに、選択肢をやろう。自分たちでおとなしく馬車に乗り込むか、担ぎ込まれたいか。好きなほうを選べ≫

 貴族のような恰好をした幼い美少年から選択を問われた彼らは、皆一様に同じ考えに至る。
 あの警備担当者が意識を失っている今が、逃げ出す絶好の好機であると。
 殊勝なフリをした彼らは口々に反省の弁を述べ、まんまと少年を騙し通せた……と思っていた。
 馬車に乗り込む彼らをかたわらから見張っていたアンディは、後ろから喉元に刃物を突き付けられる。

「……坊や、良い子だから皆を開放なさい。そうすれば、命だけは助けてあげるわ」

 それは、侍女…の恰好をした冒険者パーティーの女だった。
 女は馬車が急停止させられたあとも馬車に留まり、ずっと機会を窺っていたのだ。

「いいぞ、よくやった!」

「さあ、今のうちに早く逃げるよ!!」

 仲間を急かし、メンバー全員が馬車に乗ったことを確認すると、女はニヤリと勝利の笑みを浮かべた。
 アンディは刃物を突き付けられたまま、微動だにしない。

「わ、わたくしたちも連れていきなさい!」

「俺たちは、雇い主だぞ!!」

「お断りだね。あんたらは、あたいたちに罪を擦り付けようとしたんだ。あのじいさんに、制裁されるがいいさ」

 仲間割れを始めた彼らを、ルビーは呆れ顔で眺めていた。
 和樹を抱え込むようにして座っているルビーを、トーラがしっかりと守っている。

≪私は、おまえたちに勝手な行動を許した覚えはない。三つ数える間に止めなければ……≫

「ははは! どうなるっていうのさ?」

≪こうなる≫

 きっちり三秒後、地面から長い棒のようなものが出現した。
 それは蛇のように動き出し、女を雁字搦めに縛り上げる。
 馬車に乗り込んだ男たちも、アンディの眷属スケルトンたちによって車外に放り出され、一人残らず同じように縛り上げられた。
 もちろん、母子も。

「う、腕が折れそうだ! 頼む、助け……」

 アーチーの騒ぎ声は、すぐに静かになる。
 アンディの氷魔法によって、口だけ塞がれてしまったから。

≪言っておくが、私は父上のように優しくはないぞ。ここで死にたくなければ、おとなしくすることだ≫

 アンディは冷静に、冷酷に告げる。
 二つの月明かりに照らされた少年の顔は、ハッと息を呑むほどに美しい……ゾッと身の毛がよだつほどにも。

 ――――美少年の皮を被った魔王

 アンディは、皆の心に一生消えることのないトラウマを負わせたのだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜

ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。 ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...