目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

78. ちょっと、話があるんだ

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 「ルビー、ちょっと話があるんだ」

 花の氷像を見ていたルビーは、和樹から声をかけられた。
 ゴウドたちはすでにいなくなっており、アンディやトーラは、ザムルバ共々マホーがどこかへ連れて行ったため、いま洞窟内にいるのは二人だけだ。

「話って、なに?」

「これなんだけど……」

 和樹が首元からスルスルと出したのは、シトローム帝国へ旅立つ前にルビーが渡したペンダント。
 今も身に着けてくれていることに、つい笑顔がこぼれた。

「帝都の店で、店主に言われたんだ。これは、その……『二つで一対になる物』だと」

「…………」

 和樹の言う通り、それはルビーが身に着けているペンダントと対になる。
 王都の店でお揃いのものを買うと決めたときに、店員が勧めてくれたものだ。
 でも、それを彼に知られていたとはルビーは思いもしなかった。

「……その人の言う通りよ。もう一つは、ここにあるわ」

 服の下に隠していたペンダントを見せると、和樹は「そうか……」と呟いただけで黙りこんでしまう。
 その反応を見ただけでルビーの胸はズキズキと痛み、息をするのも苦しくなる。
 自分の行動は、やっぱり彼を困らせてしまった。
 ペンダントを渡したときに、お揃いであると伝えるべきだったのか。
 それとも、和樹が村に戻ってきた時点で気持ちを伝えていれば……お互い忙しかったからと言い訳をしても、後悔をしても、もう遅い。

「ルビー、ごめん……」

 和樹の謝罪が何を意味しているのか、わかりたくないけど、わかってしまう。
 きちんと気持ちを告げる前に、自分は失恋したのだ。
 こぼれ落ちそうになる涙を、ルビーはグッとこらえる。
 ここで泣いてしまったら、また和樹を困らせてしまうから。

「カズキの話はわかったわ。じゃあ、私は先に戻るわね」

 努めて明るく、ルビーは和樹へ告げる。
 家に帰って、自室でたくさん泣いて、明日には気持ちを切り替えなければならない。
 これからも、和樹とは良き友人でいられるように……

「待ってくれ。まだ、話は終わっていない」

「えっ?」

「本当に、ごめんな。俺……ルビーの気持ちにも、自分の気持ちにも気付いていなくて、きっとたくさん傷付けていたと思う」

 鈍感にも程があるよな……そう言って自虐的に笑う和樹を、ルビーは見つめる。
 視線に気付いた和樹は、ルビーの前に箱を差し出した。

「これをルビーへ。俺の気持ちを受け取ってほしい」

 箱の中身は髪留め……細かい色石が散りばめられた、以前もらった物とはデザインが全く異なるものだった。
 色石が三色あることを確認したルビーの目から、先ほど抑え込んだはずの涙がせきを切ったように溢れ出す。

「えっと……、きちんと意味を理解した上で贈っているからな!」

「……わかっているわよ」

 堪らず抱きついたルビーを、和樹もしっかりと抱きしめ返す。

「その……この国の作法では、髪留めを二つも贈るってアリなのか?」

「ふふふ、二つも貰った話は聞いたことがないけど、私が良いのだからい・い・の!」

 日替わりで着けるというルビーの話に、「女性は、いろいろと大変だな」と和樹は笑う。
 顔を上げると、ルビーの大好きないつもの人懐っこい笑顔が見えた。
 これからは、より近い場所でずっと見続けることができる。
 和樹は自分の意思ではなく強制的にこの世界に送られてしまったけれど、そのおかげで自分は彼と出会うことができた。
 召喚者にちょっぴり感謝の念を抱いてしまったことは、ルビーだけの永遠の秘密だ。


 ◆◆◆


「本当に、腰掛けても冷たくないのね……」

 貴族の庭園を再現したガゼボの中にある椅子に腰を下ろしたルビーは、不思議そうに見回している。
 ちなみに、『ガゼボ』とはあっちの世界の公園にも設置されていた、いわゆる東屋あずまやというもの。
 四方の柱と屋根だけで出来た壁のない休憩所みたいなところで、小説の中では、貴族たちがそこでよくお茶をしているよね。

 話を戻して……

 俺も氷魔法で作った氷像なのにどうして冷たくないのか、ものすごく疑問だもんな。
 ザムルバさんは、「魔力を強くこめることで、時間が経っても溶けない物に変わります」と言っていたけど、原理まではわからないみたい。
 これはいにしえの魔法らしいし、物質が変化してガラスのようになった、とか?
 まあ、ここは異世界だしな……

 ……って、こんなことを考えるために俺たちは場所を移動したわけではない。
 もう一つルビーに渡したいものがあるから、座ってもらったのだ。

「ルビー、左手を出してくれ」

「うん? これでいい?」

 俺が彼女の細い薬指に嵌めたのは、ルビーの指輪。
 そう、ばあちゃんの形見の指輪だ。

「わあ! 素敵な指輪ね。こんな細くて形が綺麗なもの、見たことがないわ。これも、帝都で買ったの?」

「ううん。これは、あっちの世界の物……ばあちゃんの形見の指輪なんだ」

 こちらの世界の装飾品は、機械ではなく職人が一つ一つ手作業で作っているから、同じ商品でも形が異なる。
 指輪は特に細工が精巧だから、輪っかがやや太めだ。
 人差し指に嵌める分には良いのだろうけど、ルビーの細い薬指には似合わないと思うし、俺としてはあちらの世界の流儀でやりたかった。
 
 というわけで、店主にサイズ直しをお願いしたところ……


 ◇


「輪を小さくすることは可能ですが、大きくすることは難しいですね……。それで、その方の指の太さはご存知ですか?」

 そうだ、指のサイズがわからなければ無理だった!
 どうしようと焦ったところで、アイテムボックスに入れっぱなしだったアレの存在を思い出す。

「これで、なんとかなりますか?」

 俺が差し出した物を見て、店主が『この物体は、何?』と言わんばかりに首をかしげた。


 ◇


「えっ、あの武器から、指の太さを測ったの?」

「うん。ちょうど、左手だったしね」

 俺が店主に見せたのは、ナックルダスター。
 シトローム帝国へ行く前に、ルビーに持たせるために俺が作った護身用の武器だ。
 両手分を作って、ルビーの使い勝手の良い右手用を渡し、左手用は俺がずっと持っていた。
 まさか、こんな形で活躍するとは、思ってもいなかったけどね。

「本当は、これは『婚約の形』として贈るだけのつもりだったんだ。普段身に着けてもらうのは、新しい指輪で……」

「新しい指輪なんて、必要ないわ」

「でも……」

「私は、これが良いの! 大切な指輪を私に贈ってくれたカズキの気持ちが、嬉しいから……」

 ありがとう、ルビー。
 でも、「私の次は、娘かお嫁さんへ受け継いでいきましょうね」なんて言うから、思わず目頭が熱くなったじゃないか!
 
 ばあちゃん。
 ばあちゃんの気持ちは、ルビーへちゃんと伝わっていたよ。
 だから、じいちゃんと、俺の両親と、皆で天国から俺たちを見守っていてね。


「カズキも泣きたかったら、私のように泣いてもいいのよ?」

 少し腫れぼったい顔をしたルビーが、そんな意地悪を言ってきた。
 でも、言われるがまま泣いてしまうのはちょっと悔しいから、代わりに抱き寄せて、キスをする。
 これまでの想いをこめた、長い長いキス。
 顔を真っ赤にしたルビーが「カズキのバカ! バカ!」と怒るから、「ごめん、ごめん」と謝って再び抱きしめる。

 俺は、君と出会えて本当に良かった……

 小さく呟いたら、「私も……」と声が聞こえた。




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