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揺れる心_7
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眼裏に届く明るさに導かれて目を開けた。
泥のように眠っていたせいか、昨日より体調は戻っている。
時計を探そうと体を動かし、布団がひっかかることに気づいた。
体を起こすと、ベッドの端に上半身を伏せて眠る直己の姿があった。
着ていたワイシャツはしわだらけになっていて、髪も寝乱れている。
ずっとそばについていてくれたらしい。
ほおのあたりに落ちた影のせいか、いつも快活な直己の印象とはどこか違って、疲れたように見えた。
それが私のせいなんだと思うと、このまま成瀬くんのことは一時的なことだったと謝ってしまった方が楽かもしれない。
そんな考えが頭の隅をよぎってしまう。
4年の歳月と、1ヶ月程度の歳月。
その長さが、定まらない天秤みたいに心の行き場をふらつかせる。
でもどちらか、選ばなくてはならない。
「直己、起きて。直己」
少し肩を揺らすと、直己がわずかにうめいてハッと顔をあげた。
「ごめん、寝てた」
「うん、朝。今日も研修でしょ? 間に合うの?」
「時間は大丈夫だけど、杏こそ体調は?」
「大丈夫。だいぶ寝たから、出勤もするし」
「本当に? 無理すんなよ?」
ありがとうと言うと、直己は少し寂しげな笑みとともに頷いた。
こんなシーンを、この4年でもう何度繰り返したんだろう。
遠距離ゆえに、月曜の朝や、出張で直己が出てきた平日の朝や。
その度に慌ただしく騒ぎながら、でもそれさえも楽しいと思っていたその日々を、愛しく思いはしても、こんなふうな淋しい空気を纏うものに変わるなんて考えてもいなかったのに。
「まだ時間あるなら、シャワー浴びてって。置いてあるワイシャツも出しておくからそれに着替えて」
まるで、成瀬くんのことがなかった時みたいな会話だと自嘲したくなった。
「うん。助かる」
直己が切なそうな目で私を見つめるのに気づかないふりをしながら、ベッドから起き上がった。
降りかけると同時に手首をやんわりと捉えられた。
びくりと震えて目だけあげると、直己のもう片方の手がほおに触れた。
少しためらい、それから直己の顔が近づき。
キス。
そう思ったとたん、ほんの少し顔を俯けていた。
直己が一瞬、動きをとめ、それからそっと前髪の生え際に唇を触れさせた。
「……ほんと、あんまり無理すんなよ」
ささやきながら直己が立ち上がり、そのまま寝室から出て行った。
私はしばらく顔をあげられず、俯いていた。
穏やかで優しいその声に混じった痛みは、この先、私が忘れちゃいけないものだった。
泥のように眠っていたせいか、昨日より体調は戻っている。
時計を探そうと体を動かし、布団がひっかかることに気づいた。
体を起こすと、ベッドの端に上半身を伏せて眠る直己の姿があった。
着ていたワイシャツはしわだらけになっていて、髪も寝乱れている。
ずっとそばについていてくれたらしい。
ほおのあたりに落ちた影のせいか、いつも快活な直己の印象とはどこか違って、疲れたように見えた。
それが私のせいなんだと思うと、このまま成瀬くんのことは一時的なことだったと謝ってしまった方が楽かもしれない。
そんな考えが頭の隅をよぎってしまう。
4年の歳月と、1ヶ月程度の歳月。
その長さが、定まらない天秤みたいに心の行き場をふらつかせる。
でもどちらか、選ばなくてはならない。
「直己、起きて。直己」
少し肩を揺らすと、直己がわずかにうめいてハッと顔をあげた。
「ごめん、寝てた」
「うん、朝。今日も研修でしょ? 間に合うの?」
「時間は大丈夫だけど、杏こそ体調は?」
「大丈夫。だいぶ寝たから、出勤もするし」
「本当に? 無理すんなよ?」
ありがとうと言うと、直己は少し寂しげな笑みとともに頷いた。
こんなシーンを、この4年でもう何度繰り返したんだろう。
遠距離ゆえに、月曜の朝や、出張で直己が出てきた平日の朝や。
その度に慌ただしく騒ぎながら、でもそれさえも楽しいと思っていたその日々を、愛しく思いはしても、こんなふうな淋しい空気を纏うものに変わるなんて考えてもいなかったのに。
「まだ時間あるなら、シャワー浴びてって。置いてあるワイシャツも出しておくからそれに着替えて」
まるで、成瀬くんのことがなかった時みたいな会話だと自嘲したくなった。
「うん。助かる」
直己が切なそうな目で私を見つめるのに気づかないふりをしながら、ベッドから起き上がった。
降りかけると同時に手首をやんわりと捉えられた。
びくりと震えて目だけあげると、直己のもう片方の手がほおに触れた。
少しためらい、それから直己の顔が近づき。
キス。
そう思ったとたん、ほんの少し顔を俯けていた。
直己が一瞬、動きをとめ、それからそっと前髪の生え際に唇を触れさせた。
「……ほんと、あんまり無理すんなよ」
ささやきながら直己が立ち上がり、そのまま寝室から出て行った。
私はしばらく顔をあげられず、俯いていた。
穏やかで優しいその声に混じった痛みは、この先、私が忘れちゃいけないものだった。
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