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16、半分魔族、半分人間
* * *
夕暮れ迫る中、バルコニーでウォルフは骨を並べて乾燥させる作業をしていた。
道具やまじないに使うこともあれば、脅迫に使うこともある。
最近殺した者達の骨の一部はもう処理が終わって保管してあった。エデル・フォルハインの売買に関わった者で、それを使ってまた新たな関係者をあぶり出す予定でいる。
そうして仕事に勤しんでいたところ、浮かない顔をした青年がやってきて手すりに体をあずけた。
「ユリウス様」
ユリウスは、赤く熟れた果実のような夕陽をぼんやりと見つめていた。
「エデル様の様子はどうです?」
「相変わらずだ。というか、前より酷くなってるかな」
半月ほど、エデルの姿を見ていない。彼はユリウスの部屋にこもったままで、日がな一日寝たきりなのだそうだ。
今までの心的外傷の影響らしいが無理もない。
ウォルフもユリウスと共に、エデルを所持していた輩のところを回って片づけてきたが、話を聞くと酷いものだった。
ましてやエデルはそれなりの地位の貴族だった。耐えてられたのが奇跡だ。
鎮静剤を飲む量は増えているし、このままだと廃人一直線だろう。
ウォルフは、歳の近い主人の顔を眺めた。端正な横顔には憂いの色が見てとれる。
「俺はさ……」
ユリウスは呟いた。
「このままでいいと思ってるんだ」
ちらりとユリウスが視線を寄越してきたが、ウォルフは顔色を変えなかった。
ユリウスの口辺に笑みが漂う。
「だって、このままでいれば、永遠にエデル様は俺のものじゃないか。俺だけを頼りにして、俺だけを求めて。すごく、幸せだよ」
もちろん、ユリウスはエデルをああして追い込んだ者達を憎悪し、決して許していない。関係者を皆殺しにするつもりでいた。
もっと早く助け出せなかったことに自己嫌悪を抱いているし、エデルが気の毒でならなかった。しかし。
「泣いて、うずくまって、俺を求めるあの人の姿を見ていると、たまらなくなるんだ。いくら抱いたって足りない。俺に溺れているあの人の顔を見ると、歓喜が心の奥から溢れ出すんだよ」
そう語るユリウスの金の双眸が昏い光を帯びる。残虐な、魔族の性質を物語る光だ。
薄ら笑いを引っ込めたユリウスは、ウォルフの方へ体を向けた。
「そういうの、どう思う?」
「普通では?」
魔人として、ごく普通の感覚である。
人間と比べると、魔人は嗜虐心が異常なまでに強い。好いた相手を虐めたいとまでは思わなくとも、弱ってすがりついてくるさまを見れば興奮する。縛り上げて犯すのなんて当たり前ですらあるのだ。
ユリウスは嘆息して、手すりに肘をついてうなだれる。
「……俺は、いい子なんかじゃない。あの人は誤解している。俺は半分魔族で、エデル様が泣いているのを見るとどうしようもなくぞくぞくするし、もっと交わりたいと思ってしまう。とんでもなく最低の男だよ。大好きな人を買って薬漬けにして、犯しまくって喜んでるんだから」
ユリウスは目をつぶり、自分の首をつかんでいる。そのまま強く力をこめて、ねじり切ってしまいたいとでも思っているかのようだ。
「俺は、魔人だ」
吐き捨てるように言った。
忌々しげというより、自分に言い聞かせるような口調だった。
しばらくの間ウォルフはそばで黙って立っていたが、「うーん」と首を傾げた。
「確かにあなたは魔人ですよ。だからね、そんなに悩むことないんじゃないっすか? そういう感覚って、俺達にとっては当然だから変なことじゃない。仕方ないですよ、性質だもの。でも、ユリウス様」
こちらを向いたユリウスと目が合った。ウォルフは続ける。
「魔人は、そんなことで罪悪感を覚えたりしません。だからあなたはやっぱり半分、人間なんです」
ユリウスが目を見開く。
ウォルフから見れば、この黒角の君、ユリウスという男は不思議な存在だった。残酷さと優しさを併せ持つ半魔人。
半魔人はさほど珍しい存在でもないが、どちらか一方の性質に偏ることが多い。非道な魔人か、か弱い人間。
ユリウスは魔人の方の特性が強く出ているように見えるのだが、どこか人間らしさもあった。おそらく、エデルに育てられたからではないだろうかとウォルフは思う。
エデルは正しく優しい人間で、その教えが幼少期のユリウスの人格に影響を及ぼしたのだろう。
そうであったからウォルフは助けられた。そしてこうして、魔人からしてみれば「とるに足らない」ようなことで悩んでもいる。
好きな相手の思考を奪って犯しまくるなんて誰でもやることなのである。普通の魔人であれば、「何の問題が?」と首を傾げるだろう。
他人を思いやるという気持ちを、ウォルフも少しではあるが、ユリウスから学んだ。それは魔人の自分には新鮮で、意外にも快いものだと知った。
「ユリウス様もエデル様もこのままで幸せなら、別にいいんじゃないですか? もっとわけがわからなくなったら、エデル様ももう泣かなくて済むじゃないですか」
とウォルフは意見を言う。
人間達を守るために、彼は戦った。それなのに最後の最後で味方に裏切られて生け贄として差し出され、陵辱され続け、ゴミのように扱われて尊厳を失った。
壊れかけて苦しむのなら、いっそのこと壊れてしまった方がいいのかもしれない。どんな姿になっても、ユリウスは喜んでエデルに奉仕するだろう。
エデル様がそばにいたら、それでいい。いつもそう言い続けてきた。
ユリウスはうつむいている。
「俺は……いい子じゃないんだ。本当に。ガキの頃からあの人に欲情していたし、いつかはものにしたいと夢見てた。それに一番悪いのは……」
ユリウスが笑い出した。
「奴隷の淫紋の消し方を知っているってことかな。俺くらい魔力があれば、消せるみたいなんだ。だけど、そうしたくない。消したら、俺のものじゃなくなって、どこかに行ってしまうかもしれないだろ? そんなの嫌だ。あの人は俺のものだ。やっと俺のものになったんだ。二度と手放さない」
独占欲に歪んだ笑み。欲したものを手にしたどす黒い喜びが美しいその顔を彩っている。魔族的な感情だ。
「……どう思う?」
「あなたは魔人ですね」
「だろうな」
高ぶった感情を落ち着かせて半目になったユリウスは、気怠そうに長い髪をかきあげると歩き出した。
天使と悪魔、というものがいる、とウォルフは以前、ライムから教わったことがある。人間の信仰についてだ。
まるでその天使と悪魔とかいうやつがユリウスの中にいて、交互にあらわれているかのようだ。ほとんどの場合、悪魔が優勢であるし、そうでないとこんな世界ではやっていけないのだが。
後で部屋に呼ばれたウォルフは、書類をめくるユリウスから、あの鎮静剤の瓶を押しつけられた。
「これは?」
「捨ててこい。もう用意しなくていいと、ライムに伝えろ」
しかし、とウォルフは扉を閉め切った隣の部屋に目をやった。そこではエデルがいつものように眠っているはずだ。
ユリウスは書類から目を上げずに淡々と言う。
「俺は、あの人のことをよく知っている。ずっと一緒にいたから。エデル様は、とても強い人なんだ。あの人の望みは、わかってる」
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