美貌の貧乏男爵、犬扱いしていた隣国の王子に求婚される

muku

文字の大きさ
10 / 14

10、買い物

しおりを挟む

 * * *

 丸一日、レオフェリスの護衛の姿が見えないと思っていたのだが、彼らはある日何台もの馬車や荷車を連れて男爵邸に戻ってきた。乗っていたのは商人や荷運びの男達で、何やら屋敷に運び込んでいく。

「何の騒ぎだ?!」

 書斎で帳簿を前にし、虚空を見つめていたノエルだったが、物音を聞きつけて玄関まで走っていった。ジェフリーとメイベルも困惑顔で、出入りする人々を見守っている。

「坊ちゃん、この方々が、寝台を持って来たそうで……」

 誰が手配したかは考えるまでもない。ノエルは近くに立っているレオフェリスに言った。

「レオ、お前だろう? 困るよ、こんなことは」
「ノエル様、私の護衛が使う物ですよ。ミラリア卿のご都合も聞かずにいきなり押しかけてしまって、失礼なことをしたと反省したのです。一ヵ月近く滞在するのですから、使う物を用意しなければならなかったのですよ」

 ノエルは心の中で「そうか」と納得しかけたが、「いや、だからって寝台を購入するか?」と疑問にも思った。とはいえ、護衛達が未だに長椅子で寝ているのは事実であり、ノエルは心を痛めていたのだ。寝台で眠ってもらえるのならそうしてもらいたい。

 使用人達にも負担をかけた詫びにと、ジェフリーとメイベルの古びた寝台も新調してくれた。でも、と断ろうとするノエルだったが、二人が喜んでいるので言い出しにくかった。

「私からの、二人への礼ですから。大して高価なものではありませんよ」

 ノエルがまごついている間に、搬入は終わってしまった。寝台の他に、食堂の椅子も新しくなる。これも数が足りてないから、との理由だ。
 次に持ち込まれたのは鉄の鍋だった。我々の料理を作ってもらうのだから、調理器具を差し入れるのは当然だとレオフェリスは主張する。食器も足りないだろうと持ってきたのは、新品の錫製のものだった。

 銀製なら絶対に突き返そうとしていたノエルだが、錫製は高級でもないからとレオフェリスに押しつけられる。木の皿は一部がカビていたし、陶器は欠けていたし、丁度良くはあった。
 人数が増えたので、という理由で食材も届けられる。これも特に高級品ではなくて、ここらでよく食べられるものばかりだった。それでも出費が抑えられるのだから、大助かりである。

 メイベルが歓声をあげるので何かと思えば、銀のスプーンやナイフがあった。

「銀なんていけない、貴族が使うものだぞ!」

 言いながら、自分も貴族であることを思い出してノエルは恥じ入った。だが、とにかくこれは受け取れない。レオフェリスは置いていくつもりだろうが、ノエルはいつか――たぶんすぐに、これを金に換えてしまうはずだ。

「ノエル様、これは私の部下の、エヴラードとルーファスのためなのです。二人も貴族でして、銀の食器で食事をするのが恋しいと言い出したのですよ。貴族は昔から、毒を感知すると言われる銀食器で食べるのが習わしですからね。実際、銀では毒などほとんどわかりませんが……。大丈夫です、ここから去る時には持って行きますからね。皆で使いましょう」

 銀皿とセットであれば、そんな重たいものを持って帰るはずがない、置いていく気だろう、と言い返したのだが、スプーンやナイフなら、まあ持って帰れるか? とノエルは首を傾げる。

 悩んでいるうちに、メイベルが「銀製なんて、久しぶりでございます」と感激してスプーンを抱きしめていたから、取り上げにくくなってしまった。
 メイベルは、ノエルは貴族であるし、領主として、ある程度立派なものを使ってほしいと願っていたのだ。

「メイベルも喜んでいるではないですか」

 とレオフェリスは言い、さらに続けた。

「あなたが施しを嫌っておられるのはわかりますよ。けれど、これは施しではなく、お礼です。あなたは私の命の恩人ですから、これくらいはさせていただけるでしょうね?」

 大金と違って、断りづらい。メイベルとジェフリーのためになるのなら、素直に受け取ってもいいのかもしれないと思った。

「ありがとう、レオ」

 ノエルの言葉に、レオフェリスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ミリしら作品の悪役令息に転生した。BL作品なんて聞いてない!

宵のうさぎ
BL
 転生したけど、オタク御用達の青い店でポスターか店頭販促動画か何かで見たことがあるだけのミリしら作品の世界だった。  記憶が確かならば、ポスターの立ち位置からしてたぶん自分は悪役キャラっぽい。  内容は全然知らないけど、死んだりするのも嫌なので目立たないように生きていたのに、パーティーでなぜか断罪が始まった。  え、ここBL作品の世界なの!?  もしかしたら続けるかも  続いたら、原作受け(スパダリ/ソフトヤンデレ)×原作悪役(主人公)です  BL習作なのであたたかい目で見てください

魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。 魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・ なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️ エブリスタにも、掲載しています。

悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ

椿谷あずる
BL
平凡な高校生だった俺は、ある日事故で命を落としギャルゲーの世界に主人公としてに転生した――はずだった。薔薇色のハーレムライフを望んだ俺の前に、なぜか一緒に事故に巻き込まれた悪友・野里レンまで転生してきて!?「お前だけハーレムなんて、絶対ズルいだろ?」っておい、俺のハーレム計画はどうなるんだ?ヒロインじゃなく、男とばかりフラグが立ってしまうギャルゲー世界。俺のハーレム計画、開幕十分で即終了のお知らせ……!

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

処理中です...