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3、乙女ゲーム
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ちょっと変わったゲームだな、とは思った。
これって乙女ゲームなんだよな? と首をひねりたくなる内容だったのだ。
ジャンルはノベルゲームに入るのだろう。インディーズということもあり、凝ってはいたが企業で開発されたゲームほどの豪華さはなかった。選択肢はあるものの、それによって好感度が複雑に変化するといったシステムではなさそうで、エンディングがいくつか用意されているくらいだった。
このエンディングというのが、いささかクセがあった。
どうも、意中の相手と結ばれる方より、悪役令嬢の断罪エンドの方が力が入っている。
悪役令嬢レティシャが惨たらしく断罪されるシーンがたくさんあり、グロ耐性が低い俺は少々辟易したのだった。
タイトルは「断罪! ~悪役令嬢は許しません。私は必ず幸せになります」だっただろうか。復讐に重きを置いているのか、制作者の性癖なのか、断罪シーンが長くて、乙女ゲームというよりホラゲっぽさも感じるほどだった。
それでも俺はエリック・ウィンルードが好きだったから、夢中になったのだけれど。他はジュリアンを含めてほとんど興味がなかった。
悪役令嬢の断罪にこだわっていたゲームなのに、俺がジュリアンになった途端に悪役令嬢のレティシャは消えてしまっていた。そもそもリリィフェン侯爵家なるものが存在しないのでお手上げである。
代わりに断罪される悪役の位置に置かれたのが俺、ジュリアンだ。そうとしか考えられない。俺はレティシャが断頭台送りにされるルートも見ているから知っている。
ジュリアンは、レティシャの役割を押しつけられているのだ。間違いない。
何故こういう事態になっているのかは不明だが、いないものはいないのだから仕方ない。このループから脱出する鍵ではないのだろうか、と一応毎回レティシャをさがしているのだが、影も形も見当たらなかった。
わかってはいたが、「誰それ?」と仲間達に言われると脱力する。
いやいや、カレンの邪魔をしてくる高飛車な女だよ、知ってるだろ……と肩を揺さぶりたくなった。というか以前ロイドやウォーレンの肩をゆさぶって、気味悪がられたことがある。いくら訴えても無駄なのは経験済みだ。
それはそれとして。
「殿下、どこかお具合は悪くありませんか?」
教室に移動して隣同士の席につくと、俺はおそるおそる尋ねた。
「ぴんぴんしているよ。どうしてそんなことを聞くんだ?」
笑いかけられ、俺は不意に涙が出そうになった。ロイドの惨たらしい最期を何度も目撃している。その度に、もう元気な彼に二度と会えないのではないかと不安になった。
だから、ロイドが目の前でこうして笑っていてくれるのがすごく嬉しいのだ。
「幼い頃はよくお風邪を召されていたじゃないですか」
「もう随分と大きくなったのだぞ、私も」
ロイドはふてくされたように唇をとがらせて見せた。
エイディーミン王国の第二王子ロイドは、王族であるにもかかわらず、気さくで優しい青年だった。ジュリアンは幼い頃からの知り合いだ。
病弱だったロイドは田舎で療養することになり、選ばれたのがジュリアンの伯爵家の領地にある館だったのだ。療養には適した地域だとされていて、ジュリアンはロイドの遊び相手として選ばれた。言ってみれば二人は幼なじみなのである。
ロイドが第二王子で良かったと俺は思っている。王位を継ぐには少々気が優しすぎるのだ。成績の方は優秀だが、武芸の方はいまいちだった。
王太子の兄とは仲も悪くないのだが、ロイドは兄を取り巻く誰かに疎まれて、六回目の時に暗殺されている。
(今回は大丈夫だと思うが、そっちの方面も気が抜けないな……)
レティシャのことも含めて、情報収集は欠かせない。またどんなトラブルが起きて窮地に陥るかわからないのである。
とりあえず気をつけなければならないのは、ロイドを狙う者がいないか調査すること。そして、ヒロインであるカレンに惚れられないこと。そして、ロイドにも惚れられないことである。この辺りの泥沼は二度と経験したくない。
ジュリアンとしての振る舞い方は、もう決めている。一つしかないではないか。
(悪役令嬢は不在。そのせいでこの世界はねじれている。だったら俺が引き受けるしかない。俺が、ジュリアンが――)
――悪役令息になるのだ。
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