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6、金策
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何をするにも金というものは必要である。
実家からいくらか送られてくるし、学園で男娼まがいのことをやって稼いだ金もあるのだが、それでは少々心許ない。
だから、学園にいながら商売を始めることにした。
十度目のルートが始まってから半年が経つ。ありがたいことに、商売の方も上手くいっていた。
まず金策のために目をつけたのは、「薬」である。俺は同じ日に戻ってからまた死ぬまで、毎回一年の猶予があった。繰り返されるこのルートでは、俺の周りの細々とした展開は変化しているが、学園外で起こる出来事は概ね変わらない。
つまり、一年先までの未来を俺は知っている。これを利用しない手はないだろう。
すぐに俺は実家の使用人に働きかけ、伯爵領にある薬草園で大量の薬草を育てさせた。俺が復活してから五ヶ月後に、エイディーミン王国に隣接する町で疫病が流行る。
俺が育てている薬草は、その病に効く薬を作るために欠かせないものだった。
酷いことに、疫病が流行り出すと薬草の値を異常に釣り上げて売る奴が続出した。どうしても必要だからと、町の方では仕入れずにはいられなかった。
だから俺はその薬草を大量に作り、安く売ってやることにしたのだ。本当であればただでやるのが人道的なのだろうが、俺も金を集めなければならないので許してほしい。せめてもの償いということで、かなり値は下げている。でも量が量なので、儲けは出ていた。
そしてもう一つは事業の方で、こちらは「ビーズ作り」である。
俺は前世でビーズアクセサリー作りにハマっていたので少々知識はあった。この世界にもガラスビーズというやつはあるが、大ぶりのものが多く、大量には作られていない。
俺がほしいのはシードビーズ、つまり種みたいに小さなビーズだった。
領地から送られてきた、簡単な損益計算書のようなものに俺は目を通す。大体の利益計算はしていたしわかってはいたが、なかなか儲けが出ているようだった。
満足して俺は頷く。
ジュリアンの実家、ノートエル伯爵領には森林が多く、林業が盛んだった。ノートエル伯爵家はそれなりに潤っている貴族だ。父親は木材に詳しく、俺も小さな頃には林や森に連れて行かれて説明を聞いたものだった。
「父上、これはなんですか?」
「変わった樹液の出るものだ。丈夫ではないし、薪としても質はいまいちで、使い道があまりない」
そう説明された木があったのだが、実はこれがビーズの原材料になっている。
ビーズといえばガラス原料を着色して溶かし、管にしてから切るという行程が一般的だ。けれど俺が目をつけたのは樹液で、これは加熱するとガラスのように変化する。
染料の粉末状にした石を混ぜて熱し、伸ばすとうんと細い管になるという特性があった。鋭い刃物で切断すると、切断面が丸くなり、都合良くビーズみたいな形になる。
いろいろな調べ物をしていた時に思いついて試してみたら、役立たずだと思われた木の樹液がこんなものに加工できることがわかったのである。
「ビーズじゃん! めちゃくちゃビーズだよ、これ!」
と俺は職人の前で大興奮して騒いだのだ。あれは三回前のルートだっただろうか。
で、俺は伯爵領のとある村で人を集めて研修を始め、ビーズアクセサリーを作らせ始めた。父親には適当なことを言って好きにさせてもらっている。
俺の狙いは、富裕層より下に位置する者達へ向けた装飾品の普及である。樹液ビーズは安価で大量生産できる。数を売れば利益が出るだろう。
ビーズアクセサリーを流行らせて、うちの領地の特産品の一つとする。評判になれば国外からも目をつけられるし、俺は一時期アクセサリー作りに没頭していたから図案は山ほど頭に入っているし、たくさんの凝ったアクセサリーを作り出せるだろう。
体を悪くした領民への雇用も生み出せる。食物の不作で苦しむ農民もこの仕事で糊口をしのげるだろう。
前世では、「男がビーズアクセサリー作りにハマるなんて」と嘲笑されることもあったが、今では役に立っているからやっていて損はなかった。
樹液はビーズにもなるが混ぜるものを変えればテグスも作れる。ビーズもテグスも生産し放題だった。
村の職人達の腕もぐんぐん上がっていて、新しいアイディアを出してくれる者もいる。幸いこの世界はメガネや拡大鏡といった道具もあって、視力の衰えた老人達も仕事をさせてやれるからありがたい。電気なんて通っていないから、夜に作業をするのはちょっと大変だけどな……。
アクセサリーの他にビーズのマスコットも作る。宝石の輝きや希少さにはかなわないが、今までこの世界にこれほどカラフルで可愛らしく、安価で作れる装飾品はなかったはずだ。
ビーズの木(と俺は呼んでいる)はうちの領地にしかない。だからまねされることもなかった。
ピンクのビーズで作ったうさぎのマスコットを手にのせて、俺はにんまりした。
「商売って、儲かれば楽しいもんだよなぁ」
ループ生活の最初の方は共同事業を持ちかけられて貯めた金を失い、親に謝ってまた金を送ってもらったりと散々だった。いくら貴族でも親にやたらと金の無心をするのは嫌なものである。
第一俺はこの後両親を泣かせる羽目になるんだろうから、自分で使う金はなるべく自分で用意したかった。
ピンクのうさぎは、照明の火の光に照らされてキラキラ輝いている。
一度外出日に工房へ行って俺の作品を見せたら、みんなは感嘆の声をもらしていたっけ。
「ジュリアン様の手は神の手でございます!」
「このヒヨコに、目のついたトマトの愛らしいこと! こうして『マスコット』とやらにすると、野菜ですらこれほど愛らしくなるとは初めて知りました!」
と絶賛された。
野菜のグッズを擬人化して愛でるとかいう文化はないから、斬新だったみたいだ。
領主の息子だから当然かもしれないが、俺は村でとんでもないほどちやほやされる。神様みたいにあがめられる。
今後のことを考えたらあんまり好かれたくもないんだが、学園から遠く離れたところに住む純朴な彼らにだけは、悪く思われなくてもいいかもしれないな。
さてと、と俺は気持ちを切り替えて、貯まった金の計算を始めた。
これは良いことに使う金ではない。寮に住んでいると厳しい規則に従わなければならないため、簡単に外出したりはできない。外で何かしなければならない時は、人を使うしかないのである。
人を使うには金がいる。それが悪事なら、なおさらのことだった。
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