断罪予定の悪役令息、次期公爵に囚われる

muku

文字の大きさ
6 / 17

6、金策

しおりを挟む

 * * *

 何をするにも金というものは必要である。
 実家からいくらか送られてくるし、学園で男娼まがいのことをやって稼いだ金もあるのだが、それでは少々心許ない。
 だから、学園にいながら商売を始めることにした。
 十度目のルートが始まってから半年が経つ。ありがたいことに、商売の方も上手くいっていた。

 まず金策のために目をつけたのは、「薬」である。俺は同じ日に戻ってからまた死ぬまで、毎回一年の猶予があった。繰り返されるこのルートでは、俺の周りの細々とした展開は変化しているが、学園外で起こる出来事は概ね変わらない。
 つまり、一年先までの未来を俺は知っている。これを利用しない手はないだろう。

 すぐに俺は実家の使用人に働きかけ、伯爵領にある薬草園で大量の薬草を育てさせた。俺が復活してから五ヶ月後に、エイディーミン王国に隣接する町で疫病が流行る。
 俺が育てている薬草は、その病に効く薬を作るために欠かせないものだった。
 酷いことに、疫病が流行り出すと薬草の値を異常に釣り上げて売る奴が続出した。どうしても必要だからと、町の方では仕入れずにはいられなかった。

 だから俺はその薬草を大量に作り、安く売ってやることにしたのだ。本当であればただでやるのが人道的なのだろうが、俺も金を集めなければならないので許してほしい。せめてもの償いということで、かなり値は下げている。でも量が量なので、儲けは出ていた。
 そしてもう一つは事業の方で、こちらは「ビーズ作り」である。

 俺は前世でビーズアクセサリー作りにハマっていたので少々知識はあった。この世界にもガラスビーズというやつはあるが、大ぶりのものが多く、大量には作られていない。
 俺がほしいのはシードビーズ、つまり種みたいに小さなビーズだった。
 領地から送られてきた、簡単な損益計算書のようなものに俺は目を通す。大体の利益計算はしていたしわかってはいたが、なかなか儲けが出ているようだった。

 満足して俺は頷く。
 ジュリアンの実家、ノートエル伯爵領には森林が多く、林業が盛んだった。ノートエル伯爵家はそれなりに潤っている貴族だ。父親は木材に詳しく、俺も小さな頃には林や森に連れて行かれて説明を聞いたものだった。

「父上、これはなんですか?」
「変わった樹液の出るものだ。丈夫ではないし、薪としても質はいまいちで、使い道があまりない」

 そう説明された木があったのだが、実はこれがビーズの原材料になっている。
 ビーズといえばガラス原料を着色して溶かし、管にしてから切るという行程が一般的だ。けれど俺が目をつけたのは樹液で、これは加熱するとガラスのように変化する。

 染料の粉末状にした石を混ぜて熱し、伸ばすとうんと細い管になるという特性があった。鋭い刃物で切断すると、切断面が丸くなり、都合良くビーズみたいな形になる。
 いろいろな調べ物をしていた時に思いついて試してみたら、役立たずだと思われた木の樹液がこんなものに加工できることがわかったのである。

「ビーズじゃん! めちゃくちゃビーズだよ、これ!」

 と俺は職人の前で大興奮して騒いだのだ。あれは三回前のルートだっただろうか。
 で、俺は伯爵領のとある村で人を集めて研修を始め、ビーズアクセサリーを作らせ始めた。父親には適当なことを言って好きにさせてもらっている。
 俺の狙いは、富裕層より下に位置する者達へ向けた装飾品の普及である。樹液ビーズは安価で大量生産できる。数を売れば利益が出るだろう。

 ビーズアクセサリーを流行らせて、うちの領地の特産品の一つとする。評判になれば国外からも目をつけられるし、俺は一時期アクセサリー作りに没頭していたから図案は山ほど頭に入っているし、たくさんの凝ったアクセサリーを作り出せるだろう。
 体を悪くした領民への雇用も生み出せる。食物の不作で苦しむ農民もこの仕事で糊口をしのげるだろう。

 前世では、「男がビーズアクセサリー作りにハマるなんて」と嘲笑されることもあったが、今では役に立っているからやっていて損はなかった。
 樹液はビーズにもなるが混ぜるものを変えればテグスも作れる。ビーズもテグスも生産し放題だった。
 村の職人達の腕もぐんぐん上がっていて、新しいアイディアを出してくれる者もいる。幸いこの世界はメガネや拡大鏡といった道具もあって、視力の衰えた老人達も仕事をさせてやれるからありがたい。電気なんて通っていないから、夜に作業をするのはちょっと大変だけどな……。

 アクセサリーの他にビーズのマスコットも作る。宝石の輝きや希少さにはかなわないが、今までこの世界にこれほどカラフルで可愛らしく、安価で作れる装飾品はなかったはずだ。
 ビーズの木(と俺は呼んでいる)はうちの領地にしかない。だからまねされることもなかった。
 ピンクのビーズで作ったうさぎのマスコットを手にのせて、俺はにんまりした。

「商売って、儲かれば楽しいもんだよなぁ」

 ループ生活の最初の方は共同事業を持ちかけられて貯めた金を失い、親に謝ってまた金を送ってもらったりと散々だった。いくら貴族でも親にやたらと金の無心をするのは嫌なものである。
 第一俺はこの後両親を泣かせる羽目になるんだろうから、自分で使う金はなるべく自分で用意したかった。
 ピンクのうさぎは、照明の火の光に照らされてキラキラ輝いている。

 一度外出日に工房へ行って俺の作品を見せたら、みんなは感嘆の声をもらしていたっけ。

「ジュリアン様の手は神の手でございます!」
「このヒヨコに、目のついたトマトの愛らしいこと! こうして『マスコット』とやらにすると、野菜ですらこれほど愛らしくなるとは初めて知りました!」

 と絶賛された。
 野菜のグッズを擬人化して愛でるとかいう文化はないから、斬新だったみたいだ。
 領主の息子だから当然かもしれないが、俺は村でとんでもないほどちやほやされる。神様みたいにあがめられる。
 今後のことを考えたらあんまり好かれたくもないんだが、学園から遠く離れたところに住む純朴な彼らにだけは、悪く思われなくてもいいかもしれないな。

 さてと、と俺は気持ちを切り替えて、貯まった金の計算を始めた。
 これは良いことに使う金ではない。寮に住んでいると厳しい規則に従わなければならないため、簡単に外出したりはできない。外で何かしなければならない時は、人を使うしかないのである。
 人を使うには金がいる。それが悪事なら、なおさらのことだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。 四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。 だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。 自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。 ※性描写あり。他サイトにも掲載しています。

オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ! そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。 子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。 前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。 不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。 ムーンライトノベルズでも投稿しております。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

処理中です...