断罪予定の悪役令息、次期公爵に囚われる

muku

文字の大きさ
13 / 17

13、先輩のお仕置き

しおりを挟む

 ◇

 真夜中に到着したのは、とある館だった。造りは立派だが古いものらしく、背後には森がある。周囲に人が住んでいる気配はなく、保養のために貴族がいくつか持っている建物の一つである雰囲気だった。

「ここは……」
「父から私が与えられた館の一つだ」

 腕をつかまれ、俺は建物の中へと連れて行かれる。いまだにどういう状況なのかわからず、目を白黒させた。
 使用人の数は少ないらしく、出迎えたのは執事らしき男が一人だけだった。エリックは俺をつかんだまま、廊下をずんずんと進んでいく。

「あの、エリック様。これは一体……」

 無言で引っ張られ、部屋にたどり着くとその中に入る。殺風景だが室内は掃除が行き届いていて清潔だった。
 エリックは部屋のドアをしめると鍵をかけ、縛っていた縄をとく。そして、俺をベッドへと突き飛ばした。足に力が入らない俺は、あっさりベッドに倒れ込む。
 目を丸くしている俺に、エリックは言い放った。

「何を企んでいるかわからない以上、お前を自由にするわけにはいかない。しばらくお前にはここで生活してもらおう」

 説明を聞いても、意味が全くわからない。
 俺の挙動が怪しかったとして、どうしてエリックが俺を館に閉じこめようとするんだ? 普通は誰かに託さないか?

「何を仰っているのだか、わかりませんが……」

 素直に言うと、睨まれる。

「隠していることを、みんな吐けと言っている」
「何も隠してなどいません」

 エリックに正直に言うわけにはいかないのだ。彼を巻き込みたくはない。俺は肘をついて上体を起こした体勢のまま、そっぽを向いた。

「殺した男は何者だ?」
「何の話でしょうか」
「ロイド殿下に関係のあることか?」
「…………」
「ここ数ヶ月大金を稼いで人を雇っているようだが、何のためだ?」
「…………」

 なるほど、エリックも俺を怪しんであれこれ調べていたらしい。これは下手なことを言わない方がよさそうだ。俺はだんまりを決め込むことにした。
 他にもいろいろ訪ねられたが、俺は目も合わせずに無言を貫いた。

「どうしても言わない気か」

 これも無視。
 すると、エリックが近づいてきて、俺を見下ろした。

「では、言いたくなるようにしてやろう」

 言うなりのしかかってきたので、反射的に身を引いた。殴られるのだろうか。不審な行動を続ける俺は、エリックから見れば要注意人物だろう。
 俺が逆の立場だって、苛つくかもしれない。ロイド王子の身を思いやるエリックが手段を選ばなくても当然だ。
 暴力も甘んじて受け入れる。ただし、正直に話すつもりはない。

 目をつぶって奥歯を噛みしめた。
 が、拳が飛んでくることはなかった。代わりに、唇に柔らかいものが押し当てられる。
 目を開いてみると、間近にエリックの顔があった。唇にあたっていたのは、彼の唇だった。

「………………は?」

 顔を離したエリックは無表情で、俺の下にはいているものに手をかけた。下着も一緒に、一気に引き下げようとする。
 ふてぶてしい態度をとっていた俺だったが、予想外のエリックの行動に慌てふためいてそれを阻止しようとした。

「ま、待ってください! 何を……」
「興味のない相手に抱かれるのは、屈辱だろう?」

 エリックは冷ややかな笑みを浮かべていて、これから始まる行為の意味を悟った俺は唖然とした。

 エリック様が、俺を抱こうとしている? ってこと?
 いや、その前に、俺、今、キスした?

 口をぱくぱくさせている俺の反応を、エリックの方はどう受け取ったのだろうか。

「お仕置きが必要だ」

 きっと、今の俺は顔を真っ赤にしているだろう。
 これは夢に決まっている。お仕置きどころか、俺にとってはご褒美みたいなものだ。エリックにいつか抱かれたいと願っていて、しかし叶うはずのなかった夢。
 精神的に追いつめられすぎて、どこかで倒れて見ている夢なんだ、これは。

 エリックがこんなことを言うはずがないし、こんなことをするわけがない。
 両手をシーツに縫いとめられ、深い口づけが繰り返された。

(嘘だ、嘘だ。こんなに俺にとって、都合の良いことがあるはずがない)

 エリックは容赦なく俺の服をはぎとっていった。裸体がさらされ、冷えた室内の空気を感じて身震いしそうになる。

「考え直してください、エリック様」
「お前に指図する権利があると思うのか?」

 エリックはいつの間にか小さなケースを取り出していた。軟膏などを入れるような容器で、指ですくったものは交接用の潤滑油のようだ。俺にとっては見慣れたアイテムであり、体温で溶かして柔らかくしている。

「や、やめた方がいいですよ。あなたの体面に関わります。俺みたいなろくでなしと体の関係を持ったなんて知られたら、周りからどう思われるか……」
「ここには私とお前、そして忠実な使用人しかいない。外にこのことが漏れる心配はない」

 いや、そうかもしれないけど。
 汚いだろ、俺は。男とヤリまくってる汚らわしい俺に、罰だとしても、こんなことするのはどうかしている。

「鞭で叩くとか、他にもいろいろやりようがあるでしょう」
「私に犯されるよりは、鞭で叩かれる方がましだと言うことか」

 エリックが笑うが、そういうことではない。俺にとってマイナスにならないんだから意味がないと教えたいのだが、伝わらないようだ。

「ねえ、待って! これじゃ、あなたが汚れる……!」
「黙れ。私を侮辱したことを後悔するがいい」
「待っ……、ひっ!」

 後孔に指を突っ込み、エリックがそこをほぐし始めた。慣れているから、別にいきなり本番で突っ込まれても大して痛くもないんだが。
 あこがれのエリックに体内をいじられてると認識しただけで、俺の興奮は高まっていった。期待に体がわかりやすいほど反応するから、それを隠したくて足を閉じようとする。だがエリックに止められた。

(セックス下手そうとか言ったから、気にさわったのか? あれで怒ってるのか?)

 エリックにしては、つまらないことを根に持つものだ。

「ごめんなさい、ごめんなさいエリック様……! 謝りますから、お願いだからやめて……!」

 しかし懇願は無視され、エリックは自分のものを俺の後孔にあてた。ゆるいそこは、すぐに先端をのみこんでいく。

「ぃ、……ぁあ、や……」

 半分ほどが埋まった。エリックが腰を引き、また攻める。今度は先ほどよりも奥へ進み、それが繰り返されていく。

(やだ、やだ、やだやだやだ。エリック様が俺のせいで汚くなる!)

 逃げなくてはと思うのだが、体に力が入らない。快感のために鳥肌が立ち、激しくなっていく快楽に溺れそうになった。
 最悪だ、最高だ。ずっとこうされたかったという夢が叶って、体は喜びに震え、エリックに与えられるものを堪能している。

「許すと思うか? ジュリアン。絶対にここから逃がさないぞ。嫌というほどお前を犯してやる」
「あっ、あっ、んん、っぅ、やっ、やぁ、ああぁあッッ!」

 今まで嫌々誰かに体を提供していた時は、セックスなんて、まあこんなもんかと思っていた。大して感じないのだが、よがるふりをしないと相手が不機嫌になる。だから頑張って喘いでいた。
 だが、今は自然と声が出た。
 好きな人に抱かれると、こんなに気持ちが良いんだ。

「ジュリアン」
「あんっ、ぁ、うあっぁ、ん、いっ、ふぁっ、エ、エリック様……!」

 息を切らしながら、エリックも俺の名前を呼ぶ。気持ちが良すぎて意識が飛びそうになった。
 しっとりとした皮膚が密着して、熱を感じる。ぐじゅぐじゅと背徳的な水音に鼓膜まで犯されている気分だ。
 エリックが俺の中にいる。俺のために彼が勃起している。嬉しい。もっと、もっと激しく突いてほしい。
 頬をつかんで俺と目を合わせると、目をぎらつかせながらエリックは吐き捨てた。

「一体何人の男とこうしたのだ? この淫売め!」
「あっあぁああぁあッッ!!!」

 罵られた瞬間に、達してしまった。ガクガクと腰が動く。

(俺、やっぱり酷いマゾかもしれない……)

 頭の片隅でそう思いながら脱力した。手から顔を離したエリックも射精をして、しばらく互いの激しい呼吸の音だけが響いていた。
 部屋の照明は燭台にともった光だけなので、とても薄暗い。エリックがどのような表情をしているのかはわからなかった。
 品行方正なエリックから浴びせられる下品な言葉は非常に刺激的で、快感が倍増する。俺は余韻に浸っていたが、エリックは再び行為を始めた。

 エリックにお仕置きされながら、俺は思う。
 こんなことがあっていいのだろうか。良い意味で。
 二人きりで、エリックに夜通し抱かれる。どれだけ望んでも妄想で済ませるしかなかったことが、今こうして現実となっていた。
 もっと嫌がった方がいいとはわかりつつ、嘘はつけなくて、ただ俺は存分に嬌声を響かせるだけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...