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14、もう二度と
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ジュリアンの身を清めたエリックは、しばらく黙ってジュリアンのそばに座っていた。ジュリアンは気まずそうに沈黙していたが、余程疲れていたのかそのうち眠りに落ちた。
ジュリアンの裸には、他の男との行為を示す痕がいくつも見られた。腰の辺りに誰かの指の痣がついているのを見た瞬間は、カッとして自分を抑えられなくなった。
部屋は施錠できるようになってはいるが、念のため、逃げられないようジュリアンの片足には足枷をつけて鎖で繋ぐ。
ジュリアンは、弱々しく口では抵抗していたが、暴れたりはしなかった。
自分の部屋に戻ったエリックは、机に向かうと頭を抱えた。
信頼していた男に罵られ、強姦され、ジュリアンはきっと絶望しただろう。これで、自分に対して好意を抱くことなどないはずだ。
「やっと……ジュリアンを保護できた……」
暗い部屋の中で、エリックは呟く。
ジュリアン。ジュリアン。
何度も彼の名前を心の中で呼ぶ。先ほど重ねた肌の温もりを思い出す。ジュリアンは生きている。
「ジュリアン。もう二度と、お前を死なせたりしない」
白い月光に照らされた室内で、エリックは、一人静かに決意を口にするのだった。
* * *
目が覚めて、昨夜の出来事が夢でなかったのを知った。
窓かけごしに、太陽の光が室内にそそぎこんでいる。実家でもないし、寮の自室でもない。ここはウィンルード公爵領にある、館の一室なのだった。
体を確認してみると、片方の足に足枷がしてあった。しかし、長すぎる鎖がついていて、部屋の中を歩き回るのに何ら支障はない。
久しぶりにゆっくり眠った気がした。いつもは一時間くらいでうなされてすぐに目が覚めてしまうのだ。
俺が起きたことをどうやって気づいたのか知らないが、すぐに執事が食事の支度をして運んできてくれる。
「ジュリアン様。お食事でございます」
「ありがとう……」
エリック様は? と尋ねると、お食事はもう済ませておいでです、と返事があった。ということは、エリックはまだ館にいるのだろうか。
偶然かもしれないが、食事の内容は俺の好物ばかりである。食欲はそんなになかったが、少量であったし、せっかく用意してもらったのだからとどうにか全部を食べ切った。
ろくに考え事もできない状態で、俺はすることもないので寝台で膝を抱えていた。食事が終わって少し経った頃、鍵が開けられる音がして、エリックが姿を現す。
昨日の激しい夜のことを思い出すと、恥ずかしくなってエリックの顔をまともに見れなかった。うつむく俺に、エリックが声をかけてくる。
「それで、話す気になったか?」
エリックには、話せない。どれだけ締め上げられても、それは変わらないのだ。押し黙る俺に、「強情な奴だ」とエリックは呆れていた。
「素直に打ち明けるまで、昨日のようなことは続くぞ。お前は毎日、辱めを受けるんだ」
「毎日……?!」
そんな、新婚じゃあるまいし、という間抜けな台詞が出かかったが、どうにか飲みこんだ。
エリックは俺が、彼とのセックスを嫌がっていると思っている。実は俺は大喜びなのだが、そんなことを言えるはずもない。
だから俺はいいのだけれど、エリックの方が疲れるのではないかと心配だ。
彼は直に爵位を継ぐため、多忙な身であったはずだ。しかし、一日中ではないが、しばらくはこの館で生活し、俺のことを見張ると言い出す。
学園と実家の方には、適当にエリックが報告すると言っていた。適当って何だ? 俺が犯罪を犯したらしいから当面そばに置いておき、証拠が揃ったら然るべきところへ突き出すとでも伝えたのだろうか。
「俺が戻れないのなら、一つだけお願いしたいことがあります。殿下の警護にもっと力を入れるよう、働きかけてください」
彼の周りで不穏な噂を聞いているから心配なのだ、と訴えた。言動が怪しく、隠し事をしている俺が言っても説得力はないかもしれないが、エリックは「わかった」と頷いてくれた。
部屋を出て行こうとするエリックを慌てて呼び止める。
「あの、訂正させてください」
「何をだ?」
「あなたが、……セックス下手そうだって、言いましたけど……。そんなことはありませんでした。昨夜は……とても、巧みでした。酷いことを言って、すみません……」
小さな声が全部彼の耳に届いたか、定かではない。エリックはしばらく俺を見つめていたが、黙って部屋を出た。
一人残された俺は、途端に羞恥心で顔を真っ赤にする。
(いや、俺何言ってるんだ?!)
猛烈に恥ずかしくなり、自分の頭を叩いた。
今まで、こんなことはなかった。何が原因で今回は、こういう展開に進んでしまったのだろうか。
こうして、俺の監禁生活はスタートしたのだった。
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