底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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う~~ん………?

夕べのあれは一体何だったんだろう?
朝起きて、ベッドの上で悩んでいるエレオノーラです。
答えは二択、あれは夢だったのか、本当に起こった事なのか。

一番簡単なのは夢落ちだな。
もし夢ならば、何が有っても、何を聞いても、何を言っても全て許される。
だっておかしな事も色々あったもの。
しかし魔石を使った通信ならば、なぜ私が触れてもいないのに発動したの?
それにアレクシス様だって、つい最近会ったばかりなのに、あの時私の事を気が付かなかったくせに、夕べは私の一言だけで気が付いた。
どうしてでしょう?
もし夕べの事を確認したいのであれば、シャインブルク様に連絡を取ればいい。
石など渡していないと言うのなら夢、渡したのだというならば本当に有った事だろう。
でも、もしかすると、シャインブルク様があの石をアレクシス様に渡しけれど、アレクシス様はそれを使っていなくて、結局は夢だったって事も有り得るし………。

「あぁいけない、また自分の都合のいい方に考えてしまったわ」

だからあんたはダメなのよ!と自分に言い聞かせる。
ここはシャインブルク様に聞いてみるしかないよね、そう決意した。
えっと、まずはその前に身支度して、朝ご飯を食べてから、隊長に御用が無いか伺って、洗濯とか繕い物……はしなくていいって言われてたっけ。
そうだ、今後の私の扱いはどうなるかも確かめなくちゃ。ただの隊員とするか、隊長の弟としてふるまうか、兄様の妹に戻るか………私はまた、理由を付けて現実から目を背けようとしている。
つくづく嫌な性格だな。
今度前向きになれる魔石が無いか、シャインブルク様に聞いてみよう。


「お早うございますエレオノーラ様」

………………。
突然部屋に現れたメイドさんたち。

「さあ、お召し替えのお手伝いをいたします。その前に湯あみをなさいますか?」
「いえ、一昨日体を拭いたばかりですから大丈夫ですよ」

それを言ったとたん、問答無用でバスルームに引っ立てられました。
この人たちは一体誰ですか?
何が起きているのですか?


今私は、普通の貴族の令嬢然として着飾り、兄様の部屋います。

「ん~エレオノーラが可愛い」

兄様にキュッと抱きしめられ、掻繰されています。
はい、いつもの兄さまですね。

そんな兄様を見て、最初は驚き目を見開いていた人達も、今は極力目を合わせないようにテーブルに料理を並べたり、水を注いだり、忙しそうにしています。


「さてエレオノーラ、気持ちの整理はついたかい?」

料理をつつきながらの兄さまの質問。
整理も何も、これってもう私の処遇は決定済みですよね。

「エレオノーラを獣の中に放り込む事は出来ないし、ルドミラのおもちゃにさせる訳にはいかない。ならば残りは一つだろう」

まあ兄様がそう決めたなら、逆らいはしませんけど。
でも、それは今までみたいな自由が無くなると言う事ですよね。

「あの、ジョンさん達にはなんと言えばいいのですか?」
「そんなの放っておけばいい」
「そういう訳にはいかないでしょう」

後でこっそり行って、大まかな事を話しておこう(十分逆らってるやん)
あっ、このキッシュ美味しい。

「それからシャインブルク様から聞いたのだが、夕べあの男と話したんだって?」
「あの男?」

いったい誰の事ですか?

「ほらあの、アレクシスとかいうふざけた男だ」
「兄様、そんな事を言ってはいけません。不敬ですよ」

慌てて周りを見渡しても、皆は聞いても聞かぬふり。
でもその情報、ずいぶん早く伝わったんですね。

「大体あいつのせいで、お前は家を出たのだろう?」
「それはそうだけど、あの…それはそれで、アレクシス様はたまたま誰も逆らえない家に生まれただけであって、彼自身は純粋に私を好いて下さって、彼は彼なりに可哀そうな立場であって………」
「エレオノーラ、たまたま運が悪い家に生まれたと言うが、彼はそんなに悪い家に生まれたのか?もし生まれた家が違ったなら、お前はいきなりプロポーズされたら、それを受けたのか?」

……………………ごめんなさい。
危うくまた暴走するところでした。
やっぱりアレクシス様、間違ってるわ。
私、3分の2ぐらいアレクシス側に傾むいていたわ。

「普通の家庭だったなら、当人同士の感情で結婚を決めるかもしれない。ただ貴族はそれだけでは無いというのは理解しているな?」
「ええ、家同士の利害も考慮しなければならない場合も有ります」
「ならば分かるだろう。奴は誰にも逆らえない家に生まれた。その事が分かっているにも関わらず、エレオノーラと結婚したくて、何の前置きも無く、一方的に婚姻を申し込んだのだ、それは彼が自分の地位を利用したと取られても仕方が無い事ではないのか?」
「ええ……」

でも、アレクシス様の気持ちも分かるし、世間一般の常識も分かるし、私は一体どうすれば良かったのでしょう!?

「だからそんなもの、放っておけばいいのだ。あっちはあっちで引き起こした事だし、エレが心配する事ではない。エレはこの騒動が収まるまで、兄様の可愛いエレオノーラとしてここにいればいい」

兄様、その背後のオーラが、隊長の物にとよく似ています。

「とは言え、シャインブルク様からの話も又聞きだし、何を話したのか教えてもらえれば助かるが」
「ええ、いいですよ。えっと、確か私と話ができてうれしいとか、私に悪い事をしたとか……。あっ、彼はまだ、私が死んだと思い込んでるみたいですよ。それと私の家には責任を持って罪滅ぼしをするとか………。でも一番困ったのは、すぐにでも私の所に来て謝りたいと言った事です。間違った所に言ったら困りますよね。あとはやたらと私の事を誉めていましたっけ。美しいだとか、声がきれいだとか、そんなお世辞なんていらないのにね?」
「……エレ、私がなんで、あんなダサい眼鏡をエレに送ったのか分かっているか?」
「えっ?私の目が悪いから、よく見えるようにですよね?」
「それも有るが、あれはお前の可愛い容姿を隠す魔道具なんだよ」
「そんな御冗談を」

まあ確かに、最近では目が良くなった事も有り、眼鏡をしない日も増えてます。
でも良くなった目で鏡に映った自分の姿を見ても、相変わらずぼんやりとしていてパッとしない顔ですよ。

「それは純粋に、まだはっきりと自分の姿が見えていないだけだ」
「またまた~~」

すると、溜息をついた兄様が、部屋の入り口近くにあった鏡に私を導いた。

「よく見てごらん」

そう言い兄様は、鏡に向かって何やら魔方陣を飛ばす。
それからその鏡を見れば…何と言う事でしょう、そこには今まで見た事も無いような美しいお姫様がいるではありませんか。

「………どなたですか?」
「私の可愛い妹だ」
「まあ」

わたしにはもう一人姉妹が………。
なんて逃げる事は辞めたんだっけ。
でも、これは本当に私なんだろうか?
ほんのりピンクに染まった健康そうな頬や、大きな紫の瞳。
肩まで伸びた艶やかなブロンドと、ふっくらとした唇に見覚えが有りません。
ただその方の着ているドレスは、今私が来ている物と寸分の違いも有りませんでした。

「……私?」

そう言い指をさせば、兄様は嬉しそうに頷いてくれます。
いえ、これはきっと兄様が、美しく映るように鏡に掛けた魔法ですね!
隣に並んだ兄様は、相変わらずりりしく映っているけれど。
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