底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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兄様からのお話

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「さて、エレオノーラも成人した事だし、少々教えておかねばならない事が有る」

大人の知識ですか?何を教えてもらえるのでしょうか?

「本来であれば母上から教えてもらうのが一番なんだが、この際仕方が無い。それ以外にも、しておかなければならない事も有るし、今日一日忙しくなるが覚悟をしておきなさい」

母様からですか?大人の女の話!?一体何なんでしょう。
しかし……。

「兄様、お仕事は大丈夫なんですか?」
「あぁ、今日一日休みをもらった」

貰ったのではなく、強引に取ったのですよね。

「さてエレオノーラ、我が家は少し特殊な家庭なのだが気が付いていたかい?」
「貴族なのに、借金を背負っていて、領民の税や国からの補助金をもらっても貧乏で、食費や生活費を削るような生活をしている事ですか?」
「まあ、それも間違ってはいないな………」

はい、物心ついてからずっとそんな生活をしていましたから。
鍛冶屋のミイちゃんからも可愛そうと言われました。
別に胸を張って言う事では有りませんけどね。

「では、私やシルベスタがとても稼げる仕事についているのに、我が家ではなぜ未だに借金を抱えているのか、疑問に思わなかったかい?」
「そう言えばそうですね。でも私、つい最近まで兄様達の仕事の事を知りませんでしたし」
「知らなかったでは無く、知ろうとしなかった…だな」
「はい」

「私とシルベスタは家族に楽をしてもらおうと、借金は我々が返すと申し出たのだが、それは父上達に断られてしまったのだ」
「何故でしょう。借金が無ければ我が家の生活は、とても楽な物になっていたはずなのに」
「あぁ、私達もそう思った。だが父上は私達に苦労を掛けたくないと言っていたな」

ならば、娘には苦労を掛けても良かったのだろうか(メラッ!)

「だが後に、それは世間を欺くための言い訳と知ったのだ」
「世間を?欺く?」
「あぁ、エレは父上と母上のなれそめを知っているか?」
「ええ、大まかには。母上は元々高位の貴族でしたが、父上と知り合い恋に落ち、周囲から反対をされたので、二人で駆け落ちをして、ようやく結婚ができたと聞きました」
「本当に大まかだな。まあいい、では今からその話に捕捉を付ける」
「はい、兄様」

それからの兄さまの話は、今までの事がようやく腑に落ちたり、納得したり驚いたりの連続でした。

「まず母上はかなり高位の貴族の出と聞いているだろうが、その実家はエクステット侯爵家であり、母上はその長女だ」
「エクステットと言えば、我が国の1・2を争うような侯爵家ではありませんか」
「あぁ、その上母上は特異体質として生まれてしまった」
「特異体質…ですか?一体どのような……」

酷い病気で無ければいいけれど。

「お前は魔力の在り方については知っているか?」
「はい、ジョンさんに教えてもらいました」
「ジョンに?まあ詳しい事は後でいい……。それならエクステット侯爵家が、どういう立場の家か理解しているな?」
「えっと……高位の貴族ほど強い魔力を持つ…から、きっととても魔力が強い人たちなんですね?」

高位ほど魔力が強くなる。
たまに例外も有るらしいけれど、もしかして母様は、その例外として生まれてしまったのだろうか。

「そうだ。だが母上の魔力は、位の高い家族の中でも、群を抜いて強い魔力を持って生まれた」
「えっ?そんなに強いのですか?もしかすると、王族並みに強いのですか?」
「王族?あんなものは過去の栄光にしがみ付いた、ただの国の象徴に過ぎないのだ。
頂点に立った王族が絆をつなぐのは、自分達より下位の者しかいない。ならばそれを維持するか、衰退するしかない。王族など他の国に対するただの象徴と言う名の飾り、例えば狸の置物と同じだ」

狸の置物ですか?
私の脳裏に、カラフルな色に塗られた、沢山の狸の置物が浮かんだ。
さながら一番でっぷりとしたのは…、笑っちゃいけない、落ち着け、落ち着くんだ。

「それらを考慮したとしても、母上は桁違いの術者なんだ。そんな母上が恋をし、一介の男爵の子息との結婚を望んだ。周りはどういう反応をするか想像がつくだろう?」
「反対をして、二人を引き離そうとする」
「そう、だが母上の力は途方もない能力だ。反対をしたところで、はい分かりましたと引き下がると思うか?」
「有り得ませんね」

母様が大人しく人の言葉を聞くなど考えられません。

「だから母上は家を出、侯爵家の名を隠して父上と結婚をした。だが侯爵家は母上を失う事を恐れ、無理やり取り返そうとしたらしい」

ふむふむ。

「しかし母上はそれに腹を立て、かなり手ひどい報復をしたせ。その内容は教えてもらえなかったが、その一件からは侯爵家は母を恐れ、手を出す事を辞めたそうだ。二十年以上経った今も連絡すらしてこない」

母様、それほどかい!

「侯爵家は他の家の手前上、母上の事を病弱と偽り、屋敷の奥深くで寝たきり状態だと言っているらしい、そう、あちらさんは未だに母上が家を出た事を隠し続けているんだ」
「ならば、死んだと教えられていたお爺様やおばあ様は、まだ生きているのですか?」
「いや、おばあ様は亡くなったと聞いている。今は母上の弟が後を継いで、従弟もわんさかいるらしいよ」

なるほど、母様関連の親戚は誰一人いないと思っていたけれど、まだたくさんいると。
ご挨拶に行った方がいいのでしょうかね?

「うちはうちで、そんな事に捕らわれず、幸せに暮らせばいいんだ」
「そうですね」
「それでな、これからはお前の話になるが、実はお前は母上以上にイレギュラーなんだ」

何ですと?

「お前、魔法は何種類ぐらいできる?」
「何種類と言われましても、そうなってほしいと願う事は殆ど出来ますが」
「だろうな………」

兄様、どうして頭を抱えるんですか?

「多分お前はディア・アレルヤだ」
「ディア・アレルヤ?何ですかそれは」
「女神の祝福。オールマイティーの術者だ」

初めて聞きますね。

「普通は、と言うか、例えば男爵家の平均で言えば、使える魔法は一つ、多くても二つ程度だ。尤も私たちは、母上の血を引いているから、かなり成績は良いがな」

一つ?二つ?
兄様の言っている事の意味がよく分からないわ。

「例えば、火属性と水属性、これで二つだ」
「それでいうなら、確かに私はいくつも魔法が使えます。でも兄様だって沢山使えますよね?火種を着けるとか、風を起こして薪を燃やすとか。風呂桶を水でいっぱいにするとか、洗った食器を乾かしてくれたり、重い物を持ち上げてくれたり。だから兄様が帰ってきた時は、とても助かっていたんですよ」

「まぁ…な。確かにそんな程度の魔法しか見せてはいなかったな。下手な事をして、母上やお前の存在を世間に知らせる訳にはいかないから、目立たないようにしていたんだ。でも今のお前だって、無茶な魔法を使うなどの暴挙はしていないだろう?」
「まぁ…ね」

私だって目立つ訳にはいきませんもの。

皆の病気?を直したり、一瞬で薪を割って見せたり、風さんにお願いして体を浮かせて、果物を取ったりした程度ですよ。確かに皆に見せた時にはとても驚かれたけれど、それは伏せた方がいいと言われて、その後はほとんど使っていません。
別に使わなくても不便は有りませんでしたし。

「だがお前はディア・アレルヤだ。願えば全ての事が出来る。その上普通だったら10歳ぐらいから魔術使いの片鱗を見せ始めるのだが、お前は2歳から既にそれを使い始めた。それもめったに出現しない光属性までも、小さい頃から使い始めたんだ」

光属性って何をする人なんでしょう。
例えば明かりを付けたりすればいいんですかね?
それぐらいだったら簡単に出来ますよ。

「あの当時、お前は魔法を楽しんでいた。父上達はお前に魔法をあまり使ってはいけないと注意していたが、エレオノーラだからな………」

私だから何ですか?

「お前は目立ち始めたんだよ。だから4歳になったころ、お前が平民に生まれた突然変異だと思い込んだ奴に、どこかに売る目的で攫われそうになった」
「そ、それは…覚えていません………」
「エレはまだ小さかったからね。幸いにしてそれは未遂に終わったけれど、父上達はとても心配なさった。その時はエレもとても憔悴して、あまり魔法を使わなくなったが、またいつ使い出すか分からなかったからね。エレにとって魔法は楽しみの一つだったから」
「そんな…」
「だから母上はお前が大人になって、自分で判断できるまで魔法を封印する事にしたんだ」
「あれはそう言う事だったんですね……」

あの雪の日に見た幻影…。

「それに、万が一エレの事が侯爵家にバレたなら、あちらさんはお前を攫い、思うように洗脳し、傀儡にする事だって出来たのだから」

もしかして、みんな私の為にいろいろな事を我慢していたの?

「私がいない方がみんなが幸せになれた?」
「バカな事を言うんじゃないよ……」

兄様はテーブル越しに、私をギュッと抱きしめてくれる。

「エレがいてくれたからこそ、私達はとても幸せだったのだから」
「兄様…兄様……」
「母上も、あまり目立ちたくないからと、自分が上位貴族である事を知られないため借金もそのままに、ある程度の家庭魔法を残し自分の魔法を封印をした。だがエレ、その事で自分を責めてはいけないよ。母上はエレを守る事が、自分の幸せに繋がるのだと笑っていたよ」

母様…母様に会いたい………。
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