底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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お久しぶりです

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ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ。
眠れない私は、ベッドの上でゴロゴロしています。
だってしょうがないじゃない。
私、何も知らなかったんだもの。

違う。

私は何処かで分かっていたのかもしれない。
ただ今が、責任の無い今の状態がとても心地よくて、考える事に目を背け、兄様の言う通り楽しい日々を謳歌していたのだ。

兄様の話が、もし、万が一、仮に、本当だったなら…………。
いや、今更逃げようとしても無駄か…、兄様が私に嘘を付くはずがないもの。
それを知っているからこそ、私は兄様の言った事を、本気で向かい合わなければならないのだ。

「アレクシス様………」

やはり一番迷惑をかけたのは彼だろう。
アレクシス様は、そんなに昔から私の事を思ってくれていたのか。
他にも綺麗な人は沢山いただろうに、こんなブサイクな私の事をずっと………。
大体にして、身分の低い、こんな器量の悪い私など、何の利用価値も無いのに。
それなのに私にプロポーズした。
その事実だけでも私に対する気持ちの表れなのに、私はそれを無視し、気持ちはマイナス方向に進んだ。

冷静に考えてみれば、アレクシス様に無理やり結婚を迫られたと思っていたのは私達の方だ。
私が王室を恐れ、それに逆らえないと思っていたから、真摯にプロポーズしてくれた彼に、自分勝手で強引だというイメージを張り付け、向き合う事を恐れ逃げ出した。

何て酷い女なんだろう、私は……。

今までの現実を悟り、自分のした事を後悔している。
”過ぎた事をそんなにクヨクヨ考えても仕方ない”
そんな酷い言葉を、私は彼に投げつけようとした。

『すまない、エレオノーラ………』

謝らなくてはならないのは私の方だ。
皆の勘違いを利用し、心配し悲しむ人たちに目もくれず、自分ばかり楽しんでいた。
あの強いイカロス兄様は、私の姿を見て泣くほど心配してくれていた。
きっと父様や母様、シルベスタ兄様だって死ぬほど心配しているだろう。
ましてや私が死んだと聞かされているのなら、きっとその悲しみは計り知れないものだ。
古着屋のロゼさんも私を心配して力になってくれた。
門番さんだって、私が危ない目に合わないか心配してくれた……。

私はどう償えばいい?
償わなければならない事が多すぎる。


自責の念に駆られ、ベッドの上で、うだうだとし続けても、何の解決法も思いつかない。
少し気分転換をした方がいいと思った私は立ち上がり、豪奢なカーテンを開け、月の登り始め、照らされた外を覗いた。

あの山の向こうにトルディアがある。
ならばその手前にアレクシス様のいるバーバリアンが……。

「ごめんなさい………」
『……エレオノーラ?』

げっ!

『エレオノーラ?エレオノーラなのか?』

なぜアレクシス様の声が聞こえるの?
考えすぎて幻聴が聞こえるんだろうか。

『やはりこの石は眉唾物では無かったのか……エレオノーラ、私の声が聞こえるのか?お願いだ、答えてくれ!』

石?石って?もしかして、シャインブルク様からいただいた石の事かしら。
でも私は、今それに触れてませんよ。
ならばどうしてアレクシス様の声が聞こえるの?
もしかして、シャインブルク様が新しく開発した新製品なんでしょうかね?
何て事を思っている場合じゃなかった。
だってアレクシス様が、必死な声で私に呼び掛けているのだから。
そして私はその声に、つい絆されてしまった。

「アレクシス様…」
『エレオノーラ……なのか?』
「はい…一体どうして…」
『シャインブルク殿…いや、ある人からいただいた魔道具だ。これを使えば、一度だけ死んだ人と話が出来ると聞いたのだが、まさか本当にあなたと話す事が出来るとは……』

やはり犯人はシャインブルク様でしたか。
取りあえずアレクシス様は、私を死人と思っていらっしゃる様子です。
ここは、その話の流れに乗るか………。
でもそんな事をすれば、もう二度とアレクシス様に顔向けが出来ない。
私は嘘つきの詐欺師になってしまう。

何かイカルス兄様や、シャインブルク様たちのレールに乗せられているような気がするな………、まあいいか。

「アレクシス様、実は私、あなたにお話ししなければならない事が有るのです」
『いや、この魔石がいつまで持つか分からない。だから先に私に話させてくれないか?』

魔石の耐久性などシャインブルク様から聞いてませんから、その心配は無いと思いますが。

『エレオノーラ、すまなかった……。私はあなたの気持ちを考えず、一方的に私の思いを押し付けた。その結果がこのざまだ。許してくれエレオノーラ、出来ればすぐにでもあなたのもとに行き、跪いて許しを請いたい』
「アレクシス様、それは間違っています。アレクシス様のお気持ちを考えず、あなたの事を知ろうともせず逃げ出した私に、全ての責が有るのです。ではなくてですね、実は私…」
『あなたはあんな事が有ったのに、その原因となった私を庇うのですね。死してなおその優しさを失っていない。あぁエレオノーラ、私は何て事をしてしまったのだろう。もっとあなたを大切にしていれば、あなたはまだこの世に留まり、ずっと微笑んでくれていたはずなのに』
「いえ、ですからそれは違うんです。私はまだ……」
『まだ……えぇ、あなたにもこの世に未練がある事は分かります。私のせいであなたのご家族にも深い傷を負わせてしまった。しかしどうかご安心ください、あなたの家には何ひとつ不自由が無いよう、責任を持って償わせていただきます』

ちょっと待って下さい!
我が家は確かに貧しいです。
でも、そんな中でも自由に楽しい毎日を過ごしていました。
そちらに下手な事をされると、それが出来なくなる可能性が高いですよね。
だったら一切、手を出していただかない方が助かるんですが……。

「そんな事はなさらないで下さい。あなたが気に病む必要は有りませんよ。ですからどうか私の事は忘れて、ご自分が幸せになる事だけを考えて下さい」
『しかし私は大罪を犯した。何より大切な人を、心から愛する人を殺すなど、人からも天からも許されるはずがない』

だーかーら、私死んでないし、あなたも私を殺してないって。
お願いだから私の話を聞いてくれませんかね。

『私はどうすればあなたに償えるのか分からないんだ。もしあなたが心穏やかに天に召されるのならば、喜んでこの命を、魂を捧げてもかまわない』
「やめて下さい。そんな事をしても私が天国に行ける訳が有りません。だって私はまだ……」
『他にも何か思い残す事があるのでしょうか?もし何かあるのでしたら、その願いを必ず叶えましょう。何なりと仰ってください』

おっしゃ、千載一遇のチャンス!

「アレクシス様、どうか私の話を聞いていただけますか?」

『もちろんです。愛するエレオノーラ、二度と会う事も声を交わす事すら諦めていたのに、こうしてまたあなたの美しい声を聴く事が出来た。それだけでも奇跡なのです。いくらでもお聞きします』
「それは買いかぶりすぎです。私の声なんて大した特徴もないし、顔だってあんなだったし」
『いったい何を言っているのです。あなたの声はまるで天使の歌声の様。容姿だって美しい事を私は知っている。確かに久方ぶりにお会いした時は、少々やつれた様にお見受けしましたが、それはそれで、私しか知らない秘密の様でうれしかったのです。でも私には、どうか自分を卑下するような事は仰らないで下さい。あなたの為ならば、私はいくらでも褒め称える事が出来るのですよ』

それから私は、延々とベタ甘の言葉を聞かされ続けました。
その端々に愛していました。今でも愛していますという単語が挟まれて……。
もういいや………。
最初は照れまくっていましたが、こうも言い続けられると飽きてきて、眠くなって、つい欠伸を誘う。

「ふぁ~」
『エレオノーラ?すいません、疲れてしまいましたか?もう夜も遅い、どうかお休み下さ』
「アレクシス様、お見苦しい事をし申し訳ありません。えぇ、もしよろしければお言葉に甘えてもよろしいですか?」

月も高い所に登り、あたりは静けさに包まれている。

『えぇ、もちろんです。…お休み、エレオノーラ』
「はい、お休みなさい」

それきりアレクシス様の声は途切れた。




「『あれ???』」

いったい何だったんだろう?
最後の方は、まるで普通の会話だったな。
でも私が生きているって伝えそびれちゃった。
確か持っている魔石は1度きりしか使えないって言っていたから、もう話す機会は無いかもしれない。
でもまあアレクシス様が満足したなら、それでいいか。




「これを………」

そう言いながら彼が差し出したのは、先日お渡ししたあの魔石。

「おや、願いは果たされたのですか?」
「はい、ありがとうございました」
「で、彼女は何と?」
「エレオノーラは、盛んに私には罪は無いと、気に病んでくれるなと言ってくれました」
「ふむ。それ以外には何か言っていませんでしたか?」
「これと言って…私が一方的に話していたような気がします」

それならば、自分が生きている事を伝える気は、まだないのか?

「他には?何か気になる事は有りましたか?」
「そうですね、今考えれば私に告げたい事が有るようでした。きっと何か未練があるのでしょう。ですからエレオノーラの心残りだと思われる事は、全て私が叶えます。そしてすべてが済んだその時は………」

おやおや、これは少々厄介ですね。

「そう言えば、あちらでは体を癒す事が出来るのでしょうね、私は初めて彼女のかわいらしい欠伸を聞く事が出来ましたよ」

そう言い、穏やかな顔で微笑んでいる。
あの世に渡った人が欠伸をするなど聞いたことは有りませんがね。
よっぽど彼の話が退屈だったのでしょう。

しかしこんな事に、首を突っ込まなければよかった。
アレクシス様に浮かんだ死相を見て、私は心底そう思いましたよ。
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