底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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常識

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「エレオノーラ、今から母様の事は姉様と呼びなさい!ね、ミラちゃん」
「はいリン姉様!」

女子会モードに母様呼びは無粋なのかもしれないけれど、何なんですかこのノリは……。

「エルネスティ、今夜は一人で寂しいかもしれないけれど、我慢してね?」
「いや、私は君が楽しそうにしているだけで幸せなのだから、全然苦にはならないよ。ちょっぴり寂しいのは確かだけどね」

父様はそう言い、母様にキスをしてから客間に向かいました。
やっぱり良いな。
どこかに父様みたいな旦那様が落ちていないかなぁ。(ねえよ)

母様たちのベッドはいつの間にか姿を消し、床一面がフワフワのラグに覆われていました。
部屋の温度も適温で、このまま寝ても全然問題はなさそうです。
真ん中には不思議素材のとても低いテーブルがあり、その上には食料、お菓子、つまみがてんこ盛りで、お酒や私の好きなジュースもたくさん載っています。


母様は淡い色のシンプルなネグリジェ。
でも見る角度によっては、白に見えたり淡いピンクや水色に見えたり、とても不思議な布で織られております。
隊長のはとっっっても可愛いネグリジェです。
淡いピンクのフワフワの布で、あちらこちらにリボンが付いていて、フリルもわんさかで、寝にくくは無いのかと思うほどです。

「だって、普段あんな隊服を着ているんですもの。誰にも見られない一人の時ぐらい、普通の女の子してもいいでしょう?」

はい、美女のお強請りは何だって正義です。
わたしはと言えば、生成りの木綿で作られたこれぞパジャマという代物です。
文句ありますか。

「意義あり!リン姉様、エルちゃんせっかくかわいいのに、これは無いと思います!」
「承認!」

と言う事で、私は一瞬のうちにまるでお姫様の様な、夢見る少女が憧れるネグリジェ姿になっていました。
さすが神似者様です、逆らう事も許されません。
どうやら髪にも、小花や小さなリボンが付いているようです。
眠るのにこんなものは必要でしょうか。

「はい!エルちゃんここ、ここに横になって!」

興奮した隊長が、自分の横をポンポンとたたきます。
仕方が無いので、私は隊長の言うがまま、指定された場所までズルズルと這いずり、横になりました。
これでいいですか?

「リン姉様、エルちゃんの周りに花を出す事は出来ますか?」
「お安いご用よ」

その言葉と共に、私の周りはたくさんの花で埋め尽くされました。
バラ、マーガレット、かすみ草、名も知らない綺麗な花もたくさんあります。
おまけにサービスと言わんばかりに、小さな花まで宙をひらひらと舞っています。
さながら私は眠れる妖精のお姫様です。
何だったら羽でも付けましょうか?王冠の方が良いですか?

すると隊長がどこからかキャメルを取り出し、私に向け構えます。
またですかぁ?もう慣れましたけれど。

「はいエルちゃん、にっこりして、ああ違うのよ、もっと柔らかく、女神様の様ね」
「あらいいわね。ミラちゃん、あとでそのデーターを我が家にもちょうだい?」
「もちろんです!」

その後、私は隊長に弄ばれ、何ポーズも注文通りに撮り、最後に三人でピースサインをして、ようやく撮影会は終わりました。
疲れました………。

撮影中、ストローでジュースを飲むポーズや、お菓子を食べるポーズなんかもしましたが、実際は飲みもしなかったので喉が渇いちゃいました。



「ねぇミラちゃんも独身なのよね、ミラちゃんだったら、どんな人が好みなの?」
「え~私の理想は~、エリック・ハミルトンでぇす」
「あぁ、あの新進気鋭の役者ね」

隊長、もうすでに出来上がっていますね。

「でも隊長は既に婚約してるんでしょう?」
「そうですねぇ。フランツと婚約してますよぉ」

そう言いながらグビグビとグラスをあおっていますが、大丈夫ですか?

「シャインブルクさんの事はどう思っているんですか?」
「え~好きですよぉ。けっこう私の事を大事にしてくれるし~、頭もいいし~、かなりタイプです~~」
「でも、エリック・ハミルトンも好きなんですよね?」
「あれは観賞用~、本当の好みはフランツです~」

なるほど……、今度シャインブルクさんに報告しておこう。

「リン姉様は~?どんな人が好みですか~」
「やだ、エルネスティに決まっているじゃない。頭は良いし、性格もいいし、とても優しくて、イケメンで、力強いし、何より私に惚れ込んでいるもの」
「パーフェクトですね!」
「そうなのよね、父様ったら母様にとても優しいの。あ~ぁ、どこかに父様みたいな人いないかな~~」

「私それっぽい人、何となく心当たりが有りますよ。ただし相手を限定してるけど」
「奇遇ね、私もだわ」

「ねえエレちゃん、もし結婚するとしたら、どんな人としたい?」
「父様みたいな人!」

それ一択しか考えられませんね。

「それより隊長、酔っていたんじゃないんですか?」
「それどころじゃ無くて、冷めちゃった。ところでエレちゃんの好みって、どんな感じ?」
「父様みたいな人?」
「それ、さっき聞いたって。それじゃあ質問代えるネ。エレちゃんアレクシス様のことどう思う?」
「結婚相手に向かない人」

私だって常識ぐらい弁えているから、あまり突っ込まないでほしいな。

「向かないかなぁ~、それじゃぁあの顔ってどう思う?」
「イケメンですよねぇ。それにあの切れ長の目、とても澄んでいて綺麗で吸い込まれそう。ツンと高い鼻や薄い唇も理想的で、配置も完ぺき。言う事無いですよね。隊長、二人っきりになってあの顔で見つめられると、自分との不釣り合いを実感して、居ても立っても居られなくなっちゃんですよ」
「「……………………」」
「アレクシス様はね、凄く優しいの。必ず私の手を取って歩いてくれて、そそっかしい私が転ばないように気を使ってくれたり、私の欲しい物は、先回りして用意してくれるの。見栄えの悪いガリガリの私に、とても気を使ってくれたの」
「そうね、その上留学先で首位を取るように頭もいい。武術にも長け、剣も軽々と使いこなす。ねえエルちゃん、どうしてアレクシス様の事が嫌いなの?」
「えっ、私一度もアレクシス様の事を、嫌いだなんて言った覚え在りませんよ?」
「「…………………………」」
「そう言えば確かに、エレオノーラからアレクシス様は嫌いだなんて聞いた事無かったわ………」


「エレちゃん、そんなにアレクシス様の事を誉めるって、悪く思っていない…いえ、もしかしたら惚れちゃっている?」
「ん~好きか嫌いかって言えば、好き…ですかね」
「それならなぜ、あの話を受けないの?」
「ふっ……ははは………私だってバカじゃないんですよ?」

隊長、身の程知らずって言葉を知っていますか?

「私はアレクシス様には不釣り合いだと知っていますから。もしアレクシス様が私の事を好きだったとしても、たとえお互いの気持ちが通じたとしても、彼は王子様。国の為にやる事が有るんです。それなのに、私の我儘を押し付ける訳にはいかないんでしょう?」

これって常識ですよね。
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