底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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親として

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「父上、およびと聞き参上しました」

ようやくアレクシスが、バーバリアンから到着したようだ。
さて、なんと話していいものか…。

「うむ、実はそなたに話さなければならない事が出来た」
「は、どのような事でございましょう」
「それが………実はな…」
「陛下が言いよどむなど、一体どんな大事が起きたのですか?」

珍しい事だ、あのアレクシスが私を茶化すなど。
最近、いやあの一件が有って以来、いつも思いつめた顔をして、必要最低限だけの言葉だけを発していたのに。
この様子なら、あの事を話しても大丈夫だろう。

「エレオノーラ・ガルティア嬢が戻った」
「…………はっ?一体何を…」
「先日家族と共にここに来て、私も確認した」

それを聞いたアレクシスは、一瞬目を見開き硬直したようになったが、すぐさま踵を返し、出て行こうとする。

「待て、どこへ行く!」
「決まっています!彼女の下に!!」

そう急ぐも、アレクシスはあらかじめ三倍に増やしておいた扉脇の衛兵に取り押さえられた。
良かった、あの様子なら二倍でも怪しいところだったわ。

「そんなに急いでも後で後悔する事になる。まずはわしの話を聞け」

そう言い、謁見の間から談話室に場所を移す事にした。
謁見室の衛兵はそのまま付いてくる。
アレクシスの剣の腕は折り紙付きだ。
それが彼女の事で興奮すれば、どうなるか分かった物ではない。

「一体どういうことですか!彼女が戻ったとは本当ですか!!」
「まあ落ち着け、と言っても無理だろうが……」

どう話すのが一番いいのだろうか。
いや、いまさら隠し立てする事も無い。
とにかくこいつの死への切望を、断ち切らねば。

「まず肝心な事は、彼女は生きていたと言う事だ」

それを聞いたアレクシスは、きつく手を組み目を瞑った。

「神よ……」

そう言い手の上に顔を伏せ、暫くそのままでいる。
その震える肩が喜びを表している。
息子のその気持ちは良く分かる。
分るが、現実はそう甘くは無いのだ。

「アレクシス、わしはガルディア家の願いを了承し、この婚約を白紙に戻した」

その言葉が理解できないのか?私を見つめ、不思議そうな顔をする。

「何を仰っているのですか?」
「聞こえなかったようだな。お前とエレオノーラ嬢の結婚は無くなったのだ」
「何を勝手な事を!ようやく彼女が戻って来てくれたのに!」
「お前は一体どういうつもりだ!!」

さもわしが全てをメチャクチャにしたかのように責めようとするが、もう少し冷静になってもらわねば困る。

「まずこの事は、エレオノーラ嬢のたっての望みだ」
「何を……そんな訳無い……」
「お前とエレオノーラ嬢との事、交わした言葉をよく思い出してみろ。彼女がなぜ姿を消したのか、その訳をな」

反論もせず、黙ったまま立ちすくむ息子にあえて声はかけない。
少しは冷静に現実を見てもらわい、何とか自分から思いついてもらえないだろうか。

「しかし彼女は、いつも微笑んでくれて、あの時だって……」
「まあ私達の立場上、誰だってそういう対応はするだろう。エレオノーラ嬢に限った事ではない」
「嘘だ!」

これは暫く部屋に監禁し、冷静になってもらった方が良いのだろうか。

「暫くわしの話を黙って聞け。先日ガルティア家がわしを訪ねてきた。死んだと思われていたエレノア嬢が実は生きており、家に戻った事を報告しにな。エレオノーラ嬢と思われていたのは彼女の友人であり、彼女自身もその火災に巻き込まれ、大怪我を負い、先日ようやく意識を取り戻したそうだ」
「何と言う事だ……」
「彼女のケガは相当な物だった。とても健康とは言えず、毎日家で臥せっているそうだ。それにもう子供は成す事が出来ないと宣言されたそうだ(かも、です)」

それを聞いたアレクシスは、再び部屋を飛び出そうとするが、やはり衛兵に取り押さえられる。

「とにかくだ、彼女はお前との結婚を望んでいない。わしもその気持ちを汲み了承した。その事に関し、わしが一筆書き王印も押した。それがどういう事か分かるな」
「何と早まった事を………」

そう苦々しそうに言うが、ならばどうなると言うのだ。
お前の自害を止められたのも、あちらからの進言が有ったからこそ。
親として感謝しかない。
わしだって例えエレオノーラ嬢の状態を考慮しても、出来ればお前と一緒になってほしかった。
だが彼女自体が拒否をしているのだ。
ならばその願いを叶えるのが筋だろう。

「とにかくこの件はこれで終わりだ。ガルティア家への詫びはわしがやっておく。お前はもう二度とこの件に関わる事を許さん」
「納得できません!」
「お前が出来なくとも、既にわしの命により話は流れた。しかと心得よ」

まだアレクシスは反論したいのだろうが、これは一国の王の下した判断。
これ以上逆らう事は許されない。

「ちなみに彼女の母親は、エクステット侯爵家の長女のジャクリーンであった。お前も話は聞いた事が有るだろう。あの深淵の貴妃と呼ばれている彼女の事を。その事も踏まえ、よく考えてみる事だな」

そう言い、話は終わった。
後は…そうだな、今のあいつは、思いもよらない事で混乱しているだろう。
頭を整理し考える時間を与えるためにも、しばらくこちらに留まらせよう。
そしてわしも親として、久しぶりに話をする事も良いかもしれぬ。
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