底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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招かれざる客

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「父上、一体私はどうすれば良いのでしょう……」
「それは王として答えればいいのか、父親として答えればいいのか?」

アレクシスの部屋に、酒瓶とグラス二個を抱え訪ねてみた。

「そうですね…父親でお願いできますか?」

グラスを傾け、アレクシスが問う。

「どうすれば良い…か。答えなければならない事は数が多すぎるな、出来れば具体的に頼む」
「はは、数が多いか。確かに彼女を得るためには、いくつもの問題をクリアしなければならない……尤もなお答えですね」

カランとグラスの氷が鳴る。
その氷を見つめながら、こいつは一体何を思うのだろう。

「父上……、私は間違っていたのでしょうか。いや、きっと最初から間違っていたのだな」
「多分そうなのだろう。普通の子女ならば、きっとお前に一目会っただけで懸想し、お前が望めば二つ返事で結婚を了承しただろう。だがエレオノーラ嬢は普通では無かったのだ」
「彼女を侮辱する事は、例え父上でも許しません!」

そう言い、勢いのまま立ち上がるが、お前の思っている意味ではないのだ。

「深淵の貴姫と呼ばれる侯爵家の娘を母親に持ち、その母親が能力を封印してまでも守ろうとした娘だ。そんじょそこらに転がっているような、普通の娘になど成長すまいよ」

その言葉に納得したように、息子はまた椅子に掛ける。

「深淵の貴姫とは、それほどまでの能力者なのでしょうか」
「あぁ凄い。彼女を二・三度見かけた事はあったが、一度だけその能力を目の当たりにした事が有る。あれはそう…人間では無いな」
「人間では無いと……?」
「いや、物の例えだ。現に彼女は結婚し、子供まで設けている」
「ならば、比べる者がいないほどの能力者、なのですね」
「そうだ、つまり王家など太刀打ちできない存在なのだよ。いや、あれではこの国の民を全部を敵に回しても勝てるだろう」

しばらく考えた後、息子が口を開く。

「例えばですね、もし国民すべてが一斉に襲い掛かったとしたらどうなると思いますか?」
「ふむ、それには少し無理があるが……もしそれを実行したとするならば、多分一日で我が国の人間はいなくなるだろう。分るかこの意味が?人間だぞ、人間だけだぞ?他の動物、魔物、建物、植物。全てそのままで人間だけがいなくなる。残ったのは多分ガルディア家だけだ」

まあ、常識を踏まえた者なら、そんな無謀な事はしないだろうが。

「しかと心にとどめておきます…」

怖いよな。
だから絶対に彼女には逆らってはならぬ。

「さてこの際だ、わしに、いや男同士として相談が有るのなら吐き出してしまえ」

わしもまた一口、酒をあおる。

「……父上ならどうなさっていましたか?幼き頃に惚れた人にようやく会える。結婚するなら絶対にこの人だと思っていた相手にです」

「ふむ、お前ほど思い詰めていたなら、どうなっていたかは分らんが、まずは突撃はせず、相手の事を調べるな。自分がその人から離れていた時間があまりにも長すぎる。相手にもその間知り合った人や生活も有るのだ。権力を持つ親に願い縋るだけの男なら、普通の女ならそいつに好意など抱かぬだろうよ。もしそれを知ったうえで承知するようなら、その女は立場や財産に惚れたと言う事だな」
「そうですよね…今なら私にもわかります」

アレクシスは大きなため息を吐く。

「私は何と言う事をしたのだ。いや、この言葉を吐くのは一体何度目だ。それだけ私は愚かだったのだな」
「そう思い、後悔するなら見込みは有るが、覆水盆に返らず、既にこの婚約はわしの名で無かったものとなった。王印を突いた以上、これを覆す事は出来ないのだ」
「………父上、せめて彼女に一目会い、今までの事を詫びる事は可能ですか?」
「いや、それも断られた。多分お前がこれ以上苦しまないための心遣いだと思う」
「私が苦しむ?被害者は彼女の方でしょう」
「それはそうだが、だが……いや、それはもういい、とにかくお前はもう彼女に会う事は叶わぬ。辛いだろうが、彼女の事は諦めるのだ」

アレクシスの返事は無かったが、多分承知してくれただろう。




カリオンで仕事にいそしんでいるエレオノーラです。
もう逃げも隠れもしなくていい身であり、暫くは人に迷惑を掛けない程度だったら、自由にしていいと言われました。
人に迷惑をかけるなって、どういう事ですか?私がそんな事する訳無いじゃない。

まあいいでしょう。
今日は気分は隊員モードです。
隊服に着替え、シュカルフ様の手伝いをしようと思い、中回廊を急ぎます。
ふと見ると、訓練場で隊長たちが訓練にいそしんでいました。
今日は剣術ですか。

「隊長ー!」
「あー、エルちゃんー!」

隊長が嬉しそうな顔をして、大きく手を振り返してくれます。
でも隊長、訓練中に気を抜いてはダメですよ。
ほら、後ろの方でこっそりと、ジョンさんが木剣を振りかぶっていますよ。
ボコ!
ほら言ったじゃありませんか。
打たれた隊長は、凄い形相でジョンさんを追いかけ回しています。
今日もとても平和です。

「エル様」

はい?何か御用ですか?
ちなみに私の事情を知っている城の人達は、私のバージョンを見分け、その都度呼び方を変えてくれます。
皆さんとても優しいですね。

「実はエル様にお客様がいらっしゃっておりまして……」
「私にですか?」

知り合いの少ない私に、お客さんなんて来ないと思うのだけど。
悪い予感がする。

「エルちゃんどうしたの?」
「何か私にお客さんが来ていると言うのですが、そんなはず無いのにおかしいと思って」
「あなた、エルちゃんの客っていったいどなた?」
「それが……第二王子のアレクシス様です…」

なぜ!

「そう、ならばお帰り願うよう言って来てちょうだい」
「無理です!」
「そうよね……エルちゃん、先日の話は丸く収まったのでしょう?」
「はい、陛下は納得してくれて、印まで押してくれました。ただ………」
「ただ?何を隠しているの?事と次第では、このミラ姉様の鉄槌が」
「隠してません!それがアレクシス様にちゃんと伝わったのかが心配で…」
「なるほど…、あなた、アレクシス様は何と仰ったの?エレオノーラ様に会いたいと言っていたの?」
「いえ、ルドミラ様の弟君に会いたいと言われまして……」

なるほど、同一人物だとバレていない様子で何よりです。

「そう、分かったわ。とにかく殿下を放っておく訳にはいかないわね。エルちゃん、ミラ姉様も付いて行ってあげるから、さっさと話しを済ませちゃいましょう」
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