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ミシェルの思い
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『へーやっぱり直通馬車って早いね』
「そうだねぇ」
直通馬車は、必要最低限の場所にしか停車しないから、それなりの備えは大切…とばかり、いろいろな物を買い込み馬車に乗り込んだエレオノーラです。
でもさすがに、何も食べないミシェルを前に、食事をする事は気が引ける。
『そんなに気にする事無いのに』
ミシェルはそう言ってくれるけど、やっぱり気が引けるものは引けるんだい。
『それじゃぁ、私景色を楽しんでるから、その間に食べちゃって』
『お言葉に甘えさせていただきます』
生身の体では、食べないとお腹がすくからね。
ぐるぐると鳴るお腹を放置は、ちょっときつい。
バッファローの串焼き。
フール鳥の串焼き。
いのいのの串焼き。
私どんだけ串焼き好きなの!
だって美味しいんだ もーん。
そしてデザートはアーソート・クッキー盛り合わせ。
うん、裏切りの無い別腹!
『お待たせ、今どの辺?』
『そろそろカパーニかな?この様子じゃあ、明日の夕方にはバンウルフ着くかもね』
『明日かぁ』
『それじゃぁ私は一旦引き上げるね』
『えー、帰っちゃうのぉ』
『しょうがないじゃん。最近眠くて、ずっとこっちに居るのが辛いんだよ』
『そっか分かった。それじゃあバンウルフに着くまでには戻って来てね。絶対だよ、逃げちゃだめだからね!』
『分かってるよぉ。エレオノーラの気持ちを無下には出来ないからね』
そう言い、ミシェルは手を振ながら消えて行った。
ミシェルの複雑な気持ちは分かっているよ。
大好きだった人達には会いたいけれど、自分の死を知らせ、悲しませたくない。
その涙を見たくない。
だけど、いつまでも自分の事で、心配かけたままではいられない。
きっとまだ、知らせるべきか知らせざるべきかで悩んでいるんだろうな。
でもミシェルは絶対に、その人達に会いたいと思っているのは確かだもの。
で、私はミシェルがいないのをいい事に、ご当地グルメや初めて見る景色を堪能しました。
中でも、初めて食べた”コメ”なるものは素晴らしかった……。
その物だけでもほのかな甘みがあり気に入ったのだが、”具在”なるものを核にボール状に握り、周りに塩を振っただけの”にぎりめし”なる料理は、素朴ながらも絶品だ。
携帯にも便利で食べやすく、私は色々な種類を買い求め馬車に戻った。
ただ残念な事に、あまりにも買い過ぎたため、消費期限までには食べきれない事に気が付き、馬車に同乗していた人に配る羽目になった。
まあ皆さん、喜んでくれたから良しとしよう。
でも、バンウルフに着く頃には、何故か私の下には日持ちしそうなお菓子が集まっていた。
さすがにこの身長なら、子供と勘違いすることは無いと思うけど、皆の目はそれを見るようにとても暖かかった。
まあお菓子は大好きだから良しとしよう。
諦めではなく、妥協の好きなエレオノーラです。
そんなこんなで次の日の夕方、ようやくミシェルは戻ってきました。
『ごめん、寝坊した』
『うん、大丈夫。あと少しでバンウルフに着くよ』
『そうみたいだね……』
多分ミシェルには見知った景色なんだろう。
その目は懐かしそうにあたりを見つめていたから。
「さて、ランツ男爵さんの屋敷はどっち?」
『こっち』
ミシェルが先に立ち案内してくれる。
その足取り?は、もう迷った様子は無かった。
きっと自分の気持ちと折り合いをつけ、懐かしい人達と会える事を楽しみにしているんだろうな。
『ここ、この屋敷だよ』
辿り着いた屋敷は、一言で言えばだだっ広い……だった。
いや、広いのはぐるりと簡単な柵で囲われた敷地で、その奥にある屋敷自体は、そう大きな物では無かった。
『随分と様変わりしたなぁ』
「ん?」
『私がいた頃は、こんな所に柵は無かったし、あんなのは無かったよ』
そう言い、ミシェルが指をさした方向には、長細い平屋が二棟建っていた。
『前は庭もこんなに広くなかったし、ただの野原みたいだったのにな…』
自分がいない間に変わっちゃったんだ……。
そうミシェルが寂しそうにしているのが感じられる。
でも、自分の知らない時に、何かが変わっていく…それも仕方が無い事なんだよ。
だって、私が留守にしている間に、母様もずいぶんやつれてたし(誰のせいだよ)。
「あの、何か御用でしょうか?」
私に気が付いたのか、平屋の方から一人の女性が姿を現した。
『ロザリー……』
『知り合い?』
『うん、私と一緒に孤児院から引き取られた子だよ』
『そっかー』
その人は長い黒髪を一つに束ね、清潔なお仕着せを着た綺麗な人だった。
綺麗というよりは、可愛いのが合っているかな?
「こんな時間に申し訳ありません」
自分で言っておいて気が付いたよ。
そうだよ、もう夕方だよ。
今夜はどこかに泊まって、明日出直せばよかった。
でも今更、引く訳にはいかないしな。
「あの、もしお忙しいのなら出直しますが、ランツ男爵様にお会いしたいのです…ミシェルの事で………」
「そうだねぇ」
直通馬車は、必要最低限の場所にしか停車しないから、それなりの備えは大切…とばかり、いろいろな物を買い込み馬車に乗り込んだエレオノーラです。
でもさすがに、何も食べないミシェルを前に、食事をする事は気が引ける。
『そんなに気にする事無いのに』
ミシェルはそう言ってくれるけど、やっぱり気が引けるものは引けるんだい。
『それじゃぁ、私景色を楽しんでるから、その間に食べちゃって』
『お言葉に甘えさせていただきます』
生身の体では、食べないとお腹がすくからね。
ぐるぐると鳴るお腹を放置は、ちょっときつい。
バッファローの串焼き。
フール鳥の串焼き。
いのいのの串焼き。
私どんだけ串焼き好きなの!
だって美味しいんだ もーん。
そしてデザートはアーソート・クッキー盛り合わせ。
うん、裏切りの無い別腹!
『お待たせ、今どの辺?』
『そろそろカパーニかな?この様子じゃあ、明日の夕方にはバンウルフ着くかもね』
『明日かぁ』
『それじゃぁ私は一旦引き上げるね』
『えー、帰っちゃうのぉ』
『しょうがないじゃん。最近眠くて、ずっとこっちに居るのが辛いんだよ』
『そっか分かった。それじゃあバンウルフに着くまでには戻って来てね。絶対だよ、逃げちゃだめだからね!』
『分かってるよぉ。エレオノーラの気持ちを無下には出来ないからね』
そう言い、ミシェルは手を振ながら消えて行った。
ミシェルの複雑な気持ちは分かっているよ。
大好きだった人達には会いたいけれど、自分の死を知らせ、悲しませたくない。
その涙を見たくない。
だけど、いつまでも自分の事で、心配かけたままではいられない。
きっとまだ、知らせるべきか知らせざるべきかで悩んでいるんだろうな。
でもミシェルは絶対に、その人達に会いたいと思っているのは確かだもの。
で、私はミシェルがいないのをいい事に、ご当地グルメや初めて見る景色を堪能しました。
中でも、初めて食べた”コメ”なるものは素晴らしかった……。
その物だけでもほのかな甘みがあり気に入ったのだが、”具在”なるものを核にボール状に握り、周りに塩を振っただけの”にぎりめし”なる料理は、素朴ながらも絶品だ。
携帯にも便利で食べやすく、私は色々な種類を買い求め馬車に戻った。
ただ残念な事に、あまりにも買い過ぎたため、消費期限までには食べきれない事に気が付き、馬車に同乗していた人に配る羽目になった。
まあ皆さん、喜んでくれたから良しとしよう。
でも、バンウルフに着く頃には、何故か私の下には日持ちしそうなお菓子が集まっていた。
さすがにこの身長なら、子供と勘違いすることは無いと思うけど、皆の目はそれを見るようにとても暖かかった。
まあお菓子は大好きだから良しとしよう。
諦めではなく、妥協の好きなエレオノーラです。
そんなこんなで次の日の夕方、ようやくミシェルは戻ってきました。
『ごめん、寝坊した』
『うん、大丈夫。あと少しでバンウルフに着くよ』
『そうみたいだね……』
多分ミシェルには見知った景色なんだろう。
その目は懐かしそうにあたりを見つめていたから。
「さて、ランツ男爵さんの屋敷はどっち?」
『こっち』
ミシェルが先に立ち案内してくれる。
その足取り?は、もう迷った様子は無かった。
きっと自分の気持ちと折り合いをつけ、懐かしい人達と会える事を楽しみにしているんだろうな。
『ここ、この屋敷だよ』
辿り着いた屋敷は、一言で言えばだだっ広い……だった。
いや、広いのはぐるりと簡単な柵で囲われた敷地で、その奥にある屋敷自体は、そう大きな物では無かった。
『随分と様変わりしたなぁ』
「ん?」
『私がいた頃は、こんな所に柵は無かったし、あんなのは無かったよ』
そう言い、ミシェルが指をさした方向には、長細い平屋が二棟建っていた。
『前は庭もこんなに広くなかったし、ただの野原みたいだったのにな…』
自分がいない間に変わっちゃったんだ……。
そうミシェルが寂しそうにしているのが感じられる。
でも、自分の知らない時に、何かが変わっていく…それも仕方が無い事なんだよ。
だって、私が留守にしている間に、母様もずいぶんやつれてたし(誰のせいだよ)。
「あの、何か御用でしょうか?」
私に気が付いたのか、平屋の方から一人の女性が姿を現した。
『ロザリー……』
『知り合い?』
『うん、私と一緒に孤児院から引き取られた子だよ』
『そっかー』
その人は長い黒髪を一つに束ね、清潔なお仕着せを着た綺麗な人だった。
綺麗というよりは、可愛いのが合っているかな?
「こんな時間に申し訳ありません」
自分で言っておいて気が付いたよ。
そうだよ、もう夕方だよ。
今夜はどこかに泊まって、明日出直せばよかった。
でも今更、引く訳にはいかないしな。
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