底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

文字の大きさ
72 / 109

ミシェルの思い

しおりを挟む
『へーやっぱり直通馬車って早いね』
「そうだねぇ」

直通馬車は、必要最低限の場所にしか停車しないから、それなりの備えは大切…とばかり、いろいろな物を買い込み馬車に乗り込んだエレオノーラです。
でもさすがに、何も食べないミシェルを前に、食事をする事は気が引ける。

『そんなに気にする事無いのに』

ミシェルはそう言ってくれるけど、やっぱり気が引けるものは引けるんだい。

『それじゃぁ、私景色を楽しんでるから、その間に食べちゃって』
『お言葉に甘えさせていただきます』

生身の体では、食べないとお腹がすくからね。
ぐるぐると鳴るお腹を放置は、ちょっときつい。
バッファローの串焼き。
フール鳥の串焼き。
いのいのの串焼き。
私どんだけ串焼き好きなの!
だって美味しいんだ もーん。
そしてデザートはアーソート・クッキー盛り合わせ。
うん、裏切りの無い別腹!

『お待たせ、今どの辺?』
『そろそろカパーニかな?この様子じゃあ、明日の夕方にはバンウルフ着くかもね』
『明日かぁ』
『それじゃぁ私は一旦引き上げるね』
『えー、帰っちゃうのぉ』
『しょうがないじゃん。最近眠くて、ずっとこっちに居るのが辛いんだよ』
『そっか分かった。それじゃあバンウルフに着くまでには戻って来てね。絶対だよ、逃げちゃだめだからね!』
『分かってるよぉ。エレオノーラの気持ちを無下には出来ないからね』

そう言い、ミシェルは手を振ながら消えて行った。
ミシェルの複雑な気持ちは分かっているよ。
大好きだった人達には会いたいけれど、自分の死を知らせ、悲しませたくない。
その涙を見たくない。
だけど、いつまでも自分の事で、心配かけたままではいられない。
きっとまだ、知らせるべきか知らせざるべきかで悩んでいるんだろうな。

でもミシェルは絶対に、その人達に会いたいと思っているのは確かだもの。


で、私はミシェルがいないのをいい事に、ご当地グルメや初めて見る景色を堪能しました。
中でも、初めて食べた”コメ”なるものは素晴らしかった……。
その物だけでもほのかな甘みがあり気に入ったのだが、”具在”なるものを核にボール状に握り、周りに塩を振っただけの”にぎりめし”なる料理は、素朴ながらも絶品だ。
携帯にも便利で食べやすく、私は色々な種類を買い求め馬車に戻った。
ただ残念な事に、あまりにも買い過ぎたため、消費期限までには食べきれない事に気が付き、馬車に同乗していた人に配る羽目になった。
まあ皆さん、喜んでくれたから良しとしよう。
でも、バンウルフに着く頃には、何故か私の下には日持ちしそうなお菓子が集まっていた。
さすがにこの身長なら、子供と勘違いすることは無いと思うけど、皆の目はそれを見るようにとても暖かかった。
まあお菓子は大好きだから良しとしよう。
諦めではなく、妥協の好きなエレオノーラです。

そんなこんなで次の日の夕方、ようやくミシェルは戻ってきました。

『ごめん、寝坊した』
『うん、大丈夫。あと少しでバンウルフに着くよ』
『そうみたいだね……』

多分ミシェルには見知った景色なんだろう。
その目は懐かしそうにあたりを見つめていたから。


「さて、ランツ男爵さんの屋敷はどっち?」
『こっち』

ミシェルが先に立ち案内してくれる。
その足取り?は、もう迷った様子は無かった。
きっと自分の気持ちと折り合いをつけ、懐かしい人達と会える事を楽しみにしているんだろうな。


『ここ、この屋敷だよ』

辿り着いた屋敷は、一言で言えばだだっ広い……だった。
いや、広いのはぐるりと簡単な柵で囲われた敷地で、その奥にある屋敷自体は、そう大きな物では無かった。

『随分と様変わりしたなぁ』
「ん?」
『私がいた頃は、こんな所に柵は無かったし、あんなのは無かったよ』

そう言い、ミシェルが指をさした方向には、長細い平屋が二棟建っていた。

『前は庭もこんなに広くなかったし、ただの野原みたいだったのにな…』

自分がいない間に変わっちゃったんだ……。
そうミシェルが寂しそうにしているのが感じられる。
でも、自分の知らない時に、何かが変わっていく…それも仕方が無い事なんだよ。
だって、私が留守にしている間に、母様もずいぶんやつれてたし(誰のせいだよ)。

「あの、何か御用でしょうか?」

私に気が付いたのか、平屋の方から一人の女性が姿を現した。

『ロザリー……』
『知り合い?』
『うん、私と一緒に孤児院から引き取られた子だよ』
『そっかー』

その人は長い黒髪を一つに束ね、清潔なお仕着せを着た綺麗な人だった。
綺麗というよりは、可愛いのが合っているかな?

「こんな時間に申し訳ありません」

自分で言っておいて気が付いたよ。
そうだよ、もう夕方だよ。
今夜はどこかに泊まって、明日出直せばよかった。
でも今更、引く訳にはいかないしな。

「あの、もしお忙しいのなら出直しますが、ランツ男爵様にお会いしたいのです…ミシェルの事で………」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...