底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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本日二度目の投稿です。
はい、前日さぼりました、ごめんなさい。
いつの間にエレオノーラ到着したのよ!と思った方、前話からお入りください。

===========


「ミシェル!?ミシェルに会ったんですか?ミシェルは元気でしたか?」
「…はい」

実体の有ったミシェルと別れた時は、一応元気そうだったし、今も元気そうに見えます。
あなたの首根っこにしがみ付いて、”ロザリー、ロザリー!”と感激してますから。

「どうぞこちらに。ミシェルの事を知ったら、きっと旦那様達もお喜びになります」

ああぁぁぁ、そうだよ、そうだったよ。
私はミシェルがバンウルフに戻り、懐かしい人達に会って、ちゃんとお別れが出来たら喜ぶとんじゃないかなと思い、ここまで引っ張って来たけれど、ここからが大変じゃないの。
私の責任、重大だよ!?

「旦那様や奥様は、ミシェルの事をとても心配していたんです。でも良かった。少しでもミシェルの事をお聞きになれば、きっとお喜びになります」

その言葉を聞くと、ズ~ンと肩が重くなる…。
て、ミシェルかい!
私の肩に腕を回し、嬉しそうにミシェルが言う。

『ありがとうエレオノーラ、私やっぱりここに戻れてとても嬉しいよ』
『そう思ってもらえるなら、私もミシェルをここに連れて来た甲斐があった』
『奥様達元気かなぁ?早く会いたいよ。ほらエレオノーラ、応接室はこっちだよ。早く早く』

ミシェルは燥いで、そう言いながら私の手を引くけれど、この屋敷に来た事の無い私はロザリーさんに従わなきゃおかしいから。
ちょっと落ち着きなさいって。


通された部屋は、質素だけどとても趣味のいい部屋で、落ち着くところだった。
窓からは、あの平屋が見えている。
何の建物だろう?納屋にしてはしっかりした作りだし、どちらかと言えば住居のようにも見える。
やがてその扉が開き、何人もの子供が飛び出してくる。
その様子は、町の学校のようにも思えた。

「ようこそいらっしゃいました」

その言葉にハッと振り返る。
そこにはいつの間にか、この屋敷の主が来ていたようだ。

「あれは我が家では学び舎と呼んでいるのですよ。町の貧しい子供を預かり、学問を教えています。その隣は数人では有りますが、親のいない子供を引き取り面倒を見ています。もちろん学べる年の子供はあの学び舎で勉強をしているんです」
「…本当に?」
「ええ」

凄い!この人たちは何て言う事をやっているんだろう!
大抵の孤児は、教会に引き取られれば御の字。
殆どの身寄りのない子供はスラムで育つか、物乞いをしていると聞いた。

「本当はもっと沢山の子供を引き取ってあげたいのですが、今の私達はこれが精いっぱいなんです。情けないでしょう?」
「そんな事ありません!凄い事です!」

こんなこと思いつかなかったよ。
皆はそんな現実から目を逸らしているのに、この人達はそれに目を背けず、何とかしようと努力している。
何ていう人たちなんだ!

「頑張ってください!私も協力できる事でしたら何でもしますから!」
「ありがとう、でもここは私達の領地。これは私達がやるべき事なのです。それよりミシェルの事を伝えに来てくれたのでしょう?もしよろしければ、あの子の事を早く聞かせていただけませんか?」
「あっ、はい、そうですね」

椅子に戻った私を急かすよに、期待を込めた目で見つめる二人。
ごめんなさい、きっと私はあなたたちを悲しませてしまう。

「ミシェルとは、サバストの宿で会いました。その日は大雨で、私達はその宿に二泊したんです。ミシェルはとても人懐っこくて、優しくて、私達は宿にいる間、いろいろな話をしました」
「そう、あの子は元気だった?」
「はい、とても元気そうでした。でもその時、彼女の病気の事も話してくれました。ミシェルはとても辛いはずなのに、そんな事は気にした様子も無く、いつも楽しそうに笑っていましたよ」
「あの子は、病気の事も話したのね……」
「はい奥様。でも彼女は悲しんでいませんでした。自分がいかに幸せだったか、男爵様達や皆さんにとても良くしてもらったと、嬉しそうに話をしていましたよ」
「あの子は……私達の事を恨んでなかった?結果的には私はあの子を見捨てたようなものですから……」
「何故です?ミシェルは自分の気持ちや我儘を聞いてくれ、それでも送り出してくれた人達にとても感謝していました。私達が一緒にいたのはその二日間でしたが、私はとても楽しかったですよ。三日目の朝、私はミシェルを起こさないようにそっと出立したので、ミシェルとはそれきりでしたが」
「そうなんですか。ではミシェルが今どこにいるかは分かりませんか?いつかはここに帰って来るとは言っていませんでしたか?」

生きているミシェルとはそれが最後だったけれど、今はがっつり一緒にいますけどね。
私の隣の椅子に。

「えっと、実は……」
『ねぇエレオノーラ、それ話さなければいけない?このまま黙っていちゃダメかなぁ』
『えっ……まあ、それがミシェルの望みなら…』

そうだよね、誰だって大好きな人を悲しませたくはないよね。
だけど私としては、ちゃんと二人に話しておきたい、いつまでもミシェルの事を思い続けるのもいいけれど、それが彼達の重荷になるなら、今ここで真実を注げた方が良いような気がするんだ。
でも挙動不審な私を見て、きっと二人は何かを察したのだろう。

「私達は、医者からあの子の余命を聞いていました。だからどうか、もしそれ以外にあの子の事を知っているのなら、全てを話して下さい」

だそうです。
ミシェル、この人たちの為にも、私は話すよ。

「実は、ミシェルは私が旅立った日、サバストの劇場で起こった火災に巻き込まれ命を落としました………」

思わず絶句する二人だけれど、覚悟をしていたのか、すぐにまた話に戻った。

「そうですか……、やはりミシェルはもうこの世にはいないのですね。分っていた事とはいえ……。やはり…あの子を旅にやるべきでは無かった」
「いえ、あなた方がなさった事は正しい。確かにそれを反対する人はいるでしょう。でももし私がミシェルの立場だったら、あなた方の事をとても誇りに思い、感謝します。それに彼女は、事故で亡くなったのです。病気に負けたわけではありません。どうか彼女を誉めてあげて下さい」

ほらミシェル、この人たちはこんなにあなたの事を思い、愛してくれている。
良かったねミシェル。
そんな事分かってたよ、と言うミシェルの目からは、とても綺麗な涙があふれていた。

「今、ミシェルは一緒に部屋に泊まった私と間違われ、我が家の墓地で安らかに眠っています」
『あそこにいるのは、私の抜け殻だけどね』
『だからそれは建前で、この人達の為にはこう言う方が良いの』
『分かっているって、ありがとうエレオノーラ』

「もしよろしければ、いつか彼女に会いに来てやって下さい」
「ありがとうございます。妻の体の事も有りますので、少し先になってしまうと思いますが、ぜひ参らせていただきます」

妻の体?一体どうしたんだろう?
見た限りでは健康そうに見えるけれど…。

「お恥ずかしい話ですが、この年になりようやく子を授かりまして………」
『ミシェル!赤ちゃんだって!!』
『うっ、うっそ~。やったぁ、良かった、良かったね奥様!!』

うん、諦めていた赤ちゃんを授かったんだもの。
本当に良かった。

「私達は、きっとこの子はミシェルの生まれ変わりだと思っていたのです」
「それは有りませんね」

だってミシェル、まだここにいるもの。

「そうでしょうか………」
「そんなにがっかりしないで下さい。いつかはミシェルとも会えますよ。それにその子、男の子ですし」
「えっ?どうしてそんな事が……」

あー、だって見えちゃったから、小さなあれが………。

「感、感ですよ。私けっこう感がいいものですから」
「そうですか…、でもこうしてミシェルの事も聞けました。いずれ生まれ変わって来るとしても、私達は一生、愛するミシェルの事は忘れません」

そう言い、ぽろぽろと涙を流しながら微笑んでいる奥様。
見ればミシェルも泣いている。

『奥様、ごめんなさい。ありがとう、私も大好き。そんなに私の為に泣かないで、お腹の子に障っちゃうから』

奥様に抱き着き、何とか奥様を慰めようとしてるけど、それでもミシェルはまだ泣いている。
何とかミシェルを二人と会わせてやりたい。
でも私は神様じゃないからなぁ。
何とか頑張ればできるかなぁ?
そう思い頑張ってみる事にした。
どうやれば良いのか分からないけれど、とにかく両手を組み、ただ願うだけ。

”お願い、少しの間だけでもいいから、ミシェルの姿を二人に見せて下さい”

一心不乱に願い続け、驚く声に顔を上げれば、そこには光のように儚いミシェルの姿があった。
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